竹川美子が新曲「ひとり岬宿」で誘う哀愁とは? ~寂しさと希望と~
2003年に「江釣子のおんな」でデビューして、早19年。これまでリリースしたシングル曲は26枚と、実力派演歌歌手として地道な活動を続けてきた竹川美子の新曲「ひとり岬宿」に注目だ。それまでのキャリアを裏切らない美しい声の響きが哀愁を誘い、一度聴いたら忘れない独特のフレーズとともに演歌ファンを楽しませてくれる。
私って幸薄い女性のイメージ?
――編曲は異なりますが、新曲「ひとり岬宿」は前作の「女のいろは坂」と同じ作家陣ですね。
竹川 はい、今回も師匠の叶(弦大)先生が、健気に生きる女性の切なさと寂しさが漂う歌をまた作ってくださいました。声質からいってそうなのかなと思うのですが、先生はどうやら私に対していつも幸薄い女性像をイメージするようなんですね。本来の私はどちらかというと、天然と言われるくらいの性格なのに(笑)。
だからでしょうか。先生の楽曲には切ないなかにもただ悲しいだけでなく、いつも前向きさや未来に対する望みが感じられます。「ひとり岬宿」は一途に相手を思い、泊まった宿で思い出に浸り寂しさを募らせる女性を描いていますが、竹川美子が歌うことによってそこにかすかな希望が生まれる。年齢的にもちょうど等身大で歌えるのではないかと思うので、聴く方が「こんなこともあったな」とかつての自分自身に置き換えながら、よりリアルに感じていただけたらいいですね。
――歌詞のなかでは、どこという場所かは想定されていませんね。
竹島 皆さん自由に思い描いていただければと思いますが、漁火とか海鳴りといった歌詞から、日本海側の港にあるひなびた感じの宿かなと私は連想しています。立派なホテルもいいですが、庶民的なこうした宿って好きですね。実は私、一人旅というのを今まで体験したことがないんです。今回作品をいただいてそれもいいんじゃないかなと思うようになりました。ちょっと勇気がいりますけど(笑)。
歌詞のなかでは、2番の“好きなお酒を 飲む癖を 真似たお猪口に 涙がぽろり”のフレーズが好きです。飲み方を真似てみるなんてあまりに切ない、でも一方ですてきな思い出でもある。幻夢をゆめと読ませて“もう幻夢(ゆめ)ね”という言葉も、なるほどと思いました。
カラオケではほどよいさじ加減で
――歌い出しからBメロにつながる構成が独特の印象を受けます。カラオケファンにとってはこだわりどころですね。
竹川 そうなんです、出だしの2行がポイントです。叶先生ならではのメロディーで、まさにこの曲のキモになっています。ゆったりと哀愁を漂わせて歌いその流れでいくところを、そこからキュッと締める感じ。そして次のメロディーに入り、このテイストは「江釣子のおんな」と少し似ているかもしれません。レコーディングのときもほかはすんなりいったのに、この2行には必然的に力が入りました。
カラオケだとテンポが決まっている状態で歌わないといけないので難しいと思いますが、生バンドやギターがバックであれば自分のテンポで歌えますよね。その自由度がおもしろいところだと思うので、好きなように楽しんでいただけるはず。ここが決まればあとは自然に歌えますので楽曲をよく聴いて、言葉をひとつずつ置いていくように。そして、切ないけれども切な過ぎずに、ほどよいさじ加減で歌ってみるといいのではないかなって思います。
――カップリング曲の「花咲峠」は、実在する場所だそうですね。でもこの歌では、作詞の原文彦先生による想像上の場所として描かれているとか。
竹川 原先生の描いた架空の花がたくさん咲いている内容の歌です。どんなに悪いときがあってもいつか必ずいいときが来る。希望を持って生きていきましょうという、前向きな歌詞の内容が印象的です。今のご時世にぴったりで、“きょうは雨でも あしたは晴れる”とか “泣いて笑って 転んで起きて”など、この作品をいただいたときいい詞だなとジーンと来ました。
作曲は三宅広一先生で、叶先生がぜひにと先生に依頼してくださったんです。三宅先生はかつて歌い手さんだった方で、船村徹先生の門下であり、金田たつえさんなどいろいろな方の曲を作られています。原先生の描いた情景をステキな作品に仕上げてくださいました。
カラオケでは、出だしの“きょうは雨でも”のところが意外に低音なので、そこだけ注意していただきながらリズムに乗って歌ってほしいなと思います。また、“我慢 辛抱 その先に”のところはちょっと畳みかけて歌って盛り上げていく。そんなフレーズなので、そこも意識していただくといいですね。詞をかみしめながら前向きな気持ちになって、コロナ禍を切り抜けていきたいものです。
