松前ひろ子と三山ひろしが“いい夫婦の日”に恒例イベントを開催。胸いっぱいの感動をありがとう。
松前ひろ子と三山ひろしが11月22日、“いい夫婦の日”に東京・品川区のきゅりあん(品川区立総合区民会館)大ホールでコンサートを行った。例年なら恒例のディナーショーとして開催されているところだが、今年はコロナ禍により感染対策を採ったうえでコンサート形式でのイベントとなった。ただし、ふたりにとって初めての試みとして、インターネットを使ったライブ配信を同時に行うハイブリッドコンサートとなった。
会場には500人が詰めかけ、ライブ配信では300人が見守る中、15時に舞台の幕が上がる。ステージには松前と三山が現れ、「あたなのみなと~いい夫婦~」をデュエットする。
同曲は昨年亡くなった松前の夫であり、作曲家の中村典正氏が“山口ひろし”名義で2001年に作曲した大切な曲であり、“いい夫婦の日”のショーには欠かせない一曲だ。
オープニング曲を歌い終わると、松前はファンに語り掛けるように話し始めた。
「11月22日、いい夫婦の日。本来ならディナーショーを開催する予定でしたが、コンサートになりました。皆様、こんにちは。皆様がお越しくださったこと、うれしくもあり、心配でもあり……。(誰も)お出でくださらなかったら、どうしようという思いもありましたが、たくさんのマスクのお顔が見えましてホッとしました。今日のハイブリッドコンサートは初めての体験ですが、一生懸命最後まで務めさせていただき、皆様に喜んでいただけるよう、思い出の一日にしたいと思います」
松前はコンサートの幕が上がる直前、この日を迎えられることに感謝していた。
「本当にコロナで全然お仕事ができていない中、皆様の努力によって今日の舞台に立たせていただきます。また初めての経験になりますが、今日はハイブリッドコンサートということで、ライブ配信できるのがうれしくて。感謝しています。思えば、今年は20回目の開催なんです。“いい夫婦”ということで11月22日にディナーショーを行い、ずっと続けてきましたが、もう20回目かと驚いています」
感慨深い松前に対して、三山は持ち前のサービス精神で盛り上げる。
「皆様、心に響く温もりの声! ビタミンボイス!! 三山ひろしです。どうぞよろしくお願いします。そしてインターネットでご覧の皆様、コンニチワッ!!!」
初めてのハイブリッドコンサートということで、「今日は張り切って頑張ってまいります」とも言うが、その張り切りがなぜかインコのような声で、「コンニチワッ!!!」。
観客が笑うと、今度は配信用のカメラに向かって、また「コンニチワッ!‼!」と“三山インコ”。思わず師匠・松前が「そんな声、どこから出るの?」とたしなめると、弟子の三山は「すみません(苦笑)」と謝る微笑ましいシーンも。
松前と三山、そして中村仁美が所属するミイガンプロダクションでは、今年YouTubeにミイガンチャンネルを開設し、趣味を紹介したり、野菜をつくったり、楽しいトークをみせたりしている。松前と三山の師弟トークも見所だが、台本はないという。コンサートでもトークの台本はなし。松前が話したいことを話し、それに三山が相槌を打つという。
ふたたびコンサート直前の話。
「どんなトークになるのかは、これは師匠の頭の中を見るしかないですね。台本がないので。だいたいは、師匠がお話しになりたいことをお話しになり、私がそれに相槌を打つっていうことになります」と、三山。松前に「今日はどんな内容になるんでしょうか?」と尋ねると、松前は「遠くからもお客様がおいでになってくださっていると思うんですね。そのお顔を見た時に話の内容が変わるかもしれない」と前置きし、「本当、台本がないので、ありのままでお話ししてしまいます。巻いてくださいって言われても、長くなる時があるのは、ありのまま話しているからなんです(苦笑)」。
松前と三山のふたりのコンサートやディナーショーでは、師弟ならではのやりとりも楽しい。
コンサートの2曲目。曲は「祝いしぐれ」。松前が作詞・千葉幸雄氏、作詞・中村典正氏による門脇陸男のヒット曲「祝い船」のような曲を歌いたいと願い制作された曲(作曲は“山口ひろし”名義)だ。
嫁いでいく娘に、寂しさとうれしさの感情を隠そうとする父親の様子を妻の目線で描写する作品であり、「おめでたい日にはおめでたい曲を、ということで師匠(松前)の大ヒット曲を歌わせていただきいます」(三山)と、ふたりはデュエットで歌声を届ける。
「祝いしぐれ」を歌い終えた松前は舞台袖へ。
三山「師匠、どこへ行かれるんですか」
松前「私はちょっと着替えに」
三山「あ、そうですか。お待ちいたしておりますので」
