【ライブレポート】おかゆが昭和歌謡ライブを開催。パートナーにタブレット純、MCに宮本隆治を迎え、爆笑トークと大人のムード歌謡を!
シンガーソングライター おかゆが9月14日、東京・港区のライブレストラン「Jazz Dining 赤坂Bフラット」にて第2回目となる昭和歌謡ライブを開催。「おかゆ昭和歌謡ライブwith タブレット純 スペシャルMC 宮本隆治」と題し、流し出身のおかゆと、元マヒナスターズで昭和ムード歌謡の奇才、タブレット純、元NHKアナウンサーで紅白司会経験者の宮本隆治の3人が昭和のムード歌謡を中心に届け、楽しい夜をつくった。
おかゆは2019年に「ヨコハマ・ヘンリー」でメジャーデビューし、2023年には自身のルーツである渋谷を舞台にした「渋谷のマリア」を発売。今年は“渋谷シリーズ”第2弾として、「渋谷ぼっちの歌謡曲」を送り出した。
「物心がついたときからスナックにいた」というほど、おかゆは歌が好きだった母に連れられ、スナックで昭和歌謡を聴いて育った。
「昭和歌謡で人生の喜怒哀楽を学んだので、昭和歌謡を歌い継ぐのが使命だと思っています。デビュー曲『ヨコハマ・ヘンリー』にも昭和歌謡のフレーズがヒントと言いますか、もろ(!)に入っています」
荻野目洋子を招いての第1回昭和歌謡ライブに続き、今回はタブレット純と宮本隆治が招かれた。きっかけは戦後日本の歌謡界を代表する作曲家 𠮷田正氏のメロディーを継承するコンサートでの共演だった。
昨年末、𠮷田正音楽記念館が主催するコンサートに“𠮷田作品の継承アーティスト”として、おかゆとタブレット純が出演した。その際、おかゆがプライベートで来場していた宮本隆治を客席にみつけステージに上げたのだ。3人によるトークが評判となり、今回のコラボレーションが実現した。
「昭和歌謡と言えば、ムード歌謡の伝道師とも言えるタブレット純さんと、昭和を代表する大先輩を袖で見守ってこられた宮本隆治さん。この2人は絶対に外せません。今日は、昭和歌謡を一緒に学びながら楽しみたいと思います」
やっぱり古い人間でござんしょかね
ライブは3部構成で行われた。まずはおかゆがステージに立ち、今年デビュー55周年となり、楽曲のデジタル配信が話題となっている ちあきなおみも歌った「朝日楼」や、敬愛する髙橋真梨子の「別れの朝」「五番街のマリーへ」などを届けて行った。
𠮷田正作品からは「インディーズ時代に初めてテレビの音楽番組に出演した際にチャレンジさせていただき、加藤登紀子さんに褒めていただいた」という鶴田浩二の「傷だらけの人生」をまずは披露。“やっぱり古い人間でござんしょかね。”と名セリフも決めると、「いつか『おかゆウタ』(カバーアルバム)に入れたいです」と話した。
昭和ムード歌謡の夜を「傷だらけの人生」でスタートさせたことに、おかゆ自身も笑っていたが、「𠮷田正先生に作品をつくっていただきたかったなあ、という思いがあります」と、𠮷田正氏の門下生、古都清乃のヒット曲「和歌山ブルース」へと歌いつないだ。
事件はおかゆが三沢あけみの「島のブルース」を披露している最中に起こった。
8月に長島温泉歌謡ショウ(三重県)に初出演したおかゆは、三沢あけみからいただいた着物を来て同曲を歌ったという。この日は弾き語りバージョンで歌唱していたが、突然、Tシャツにショートパンツという私服姿のタブレット純が現れたのだ。
「島のブルース」は1963年に“三沢あけみ・和田弘とマヒナスターズ”としてリリースされたシングル。元マヒナスターズのタブレット純が「マヒナの歌なので、ちょっと歌いたくなっちゃった」と飛び出してきたのだ。
台本にないサプライズだったが、本家の“マヒナ”との歌唱におかゆも感動していた。
おかゆは今年6月に乳がんで亡くなった門倉有希の「ノラ」を歌って追悼すると、憧れの歌手・松尾和子の「再会」、そして青江三奈の「伊勢佐木町ブルース」を渾身の溜息を披露しながら歌い上げた。
おかゆコーナーの最後は渋谷シリーズの第2弾。ハチマキにハッピ姿、ペンライトを振ってコールする“親衛隊”による声援を受けながら、おかゆは「渋谷ぼっちの歌謡曲」をエネルギッシュに歌唱した。
タブレット純ワールド
第2部はタブレット純のスペシャルステージとなった。
タブレット純は和田弘とマヒナスターズのボーカル“田渕純”として、27歳のときにデビュー。低音が魅力的な歌手として活躍するだけではなく、昭和歌謡に造詣が深く、お笑い芸人として “ムード歌謡漫談”も行い人気だ。
タブレット純はフランク永井の「東京カチート」、「16トン(シクスティーン・トン)」、アンディ・ウィリアムスのヒット曲としてよく知られる「ムーン・リバー」、ロス・インディオスの「コモエスタ赤坂」などを披露した。
選曲には物語があった。
フランク永井はムード歌謡の第一人者として知られるが、歌謡界に転じる前はジャズシンガーとして米軍キャンプなどで歌っていた。宮本隆治によれば当時、米兵から「フランク」と呼ばれていたことから、芸名が“フランク永井”になったと解説があったが、ライブ会場が普段はジャズの演奏も行われることから、タブレット純はフランク永井のジャズナンバー「16トン」を選曲したという。また、会場が赤坂ということから、夜の街には欠かせない楽曲から「コモエスタ赤坂」が歌われた。
この日、悲しい出来事があった。敏いとうとハッピー&ブルーのリーダー、敏いとうさんが9月10日に亡くなっていたと報じられたのだ。
“ムード歌謡の帝王”の死を悼み、タブレット純は「全然、追悼になっていませんが・・・」と故人の破天荒なエピソードで笑いをとりながら、「わたし祈ってます」を急きょ、披露した。
ソロコーナー終盤には、“バカ映画の巨匠”河崎実監督の映画『超伝合体ゴッドヒコザ』の主題歌をタブレット純がつくったということで、ステージを所狭しと暴れながら「ゆけ! 超伝合体ゴッドヒコザ」を聴かせ、ラストは加藤登紀子がタブレット純の母親との会話からイメージを湧かせたという「母よ」をしっとりと届けた。
タブレット純のライブは玉手箱のようだった。歌の宝物がいっぱい詰まっているが、何が飛び出してくるかわからない。
とくに終盤の選曲落差は”ナイアガラの滝”クラス。ソロステージを終えたタブレット純に司会の宮本が思わず「子どものころ、どんな生活をしたんでしょうか?」と聞くほどで、タブレット純は「一言で言うと浮いていました(笑)」と答えていた。それほどに好きなことには邁進し、それが現在の“奇才”につながっていた。
タンスの角に足の小指をぶつけた声?
