H A N Z Oが今、伝えたいこと
「癒しのバラード歌手」。シンガーソングライターのHANZOはそう呼ばれ、彼が生み出す楽曲たちは、これまで多くの聴く者の心や傷を癒し、励ましてきた。
新曲「Treasure of life〜人生の宝物〜」で聴かせる力強く、やさしさあふれる歌声。心を震わす、温もりあるメロディー。
それは、幾度となく大病を乗り越え、経験してきた自身のすべてを注ぎ込み語られるHANZOからのメッセージだ。
病と闘うことで気づいた、何気ない日々の大切さ
――2018年にテイチクエンタテインメントに移籍され、シングルとしては3作目となる「Treasure of life〜人生の宝物〜」が発売になりました。今作もご自身の作詞・作曲作品ですが、どのような経緯で生まれたのでしょうか?
HANZO コロナ禍での自粛中に新曲を出すことが決まり、担当ディレクターから「前作の『人生の晩歌』を超える曲を頼むよ!」って言われたんです。昨年、追撃盤までリリースさせてもらって、多くのファンに愛していただいているあの曲を超えるにはどうしたらいいんだろう……って考えていた時に、偶然テレビでダイヤモンドプリンセス号(※1)の特番がやっていて、乗船していた日本人夫婦のことを知りました。ご主人が新型コロナウイルスにかかってしまい、亡くなられた日、看護婦さんの計らいで最後に奥様とガラス越しに会い、手を重ね合わせることができたという話でした(※2)。そのエピソードを観て、「あぁ、これから今日も明日も大変な日常がやってくるだろうな」と感じたんです。そうしたら、ふっと詞とメロディーとタイトルの“人生の宝物”という言葉が浮かんできて「今だ!」って思い、すぐに書き留めました。
※1)2020年1月20日に横浜港を出港した豪華客船ダイヤモンド・プリンセス号の乗客で、 5日後に香港で下船した80代男性が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患していたことが2月1日にわかった。その後、4000人近い乗客・乗員の間で新型コロナウイルスの集団感染が急速に広がり、合計712人の感染が確認される未曽有の事態となり、日本中を震撼させることになった。
※2)「看護婦さんが彼の手を持ち上げてガラスに当ててくれて、私も手を当てて、最期の別れ。そう、それが最期の別れ。ガラス越しで体温も何もわからないけども。それが最期の別れでした。」(NHK新型コロナウイルス特設サイト『ガラス越しの最期』より)
――予想もしなかったコロナ禍の最初の頃でしたよね。テーマとしては“人生”と決められていたんですか?
HANZO いえ、他にもテーマとして候補はいくつかありました。でも恋愛の歌っていうかね、好きだの嫌いだのって話では今はないよねって思っていた時に、その特番を観てパッとひらめいて。あくまでも、その特番の話はきっかけなんですけど、これだと思いました。そこから、「人生なんて…ね」(2013年「くちびるの花」c/w)と「人生の晩歌」(2018年)という2曲が多くのカラオケファンに長く愛していただいているので、“人生と言えばHANZO”というような印象をつけたいよね、みたいな話になり“人生三部作”ができたという感じです。
――初めから三部作というわけではなかったんですね。
HANZO そうなんです。たまたま僕がタイトルに“人生”とつけてしまっただけで(笑)、最初からあったわけではないんですが、三部作の完結編だとするんだったら、この曲は2作よりももっと壮大にして、今のこの時代にふさわしい詞にしよう、自分のことに置き換えてみようとか、さまざまな思いを盛り込んで作り上げました。
――HANZOさんは、30代の頃に1型糖尿病を発症され治療を続けていらっしゃいます。昨年は、舌がんを経験されました。
HANZO 僕自身、今までいろいろな病気の連続で、今はこうして生きながらえていますけど、どうなっていたんだろうなと思うこともあります。病気をした人って、必ず一日一日がどれだけ大事だったかって気づくし、生き方自体も変わってくるし、書く詞の内容も変わってくるんですよ。昨年、舌がんで舌の六分の一を切除したんですけど、手術したばかりの時はこれからちゃんとしゃべれるのかなとか不安でした。
――現在は根治されて……。
HANZO はい。僕の場合は、歌ったり話したりすることが多いのでリハビリがうまくいったようで、今は滑舌に関してはまったく変わらないです。でもひとつだけ……しばらくは口笛が吹けなくなりました。今はもう大丈夫です。
――昨年12月に(ミュージック★スター誌で)インタビューさせていただいた時は、後遺症もなくむしろ柔らかいタッチで歌えるようになったとお話しされていましたよね。
HANZO そうなんですよ。力がいい感じで抜けているのか、舌を切った後のHANZOの歌はいいなと言われるようになりました。