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弦哲也

弦哲也が地元・銚子の犬吠埼ホテルでディナーショー。ゲストに北川裕二を迎え、新曲「五島の母ちゃん」や、音楽生活を辿る“宝物”の作品を一曲入魂

作曲家・弦哲也が7月9日、千葉県銚子市の犬吠埼ホテルでディナーショーを開催した。銚子市は弦の生まれ故郷。14歳の時に歌手を目指して上京した弦の心にはいつも銚子市の象徴である犬吠崎と灯台があり、「頑張れよ」と背中を押してくれていた。

銚子市名誉市民に推挙

犬吠崎ホテルで行われた「作曲家 弦哲也 スペシャルディナーショー 2023」は北川裕二をゲストに昼夜2公演行われた。今年3月に、銚子市名誉市民に推挙されたことで、同ホテルでのディナーショー開催につながった。

ちなみに銚子市名誉市民は弦で7人目。日本を代表する作曲家として活躍しながら、音楽生活50周年を記念したシングル「犬吠埼~おれの故郷~」を発表するなど、たえず故郷を思い、音楽活動を通して銚子の魅力を全国に発信し続け、市の発展に尽力していることが評価され、2007年以来16年ぶりの推挙となった。

弦には名誉市民であろうがなかろうが、これまでも、そしてこれからも銚子市をアピールしていきたいという思いがあり、一度は名誉市民の推挙を辞退したが、“名誉市民”というバトンを次の方へ引き継ぐためにも受諾することにしたという。

弦哲也

「夕焼けは俺の故郷」

銚子半島の最東端に位置する犬吠埼に建つ灯台。その犬吠埼灯台が側に見える犬吠崎ホテルでのスペシャルディナーショーの開催は4年ぶりとなった。弦は、自身の音楽生活を辿りながら作品を届け、集まったファンをもてなしていく。

昭和40年(1965年)8月5日に“田村進二”として「好き好き君が好き」で歌手デビューした弦。その当時の楽曲「夕焼けは俺の故郷」(1967年)から歌い始めた弦は、「歌手として売れない時代でした」と振り返った。

弦哲也

「千葉県銚子市岡野台出身。今から60数年経ちますが、銚子駅の隣の松岸駅からギターを持って旅立ちました。14歳の時でした。ずい分と年月が経ちましたが、こうして故郷の舞台に、また故郷の象徴でもある犬吠埼の灯台をバックに歌うのは格別な思いがします。まず聴いていただいたのは『夕焼けは俺の故郷』。私は昭和40年に歌手デビューしました。その時の芸名は、田村進二でした。故郷の皆さんに応援をしていただいたのですが、結果が出ませんでした。そんな売れない歌手時代の歌です」

今や誰もが知る作曲家として、これまでに2500曲以上の作品をつくってきた。そんな弦が作曲家としてデビューしたのは1976年。棋士・内藤國雄に提供した「おゆき」だった。

弦哲也

作曲家・弦哲也の誕生

結婚し、子どもにも恵まれていたが、“歌手”とは名ばかりで、スナックでの弾き語りや、テレビの音楽番組でのアシスタントで食いつなぐ日々。子どもを育てるのは大変で、4カ月の時に銚子の両親のもとへ預けたままになっていた愛息は5歳となっていた。

「幸運にもたくさんの素敵な歌手との出会いがあり、その歌手たちに作品を提供することができているわけですが、やはり僕にとっての忘れられない作品は、作曲家としてのデビュー曲です。将棋の内藤國雄さんにつくった『おゆき』。この歌のヒットのおかげで、両親に預けていた息子を引き取ることができました。親子の絆をつくってもらった大切な一曲です」

弦哲也

弦は「おゆき」を歌うと、続いて川中美幸へ提供した「ふたり酒」を披露。観客は手拍子で応援した。

「幸せ演歌の『ふたり酒』はやはり手拍子が似合いますね。皆さんには何もお願いしていないのに、ちゃんと手拍子をしていただいて。本当にうれしい限りでございます(笑)」

「ふたり酒」は川中美幸の4枚目のシングル。1980年にリリースされると、ミリオンセラーとなる大ヒットを記録した。弦にとって、「この作品で、『作曲家としてなんとかやっていけるぞ』と、そんな自信を持たせてくれた」作品だった。

