大沢桃子が“どんどはれ”コンサート。「これからも皆さんと一緒に」

「世の中、不安な日々が続いていますが、命をかけてお越しいただいたみ皆さん、ありがとうございました」

「大沢桃子 エレキDE演歌2020 どんどはれコンサート in 浅草公会堂」のステージに現れた大沢桃子は開口一番、“命”という言葉を使って観客に語りかけた。

大沢は今年5月20日に、昨年から準備してきたという新曲「どんどはれ」を予定通りリリースした。2003年に「七福神」でメジャーデビューした大沢にとって、「どんどはれ」は自身20作品目となる節目の曲だった。だが、世の中は新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言の真っただ中。キャンペーンも何もできず、ただ、かわいい子どもを世に送り出しただけとなってしまった。

大沢はファンクラブ会員に限定し、9月に極少数の有観客でコンサートを行っているが、いわゆる新しい生活様式に沿ったホールコンサートは10月10日のこの日が初めてだった。ところが、台風14号による大雨の影響が心配されていた。

「このコンサートのために新調した着物です。どうですか?」と、ファンに投げかける。大沢は師匠・寺内タケシの代表作・エレキ節(エレキの民謡)シリーズから「ソーラン節」「花笠音頭」「よさこい節」をメドレーで歌う。

最寄り駅の構内には、台風の影響によりダイヤが変更になる可能性についての告知も貼られていたが、今年で8回目となる浅草公会堂での大沢のコンサートには、毎年、全国からファンがかけつけてくる。とくに故郷・岩手からのファンは多い。10月10日を迎えるにあたって、大沢本人はもとより、スタッフの心中は察するにあまりあった。

そんな中で行われた“どんどはれコンサート”。心配された雨も弱く、交通機関への影響もなかった。観客を笑わせようとした軽口の意味合いもあっただろうが、大沢は安堵の気持ちから「命をかけてお越しくださった皆さん」と呼びかけたのだろう。

権現囃子(獅子舞)によるオープニングのあと、この日のために新調したという艶やかな着物姿で登場した大沢は、まずは新曲「どんどはれ」をファンに届けた。

「ようやく『どんどはれ』を皆さんにお届けすることができました。心を元気に、心が笑顔になる時間を皆さんと一緒に過ごしたいと思います」

大正ロマンを感じさせる衣装で、「りんごの唄」「月がとっても青いから」「東京ブギウギ」といった戦後のヒット曲をカバーする。

矢羽根柄の着物に袴を合わせた“はいからさん”姿を披露する大沢。「皆さんのことは私の親戚だと思っていますからお教えましますが、通販で買いました(笑)」(大沢)。

コロナ禍のステイホーム期間中に手作りしたドレスを初披露。「似合っていますか?」と大沢。完成のイメージを頭の中に描きながら、初めて自作に挑戦した。コンサートの1週間前まで、糸がほつれて来ないかなど細かくチェックしたという。

“明日を夢見て 演歌を唄う いつか咲かせる 大きな花を” “日本人なら演歌でしょう”。自作のドレスではメジャーデビュー前につくった「演歌娘21」を歌った。

前半は、歌の師匠であり、デビューのきっかけをくれた寺内タケシの代表作“エレキ節(エレキの民謡)”シリーズ、自身のオリジナル曲「夢をくれたひと」、インディーズ時代の2001年にリリースした「演歌娘21」、TBS系列の朝のワイドショー番組『グッとラック!』でMCを務める落語家の立川志らくが、「いまもっとも注目している演歌歌手」として大沢を紹介し、いちばんのお気に入り曲だと話した「恋する銀座」(大沢桃子とスーパーピンクパンサー)などを歌った。

早くに父親を事故でなくした大沢。岩手県大船渡に母ひとりを残して上京する大沢に、母は手紙を渡したという。

「好きな道に進むのだから、石にかじりついても帰って来るな。そして、いつか故郷に錦が飾れるように」

娘を送り出す、母の精いっぱいの強がり。だが、「“錦”が“鏡”になっていたんです」と、大沢は笑う。

黄色地に水玉模様のロカビリードレスで「恋する銀座」を楽しく歌う大沢。同曲は「大沢桃子とスーパーピンクパンサー」として2016年にリリースされた。

大沢のファンだとテレビ番組で公言した落語家の立川志らくが、とくにお気に入りだという「恋する銀座」。大沢のコンサートでの定番ソングとなっている。

後半は、まずは新しい試みとして、電車の音や引き戸の音がBGMとして効果的に使われ、“桃子女将”に扮した大沢の語りによって「夜半(よわ)の酒」「南部恋唄」「懐郷(かいきょう)」を歌っていく。

