【連載】師匠と僕 村木 弾 第17回
「最初で最後の歌唱レッスン」
巨匠、故・船村 徹先生の最後の内弟子である僕が、師匠との思い出を紐解く。2017年2月13日、先生の自宅で初めてのレッスンが行われた。「都会のカラス」の歌い出し「カァ」との激闘の行方は――。
神奈川・藤沢にある船村 徹先生の自宅で、「都会のカラス」のレッスンが始まった。しかし、歌い出しの「カァ~」に納得がいかない先生は、「12年半の間、僕のところで何を勉強してきたんだ!!」と、テーブルに握りこぶしを叩きつけた。そして諭すように、こう言ってくださったのだ。
「あのね、『カァ』にもおたまじゃくし(音符)がついている。でもな、ただ音符どおりに歌うんじゃなくて、ひとつひとつの『カァ』に思いを込めるんだヨ。お前なりの思いを……」
「都会のカラス」は1番から3番まで詞がある。歌い出しの「カァ、カァ、カァー」は、先生が作曲する際に、自らつけ加えた詞だ。たった2文字の「カァ」。この「カァ」に特別な思いを込め、作ってくれた作品であった。
2時間ほどのレッスンだったが、この「カァ」の歌い方に、時間の大半を費やした。何とかというか、ある程度、この「カァ」でも仕方ないかと思った先生は、僕にこう言ってくださった。
「まぁ、本番のレコーディングもこんな感じでいいんじゃないか。どうせいつもカップラーメンしか食ってないんだろう? うまいもんをごちそうするから、一杯やっていきなさい」
正月の新年会以来、先生との久々の夕食だった。その時は歌の話はせずに、プロ野球の話や大相撲のこと、先生といっしょに旅行した金沢の思い出話などをしながら、酒をごちそうになった。
食事を終えて、早めに休むという先生をエレベーターまでお送りした。
「まぁ、今日のようにレコーディングもがんばりなさい。ほんじゃな」
先生はそう言って、3階へと上がっていった。この日のレッスンには、先生の奥様も立ち会ってくださっていた。先生が休んだ後、奥様がおっしゃった。
「私も今日のような先生は見たことがない。すごい迫力だったわね。それだけ、あなたに伝えたいものがあったのよ。だから、村木君も一生懸命にがんばりなさいね」
この日の船村先生のレッスンが初めてであり、そして最後のレッスンとなった。
完成した村木弾 「都会のカラス」
船村 徹氏
昭和7年、栃木県船生村生まれ。昭和24年、東洋音楽学校(現東京音楽大学)ではピアノ科に学ぶ。昭和30年、春日八郎のデビュー作「別れの一本杉」で作曲家デビュー。その後、数々の名曲を世に送り出し、作品数は約5000曲以上とも言われる。歌謡曲の作曲家として初めて文化勲章を受章。2017年〈平成29年〉2月16日永眠。
2020年7月29日発売
酒場のギター演歌で勝負!
村木 弾「ほろろん演歌」
「ほろろん演歌」は“望郷”と“酒”がテーマ。過去5作品とは異なる、酒場のギター演歌と言える作品。路地裏の酒場に昭和のギターの音色が流れるなか、都会暮らしに慣れても、時には故郷(くに)が恋しいくなる主人公の気持ちを歌っている。カップリング曲の「男さすらい」は、高田ひろお氏が山でも海でもなく、空をテーマに四行詩を書き上げ、徳久広司氏が三拍子のメロディーをつけた。雄大なメロディーに乗せて男の生き様を表現している。
INFORMATION
私設「村木弾ファンクラブ」(弾む会)ご入会案内
◆設立日:2018年4月18日(水)
・入会金不要
・年会費2,000円(税込) 毎年期間4月1日~3月31日
•新規ご入会の初年度は入会月により変動いたします。
・継続更新時(毎年4月1日)は年会費¥2,000(税込)となります。
・再度ご入会の場合は入会月を問わず年会費¥2,000となります。
◆入会特典
会員証の発行・入会記念ポートレートプレゼント
会報の発行(年間3回程度)
コンサートや出演イベント・チケット等のご案内をさせていただきます。
◆私設「村木弾ファンクラプ」(弾む会)ご入会ご希望の方
下記の住所までお葉書もしくはお電話にてお申し込みをお願い致します。
皆様のご入会をお待ちしております。
私設「村木弾ファンクラプ」(弾む会)・事務局
TEL 090-8101-8196
〒256-0812神奈川県小田原市国府津2-2-3
萩原保子
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Profile
村木 弾(むらき・だん)
1980年秋田県生まれ。鳶職、現場監督の仕事に従事していたが、2003年、歌手を目指して故・船村徹氏の最後の内弟子となる。2016年に、作詞&プロデュース・舟木一夫、作曲・船村氏による「ござる〜GOZARU〜」でデビュー。