昭和の大スターとの出会い

ディナーショー前半の最後は、石原裕次郎の「北の旅人」を弾き語りで聴かせた。この曲も弦にとって忘れられない作品だ。石原裕次郎や美空ひばりなど昭和の大スターとの出会いは宝物だという。

弦哲也

「もう二度と会うことができない昭和の時代の大スター、大きな大きな太陽のような皆さんと出逢ったことも僕にとっての宝物です。52歳の若さで天国に召されてしまった裕次郎さんの生前最後の曲として、僕の曲を選んでくれました。レコーディングしたのはハワイ・オアフ島のドルフィンスタジオという小さなスタジオでした。昭和62年2月23日のことでした。そのレコーディングからわずか5カ月後に裕次郎さんは天国へ旅立ちました。あのレコーディングでみた裕次郎さんの笑顔、生の声、そして『弦さん、東京で会おうや』と握手してくれた手の温もりは未だに忘れることがありません。こちらも僕にとっての宝物の一曲です」

1987年8月、「北の旅人」は石原裕次郎の没後に発売され大ヒット。名曲として多くの歌手にも歌い継がれている。

愛弟子・北川裕二の「なみだの純情」が絶好調!

後半を前に、ここでゲストの北川裕二へバトンタッチ。弦の二番弟子として修行し、1984年5月5日、「雨の停車場」でデビューした北川は、弦から「私の大切なファミリーの一人です」と紹介されステージに登場すると、もっか絶好調の新曲「なみだの純情」を披露。金沢市の湯涌温泉を舞台にした前作「湯涌恋灯り」とそのカップリング曲「海を渡った人生」(この曲で日本歌手協会 最優秀歌唱賞を受賞)、自身の生き様を歌った「夢ひとすじ」の4曲を届けた。

北川裕二

新曲「なみだの純情」は大衆演歌の王道曲。灰になるまでついていく、という一途で健気な女性を歌っている。北川は弦の歌をたくさん歌っているが、大衆演歌路線に変更して以降の集大成的な作品だという。

ゲスト歌手として歌い終えた北川を労うように再登場した弦が、「『なみだの純情』は発売してから今日までオリコンの演歌・歌謡曲チャートで50位以内から外れていない。日本全国で歌われているんでしょ?」と問うと、北川は「本当にいい歌です。歌っていて気持ちがいいです。この歌は全国的にご年配の女性の方が歌ってくださっているようで、それが非常にうれしい」と話していた。そして・・・。

「この曲がヒットしている要因はいろいろあると思うんだけど、私がコーラスに入っているから。それがひとつの理由でしょう(笑)」

北川「お店でのカラオケには入っていませんが、『CDのカラオケには先生の声が入っている』ってアピールすると、CDが売れるんですよ(笑)」

弦の発案でサビの部分で弦がコーラスとして参加することになったそうで、より印象的な作品となっている。弦哲也のコーラス入りカラオケをお求めなら、ぜひ、CD盤を!

弦哲也と北川裕二

「今では先生と冗談も言えるようになりましたが、当時は緊張して何も言えませんでしたね」と、デビューの頃を振り返る北川裕二と、「いい意味でもっともっと欲を出してほしい」と愛弟子に注文する弦哲也。二人には犬吠埼ホテルから花束が贈られた。

歌の旅は続く

ディナーショー後半戦の一曲目は三山ひろしに昨年提供した「花恋歌~はなれんか~」だった。15周年を迎えている三山は、今年1月に「どんこ坂」、そして7月に「北海港節」を記念シングルとしてリリースしているが、ともに弦が作曲を担当している。

北島三郎のコンサートに同行し全国を回っている時。北島から「弦、作曲家という道もあるぜ」とアドバイスされたことから作曲家・弦哲也の道が拓けた。弦は北島のことを“おやじ”と慕っている。その北島といとこの関係にある松前ひろ子。松前の亡き夫・中村典正は、北島に「仁義」などのヒット曲を提供しているが、その中村と松前を引き合わせたのが北島だった。そして三山は中村と松前の弟子として、紅白歌手にまで上り詰めた。

