藤あや子

藤あや子の閃き~デビュー35周年記念曲「鳥」が胸に突き刺さる~

藤あや子

今年、歌手デビュー35周年を迎えた藤あや子。4月には写真集『FUJI AYAKO』を発表し、その艶やかで清々しい美しさが大きな話題となったが、還暦を迎えたとは思えない藤の“艶カッコよさ”に心洗われる思いがする。そんな藤がアニバーサリーイヤーに放つ新曲は、南こうせつが1993年に発表した名曲「鳥」。南自らのプロデュースによって藤あや子のネクストステージへの道標の作品として生まれ変わった。

 

胸に突き刺さる衝撃。女性たちの心に染みる

■「鳥」は、前作「夢のまにまに」に続く、南こうせつのプロデュース作品。藤あや子はそんな新曲を語るように、聴く人の心に染み入るように歌っている。藤のボーカルが活きており、かつ新たな世界観を予感させるが、どのような経緯で「鳥」を新曲としてカバーすることになったのだろうか。

藤あや子 もともとは前作の「夢のまにまに」のカップリング曲として、こうせつさんが「これ、あや子ちゃんにぜひ歌ってほしい」って言ってくださった作品なんです。それでレコーディングしたのですが、ものすごく胸に突き刺さるものがあって、歌の主人公の気持ちに多くの方が共感するのではないか、とくに女性の方たちの心に染みるんじゃないかな? というひらめきがありました。それで、カップリング曲にするのはもったいないと思って、「これ、とっておきましょうよ」と温存させていただいたのが「鳥」でした。

岡田冨美子先生が書かれた詩の世界がとってもシンプルなので、歌い過ぎないようにしないと、この綺麗な日本語の言葉が伝わらないんじゃないかと思って、よりシンプルに、あまり装飾品を飾り付けないようにしようという思いで歌わせていただきました。

藤あや子

■藤の顔がクローズアップされた新曲「鳥」のジャケット写真も印象的だ。写真集『FUJI AYAKO』を撮影した浅井佳代子氏が、未発表カットから、実際に楽曲を聴いてイメージしたカットをセレクトしたもの。浅井氏がジャケット写を提供するのは異例なことで、藤のためならと快諾してくれたという。浅井氏は藤について、“あや子さんの身体はとても涼やかでした。それは素直に涼やかに生きているからだと思います”とコメントを寄せているが、還暦を迎えてなお輝く藤の魅力を言い得ている。

藤あや子 浅井先生はとても色や光にこだわられて。選んでくださったカットを見た瞬間、“素晴らしい、さすがだよね”、“いやあ、(先生にお願いできて)良かった~”という声がスタッフから上がりました。とても、色や光にこだわってセレクトしてくださっていて、うれしかったかったです。

昨年、還暦を迎えましたが、還暦を迎えるまでというのは、若い時も含めてめちゃくちゃ悩みもあったし迷いもあったし、苦しいこともいっぱいあって。さらにもっと若い時はいつ死んでもいいやぐらいの破滅的な考えを持っていたこともありました。

実際に還暦を迎えてみるまで、自分が還暦を迎えたらどんな心境になるのか、自分の中で全然想像がつかなかったんです。でも、実際、還暦になってみたら、心も身体も楽になったんですね。それで人生、長生きしても悪くないなと思うようになりました。

若い時は、ある意味、年を重ねることに恐怖心があるじゃないですか。“わあ、いやだあ”っていうような。それが還暦、60歳ってひとつの節目でしかないって。すごくいい意味で開き直れたんですよ。

よりシンプルに、本物を伝えたい

■何の気取りもなく自然体で歌えるという新曲「鳥」に、還暦を迎えて生まれた藤の自信や確信が今の藤の美しさと多彩な活動の原動力になっていることを実感させられる。

藤あや子 還暦になっても、私、まだ元気だし、思っていたより60歳も悪くないなって(笑)。そう思った時に、自分が今までやってきたことに対して、間違っていなかったなっていう思いが生まれてきたんです。あらためて過去を振り返ってみて、「あっ、あそこで苦しかったけど、あきらめずにやってきて良かったな」とか。投げやりにならなくて良かったな、真面目にやってきて良かったなって思えて。自分が生きてきたいろいろな経験をピラミッドに見立てたら、そのてっぺんが60歳。人間は真面目に生きていれば何とかなるって思えたんです。そうしたらあれこれ悩むよりも、まずはやってみることが大切だと実感しました。

