
“破天荒!”なほどに愚直。村木 弾、酒場のギター演歌に挑戦
村木 弾の新曲「ほろろん演歌」は昭和のメロディーを感じる、酒場のギター演歌だ。過去5作品とは異なる世界観の歌で、村木にとっては新しい挑戦だった。「歌の世界をいかに聴く人に伝えることができるのか?」と、愚直なまでに歌と向き合っている。
破天荒な一面も見せるが、ただ、自分に正直なだけ。
「みんながやっているからやろうとか、そういうのはないですね。僕の生意気なところというか、へそ曲がりなんです(笑)」
コロナ禍によりイベントやコンサートが中止や延期になるなか、SNSを通じて、積極的に情報を発信するアーティストがいる一方で、村木 弾はほとんど発信していない。2月から始めたというTwitterで、月数回、つぶやく程度だ。
お客様の前で歌えない時間がどんどん過ぎていくなかで、焦りはないのかと問うても、「ないですねえ」と返ってくる。
「(コロナ禍で)影響を受けている人は自分だけじゃないですしね。飲食店の方など、皆さん、大変な時期を過ごされているから、僕が焦っても仕方がない。なるようにしかならないし、深刻に考えない性格なんです」
「頭が抜けているのかな」と苦笑する村木の話を聞いていると、自然体なのだなと感じる。飾らないのが、村木なのだ。新型コロナによる非常事態宣言の期間、村木はひたすら本を読んでいたという。亡き師匠である船村 徹氏から、弟子時代に“本を読め”と教えられ、当時はよく本を読んでいた。しかし、デビュー後は忙しく、いいなと思って買っておいた本も未読のまま何十冊と積まれているだけだった。
「家にいる時は、映画を観たり、ギターを弾いたり、本を読んだり。とくに本はよく読みましたね。小説を読むことが多くて、面白いと一冊全部を一気に読んでしまいます。最近読んでいるのは宮本輝さんの『流転の海』。全9巻の長編です。酒を飲みながら、どんどんページをめくってしまいます」
気づくと朝方になっていることも、よくあるという。村木はこの自粛期間、普段できなかったことに時間を使いつつも、愚直なまでに自分自身を変えなかった。
時には時代を振り返ってみることも大切じゃないか。
そんな村木の魅力に気づいているのが、プロデューサーとして村木を支えている舟木一夫や、担当ディレクターだ。「何でもないところが魅力」と、村木を後押しする。
今年デビュー5年目を迎える村木に与えられた新曲がとてもいいのだ。デビュー曲「ござる~GOZARU~」から「都会のカラス」「親父の手紙」「明日へ手拍子」「さんざし恋歌」と歌ってきたが、新曲「ほろろん演歌」は“望郷”と“酒”がテーマ。過去5作品とは異なる、酒場のギター演歌とも言える作品となった。
路地裏の酒場に昭和のギターの音色が流れるなか、都会暮らしに慣れても、時には故郷(くに)が恋しくなることがある。そんな経験を持つ人も少なくないだろう。
「6枚目の作品になりますが、僕の場合、全部が違う内容の曲を歌わせていただいています。今しかできない経験です。ありがたいですね。『ほろろん演歌』は、赤ちょうちんの世界です。いつかは、そういう世界を歌ってみたいと思っていました。お酒は好きですしね(笑)」
村木が飲みに行く場所は、もっぱら居酒屋。しかもカウンター席で飲むのが心地いい。隣に座った常連のおじさんとの会話や、雰囲気が楽しいと語る。
「歌詞のなかに“昭和のギター”“昭和のこころ”など、昭和というフレーズが出てきますが、今は新しいものを追いかけるのがいいという風潮もあります。ですが、一歩、二歩と下がって、時には振り返ってみることも大切じゃないですかね。歌い手として、昭和という時代を大切にしたいと思っているんですよ」
「ほろろん演歌」には仕掛けも入っている。1番と2番の間奏に「別れの一本杉」(昭和30年)の、2番と3番の間奏には「おんなの宿」(昭和39年)のメロディーが隠されているのだ。どちらも船村 徹氏が手がけた名曲だ。
「どこかで聴いたことがあると思っていただける昭和のメロディーが2カ所入っています。この歌の面白いところです」