弦哲也

若柳葉舟

弦哲也が歌う「花恋歌~はなれんか~」に、舞踊で華を添えた若柳葉舟。

弦は「不思議と縁がつながる」と話していたが、「三山くんと初めてタッグを組んだ『花恋歌~はなれんか~』を、舞踊を加えてお届けします。聴いてください」と歌唱すると、ご当地ソングの女王・水森かおりに提供し、彼女の紅白歌合戦初出場曲となった2003年の「鳥取砂丘」を次の一曲に選んだ。

「私と一緒にご当地ソングの旅を続けている水森かおりの歌です。スタートは福井県の『東尋坊』が最初でした。それから九州に行ったり、広島に行ったり、北海道に行ったり。ずい分といろんなところへ行きました。千葉県も一緒に回りました。千葉県の旅唄として『九十九里浜』をつくりましたが、今日はそんな旅唄から『鳥取砂丘』を歌いたいと思います」

弦哲也の島めぐり、歌づくり

音楽の旅は弦哲也のライフワークとなっている。なかでも最近、こだわっているのは“島めぐり”だという。

「日本列島、北から南まで、名のある島もあれば、無名の島があったりします。島には独特の文化がありましてね。実際に訪れて、島人と出会い、触れ合う中から歌が生まれることがあります。8年ぶりに新しいCDシングルを出しました。この曲は九州の五島列島が舞台です。五島列島はいくつもの島が連なっているんですが、いちばん大きな島は福江島です。その福江島でひとり暮らす母ちゃんと、都会に出て夢を必死に追いかけている息子。島の母ちゃんと息子の絆をテーマに歌をつくりました。“五島の母ちゃん”と書いて、“しまのかあちゃん”と読みます。いちばん新しい歌です」

弦哲也

この歌も弦と五島の人とのつながりから誕生した。五島出身の実業家・松下剛の人生をモチーフに、弦の息子であり、音楽家の田村武也が作詞。歌詞の中に地元の言葉がちりばめられた「五島の母ちゃん」は、弦に歌ってほしいという五島の人たちの声に後押され、弦自らがシングル曲としてリリースすることになった。カップリングには丘みどりに提供した「五島恋椿」が、弦のボーカルで収録されている。

「犬吠埼~おれの故郷~」

ディナーショーのラストは「天城越え」。説明する必要もない国民的ソングだ。今は亡き作詞家の吉岡治さんと伊豆は湯ヶ島に歌づくりの旅をし、小さな宿にこもって2日間でつくり上げた作品。石川さゆりが歌い、日本の代表曲となった。

子どもの頃、楽器屋で見て憧れたギター。どうしても手に入れたくてアルバイトに精を出したが、小学生の弦が貯められる金額ではなかった。ところある朝、目覚めると枕元にギターが置いてあった。祖母が弦少年のために買ってくれたのだ。14歳の時、地元を旅立った弦の手元には当然、ギターがあった。ギターに魅せられた弦。“田村進二”から改名し、“弦哲也”となったが、苗字の“弦”は”ギター弦”からとられた。

弦哲也

弦哲也

赤く染まったステージで「天城越え」を披露する弦哲也

弦はギターの弾き語りで、入魂の「天城越え」を聴かせると、アンコールには2015年、音楽生活50周年を記念して発売した「犬吠埼~おれの故郷~」を披露した。

弦自らが作詞し、作曲は五木ひろし。弦、五木、そして川中美幸の3人が北海道を旅した際、ホテルのバーで歌談義が始まった。そこで生まれたのが50周年記念曲のプロジェクトだった。CDジャケットの題字は、川中が書いている。

俺の生き様、音楽家としての使命

「お決まりのアンコールの声とはいえ(笑)、アンコールの声を聴くとうれしく思います。60数年前、故郷を後にして、今では実家には父も母も妹も誰もいなくなってしまったんですが、親しくお付き合いいただいている皆様が見守ってくださっているのはありがたいことだなあと思います。

