寝言でも落語三昧。三山ひろしが古典落語を寄席の高座で初披露し、「今後は全国各地で“三山家とさ春”を見ていただきたい」
三山ひろしが41歳の誕生日となった9月17日、東京・墨田区の寄席「お江戸両国亭」の高座に上がり古典落語を披露した。これはファンクラブのバースデーイベントとして実現したもので、古典落語の名作「金明竹」を演じた。
三山が落語を始めたきっかけは、昨年1月に自身初となる明治座での座長公演の第一部で、立川志の春の新作落語「阪田三吉物語」を芝居として演じたことによる。この時、志の春師匠との縁ができ、今年、テレビ番組の企画で落語を学び披露する機会を得た。
わずか1カ月で「金明竹」を仕上げるという強行軍だったが、師匠に一対一で見てもらう上げの稽古では、「間がいい。登場人物の女将さんがとくに愛らしい。これでいいでしょう」とお墨付きをもらったという。
志の春師匠からは「三山家とさ春」という名前ももらった。“三山家”は三山ファミリーのこと。とさ春の“とさ”は三山の出身地・高知(土佐)から。“春”の一文字は師匠から授けられた。
番組では一度、披露しただけだったが、多趣味で知られる三山はせっかく覚えた落語を身につけ、芸の幅を広げたいと研鑽を続けてきたという。
「講談も落語も好きで、移動中の飛行機などでよく聞いていましたが、好きというのと、実際にやるのとは違います。でも、真打になられた志の春さんとのご縁ができましたので、できることなら落語を覚えて一席披露したいな、という話をしていました。そんな時にテレビ番組で落語を学ぶことになりまして。覚える期間が1カ月と聞き、短いなと思ったのですが、車での移動中など、ずっと『金明竹』を練習ました。隣の車の人が怪訝な顔をしていることもありましたが、そんなことは気にしていられませんでした」
「『金明竹』は若手の落語家さんが必ず演じる入門的なお話です。歌と落語とはひと言ひと言、言葉を伝えていくという作業は似ていますが、表現方法が異なります。目の動きや表情ひとつとってもそうですが、歌の大きなステージではどうしても大きな動きをします。でも、落語でそれをやるとうるさくなるので、動きで面白くやるのではなくて、話を聞いていただいて笑っていただかなければならないと、そういう指摘もいただきました。やはり人物を演じ分けていくのが難しくて、不安もありましたが、上げの稽古では志の春さんから『これでいいんじゃないでしょうか』と言っていただきました。登場人物の女将さんが愛らしいとも言っていただいたので、お客様にはそこを見ていただきたいですね」
名作「金明竹」は「寿限無」と並ぶ前座話のひとつ。前半と後半に話が分かれており、前半は小僧の与太郎と来客とのおかしなやりとりが続き、後半は与太郎と女将さんが、上方から来た来客の難解でかつ早口のしゃべりに振り回される演目だ。プレッシャーの中で練習に励んでいた三山は寝ている時にも「金明竹」のことが頭から離れず、「聞くところによると、寝言で“与太郎!”って言っていたというね」と苦笑していた。
そんな“とさ春”は、抽選で当選したファンの前で、2回の高座を務めた。噺の本題に入る前の枕(小噺)では、高知から上京した頃、東京の人が言葉の端々に“バカヤロウ”とつけるのに困惑したことなど、当時のエピソードを公表。観客の気持ちを捕まえたところで演目を演じた。そして、高座から降りる時には足がしびれてしまって、立ち上がれない“大落ち”まで披露していた。
「せっかく名前までいただいたので、今後は全国各地で、『落語家・三山家とさ春』を見ていただけたらなという欲がどんどん出てきています。三山ひろし独演会みたいにして、高座をステージに作って落語をやりたいですね。いつかは末廣亭や鈴本の舞台に? それは私にとっては夢ですね(笑)。え? どんな落語家になりたい? いや~、わかりません!!(笑)。演歌歌手ですから」
「でも、コンサートでも寄席でも同じだと思うんです。来ていただいた方に楽しかったと思っていただいて、生活の糧にしていただくというのは。“三山ひろし”という人間を楽しんでいただく間口は広げていきたいと思います。せっかくですから、地元(高知)でも披露したいですね。その時は土佐弁バージョンもできたらいいですね。今年は『谺-こだま-』と『浮世傘』の2曲の新曲を出させていただきましたが、(コロナ禍で)殺伐とした世の中ですから。人の温かさなどを年末にお届けすることが私の役目じゃないかなと思っています」
「三山家とさ春 落語会」を終えた三山は、めくり台(看板)に書かれた「三山家とさ春」の文字も自分で書いたと告白。丸文字のような字体に、「丸っとしたのがいいなと思いまして。人間は丸みを帯びてないといけないですから。これは私のお祖母ちゃんの教えです。人間は角があってはいけない。丸みを帯びた人間じゃないといけないと、常々言っていました。ですから、丸っとなっています。でも、あの教えは性格のことだったんですね!?」。
バースデーイベントということで、演目もあとは、ファンからの質問に答えたり、ワンショット撮影に応じたりして、暖かみのある丸っとした空間を、三山はファンと一緒に楽しんでいた。
▼古典落語「金明竹」を披露する三山ひろし。上方者がいっきに早口でまくし立てるシーンを見事に演じた。愛らしい三山の女将も見所だった。
志の春師匠コメント「とさ春の落語には色がある」
「落語はそのまま覚えてと言っても実際は難しいんです。笑いを求めるとオーバーになったりします。でもとさ春さんの落語は素直にやっているのにちゃんと色がある。登場人物がみんな愛らしいんですよね」