春の雪解けを待ちながら、“泣いて笑って 笑って泣いて”と歌う「夜半の酒」。

故郷(くに)のことを思う「南部恋唄」。

誰もが持っている心の故郷に帰ろうと歌う、昨年のヒット曲「懐郷」。

コロナ禍で帰省できなかった人が多かった今年のお盆。大沢は“帰ろうかな 盆に帰ろうかな”“近くて遠い ふるさとに…”(「懐郷」歌詞より)と歌った。

3作目となる2005年の「南部恋唄」は大沢にとって転機となった曲。当時の担当ディレクターから「次の新曲が売れなかったら後がない」と言われ、“後がないなら、故郷のことを歌おう”とつくった曲だった。以降、シンガー・ソングライターとして、大沢は故郷の歌を多く歌っている。

「いらっしゃい。お久しぶりね。どう、元気だった? うちも大変よ、コロナコロナで。しかも今日、台風だし。でも、うれしいじゃない。こうやって来てくれたんだもん」。“桃子女将劇場”と題したコーナーでは大沢の語りから歌を届ける試み。

この日の大沢は新調した衣装や、自らが手作りした衣装など、何着もの衣装に着替えて登場した。終盤に向けて「イギリス海岸」「椿の咲く港」「恋し浜」など、自らの故郷を舞台にした曲や、「すずらんの道」など夫婦愛をテーマにした曲を綴っていく。

コンサートの最後に、大沢にとって初めてのムード歌謡となった、新曲のカップリング曲「神戸しのび恋」、続いて新曲「どんどはれ」をもう一度フルコーラスで歌うと、大沢は結びの言葉として訴えた。

「自分のために歌をつくることはしたくなくて、今日は聴いてくださる皆さんの心が笑顔になれるように……。寂しい時もひとりじゃないです。よかったら私のことも思い出してくださいね。これからも、皆さんと一緒に歩んでいきたいと思います」

ブルーの光の中から現れた大沢は「イギリス海岸」を披露する。イギリス海岸は、岩手県花巻市を流れる北上川西岸にあたる、凝灰質の泥岩が川に沿って露出している場所。宮沢賢治が小説「イギリス海岸」の中で「私どもがイギリス海岸とあだ名をつけて……」と書いたことから名づけられた。

赤が目に眩しく印象的な着物は、オープニングで来ていた着物同様、このコンサートのために準備した。

「いつもなら“桃ちゃ~ん”と声をかけていただいていました。お楽しみいただいていますか? 拍手で教えてください。・・・ありがとうございます。みなさんに支えられてきたことを、あらためて実感・痛感しています」(大沢)。

そして、自ら「アンコールはいかがでしょうか(笑)」と、岩手県遠野地方を舞台にした「風の丘」を届ける。

民話の古里(ふるさと)として有名な遠野地方は、北上地方からの風が吹きおろし、今なお日本の原風景をとどめている風光明媚な場所だ。2010年に大沢がつくった同曲には、亡き父のへの思いも込められている。“父もいた、母もいた、みんながいた頃を”(「風の丘」歌詞より)と歌う。みんながいた遠い昔、少女・桃子は歌詞にあるように、トンボを追いかけ、裸足で駆けていたのだろうか?

体を大事にしろよと、目に涙をためながら娘を送り出してくれた、あの時の母の記憶が、風に乗って運ばれてくる、とも歌詞の中で、大沢は告白している。

故郷を離れて都会へ出た人なら、誰しも似たような記憶はあるだろう。だが、「風の丘」を聴くたびに、「自分のために歌をつくることはしたくなくて」と語る大沢が、唯一、自分のためにつくったのではないかと思えてくる。

光の演出にもこだわった大沢のコンサート。スタッフのひとりは「世の中が暗いので、ステージぐらい明るくしようとなった」と話していた。

光に包まれた大沢。専属バンド「スーパーピンクパンサー」を率いた“桃子劇場”はフィナーレに向かっていく。

「私の中で、2度目の転機となった曲が『風の丘』です」

大沢はこの歌でNHKの音楽番組『うたコン』に出演を果たし、同局の視聴者参加番組『NHK のど自慢』で「風の丘」を歌ってくれる人が増えたという。

遠野地方には、今も“語り部”がたくさんいて、昔から伝わる民話や、民話の中に息づいている方言という無形の財産を次世代に引き継いでいる。

幼少の頃、おじいちゃんやおばあちゃん、あるいは両親が昔話を読み聞かせてくれると、“めでたし、めでたし”と締めくくった。終わり良ければすべて良し、という意味だ。大沢の故郷・岩手ではこの“めでたし、めでたし”を、“どんどはれ”と言う。