歌うことについても、よりシンプルにする方が、その中の本物が見えてくると思いました。たとえば料理でも、あんまり調味料を使うよりも、まずは食材が良ければおいしいじゃないですか。今、そういう域に達しています。年齢を重ねることはそんなに悪くないし、考え方ひとつだなって思っています。

藤あや子

「ええっ!? そこにコブシを入れるんですか?」

■「鳥」は覚えやすいメロディーで自然と口ずさみたくなるが、歌う際、どんなことを大事にしたらよいのかをうかがってみた。

藤あや子 シンプルな詩と曲なので、そこで歌唱法を濃くすると、作品が生きてこないと思います。だからより言葉をひとつひとつ大事に。歌うんじゃなくて、言葉をおいていくような感じで歌われた方がいいと思います。それと急がないことかな。淡々と朗々と、ゆっくりと語るような口調で歌われたら、きっと、この「鳥」の中にある真実が見えてくるんじゃないかしら? そんな気がします。歌の良さって、そこだと思うんですけど、歌う方によって楽曲がいろいろ変化していくという楽しみもあります。男性の歌う「鳥」も聴いてみたいですし、いろんな「鳥」が生まれてほしいです。

■南こうせつとのレコーディングは瞬発力でスピーディーなものだったそうだが、ひとつだけ意外に思った要望があったそうだ。

藤あや子 こうせつさんとのレコーディングでは、いつも、”こうせつさん、歌って!”という私からのリクエストから始まります。こうせつさんの歌唱を聴いて、こういうふうな歌い方すればいいんだなっていうことをインプットします。それでまずはこうせつさんが歌われた歌の感じで歌ってみて、それにこうせつさんがアドバイスしてくださって仕上げていきます。でも、これまでそんなにレコーディングに時間がかかったことはないですね。

今回、一カ所だけ、こうせつさんが要望されたことがありました。シンプルに歌っているので、一カ所だけコブシを入れてほしいと。一回でいいので、こうやって歌ってという歌唱指導があったんですが、「ええっ!? そこにコブシを入れるんですか?」って。そんなやりとりで出来上がったんですけれども、確かに一カ所の、その一個のコブシによって”藤あや子”という歌手の魂が吹き込まれました。完成した「鳥」を聴いた時にそう確信しました。さすがプロデューサー、南こうせつさん!! だと思いました。

■その一カ所とは、”ah~”で始まるサビのフレーズだ。藤が奏でるひとつのコブシにまるで花が咲くような、花火が夜空にきらめくような輝きを感じて、ハッと惹きこまれる。

藤あや子

さて、南こうせつが藤あや子に託した「鳥」はミュージックビデオでも楽しませてくれる。藤とは2005年からの付き合いだという小松莊一良監督がショートムービー仕立てに仕上げた。千葉県の木更津と富津をロケ地に、どこか侘しさが漂う港町やガソリンスタンドなどがドキュメンタリー的に映し出され、トレンチコートにサングラス姿で藤がスポーツカーのロードスターを走らせる。女優・藤あや子にも注目したい。

藤あや子 小松監督が、今回は、映画のように撮りたいとおっしゃってくださったのですが・・・・。現場に用意されていたのが、ロードスターという車で。「えっ!? 車、運転するの?」みたいな(笑)。事前に「一応、運転免許証を持って来てください」と言われていましたが、実際に運転するとは思っていなかったんですよ。それで車を運転して行ったり来たりしていたら雨がすごく降ってきて、空もどんよりしたグレーになってきて。私、仕事の時はたいがい晴れ女なんですが、その日に限って一日中、天気が悪かったので、「こんな雨の中で車を運転するの、嫌よね」なんて言っていたんです。

藤あや子

「鳥」のMVにはトレンチコートにサングラス姿でロードスターを運転する藤あや子が登場する。

藤あや子

撮影中の藤あや子と小松莊一良監督。小松監督が藤のために作り続けたミュージックビデオは「鳥」で31本目になる。

でも、仕上がったMVを見せてもらったら、雨でよかったと思いました。ブルーグレーの世界が「鳥」世界そのものなんです。私が歌っているシーンはほんのわずかしなくて、ずっと運転したり、空を見上げたりしていて、「鳥」の中のヒロインになっていて、今までにないMVになっています。

まだまだよ、カッコよく生きよう!

