走裕介の「一期一会」~吉幾三が授けた人生歌~
キャリア12年目。歌手として脂がのってきた走裕介が初めて“吉ワールド”に挑戦した。吉幾三が走に授けた歌は人生の歌だった。「一期一会」。どんな出会いでも、一生に一度しかない。だからこそ、うれしい時はもちろん、悲しいこともつらいことも大切だと説く。そんな作品に走はどう向き合ったのか?
走裕介、初めての吉ワールドは人生の歌
「吉幾三さんの楽曲が好きでした。コンサートの弾き語りで吉さんの楽曲を歌わせていただくことがありますが、お客様がしっかりと聴いてくれるんです。お客さんの心に歌が入り込むというか。以前から吉さんワールドの曲をいただきたいなと思っていました」
偉大なる作曲家、故・船村徹氏の弟子として修業した走裕介は2009年、「流氷の駅」でデビュー。北海道網走市の出身ということで、“白銀の大地が生んだ『不屈のランナー』”としてキャリアを積んできた。
そんな走に吉から作品が届いた。16枚目のシングル「一期一会」だ。走がこれまで、オリジナルシングルとしては歌って来なかった人生の歌だ。
「昨年の7月頃から新曲のお話をさせていただいたのですが、津軽地方に雪が降る頃、親父が出稼ぎに行く様を歌った、吉さんの『津軽平野』のような曲を歌いたいと、ディレクターと話していました。もちろん、僕から吉さんにお願いすることはありませんが、吉さんが人生における出会いをテーマにした作品をつくってくださいました」
“一期一会”とは、一生に一度の機会のこと。その時の出会いは、生涯に一度しかないから、日々の出会いを大切にしようという、千利休の教えから生まれた言葉だ。
誰しも人との出会いがあるが、いい出会いばかりではない。うれしさもあるが別れもあり、苦しさもある。でも、すべての出会いに意味があると、吉は説く。
誰につけ ああ…意味がある
一期一会と 思えば…
(「一期一会」歌詞より)
「タイトルもいいし、歌詞には日常生活の中でよく使われる言葉がちりばめられています。人生を考えさせられる内容の歌です。日々の生活で感じられる言葉に、聴いてくださる皆さんの共感が得られるんじゃないかと期待しています。メロディーもメリハリがあって、前向きになれる作品です」
日高晤郎と吉幾三の一期一会
ところで、なぜ今回、吉幾三は走裕介に作品を提供したのか? なぜ、人生の歌を走に与えたのか? それは走の敬愛するスーパーパーソナリティー、日高晤郎と吉との関係にあった。
「晤郎さんと吉さんが滅茶苦茶、仲がよかったんですよ。そんな関係から晤郎さんのラジオ番組に吉さんと僕がゲストで入ることもあって、懇意にさせていただいて。晤郎さんが亡くなった時には、吉さんが泣いて電話をかけてこられました」
歌手や俳優などマルチな才能をもった日高は、ラジオパーソナリティーとして北海道の顔だった。STVラジオで毎週土曜日に朝8時から夕方5時まで公開生放送されていた『日高晤郎ショー』(放送時間は放送期間などによって異なる)を、走は少年時代から聴いており、歌手になってからは、日高に目をかけてもらっていた。日高は走の8枚目のシングル「昭和縄のれん」が好きで、自身のコンサートでもよく歌っていた。
残念ながら日高は2018年に病に倒れて亡くなってしまったが、吉の作品を歌うことが決まった時、走は「晤郎さんが生きていて聴いてくれたら、すごく喜んでくれたんじゃないかな」と思ったという。そして、作品が人生の出会いをテーマにした歌だとわかった時、「そう来られたか」と、吉の思いを噛みしめた。
ちなみに、泥酔したゲストの吉のおかげで日高のテレビ番組が終了したこともあり、『日高晤郎ショー』では生中継の現場に突然、吉が乱入したことや、公開生放送のスタジオに台車で荷物が運び込まれ、箱の中から吉が登場したりなど、日高と吉とのハチャメチャなエピソードには事欠かないという。
