大川栄策を突き動かすもの~自身初の作詞・作曲作品への挑戦~

「心を満たすもの。それは愛であり飢餓感だと思います」

 

――表題曲の「面影しぐれ」ですが、改めて大川さんの言葉でどんな歌かお聞かせください。

大川 男の寂しさがテーマです。好きな女性を救えないとわかった時、自分も不本意ながら思いを断ち切るために旅に出て、それこそ何にも自分に関係のないところで、改めてイチからスタートしようとする。今の思いを断ち切りたいんだけども、心に残ってるものが大きすぎる。そのせめぎ合い。大自然の中で思いを受け止めて、それを乗り越えていこうとするんだけど、風に吹かれて思いがまた舞い戻ってきたり。お月様を眺めたら彼女の顔に見えたり……。それを陰々滅々じゃなくて、メジャーな曲調でもって、苦しさを乗り越えるために声を大きく張り上げて気持ちにけじめをつけようという男の決意みたいな、男の逡巡する気持ちを歌っています。

 

――カップリングの「恋の川」は切ない女唄です。

大川 「恋の川」は本当に女性の心のうちです。千変万化する万華鏡のような女性の心のうちをきめ細かく歌い上げたいと思いながら歌いました。気持ちを断ち切って生きたいけど、ままならないというね。愛情の相克といいますか、そんなところを表現しました。

――とてもかわいらしい歌唱表現をされている箇所、フレーズが耳に残りました。

大川 やっぱりどんな場合でも女性はかわいさがないとね。女性自身はわからないでしょうけど、男にとっては、自分が思う女性のかわいさ、理想像というのがありますから。不幸な女性ではあるけど、自分なりの女性像を作ってみたんですけどね。

――大川さん自身の歌唱に女性を感じました。歌いながら、女性っぽい、たとえば、しなっとなって歌うようなこともありますか?

大川 それは絶対ありますよ。とにかく男みたいないかつい体の構造じゃなくて、やっぱり体の力を抜いて歌うことが、女唄を歌うコツですしね。

――「面影しぐれ」は男唄で、「恋の川」は女唄ですが、この2曲を聴くと、男の強さと弱さを同時に感じます。

大川 逆に「恋の川」のほうが潔いんですよ。思いが遂げられないんだったら、いっそ死んでしまいたいと。もう流れに沿ってね、私もいっそ死んで消えてしまいたいっていう、女性のほうが本当に潔いんですよね。

――今回、ご自身の作品で初めて作詞と作曲の両方を手がけるにあたり、いろんなテーマがあったと思いますが、最終的に男唄と女唄の組み合わせになりました。

大川 基本的に僕は女唄が得意でね。シングル作品は104枚目ですが、9割方は女唄じゃないでしょうか。でも、“筑紫竜平”でつくると、男唄が多いんですよ。「男の桟橋」「男の火花」「男の喝采」。男シリーズがやたら多いんですよ。「男春秋」とかね。女唄をずいぶん歌ってきたから、自分が作曲する時は男唄っていうこともあったんですけどね。

――大川栄策として得意な女唄と、“筑紫竜平”が作る男唄。その両方が作品になったような感じですね。

大川 そうですね。女唄の「恋の川」は肩の力を抜いて、わりとすんなり書けたような気がします。やっぱり「面影しぐれ」のほうが、男唄の分、がっちりしています。歌いがいはあるんじゃないでしょうか。ただ、自分の好みと、作品が世間に受け入れられるかどうかは別ですけどね。それを嫌がっているんじゃないんですよ。プロの歌手だから、皆さんに喜んでいただけるのがいちばんですから。

――レコーディングに臨まれた時の気持ちはいかがでしたか?

大川 何でもって気持ちを充足させるのかというと、それはやっぱり愛であり飢餓感だと思うんですよね。しかし、それを得られないから歌になり、言葉になる。男唄と女唄なので対照的な作品ではあるんですけども、愛や飢餓感は共通しています。男には男のつらさ、女には女の切なさがあると思うんですよね。そんな部分をやっぱり表現したかった。気持ちの中にある思い、こうしたい、こうあってほしいという願望。しかし、それを得られない飢餓感。それが一番でした。

――愛や飢餓感は大川さんにとってのテーマでもあるんですね。

大川 今は飽食の時代ですよね。すべて着るものから、食べるものから、見るものから、身に付けるものからね。僕らがデビューした昭和40年代初期は、テレビだって白黒ですし、録画なんてできない時代。今はなんでもそろってるわけですよ。しかし、何か足りない。それは自分自身の充足感なんですよね。着るものにしろ、食べるものにしろ、声にしろ、歌にしろ、歌いたい歌はやっぱり飢餓感なんです。これは未来永劫同じだと思いますよ。人間が生きていく上ですべて。やっぱりそれが気持ちの中にあるので、飢餓感を表現していくことが一番大事じゃないかなと思いますね。

――すべてが叶わないということなんですね。物理的には叶っても、気持ちはなかなか叶わないところがありますから……。

大川 そうですね。物的な充足感っていうのは今や、世界の果てだって一瞬にして動画でライブで観れる時代なんだものね。そんな中で人間の、例えば空飛ぶ願望。それは叶えられないわけでね。人間が生きてく上でも、まあ、いわゆる100年以上は生きられない。限られています。そんな中に生まれる欲望というか、飢餓感というか、満足感というか。だから僕らにしても、歌い手だけの立場で言うならば、今年はデビュー52年目だけど、体力は落ちるし、声も落ちるし、昔の何も考えないでパーンと一発で声が出た時代がまた来ないかななんて思ったりするのと、同じことです。こんなことはプロの歌い手として言いたくないんだけど、でもそういうもんなんですよ。どうあがいても手に入らないものってあるんです。そういうものってとても貴重です。叶わぬ願望なんだけど、その果てを見てみたいとか、それを手に入れたいとか。みんな思うじゃないですか。だから、諦めずにものを作ったり、歌ったりすることへのエネルギーにもなると思うんですよ。そのためには、普段からその準備をしないとね。

――できることはすべてやって、それでも昔には叶わないかもしれない。でも、今できる力で昔をどう超えるかというのは、大きなチャレンジですね。

大川 その気持ちが大事ですよね。チャレンジ精神というのが大事だと思いますよ。諦めたらおしまい。もう残された時間はあまりないけど、歌い手としてやっぱり燃焼し尽くしたいと思いますね。

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2020年8月26日発売
自身初の作詞・作曲作品
大川栄策「面影しぐれ」

「面影しぐれ」 
作詞・作曲/筑紫竜平 編曲/蔦 将包  
c/w「恋の川」 
作詞・作曲/筑紫竜平 編曲/蔦 将包  
日本コロムビア COCA-17797 ¥1,227+税