■デビュー35周年を迎えた藤あや子のネクストステージへの新たな一歩になった「鳥」。MVとともに、藤のボーカルを感じてほしいが、カップリング曲には、「鳥」を作詞した岡田冨美子氏の「秘密」と「銀河心中」が収録されている。

藤あや子 カップリングの2曲は20年くらい前の作品ですけれども、「鳥」に至るまでの岡田先生の作品の現在から過去を辿ることで時代の流れを感じてほしいなと考えました。2曲とも、今、こうやってリリースしても古臭さがなくて、逆に、現在にはない新しさがあります。

私は音楽で遊ぶことが好で、音楽は“仕事”はなくて“遊び”だと思っているところがあるのですが、作り手の皆さんが音楽でうまく遊んでいるなあ、楽しんでいるなあって感じてうれしくなる楽曲です。

編曲にしても「鳥」の斎藤ネコさんの引き算をして研ぎ澄まされたアレンジや、カップリング2曲での今は亡き桜庭伸幸さんの「おおっ!」と唸るようなアレンジの世界を楽しんでほしいです。時を経ても音楽はいろんな景色を見せてくれますよね。

■藤の”艶カッコよさ”は、今現在の藤を体現する言葉に思えるが、これからどんな生き方をしていきたいと考えているのだろうか。最後に聞いてみた。

藤あや子 歌もそうなんですけれども、人生は悪くないなって思える生き方をしたいと思っています。年をとっても最後の最後まで人生を楽しみたい。だから皆さんにも生きることにもっと貪欲になってほしいと思っています。最近は明るいニュースが少なくて、つらく落ち込んだ時は、私を見てください。こんな年でも頑張っていますよ!っていう感じ(笑)。
自分の考え方ひとつで、人生が変わるということを私自身が経験したので、それをこれからも体現することで皆さんを応援していきたいです。前向きに明るく生きることって、絶対にマイナスにはならないので、ぜひ皆さんにもそうやって生きてほしいと思います。とくに女性に元気になってほしい。やっぱり女性が元気な国っていうのは、国自体が元気じゃないですか。最終的には女性が支えるんだと思っています。なので、私は常にそのお手本でありたいと思います。まだまだよ、カッコよく生きようって。「一緒についておいで」って言える存在になりたいですね。

(文=親松尚子)

 

Q 藤あや子さん! 艶カッコよさの美の秘訣を教えて!

一番はストレスを溜めないことですね。まずは自分に優しく、自分の求めることをする。自分に甘くていいと思うんですよ。自分の嫌なことはしない、好きなことしかしない。これは“マルオレちゃん”(愛猫の「マル」と「オレオ」)から学んだんです。

やっぱり彼らを見ていると、本当に好きなことしかしなくて、嫌な時は、ふんってそっぽ向いちゃう。でも、生き物はそれでいいんだと気づきました。ストレスを溜めないことが食欲につながったり、運動することにつながったりして、身体が活性化するというか。たぶん高価なクリームを塗ったりするよりも、生きることに楽しさを見出すことの方が大事だと思っています。あとは時々、保湿してください(笑)。

ヨガもずっと続けていますが、そこで学んだことは、意外と人はうまく呼吸していないということでした。ヨガで大事なのは呼吸法ですが、学びがあって初めて楽しむことができるので、興味を持ったものは、まず基礎を学んでそれを自分流にアレンジするのがいい思います。私は、いまだに真面目にヨガを週4日やっています。意外と真面目なんですよ(笑)。

