【連載】師匠と僕 村木 弾 第19回
「涙とともに歌う」
巨匠、故・船村 徹先生の最後の内弟子である僕が、師匠との思い出を紐解く。先生が亡くなった翌日、「都会のカラス」のレコーディングが行われた。歌い出しから涙が止まらず、中断を挟んでの収録になった。
2017年2月17日、都内のスタジオで、村木 弾のセカンドシングル「都会のカラス」のレコーディングが行われた。舟木一夫さん、蔦 将包先生、コロムビアスタッフの立ち合いのもと、「それじゃ、弾、一回歌ってみるか」というディレクターのひと声で始まった。
イントロが流れはじめ、あの「カァ、カァ、カァー」を歌い出す。そして、しばらくすると……だめだった。もう涙が出て止まらなかった。音符も歌詞も全然見えなくなっていた。3日前。たったの3日前である。船村 徹先生から初めて大事なレッスンをつけていただいたのに。その後もいっしょに酒を飲んだのに……。
「がんばれよ。ほんじゃな」
そう言って、エレベーターで上がっていった先生の姿が浮かんできた。内弟子に入ってから今までのことが、一気に頭のなかに甦ってきた。歌にならなかった。歌う気持ちにも……。しばらくレコーディングは中断した。
それから少し気持ちが落ちつき、もう一度歌うため、レコーディングブースへ向かおうとした時、舟木さんが僕の肩を叩いた。
「弾、いけるか? 歌えるか? お前さんがだめなら、こういう状況だから日を改める。ただな……船村先生が見てるんだぞ。お前さんが情けない歌を歌っていたら、先生も安心して上に行けないんじゃないか? 弾もプロだろ? プロの歌い手なら、決めるところはバシッと決めろ!」
そして、舟木さんは僕の背中をぽんと押してくださった。
舟木さんの言う通りだと思った。自分の頭のなかをリセットした。まっさらな状態に戻して、レコーディングを再開した。1番から3番を通しで録音した。なんとか歌い切った。あと何パターンかを録音しようとしたが、やはり一度ゆるんだ涙腺を止めることができなかった。
そんな僕に、「都会のカラス」を吹き込んだCDを持った舟木さんが声をかけてくださった。
「これを持って、早く船村先生のところに行ってこい」
僕はCDを受け取り、足早に先生の自宅のある神奈川・辻堂へ向かった。
船村 徹氏
昭和7年、栃木県船生村生まれ。昭和24年、東洋音楽学校(現東京音楽大学)ではピアノ科に学ぶ。昭和30年、春日八郎のデビュー作「別れの一本杉」で作曲家デビュー。その後、数々の名曲を世に送り出し、作品数は約5000曲以上とも言われる。歌謡曲の作曲家として初めて文化勲章を受章。2017年〈平成29年〉2月16日永眠。
2020年7月29日発売
酒場のギター演歌で勝負!
村木 弾「ほろろん演歌」
「ほろろん演歌」は“望郷”と“酒”がテーマ。過去5作品とは異なる、酒場のギター演歌と言える作品。路地裏の酒場に昭和のギターの音色が流れるなか、都会暮らしに慣れても、時には故郷(くに)が恋しいくなる主人公の気持ちを歌っている。カップリング曲の「男さすらい」は、高田ひろお氏が山でも海でもなく、空をテーマに四行詩を書き上げ、徳久広司氏が三拍子のメロディーをつけた。雄大なメロディーに乗せて男の生き様を表現している。
INFORMATION
私設「村木弾ファンクラブ」(弾む会)ご入会案内
◆設立日:2018年4月18日(水)
・入会金不要
・年会費2,000円(税込) 毎年期間4月1日~3月31日
•新規ご入会の初年度は入会月により変動いたします。
・継続更新時(毎年4月1日)は年会費¥2,000(税込)となります。
・再度ご入会の場合は入会月を問わず年会費¥2,000となります。
◆入会特典
会員証の発行・入会記念ポートレートプレゼント
会報の発行(年間3回程度)
コンサートや出演イベント・チケット等のご案内をさせていただきます。
◆私設「村木弾ファンクラプ」(弾む会)ご入会ご希望の方
下記の住所までお葉書もしくはお電話にてお申し込みをお願い致します。
皆様のご入会をお待ちしております。
私設「村木弾ファンクラプ」(弾む会)・事務局
TEL 090-8101-8196
〒256-0812神奈川県小田原市国府津2-2-3
萩原保子
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Profile
村木 弾(むらき・だん)
1980年秋田県生まれ。鳶職、現場監督の仕事に従事していたが、2003年、歌手を目指して故・船村徹氏の最後の内弟子となる。2016年に、作詞&プロデュース・舟木一夫、作曲・船村氏による「ござる〜GOZARU〜」でデビュー。