第2部の前に行われたおかゆ、タブレット純、宮本隆治による3人のトークでは、宮本が鳥羽一郎のモノマネでエピソードを披露するなど楽しい時間に。
さらに、お笑い芸人でもあるタブレット純が暴走(!?)し、おかゆについては、「昭和歌謡について上品にお話しになっていましたが、“もろ”とか。『もろにパクった』って、すごい言葉を使われるなと。僕もネジが飛んでいるんですが、違う方向にネジが飛んでいる」と言いたい放題。
おかゆのイメージとして“実写版サザエさん”とたとえたかと思うと、おかゆが「伊勢佐木町ブルース」でみせた溜息を「タンスの角に足の小指をぶつけたような声」と表現し、おかゆと観客を爆笑させていた。
おかゆ×タブレット純×宮本隆治
第3部はおかゆ、タブレット純、宮本隆治によるショータイムとなった。トークも尽きなかったが、司会者である宮本がフランク永井の「おまえに」を披露すると、フランク永井と松尾和子が歌った「東京ナイト・クラブ」をおかゆとデュエットしてみせた。
おかゆによる「普段、ムード歌謡を歌ったことがあるんですか?」との問いに、宮本は「ほとんど歌ったことがありません。本邦初公開です」と話していたが、作曲家・𠮷田正氏の晩年に「先生、𠮷田学校の放送部員として認めていただけませんか? と言ったら、『ああ、いいぞ』と認めていただきました。ですので、放送部員として歌わせていただきます」と、低音を響かせていた。
それでも歌うことに謙遜していた宮本だったが、ラテンダンスを習っているとのことで、「東京ナイト・クラブ」では華麗なるステップを踏みながら歌った。
ここまでで、すでに2時間を超えていた「おかゆ昭和歌謡ライブwith タブレット純 スペシャルMC 宮本隆治」。トークで盛り上がるおかゆとタブレット純に、宮本は「業務連絡です。押しています」と何度も進行を早めるよう促す場面もあった。
松尾和子&和田弘とマヒナスターズが歌った「グッド・ナイト」をおかゆとタブレット純が、「誰よりも君を愛す」を宮本も参加して3人で届けると、最後は橋幸夫と吉永小百合がデュエットした「いつでも夢を」を歌ってフィナーレを迎えた。
ステージを終えたおかゆは、「まだまだ時間が足りなかった」と興奮気味だった。
「今回、ムード歌謡をテーマにお届けしましたが、まだまだ紹介したい曲がたくさんありました。ご一緒させていただいたお二人はスペシャリストです。昭和歌謡をここまで敬愛して表現できる方はいらっしゃらないと思います。私も昭和の歌謡曲に魅せられて生きてきましたが、お二人のお話は深くて・・・。大人の歌謡曲をどう伝えていくのかについて、今日はいろいろ勉強になりました」
また、おかゆはタブレット純からトークについても学ぶことがたくさんあったと振り返った。
「実写版サザエさんの体型だと言われたのは初めて(笑)。でも、サザエさんに近づけるように頑張りたいと思います。『伊勢佐木町ブルース』での“小指をぶつけたような声”と指摘されたことも(笑)。いままでで一番、渾身の溜息だったんですが・・・。勉強したいと思います(笑)。世代的にパラパラしか踊れないんですが、宮本さんから教えていただいたラテンダンスのステップも勉強になりました!」
観客以上にライブを満喫していたおかゆ。DJおかゆとしても活動する彼女は、ムード歌謡しばりのDJにも興味を示していた。
2024年5月1日発売
おかゆ「渋谷ぼっちの歌謡曲」
(遥かな人へ盤)
(ミッドナイト盤)
(八起き盤)
2024年6月4日配信
タブレット純「母よ」
「母よ」
作詩・作曲/加藤登紀子 編曲/米内山尚人
日本コロムビア COKM-44956