ギターが奏でる「ぼろろん演歌」。いつかは弾き語りで歌ってみたいという。「徳久先生が『弾ちゃんが引きやすいコードにしておいたから』って言ってくださっています。がんばって練習します(笑)」(村木)
100人の内ひとりでもいい。「いい歌だな」と思ってもらえる曲を歌っていきたい。
そんな仕掛けを楽しみながら、「ぼろろん ほろろん…」というサビのフレーズが耳に残る。
「(作曲の)徳久先生から、最初の“ぼろろん”は、ぼ~ろろ~んて、ギターが奏でるように、次の“ほろろん”は、ほ・ろ・ろ・んと、メリハリをつけて歌うのがいいんじゃないか。ここはメロディー通りに歌わなくていいと言われ、挑戦しました」
村木は、「聴いてくださるお客様がいい歌だな、と思っていただける歌を歌っていきたい」と話す。
「100人が100人じゃなくても、100人の内、ひとりでもいい歌だなって思ってもらえたら、その人にはその歌がいい歌になります。一曲でも多く、そういう歌を歌っていきたいというのが、目標です」
「デビューして、もう5年も経ったのかと思いますが、かといって5年目だから何かをやるつもりもありません。酒も飲みますし、タバコも吸います。もし歌えなくなったら、それはのどの寿命だと思います」
「でも、船村先生からは、北島三郎さんのように、歌の道を何十年と続けていくことの大変さをよく聞かされました。そのために勉強しなさいと。先生の『歌は心で歌う』という言葉がありますが、僕にはまだその意味が実感としてわかりません。先生だからこそ言える、とても大きな言葉です。僕のキャリアではその域にも達していません。ですから、今は地道に歌って、ひとりでも多くの方に知っていただくことが大切だと思っています」
5年目にもらった、これまで歌ったことのないタイプの新曲「ほろろん演歌」。
「メロディーを通して、歌詞の世界をいかにお客様に伝えることができるのか。僕の技量が試されることになります」
破天荒な一面を見せるが、どこまでも実直。だからこそ、村木 弾は愛されているのだろう。取材後、担当ディレクターがこそっと教えてくれた。
「今年は、コロナの影響で予定していたことができなくなりましたが、来年は丸5年にふさわしい舞台で歌わせたいと思っています」
写真=井上孝明
2020年7月29日発売
デビュー5年目は酒場ギター演歌で勝負
村木 弾「ほろろん演歌」

「ほろろん演歌」
作詞/菅麻貴子 作曲/徳久広司 編曲/杉村俊博
c/w「男さすらい」
作詞/高田ひろお 作曲/徳久広司 編曲/杉村俊博
日本コロムビア COCA-17784 ¥1,227+税
「ほろろん演歌」は“望郷”と“酒”がテーマ。過去5作品とは異なる、酒場のギター演歌と言える作品。路地裏の酒場に昭和のギターの音色が流れるなか、都会暮らしに慣れても、時には故郷(くに)が恋しいくなる主人公の気持ちを歌っている。カップリング曲「男さすらい」は、高田ひろお氏が山でも海でもなく、空をテーマに四行詩を書き上げ、徳久広司氏が三拍子のメロディーをつけた。「自然の風景が目に浮かぶ歌です。徳久先生は小林旭さんが大好きなんですが、僕にも小林さんのイメージをもってくださっていて、“弾ちゃんに、こういう歌を歌わせたかった”と、つくってくださいました。すごくかっこいい歌です」(村木)。「ほろろん演歌」と「男さすらい」のどちらを表題曲にするか悩んだほどだという。
profile
村木 弾(むらき・だん)
1980年、1月11日、秋田県生まれ。高等専門学校を卒業後、就職のために上京。道路会社に入社し、とび職や現場監督を務めていたが、歌手への道を目指して、2003年7月、故・船村 徹氏の最後の内弟子となる。2016年2月、作詞&プロデュース・舟木一夫、作曲・船村氏による「ござる~GOZARU~」でデビュー。「歌手デビューする時に、先生がどこかの記者の質問に答えて、『やっぱり、ちょっと寂しいね』と言ってくださったのが印象に残っています。普段はいつも怒られてばかりでしたから」(村木)。2020年7月29日、6作目の新曲「ほろろん演歌」を発売。