アンコール曲「風の丘 スーパーピンクパンサー・バージョン」を歌い終えると、拍手に包まれる中、大沢は「またお会いしましょう」とファンに呼びかけた。

 


2020年5月20日発売
通算20枚目のシングル
大沢桃子「どんどはれ」

「どんどはれ」
作詞・作曲/仲村つばき 編曲/伊戸のりお
c/w「神戸しのび恋」
作詞/榎本敏子 作曲/仲村つばき 編曲/伊戸のりお
徳間ジャパンコミュニケーションズ TKCA-91271 ¥1,227+税

「どんどはれ」は大沢桃子が「今日も一日お疲れさま」の思いを込めてリリースした通算20枚目のシングル。山あり谷ありの暮らしの中で、そっとやさしく肩に手を添えて、緊張を解いてくれるような、ぬくもりのある歌。カップリング曲「神戸しのび恋」は港町・神戸を舞台に、好きになってはいけない人への未練を歌う大人の作品。コロナ禍による緊急事態宣言の中でリリースされ、店頭キャンペーンなどはできなかったが、オリコンの週間ランキング 演歌・歌謡曲部門で初登場、第2位を記録した。

 


~エピローグ~

「大沢桃子 エレキDE演歌2020 どんどはれコンサート in 浅草公会堂」のために準備したすべての曲を歌い終えた大沢は、いつもの“桃ちゃんステップ”でステージを駆け回る。

「皆さんからいただいた拍手と思いを力に一生懸命頑張っていきます」

感染予防対策のため客席ラウンドができず、ステージ上でも客席からの距離を考えた動線の中で動かなければならなかった。だが、安堵と喜びが爆発したようで、大沢は幕が降りる直前、客席のファンおよび、ライブ配信を観てくれたファンに向けて、特大の投げキッスを贈った。

めでたし、めでたし、どんどはれ。

大沢桃子、2020年初ライブ
「大沢桃子~エレキDE演歌ライブ~」

「大沢桃子 エレキDE演歌2020 どんどはれコンサート in 浅草公会堂」の開催に先立つ1カ月ほど前の9月11日、大沢は東京・北区の北とぴあ さくらホールで「大沢桃子~エレキDE演歌ライブ~」を行った。コロナ禍により予定されていたイベントが延期や中止になっていたが、急きょ、ライブ開催が決定したもの。大沢にとって2020年最初のライブとなり、久しぶりなのでカラオケで練習して挑んだという。会場には限定した人数(50名)しか入れなかったが、ライブ配信も行われた。

「やっとの思いでこのライブの開催にこぎつけました。手に汗を握っていますが、わかりますか(笑)」と語った大沢。前半はカバー曲を、後半はオリジナル曲を中心に歌い、「感謝の気持ちしかありません。今日は初心に戻ったみたい」と吐露していた。

 

 


INFORMATION

2020年10月7日発売
「大沢桃子 全曲集~南部恋唄・どんどはれ~」

徳間ジャパンコミュニケーションズ KCA-74914 ¥2,818+税

最新シングル「どんどはれ」、「神戸しのび恋」、前作「懐郷」が初収録されたほか、故郷・岩手への思いを歌った楽曲を中心に選曲された。大沢にとって3年ぶりの全曲集。

【収録曲】南部恋唄/暗門の滝/日本全国ふるさと音頭/みちのく平泉/恋紅しぐれ/石割桜/風の丘/恋し浜/イギリス海岸/うすゆき草の恋/ふるさとの春/夢ごよみ/懐郷 /これからも ごひいきに/どんどはれ/神戸しのび恋
※は全曲集アルバムとして初収録

 

大沢桃子 どんどはれ忘年ディナーショー

日時=2020年12月8日(火)
開場=16:30
|第一部「生オケ発表会」=17:00~
|ディナータイム=18:00~
|第2部 ショータイム=19:15~20:30
料金(1名)=25,000円(税込)
会場=浅草ビューホテル

忘年ディナーショーでは通算20枚目のシングル「どんどはれ/神戸しのび恋」の発売を記念して募集された特別企画「生オケ発表会」が第1部として行われる。選ばれた10人が大沢桃子の専属バンド「スーパーピンクパンサー」の生演奏で歌唱披露する。

イベント詳細およびチケットの問い合せ先
桃の会 TEL=03-5830-7118(月~金 12:00~16:00)

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