素顔の私も少しずつ出していきたい
――「ひとり岬宿」「花咲峠」が多くの人に届くといいですね。ところで、来年にはデビュー20周年という大きな節目を迎えますね。
竹川 まさかこれほどの年月を歌い続けていかれるとは思っていなかったのですが、20年を迎える前の大事な1年として、今年をいつも以上に大事にしていきたいと思っています。今回の「ひとり岬宿」と「花咲峠」は、タイプは違いますがどちらをA面にしてもいいような楽曲です。両方を大切に、一人でも多くの方に生歌を聴いていただけるよう全国を回っていく予定です。
――着物を着ると落ち着きと貫禄で大人びて見えますが、もっと素顔の美子さんを知りたいというファンの方もいるのではないでしょうか。
竹川 歌だけでなくトークも好きなので、より竹川美子を知ってもらう機会を作りたいなとは思っていました。例えば、私のブログ「みこのこみいった話」では、去年ヘッダ(ブログ上部のデザイン)を変えたんです。着物からドレス姿に。そうしたら皆さんが興味を示して、いいねという声を多数いただきました。そのほうが身近に感じられるのか、自分の今まで見せていない部分も少しずつ出していかれたらいいなと思っています。
トークでは、毎週水曜日の8時30分からFMIS 872『竹川美子のドレ美子ソラシド♫』でおしゃべりをしています。また、Podcast(ポッドキャスト)というインターネットを通じて配信された音声や動画を、スマホやタブレットPCなどのモバイルデバイスに保存して視聴できるサービスも始めました。ラジオの延長戦みたいな感じでしょうか。「竹川美子の演歌ききますっ?」というタイトルで、居酒屋のおかみさんというシチュエーション。飲みに来るいろいろな方と楽しくトークし、私の素顔も垣間見られると思います。演歌に普段触れていない方にもぜひ聴いていただきたいです。
――最後に、美子さんのマイブームは「胡麻和え」と伺いましたが!
竹川 料理をする時間がコロナ禍で増えたので、手軽にできるものを自分流にアレンジして作るのが好きなんです。なかでも野菜はしっかりとると決めていて、いつしかハマったのが白ゴマ。サラダ感覚で毎日必ず野菜にかけて食べたり、お浸しや炒め物にも使ったり。ゴマの消費量はすごいです(笑)。香りもいいですしね。
ネットとかでレシピは見ても、基本的に目分量でちゃちゃちゃっと作るのが好き。缶詰を使った料理とか、塩昆布もいろいろ利用します。まいたけと油揚げに塩昆布を加えた炊き込みご飯なんか、美味しくて大好きです。
困ったことにご飯、うどんといった炭水化物が好きで、我慢するとストレスになるので少し食べ過ぎたなと思ったら、ウオーキングをするなどして体を動かしています。時間のあるときは途中で見つけた花などを写真に撮ってインスタにあげたりして。こちらもぜひ、見ていただけたらうれしいです!
(文と写真=藤井利香)
2022年5月11日発売
竹川美子「ひとり岬宿」
profile
竹川美子(たけがわ・みこ)
1月6日、広島県生まれ。父親が当時、春日八郎の後援会会長を務めていた影響で幼い頃から演歌を歌うようになり、カラオケ大会に出場。1991年12月には 『NHKのど自慢』の広島県江田島町大会に出場し、チャンピオンを獲得。この頃よりプロ歌手になりたいと強く願うようになる。1995年10月、 『NHK-BS歌謡塾あなたが一番』島根県美保関町大会で準チャンピオンとなり、作曲家 叶弦大氏と出会う。1998年より叶氏を師事し、神奈川県・伊豆長岡にて内弟子生活をスタートさせ、日舞、民謡、三味線などの稽古に励む。2003年、「江釣子のおんな」で歌手デビュー。2007年には28回松尾芸能賞で歌手新人賞を受賞。2018年にはデビュー15周年を迎え、翌2019年3月に渋谷区文化総合センター大和田 伝承ホールで「デビュー15周年コンサート」を開催。日舞、民謡、三味線のほか落語まで披露する多彩さでファンを魅了。エフエム伊豆「竹川美子のドレ美子ソラシド」(毎週水曜20:30~21:00 OA)にレギュラー出演中。またPODCASTで「竹川美子の演歌ききますぅ?」を毎週月曜日21時に配信している(アーカイブはいつでも聞くことが可能)。
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