「野球中継が延長になり、もしかしたらラジオ番組の放送がなくなるかもしれないって時があったんですが、その時も、もうないかと思ったとか言いながら、バスローブ姿でスタジオに入って来られました(笑)」
歌は料理と一緒。「考え過ぎずに歌いました」
恩人である日高晤郎が引き合わせてくれた吉幾三から、魂に響く人生の歌「一期一会」を授けられた走裕介は、気負うことなく作品に向き合った。
デビューから12年。キャリアを積み重ねてきた証だろうか。「ここ数年、そうしている」というルーティーンを行う。
「デモと譜面をいただくと、まず正確に曲を理解するために、譜面作成ソフトに打ち込むんで聴いてみます。そのあとギターを弾いて、自分の声で歌ったものを録音して聴きます。キーも半音上げと半音下げで歌ってみて、それをディレクター、作詞・作曲・編曲の先生にも聴いていただいています。レコーディングが好きなんです。自宅に録音できるシステムをそろえていて、自分で打ち込みして、オケをつくって歌を吹き込んでいたんですが、その延長線上で新曲をいただいた時のルーティーンになりましたね」
言葉でこうしよう、ああしようと話すよりも実際に聴いてもらったほうが、制作陣が試行錯誤しやすいだろうということだ。しかし、レコーディングに向けては歌い込まないという。
「レコーディングには一切練習しないで臨みます。メロディーは覚えていきますが、発声練習もしません。器用じゃないので、こうかなと作り込んで臨んでしまうと、現場でこっちのほうで試してみようかと言われても、歌えないんですよ」
いつものルーティーンで臨んだレコーディングは和気あいあいと進んだ。吉も同席し、自らブースに入って、一度、歌ってくれたという。
「こんな感じで歌えばいいよと。でも、一度僕が歌ってみたら、『OK、じゃあ、帰るな』とか、メロディーも好きに変えちゃっていいよとか(笑)。自分のマネージャーに名刺を渡して、『あんた誰だっ!』とか。ホント、普段から面白い方なんです」
吉の歌唱をマネをするところはマネさせてもらいながら、走ならではの表現力で作品ができあがっていった。
「歌は料理と一緒ですよね。素材があり、どんなふうに味付けするか? みたいに。塩・コショウがうまいんじゃないか? いや、ケチャップもいいんじゃないかって、試行錯誤しながら作品に仕上げていきました。いい楽曲をいただきました。“人生歌”と呼べる歌は初めてですが、考え過ぎずに歌えましたね」
「これまでの人生で落ち込んだことがない。壁を感じたこともないですね」という走。小学5年生まで同級生がおらず、全校生徒10人という小さな学校に通っていた。古い木造の校舎で、冬になると雪が吹き込んできたが、友だち同士のいざこざもなく、全員が兄弟姉妹のような環境で学び、「悩みもなく、そのまま大きくなった(笑)」。
そんな前向きな性格の走だからこそ、貧しさや愚かさ、裏切り、悲しみ、別れなど、つらいことがあっても“一期一会と 思えば…”と背中を押すように歌えるのだろう。歌手として脂がのってきた走裕介を感じられるニューシングル「一期一会」である。
2021年2月10日発売
魂に響く人生歌
走 裕介「一期一会」
「一期一会」は人生における一生に一度の出会いを描いた作品。吉幾三が作詞・作曲し、走がソウルフルに歌う。カップリング曲の「北の浮雲」は走の地元・網走市から近いサロマ湖から北上しながら旅を続け、別れてしまった彼女への想いを巡らせる。走定番の北の大地を舞台にした作品。
日本コロムビア
シングル「一期一会」走裕介コメント映像
https://columbia.jp/artist-info/hashiri/info/73728.html
走裕介公式サイト
走裕介公式ブログ「DERESUKE日記」
走裕介公式YouTubeチャンネル「裕 Tube」