成世昌平

成世昌平の原風景が新曲「雪折れ竹」へ・・・魅力的なロングトーンで、印象的な“竹がナ~”

“竹がナ~ 竹が 竹がポンと鳴りゃ 夢から覚める”。歌の出だしから、成世昌平のロングトーンが心地いい。成世の新曲「雪折れ竹」は、ヒット曲「はぐれコキリコ」につながるロングトーンが魅力的な一曲だ。現在71歳の成世が「僕のこの声が出る時につくっておきたかった」作品で、カラオケ大会の定番曲になりそうだ。

今、この声を残しておきたい!

――コロナ禍で2年越しとなりましたが、今春には35周年を記念した「成世昌平コンサート35th+1」と銘打ったコンサートを開催されました。

成世 正確には35+2なんですけどね(笑)。民謡歌手としては50年近く歌わせていただいていますが、日本クラウンに最初は民謡歌手として所属させていただいて、今年で37年目となります。年齢的には大スターの方と同じですが、そんなスターの方は20代の頃にヒット曲を出されています。でも、僕が「はぐれコキリコ」を出したのは50歳ぐらいの時です。

――「はぐれコキリコ」は1999年にリリースされていますが、カラオケから火がついて、2002年に再リリース。翌年には50万枚を超えるヒット曲となりました。

成世 当時、「はぐれコキリコ」をたくさん歌ってくださった方の多くが今、80代になられていますが、僕もあと10年で81歳です。そう考えると、この声が出る間に、今の声を残しておきたいと思っていました。声がす~っと抜けて、歌っていて気持ちのいい声が出せるような歌を歌いたいと希望していました。

――新曲「雪折れ竹」は、歌の出だしから成世さんのロングトーンに引き込まれますが、その希望が今回の作品につながった?

成世 何年後かにこの声が出なくなるかもしれませんからね。期せずして「はぐれコキリコ」の“コキリコ”も竹、新曲も竹がモチーフになっています。

ポーンという音で目が覚めた、あの夜

――“雪折れ竹”という言葉はあまり耳にすることがありませんね。

成世 “雪折れ”という冬の季語はありますが、たしかに“雪折れ竹”という言葉はあまり知られていないですね。竹ってしなるので、あまり折れないイメージがあるかと思いますが、雪の重みで折れることがあります。僕は12歳まで広島県三次(みよし)というところに住んでいたんですが、夜中にポーンという音が響いて、パッと目が覚めることがありました。驚いて「なになになに!?」って言うと、お袋が「大丈夫だから」と安心させてくれるんですが、「明日はすごいよ」とも言うから、何がすごいのかなと思って朝起きると、一面、銀世界なんですよ。

――家の中にいながら雪が降っていることを認識された?

成世 そうです。三次は中国山地の中心近くの町で、北海道のような凍てつく寒さではなく、比較的温かい地域なのに雪が降るんですね。そういう地域の雪は水分を含んでいて重くて、竹にくっつくように積もります。そして、その重みに耐えられなくなった竹がボーンと折れてしまいます。裏山のふもとに建つ小さな一軒家に住んでいましたが、自宅の前には田んぼが広がっていて、その先には川が流れていました。そしてさらにその先に竹藪がありました。雪が降る夜は、音が吸収されるのか無音です。そんな中でポーンという音が、裏山でこだまして村中に響きわたります。なんとも切ない音で、子ども心にすごく印象に残っていました。

――情景が浮かぶようなお話ですね。

成世 じつは僕もそのポーンという音が“雪折れ竹”と呼ぶことは知らず、ネットで検索してわかったんですが、次回作の相談を担当ディレクターとしている時に、何気なく子どもの頃の思い出、風景として話したところ、「それ、面白いね!」と、今回の新曲へとつながっていきました。

ロングトーンで決める“竹がナ~ 竹が”

――作詞はかず翼先生、作曲は成世さんが作家名・堀慈で担当されています。

成世 かず先生とご一緒するのは今回が初めてでした。出だしの“竹がナ~ 竹が”というフレーズとメロディーは浮かんでいたので、担当ディレクターを通してお伝えさせていたただいたら、ぴったりの詩を書いてくださいました。

――「雪折れ竹」はどんな物語となりましたか?

成世 僕が子どもの頃に聞いた“雪折れ竹”の音は母と子の二人の世界でしたが、かず先生の作品では、必ず帰ると言っていた男性が何年も帰ってこなくて、ずっと待っている女性の心情が描かれています。ずっと待ち続けているけれども、雪折れ竹と同じように、もう心が折れてしまうかもしれない。「木綿のハンカチーフ」ではないですが、男性はもう都会の色に染まってしまったのか。そうだとするともう私のことを忘れてしまったんじゃないか、と。

――切ないですね。

成世 僕は歌の中の女性はもうこれ以上、男性を待てないんじゃないかと思って歌っていますが、無音の世界に響くポーンという音は、本当に寂しい音です。都会では近くに竹藪があったとしても、絶対に聞くことができない音ですね。

――メロディーづくりはいかがでしたか?