故郷はいつでも帰ろうと思えば帰れる距離なんですが、自分の夢を掴かんでお土産をいっぱい持って帰れる、そんな状況の時には『ただいま!』って帰れるんですが、夢を掴みきれずに悩んで悩んで、苦しんで苦しんで、もがいてもがいている。そんな時代には故郷をとんでもなく遠く感じたこともありました。でも、どこかで故郷が背中を押してくれるんだなと、そんなことを思い、またこの犬吠埼ホテルの後ろにそびえ立つ真っ白な灯台から、『頑張れよ』『負けてなるものか』と、そんな声が聞こえてきそうな時がありました。なんとか今日まで歩むことができたのは、故郷の皆さんの温かいご声援があったからだと本当に感謝しています。『犬吠埼~おれの故郷~』は、私の心の中の大切な大切な宝物のひとつです」

弦哲也

弦哲也はアンコールに応え、「犬吠埼~おれの故郷~」を力を込めて歌った。

弦は同曲の発売当時、「犬吠埼灯台は造られて141年目(編注:明治7年点灯。現在149年目)になります。先の戦争でも殉職者を出しながらも沖を行く戦地に向かう戦艦を照らし続けた灯台でもある。雨に打たれても風に吹かれてもじっと海を守り通す灯台。歌謡界においてほんの一筋でもいい灯りを届けられればいいと思う今日この頃です」というコメントを寄せている。

弦哲也の生き様、音楽家としての使命は、今も変わっていないようだ。

◇◇◇

車椅子に乗ってディナーショーに来ていたある老人は、「昔はこのあたりにはたくさんのホテルなどがあったけど、みんなつぶれてしまった」と寂しそうだった。そして、「弦さんのコンサートやディナーショーには何度か来ている。地元の人だしね。律儀にお墓参りとかには来ているようですよ。奥さん思いだしね」と話していた。この町では“弦哲也”が日常の話題に上るようだ。

ところで気になって、「弦哲也先生が奥さん思い、というのはなぜですか?」と聞いてみたら、「だって浮いた話がないじゃない」と、その老人は笑っていた。

 


2023年5月31日発売
弦哲也「五島の母ちゃん」
弦哲也

「五島(しま)の母ちゃん」
作詞/田村武也 作曲/弦哲也 編曲/猪股義周
c/w「五島恋椿」
作詞/さいとう大三 作曲/弦哲也 編曲/猪股義周
STANDARD&Co. YZSTD-55 ¥1,400(税込)

時代に生きづくメロディーを紡いできた弦哲也のライフワークは島唄づくり。風の吹くまま、心のままに辿り着いたのは長崎県五島列島。柔らかな雨に打たれながら、いにしえに思いを馳せ、咲き落ちた花の艶やかさに心を熱くし、夜を明かした友もできたという。そうして完成したオリジナル曲「五島(しま)の母ちゃん」は、五島で暮らす母と都会へ出て必死に生きる息子との親子の情愛を描いた楽曲。いつの時代も色褪せることのない普遍の愛が描かれている。カップリング曲「五島恋椿」は丘みどりに提供された楽曲。五島の人から男が歌う同曲を聴きたいとの要望を受け、アレンジを変えてセルフカバーした。



2022年11月23日発売
北川裕二「なみだの純情」
北川裕二

「なみだの純情」
作詞/下地亜記子 作曲/弦哲也 編曲/南郷達也
c/w「ふるさとの春」
作詞/つつみりゅうじ 作曲/弦哲也 編曲/南郷達也
キングレコード KICM-31085 ¥1,400(税込)

「なみだの純情」は伝統演歌の手触りとカラオケライクな魅力はそのままに、聴き手の心に絡みつく北川裕二の歌声と現代の演歌ファンの心をくすぐる作品。躍動感あるリズムと円熟味を増す歌声で織りなす今作は、一度聴いたら抜け出せない演歌の魅力が凝縮されている。尽くして尽くして尽くしきる女ごころのいじらしさで綴った、カラオケファン直撃のド演歌でもある。カップリング曲「ふるさとの春」は、陸奥のほのぼのとした季節を巡り、過ぎ去っていった温もりのある思い出をたどりながら、北川が心地よく歌い上げる。小編成でフォークテイストがプラスされた温かい作品。

▶北川裕二「なみだの純情」デジタル配信はこちら
https://king-records.lnk.to/TloAUM