【連載】師匠と僕「村木 弾」第3回

「船村先生の弟子は100人以上」

巨匠、故・船村徹先生の最後の内弟子である僕が、師匠との思い出の日々を紐解く。第3回目は、船村先生を中心に回る内弟子の忙しい生活振りと、先生の教え。

 

内弟子の生活は、船村徹先生の時間を中心に動く。

朝、先生が起き出すあたりから朝食の支度を始め、新聞を取りに行き、所定の場所に置く。先生が2階にある書斎から下りて来るとまず、ワンちゃん(犬)のポロ子を筆頭としたニャーゴ(猫)の弟妹たちに、先生自ら“食事”を与える。これが先生の日課であった。それが終わると新聞に目を通し、ひと段落してから内弟子も含めた全員で朝食を摂る。その後は、昼食~片付け~夕食の買い出し~準備~夕食~先生就寝~終了となる。これが楽想館での生活の一例である。

当時、僕の上に3人の兄弟子(ムーディー松島、天草二郎、走 裕介)がいたわけだが、上の2人の兄弟子は、先生のスケジュール管理や、地方に仕事で出かける際の交通、宿の手配、車移動の際のレンタカー予約や地図を見ながらの工程計画を立てるという“付き人”としての業務をおもにこなしていた。もうひとりの兄弟子と僕が、前で説明した楽想館における家事全般の仕事を担っていた。兄弟子たちは、旅先での出来事や現場の様子を話してくれたり、家事などもていねいに教えてくれた。こんな先輩方の教えがあったからこそ、12年半におよぶ修業生活を無事に終えることができたのだと思う。

「楽想館」の応接間にて

付き人は、日頃から先生の動きを注意深く見守り、先生が口にする前に次の行動を察して、動くことが求められる。楽想館での仕事は、付き人として現場や地方へ同行した時、そういう仕事をきちんとこなすための訓練なのだ。

先生は、弟子一人ひとりに対して異なる接し方をしていた。ある弟子に対しては叱りながら育て、ある弟子には淡々と言い聞かせながら…という具合。各々の個性に合わせて教育し、長所を伸ばしていくという教育方法だ。ちなみに僕は、怒られることの多い弟子だった。

僕らのように住み込みで先生にお世話なる”内弟子〟”だけでなく、通いで先生の元に修業をする〝外弟子〟も含め、先生には100名以上の弟子がいる。それだけ数多くの弟子たちを育てた船村先生は、やはり偉大な方だ。

先生は常々、歌い手を育てるために弟子を取ってるわけではないと言っていた。もちろん、船村先生の元を訪れる人の多くは、歌手になりたいと思っている。実際、僕がそうだった。だが、先生の教えである「歌い手である前にひとりの立派な人間であれ」は、歌手としてはもちろんのこと、ひとりの人として立派に生き抜くための示唆に満ちたものだ。そこには、歌の世界では芽が出なくても、ひとりの立派な人間であれという先生の願いが込められている。

先生は、歌手ではなく“人”を育てていたのだ。

 

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船村 徹氏
昭和7年、栃木県船生村生まれ。昭和24年、東洋音楽学校(現東京音楽大学)ではピアノ科に学ぶ。昭和30年、春日八郎のデビュー作「別れの一本杉」で作曲家デビュー。その後、数々の名曲を世に送り出し、作品数は約5000曲以上とも言われる。歌謡曲の作曲家として初めて文化勲章を受章。2017年〈平成29年〉2月16日永眠。

 

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村木 弾「ほろろん演歌」

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作詞/高田ひろお 作曲/徳久広司 編曲/杉村俊博
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INFORMATION
私設「村木弾ファンクラブ」(弾む会)ご入会案内

◆設立日:2018年4月18日(水)
・入会金不要
・年会費2,000円(税込) 毎年期間4月1日~3月31日
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TEL 090-8101-8196
〒256-0812神奈川県小田原市国府津2-2-3
萩原保子


Profile
村木 弾(むらき・だん)
1980年秋田県生まれ。鳶職、現場監督の仕事に従事していたが、2003年、歌手を目指して故・船村徹氏の最後の内弟子となる。2016年に、作詞&プロデュース・舟木一夫、作曲・船村氏による「ござる~GOZARU~」でデビュー。

日本コロムビア 村木弾ページ
村木弾 公式Twitter