心に言葉を届けたいーー入山アキ子が目指す”私の道”
「歌も看護も心から」。看護師から歌手へと転身を果たした入山アキ子のモットーとしている言葉だ。
真心を込めた歌や音楽が“誰かを救い、心を癒す”という奇跡を、看護師時代に何度も目の当たりにした。歌手として生きている今、誰かに寄り添い、励ますことができる歌を届けたい、と入山が心を込めて放つ新曲が、「月に笑う蝶」だ。
自身の半生にも通じるという作品について、じっくりと聞いた。
たとえ見えなくても、ひとすじの光を探して進んできた
今年、世界中を未知の疫病が襲った。闘い方のわからないなか、世界中の人々がさまざまな知恵を絞り、必死に立ち向かいこの危機を乗り越えようとしている。
実際に医療に携わっていた経験から、入山アキ子はこの自粛期間中に自ら考案した“よりそいホットライン”を開設した。体調不良や健康についての悩みごとなどに、入山が直接電話で相談に乗るというものだ。
「看護ができる歌手って言っても、今まではただの枕詞やキャッチフレーズのようで、本当に看護ができていたかというとなかなか難しいことでした。今こそ、歌と看護の面を両立させて皆様に寄り添いたい。少しでも皆様の楽しみが作れればいいなと始めました」
入山は学生時代アナウンス部に所属し、出場した朗読のコンテストで2年連続、故郷・山口県の代表に選ばれたことがきっかけで、声を生かした仕事に興味を持つようになった。
しかし、経済的な理由などもあり防衛医大看護学院へ進学。卒業して看護師となり病院勤務をしていた時、歌や音楽が起こした奇跡に何度も出合い、その体験が歌手への思いを後押しした。
そして、13年間看護師として働いたのち、入山は歌手として人生を歩むための挑戦を決意する。
「自分が口ずさむ歌でも喜んでくれる人がいる。歌で、看護と同じように元気や癒しを与えられるような、そんな歌手になりたいと思いました」
その覚悟を胸にデビューしてから12年が経った。“白衣の天使が悪女へ”と話題になり、歌い手としての幅を広げることになった、前作までの悪女シリーズ三部作(「悪女の季節(2018年)」「みだれ舞い(2019年)」「女の恋ざんげ(2019年)」)などを経て、2020年9月9日、入山の誕生日当日にリリースされる新曲「月に笑う蝶」は、これまでの彼女自身の半生にも通じる作品となった、と思いを馳せる。
「振り返ってみると、私も明るいところだけを歩いてきた人間ではありません。どんな時でも、たとえ見えなくても、ひとすじの光を探しながら前に進んできました。そういう部分もこの歌に乗せて歌えば、皆さんの心に届くかなと思いながら歌っています。歌というのは、心に言葉を届けるもの。つらく苦しくて明日さえも生きられるかどうかわからないという思いをしている人が、どこにいるかもわからないこの世の中ですけれど、偽物ではない本当の真実の言葉が、人を救うんじゃないかと思います。つらくても悲しくても、諦めずに道はあると信じてほしい。本当に多くの皆さんやタイミングに支えられて今日まで歩いてきて、今幸せだなと思えることがたくさんあります。今こそ、自分にできることで皆さんに恩返しができる、それにはこの歌かなって、勝手に宿命的なものを感じています」
2020年9月9日発売
入山アキ子「月に笑う蝶」
作詞を手がけたのは、自身も歌手としての経験を持つ緑子氏。タイトルは想像力を掻き立てられる斬新さで、歌詞にも鮮烈な言葉が並ぶ。
どうせどん底 激しく生きて
どうせどん底 舞うしかないさ
(「月に笑う蝶」より)
「タイトルからして、皆さんがどんな曲かなと想像を膨らませられる曲。小説のような4分間です。使われている言葉が女性ならではの感性というか情念深いものが多くて、強さがありますよね。緑子先生と出会ってからいろいろなお話をさせていただいて、悔しい思いだとかつらい気持ちだとか、同じ歌い手として生きてきた中で共感する部分があったりして。それと、女性が故のつらさもあったり。でもそういうのをみんな隠しながら生きてて、最後は浮かび上がりたい、舞い上がりたいって思いながら必死にもがいている。華やかな世界にいながらその思いを断ち切れないっていうところが、強い言葉に現れているのではないかなと思います」