大川栄策を突き動かすもの~自身初の作詞・作曲作品への挑戦~

歌手生活51年、作曲家としても40年以上のキャリアを持つ大川栄策が、8月26日に発表した通算104枚目のシングル「面影しぐれ/恋の川」で、自身の作品としては作曲だけでなく作詞にも初挑戦した。常に自分自身の立ち位置を意識し、葛藤しながら、今もなお新しい道を究めることを止めようとはしない。大川を突き動かすものとは。その思いを聞いた。

 

「言葉を紡ぎ出す作業は、自分との戦いでした」

 

――新曲「面影しぐれ」は、大川さん自身がペンネーム(筑紫竜平 名義)で作詞と作曲を手がけられ、ご自身の作品を作詞するのは初めてということです。そのいきさつや思いを最初にお聞かせいただけますか。

大川 自分の作品を作曲することは20年ぐらいやっていますが、以前から自作品の作詞もやってみたいという希望を持っていましてね。なかなか書けないんだけど、自分で作詞作曲した歌を歌うということでチャレンジしました。初めてのことで、手さぐりでしたが、なんとか作品に仕上げることができました。

――長年歌ってこられて、たくさんの先生方の詞を歌ってこられましたよね。そんな中で、大川さん自身が自作品での作詞に挑戦しようと思われた動機は何でしょうか?

大川 だんだんと、きら星のごとくいらした大家の先生たちが亡くなられていったというのが大きいですね。僕より若い仁井谷(俊也)さんなんかもお亡くなりになったしね。とにかく詞の先生方が少なくなって。ただ、僕もこの作品で104枚目のシングルということですが、これまでメロディーであり、詞であり、いろんな先生方にお世話になってきました。提供していただいた曲一つひとつは、歌い手・大川の血肉になっていると思うんですよ。そんな蓄積を自分なりに表現できないものかと考え、作詞を始めました。

――先生方の作品への思いを間近に見て感じて来られたことが、今回の自作品での作詞につながった。先生方の思いが背中を押してくださったということでしょうか。

大川 もちろんです。大作家の先生方の作品っていうのは、もう一言一句、血肉になっています。僕は「大川歌謡塾」という歌唱指導の教室をやっていまして、生徒さんたちがみんな先生方の作品をお歌いになります。歌が好きな皆さんの心の中に、作品が響き、定着しているというのを感じます。今、塾も5年目に入りましたが、歌好きの皆さんにとっては、それぞれ心の中における重みというか、澱(おり)のように歌の世界、詞の世界、メロディーの世界、物語の世界が根を下ろしています。本当に僕ら、しっかり歌づくりをがんばっていかなきゃなみたいなと、改めて思うんですよね。そんなこともひとつの大きなきっかけにはなっているんですけどね。

――前から歌詞に挑戦したいという気持ちはあったけども、今おっしゃられたような気持ちがどんどん大きくなって、それが今回の作品に?

大川 そういうことですね。ただ、詞は難しいですね。メロディーは楽器を鳴らせば、とりあえず音が出るじゃない。詞はどうやっても出てこないんですよ。自分の言葉なり、ストーリーなりってなかなか出てくるもんじゃないんです。そういった意味では、やっぱり改めて難しさを実感したと同時に、言葉の紡ぎ出す重みを感じました。ひとつの言葉、ひとつの物語(詞)に精魂込めてメロディーを書き、声を乗せることは大変な作業でした。自分で作った詞、メロディーに魂を込め、声で物語を、人生を吹き込むわけだから。

――歌に命を吹き込む作業ですね。

大川 ええ。ただ、作詞・作曲し歌うというのは、審判がいないわけです。これでいいのか、どうなんだよ、みたいなね。「それは違うんじゃないか」と言ってくれる人もいない。作品の評価は結果でしか返ってこないわけだから怖さがあります。俺、違う方向に行ってんじゃないかな、とか。そういう恐怖との戦いでもあります。

――皆さんにどう伝わるのかという不安との戦いもあったと?

大川 難しいなと思います。ひと言で言えば、独りよがりにならないように心がけました。物語が絵空事にならないようにね。皆さんの心に定着できるかどうか、耳に残るかどうか。それがいちばんでした。

――身近な方に相談されたりということはなかったんですか?

大川 それはないですね。

――自分との戦いだったんですね。

大川 そうですね。言葉の積み上げ方というか、ひとつの言葉でも話があっちにもこっちにも行きますから。だから助言をもらって、こっちの方向だよとなっても、そこから先はまた自分で考えるしかない。「そこ右って言ったって、いや、俺、こっち行きたいんだけど」みたいな時に、とてつもなく遠回りになるかもしれない、逆方向に進むかもしれないし。ですから、自分のアンテナで、自分の言葉でもって紡ぎ出していくことが大事じゃないかなと思いますよね。

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2020年8月26日発売
自身初の作詞・作曲作品
大川栄策「面影しぐれ」

「面影しぐれ」 
作詞・作曲/筑紫竜平 編曲/蔦 将包  
c/w「恋の川」 
作詞・作曲/筑紫竜平 編曲/蔦 将包  
日本コロムビア COCA-17797 ¥1,227+税