
【スポットライト】母を想うすべての人へ――。北岡ひろしが歌い継ぐ、少女の詩から生まれた奇跡の一曲「宿題」
北岡ひろしの新曲「祇園白川宵桜」にはボーナストラックとして「宿題」という一曲が収められる。それは、小学6年生の少女が亡き母への想いを綴った詩から生まれた歌だ。「帰らんちゃよか」で知られるシンガーソングライター・関島秀樹のライブでこの歌と出会い、涙したという北岡。「宿題」とは? そして、なぜ今、北岡はこの歌を歌い継ぐことを決めたのか。
あの日、私はシンガーソングライターの関島秀樹さんのライブ会場にいました。関島さんが歌う歌はどれも素晴らしかったのですが、その中で一曲、私の心を捉えて離さない歌があったのです。それが「宿題」でした。
私はどうしようもなく感動し、この歌の背景にある物語を知ることになりました。
この歌の元になったのは、今から30年以上も前、平成3年(1991年)に当時、小学校6年生だった中村良子さんという女の子が書いた一編の詩でした。担任の上田輝子先生から「お母さんの詩を書きましょうね」という宿題が出されたのです。しかし、良子ちゃんのお母様は、彼女が小学1年生の時に、すでにお亡くなりになっていました。
今日の宿題はつらかった
今までで一番つらい宿題だった
一行書いては なみだがあふれた
一行書いては なみだが流れた
(「宿題」歌詞より)
亡き母への想いを詩にしようとしても、涙で言葉が紡げない。その幼い心の葛藤が、痛いほど伝わってきました。どれほど辛く、悲しい宿題だったことでしょう。
熊本市の弓削小学校6年生だった中村良子さんが書いた詩「宿題」は、KAB熊本朝日放送と「親を大切にする子供を育てる会」が主催する『第2回こどもの詩(ポエム)コンクール』で特別賞を受賞。時を経て、熊本県出身のシンガーソングライターに託されることになる。
でも、この詩が、すぐ歌になったわけではありません。コンクールで審査員を務めた、関島さんの高校時代の恩師の目に留まり、「この詩に曲をつけて、もっとたくさんの人に知ってもらえないだろうか」と、関島さんに新たな“宿題”として依頼されたのです。
そして2019年、詩が生まれてから実に28年の時を経て、この「宿題」という歌が誕生しました。
私はライブの後、関島さんのアルバム(デビュー40周年記念アルバム『あなたに贈る歌 ~春にゆく~』)を買って帰りました。素晴らしい歌がたくさん入っていましたが、やはり気になるのは「宿題」。そして、何度も何度もこの歌を聴きました。聴くたびに涙があふれてくるんです。もし、自分が良子ちゃんと同じ境遇だったら、どういうことを書いたのだろうかと、いろいろ考えさせられました。
40年間歌って来ましたが、これほどに心を揺さぶられた歌はそう多くはありません。この歌には、何か特別なものがある。これまでずっと演歌・歌謡曲畑を歩いてきましたが、こういう社会性のある歌を、私が歌わなければならない時がある。そう思いました。
すぐにスタッフと相談し、レコード会社にお願いしました。「どうしてもこの歌を入れたいんです」と。私の歌手人生で、こんな風に強く我を通したのは初めてのことだったかもしれません。幸いにも、作詞者の良子ちゃん、作曲者の関島さん、そして関係者の皆様も快く承諾してくださり、ボーナストラックとして収録できることになったのです。
カラオケはピアノとギター、バイオリンの3つでシンプルして、私の声が立つように作っていただき、レコーディングでは少女の心に寄り添うように、自分の言葉で歌いました。
先日、熊本で開催された飛雄馬くんのコンサートにゲスト出演させていただいた際、初めてこの歌を披露する機会がありました。客席には、立派な看護師さんになられた中村良子さんと、当時宿題を出された先生がいらっしゃいました。おふたりの前で歌うのは、特別な想いがありました。歌い終えた後、良子ちゃんも先生も「すごく感激しました」と言ってくださって…。本当に、この歌を歌わせていただけて良かったと、心から思いました。
でも
「お母さん」と いっぱい書いて
お母さんに会えた
「お母さん」 といっぱい呼んで
お母さんと話せた
宿題をしていた間
わたしにも お母さんがいた
(「宿題」歌詞より)
詩の最後は、こう締めくくられています。悲しみだけでは終わらない、温かい光のような救いが、そこにはありました。
この歌は、亡き母を持つ少女の歌であると同時に、今を生きる私たちが、普段は忘れてしまいがちな親への感謝や愛情を思い出させてくれる歌でもあると思うのです。この時代だからこそ、この「宿題」という歌を、私が歌い継いでいく意味がある。そう信じています。
○
この「宿題」は、ひとりの少女の個人的な体験から生まれながら、聴く者すべての心の奥底にある普遍的な「母への想い」に触れる力を持っている。北岡ひろしがこの歌に流した涙は、きっとあなたの涙でもあるはずだ。彼が魂を込めて歌い継ぐことで、多くの人の心に届くことを願ってやまない。
宿題
熊本市・弓削小学校6年
中村良子
今日の宿題は つらかった
今までで いちばんつらい宿題だった
一行書いては なみだがあふれた
一行書いては なみだが流れた
「宿題は、お母さんの詩です。」
先生は そう言ってから
「良子さん」
と 私を呼ばれた
「つらい宿題だと思うけど
がんばって書いてきてね。
お母さんの思い出と
しっかり向き合ってみて。」
「お母さん」
と 一行書いたら
お母さんの笑った顔が浮かんだ
「お母さん」
と もうひとつ書いたら
ピンクのブラウスのお母さんが見えた
「おかあさん」
と 言ってみたら
「りょうこちゃん」
と お母さんの声がした
「おかあさん」
と もういちど言ってみたけれど
もう 何も 聞こえなかった
がんばって がんばって
書いたけれど
お母さんの詩は できなかった
一行書いては なみだがあふれた
一行読んでは なみだが流れた
今日の宿題は つらかった
今までで いちばんつらい宿題だった
でも
「お母さん」
と いっぱい書いて
お母さんに会えた
「お母さん」
と いっぱい呼んで
お母さんと話せた
宿題をしていた間
私にも お母さんがいた
※上記はKAB熊本朝日放送と、親を大切にする子供を育てる会が主催する「第2回 こどもの詩コンクール」に応募された中村良子さん〈当時小学6年生)の詩。2019年に発表された作詞・中村良子、作曲・関島秀樹による楽曲「宿題」の歌詞と、訓読点の有無、およびごく一部漢字表記が異なる以外は同じ。
2025年11月5日発売
北岡ひろし「祇園白川宵桜」

「祇園白川宵桜」
作詞/本橋夏蘭 作曲/あかぎ怜 編曲/竹内弘一
c/w「車屋佐助」
作詞/本橋夏蘭 作曲/田光マコト 編曲/竹内弘一
〈ボーナストラック〉
「宿題」
作詞/中村良子 作曲/関島秀樹
演奏 ピアノ/永田雅代 ギター/田光マコト バイオリン/大岩沙彩
徳間ジャパンコミュニケーションズ TKCA-91665 ¥1,500(税込)