成世 “竹がナ 竹が”の出だしは民謡的に、ロングトーンで決めたいと思っていました。聴いた人が「あっ!」て思ってくれるように。かず先生の歌詞も流れがぴったりだったので、ごく自然に頭の中にメロディーが流れて、短時間でできあがりました。悩まなかったですね。レコーディング時にも手直しはなく、カラオケを録った時に、歌入れまで終わりました。

成世昌平

「成世の『はぐれコキリコ』の次の作品が来たぞ!」

――成世さんの子どもの頃の記憶・原風景が作品のきっかけになり、ロングトーンで聴かせる作品となりましたが、「雪折れ竹」はどんなふうに聴いていただきたいですか?

成世 聴いた人それぞれの感覚で聴いていただきたいですね。以前、(「はぐれコキリコ」の作詞家である)もず唱平先生が「歌い手が決めつけて表現してはいけない」とおっしゃっていました。流行歌というのは、聴いた人がそれぞれ違う受け止め方をして感動してくださるものなので、決めつけてしまうと歌の世界を狭めてしまいます。それでは芸術にしかならないと話されていました。ですので、僕もあまり歌い込まないでレコーディングしています。今回は歌いたいように歌わせていただきましたので、聴いた人が好きなように感じていただければ、そして好きなようにカラオケで歌っていただければいいと思います。

――成世さんの歌はカラオケでもよく歌われています。

成世 「はぐれコキリコ」を歌われる人なら、「雪折れ竹」は絶対に待ってました! と思っていただけると思います。「はぐれコキリコ」はリリースから20年以上経ちますが、80代の方のカラオケランキングでベスト10に入れていただいている作品です。そんな方にはとくに、「来たぞ! 成世の『はぐれコキリコ』の次の作品が来たぞ!」って思ってもらえたらうれしいですね。

――カラオケファンの琴線に触れる作品ができあがりました。

成世 カラオケ好きの方には、自分のいい声を聴かせたいという人も多いと思いますが、「雪折れ竹」では思いっきり気持ちよく自分の声を伸ばすことができます。むずかしく思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、民謡をよくご存じの方なら、「ああ、ここの部分は『佐渡おけさ』の“ハア~”のところと似ているな」とか、自然にメロディーも体に入ってくると思います。

「雪折れ竹」は冬の歌ですが、皆さんには冬になるまでの間にたくさん聴いて覚えていただいて、カラオケ大会では「雪折れ竹」をたくさん歌ってくださるとうれしいですね。民謡の先生に聴いていただいた時もとても評判が良かったので、僕は皆さんがいろんなカラオケ大会で、絶対にこの歌を歌ってくださると思っているんですけどね(笑)。

 

Side story【取材こぼれ】

成世流音楽づくりは最先端です

成世昌平さんは作家名「堀慈」で作曲も手がけられていますが、楽譜作成には音楽作成アプリを使っていると教えてくれました。

「頭の中にメロディーは浮かんでいるんですが、ギターやピアノが弾けないので五線譜に落とし込めないんです。三味線は弾けるんですけどね。それでiPad(タブレット)にアプリを入れていまして。簡単に譜面がつくれちゃうんです」

現在71歳の成世さんですが、音楽づくりは最先端です。

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2022年8月3日発売
成世昌平「雪折れ竹」
成世昌平

「雪折れ竹」
作詞/かず翼 作曲/堀慈 編曲/竹内弘一
c/w「三味線波止場」
作詞/かず翼 作曲/堀慈 編曲/竹内弘一
日本クラウン CRCN-8499 ¥1,350(税込)

雪折れする竹をモチーフに女心が歌われている「雪折れ竹」。聴いても歌っても心地いい作品。カップリング曲「三味線波止場」は都々逸が入った、近年あまりない作品。作詞家のかず翼氏と成世の担当ディレクターが以前から構想を持っていたという。成世の民謡の師匠でもある本條秀太郎による艶のある三味線の音色が聴ける。レコーディングは同録で行われた。
短時間で作曲ができた「雪折れ竹」と比較して、「三味線波止場」では何度もメロディーやり直ししたという。
「最初はもっと邦楽的につくっていたんですが、後半は歌謡曲的にしようとか何度も作り直しました。じつは作詞のかず先生は楽器がお出来になるんですが、レコーディングの立ち会いの時に小さなキーボードを持ってはるんですよ。それで、何度もやり直していたら、『成世さん、ここはこうじゃないですか?』って。作曲家の間違いを作詞家の先生に指摘され、ご指導いただきました(笑)」(成世昌平)

 

Side story【撮影こぼれ話】

真夏の京都で蚊と戦う

京都・洛西の竹藪で撮影された「雪折れ竹」のミュージックビデオ。冬の歌だが、真夏の京都で撮影された。それでも気温が低い午前中に撮影したものの、成世昌平さんは蚊との戦いだったと明かしてくれた。

「こんな真夏にどうやって撮るのって(笑)。撮影の合間に手を冷やしたりして撮影に臨みましたが、この日は34度もありました。それに昼間だと少ないんですが、午前中は蚊が活発に活動していて、スタッフが虫よけスプレーを撒いてくれましたが、そのスプレーがまた喉にしみるんですよ」

虫よけスプレーの効果もむなしく、結局、撮影中に「4カ所も蚊に刺されました。撮影中は蚊を叩くわけにもいきませんしね(苦笑)」。


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