皆さんも毎日、できることを何か決めてやるといいと思います。私の場合は腕立て伏せを毎日60回。斜めの腕立て伏せを30回ずつ2回に分けてやっています。あとはシャドウのワンツーを100回。それを毎日やるって決めて続けていますけど、自分ができる回数しかしません。それ以上やろうとすると続かないから。

続けられそうなことを見つけていただくのがいいですね。たとえば腹筋10回とか。何かできることを決めて、それを必ず毎日、何があってもやると決めて実行することで自信につながっていきます。自分に自信を持つことも大事だと思います。

INFORMATION

9月28日
藤あや子 35th Anniversary Live “THE SHOW TIME” Supported by MUSIC ON! TV
日時:2022年9月28日(水)
1stステージ:開場15:30 開演16:30
2ndステージ:開場18:30 開演19:30
会場:ビルボードライブ横浜
今年デビュー35周年を迎えた藤あや子がビルボードライブのステージに初登場する。今回は“本業”をあえて封印し、演歌なし、和装なしで、ジャズを含む洋楽&邦楽ポップスカバーを中心とした特別セットで、一夜限りのショータイムを届ける。

▶詳細はビルボードライブ公式HP

 

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2022年6月22日発売
南こうせつ プロデュース
藤あや子「鳥」
藤あや子

「鳥」
作詞/岡田冨美子 作曲/南こうせつ 編曲/斎藤ネコ
c/w「秘密」
作詞:岡田冨美子 作曲/弦哲也 編曲/桜庭伸幸 
c/w「銀河心中」
作詞/岡田冨美子 作曲/弦哲也 編曲/桜庭伸幸
ソニー・ミュージックレーベルズ MHCL-2963 ¥1,300(税込)

「鳥」は南こうせつが1993年に発表した名曲。南が思い入れの強い作品を藤あや子に託した。藤は心の中で静かに揺れる秘めた想いを語り、歌っている。編曲は斎藤ネコ。美しくも永らえない寂しさを感じさせるアレンジが胸を打つ。カップリングは藤のアルバムからのリカットで、「鳥」の作詞家・岡田冨美子作品を藤自らが選曲した。2022年、デビュー35周年を迎えた藤にとって、新たな一歩を踏み出す道標となるシングル。

▶配信・ダウンロード版はこちら


Profile
藤あや子(ふじ・あやこ)
1961年5月10日、秋田県生まれ。民謡歌手として活動したあと、1987年6月21日に“村勢真奈美”として演歌歌手デビュー。1989年9月に「藤あや子」に改名し、「おんな」をリリース。1992年9月、「こころ酒」がヒットし、同年の『NHK紅白歌合戦』に初出場。以来、2015年まで21回出場。近年は幅広いアーティスト、作者と曲作りをしており、ジャンルレスに多様な作品を提供している。「小野 彩」の名義で作詞・作曲も手がける。飼い猫である「マル」と「オレオ」の母親としても大人気で、2020年12月には“マルオレ”ファースト写真集『マルとオレオと藤あや子』(世界文化社・刊)を発売。2021年は、南こうせつとの音楽談義から生まれた作品「夢のまにまに」をリリース。デビュー35周年を迎えた2022年は4月に藤あや子写真集『FUJI AYAKO』(講談社・刊)、6月に前作に引き続いて南こうせつがプロデュースした「鳥」を発売。去ってゆく愛、儚い想いが綴られた作品を藤が語るように歌っている。

取材後記
お話しが楽しくて、取材時間はあっという間に過ぎましたが、衣裳についてもうかがいました。藤あや子さんと言えば着物のイメージが強かったので、新曲「鳥」ではどんな着物かと。

「今回は初のドレスです。着物は着ません。いろんなパターンのドレスを持っているので、その時々の気分でセレクトしたいですね。煌びやかなというよりは、鳥のような、この歌の主人公をイメージしたような雰囲気を出して、でもそこに少し、”あや子カラー”を加えてキラッとさせて歌いたいと思います」

テレビやステージで「鳥」を歌う藤さんのドレスにも注目したいなあ。

 

藤あや子「鳥」特設ページ
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