
ハン・ジナ、2年ぶりの新譜「愛のかけら」を聴く――自らが描いた成熟した大人のための哀愁歌謡
ハン・ジナの約2年ぶりとなるニューシングル「愛のかけら」とカップリング曲「そして今は」はカラオケファンが、そして本格的な歌謡曲を愛するすべてのリスナーが待ち望んでいた一枚だ。フライヤーには“極上の歌謡曲”とあるが、その言葉に偽りはない。
本作を語る上で最も重要な点は、表題曲・カップリング曲ともに、ハン・ジナ自身が「白空 彩(はくあ・あや)」というペンネームで作詩・作曲を手がけていることだ。これは、彼女が卓越した「歌い手」であると同時に、自らの心の内を音楽で表現する「創り手」としての才能をも開花させた、記念碑的な作品と言える。
編曲に猪股義周氏を迎えた2曲は、“哀愁”というテーマを共有しながらも、それぞれが異なる情景と感情の機微を描き出し、歌い手であり創作者でもあるハン・ジナの表現世界を深く見せつけてくれる。
表題曲「愛のかけら」は情景が浮かぶ王道のドラマチック歌謡
イントロの物悲しい旋律が流れた瞬間、リスナーは一気に曲の世界へと引き込まれる。雨が降る夜、愛する人に置き去りにされた女性の姿が目に浮かぶようだ。猪股氏によるアレンジは、重厚なストリングスとリズム隊が、まるで一編の映画のサウンドトラックのようにドラマを盛り上げる。これぞ王道の歌謡曲の風格である。
ハン・ジナ自身が白空 彩として紡ぐ歌詞は、具体的な情景描写が秀逸だ。1番では「雨降る夜」、2番では「雪降る夜」と、季節は巡れども、心に刻まれた別れの記憶は色褪せることなく、むしろ冷たさを増していく。「小さく遠ざかる あなたの背中 雨音だけが ついてゆく」という一節は、追うことすらできない無力感と、心の叫びをかき消すかのような無情な雨音の対比が見事であり、聴く者の胸を強く打つ。これらは彼女自身の心象風景を投影した言葉だからこそ、これほどまでにリアルなのだろう。
このドラマチックな自作曲を、ハン・ジナは深みと潤いを併せ持つその声で歌い上げる。Aメロでは抑え気味に、サビでは感情を解放するように歌い上げるその緩急は、まさに圧巻。特にサビの「濡れて震える 私の声は」の部分には、悲しみだけでなく、微かな怒りや諦めといった複雑な感情が滲み出ており、彼女が真の「表現者」であることを証明している。
カップリング曲「そして今は」~過ぎ去りし日への切ないレクイエム
表題曲がドラマならば、この「そして今は」はモノローグ(独白)と言えるだろう。秋風が吹く黄昏の街で、かつて愛した人との日々を追想する。こちらは「愛のかけら」の激情とは対照的に、より内省的で静かな悲しみが全編を覆っている。
サウンド面では、洋楽テイストがより顕著に感じられる。どこかAOR(アダルト・オリエンテッド・ロック/大人向けのロック)を彷彿とさせる洒落たアレンジが、都会的な孤独感を醸し出し、枯葉が舞う情景を音で描くような繊細なサウンドスケープ(音の風景)に主人公の “ため息”が聞こえてくるようだ。
ここでも彼女自身のペンによる言葉が光る。「愛の言葉は 嘘の匂い」「枯れてゆく愛 置き去りに」といったフレーズは、美しい思い出の中に隠されていた痛い真実に気づいてしまった、大人の女性のやるせない心情を巧みに描き出す。自らが書いた言葉だからこそ、その一言一句に嘘のない感情が宿る。
この楽曲でのハン・ジナのボーカルは、囁くように歌うパートでは壊れそうなほどの繊細さを、そしてサビの「もう・・・あなたしか 愛せない」という絶唱にも似たフレーズでは、断ち切れない想いの強さを感じさせる。このダイナミックな表現力こそが、ハン・ジナという歌手の真価である。

4月6日には新曲発表会が開催され、ハン・ジナは自身が作詩・作曲を手がけた新曲を披露した。
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シングル「愛のかけら」は、ハン・ジナというアーティストの円熟期を象徴する一枚だ。対照的な2つの別れの歌を通じて、彼女は歌謡曲が持つ普遍的な情感~愛、喪失、追憶~を見事に体現してみせた。
そして何より、本作は彼女を“シンガーソングライター”として、新たなステージへと押し上げた。自らが産み出した言葉とメロディを、自らの声で、魂を込めて歌い上げる。これほど説得力のある表現があるだろうか。「愛のかけら」はカラオケで情感豊かに歌いたい最高の“勝負曲”に、「そして今は」は一人静かに聴きたい名曲として、聴き手の人生に寄り添うだろう。
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2025年4月2日発売
ハン・ジナ「愛のかけら」

「愛のかけら」
作詩/白空彩 作曲/白空彩 編曲/猪股義周
c/w「そして今は」
作詩/白空彩 作曲/白空彩 編曲/猪股義周
日本クラウン CRCN-8741 ¥1,500(税込)