ここからはそれぞれの持ち歌コーナーが続く。まずはステージに残った三山が故郷・高知にゆかりある「四万十川」と「いごっそ魂」の2曲を披露すると、着替えを済ませた松前が再登場し、「夫婦草」「花街一代」「望郷千里」「北のおんな物語」の4曲をメドレーで歌う。
「望郷千里」は2006年3月に、松前が再デビュー25周年完結作品として発表した曲。歌手・松前ひろ子の実話をモチーフにした作品だ。松前は高校を卒業すると、歌手になるため家出し、北海道の自宅を飛び出した。連絡船に乗って津軽へ向かおうとする松前を引き戻そうと、父親が函館港へ向かうが間に合わなかった。そんな出来事も歌詞になっている。
「親不孝をしたと思いますが、今日は亡くなった両親も、(作品をつくってくれた)主人も会場のどこかで見てくれていると思います」(松前)
松前のメドレーが終わるとと、今度は三山が黒紅色のスーツ姿でステージに戻ってきた。
三山「着替えてきました。いかがでしょうか? 師匠!」
松前「三山君はだいたいいつもスーツと靴がおそろいね」
三山「ええ、まあ」
松前「そのほうが、足が長く見えるからね」
三山「……」
松前に衣装の秘密を暴露(!?)された三山だったが、「皆さん、お気づきですか? 皆さんがお座りになっている椅子と同じ生地でつくりました」と観客を笑わせると、「男の流儀」と「望郷山河」を歌う。ここまで三山が歌った自身のオリジナル4曲すべてが、『NHK紅白歌合戦』で歌ってきた作品だった。
「皆様に応援をいただきまして、こうして今、ステージに立たせていただいていますが、今年はそのありがたさを嫌というほど実感しています。それは師匠も同じではないでしょうか?」
そんなふうに三山に紹介された松前が「人生勝負」を歌うと、いい夫婦の日のイベントについて語り始めた。
「20年続けることができました。お客様が少なかった時代もありました。継続は力なり、と言いますが、続けてきたことで、今では三山君の力もいっぱいいただいて、たくさんの方に来ていただけるようになりました。素晴らしい息子を持ったと思います」
大きな拍手をもらいながら松前は続ける。
「今日は関係者の方がたくさん来てくださっていますが、始まる前に『松前さん、若くて綺麗だよ』って言われまして(笑)」
終盤に向けて大きく盛り上がったのは、松前が「女一代演歌船」と「感謝~私が愛したすべてに」を熱唱し、三山が長編歌謡浪曲「あゝ松の廊下」を聴かせた時だ。
「女一代演歌船」は50周年記念曲・第一弾として2019年2月にリリースされた。歌手・松前ひろ子の生き様を投影した内容となっている。
「昨年6月の浅草公会堂から『歌手人生50周年記念コンサート』のツアーをスタートさせていただきましたが、今年はコロナ禍で延期、延期になり、中止になったコンサートもあります。そんな中、延期になっていた地元・北海道の函館と帯広は50周年の最終コーナーでコンサートをさせていただくことができました。地元でツアーを終われたことで、皆さんに『50年長かったけど、よかったね』と言っていただけました。『続けてきてよかった』と思えた瞬間でした」
松前は2018年9月から歌手人生50周年の周年企画を行ってきたが、2020年はコロナ禍によりほとんど何もできなかった。なんとか9月下旬には函館と帯広で「歌手人生50周年 松前ひろ子・三山ひろしスペシャルコンサート~夢の師弟競演!~」を実現したが、気がつけば歌手人生は52年目に入っていた。
今年は描いていたような50周年の歌手活動ができなかった。だが、YouTubeやハイブリッドコンサートなど「新しいことにチャレンジしたこと、若い人たちについていけたこと。それはとても勉強になりました。これからも毎日、勉強だと思います」とも話していた。
そして「女一代演歌船」に続いて熱唱したのが、「感謝~私が愛したすべてに」だった。松前の歌手人生50年の思いが詰め込まれた作品で、記念コンサートツアーのスタートの地に選んだ昨年の浅草公会堂で、急ぎ完成させて初披露して以来、歌って来た。
運命(さだめ)のわが道 歌の道
育ててくれた 愛のひと
その時どきの すべてにありがとう
そしてあなたに あなたに感謝
(「感謝~私が愛したすべてに」歌詞より)
サビの部分では、松前は舞台に正座し、“感謝”の気持ちを込めて絶唱した。
▲ライフワークでもある長編歌謡浪曲を披露する三山。三波春夫が北村桃児名義で作詞・構成した「あゝ松の廊下」を熱演する。
長編歌謡浪曲「あゝ松の廊下」を三山が演じ切って歌うと、この日のために準備したという鶴が何羽も描かれた振袖に着替えた松前は、50周年の記念曲・第二弾の「夫婦(めおと)鶴」を歌う。
従兄でもある北島三郎が原譲二の名義でつくってくれた曲。松前と中村典正氏夫妻をイメージしてつくられたが、支え合う夫婦に相通じる歌詞が並ぶ。
「『ひろ子、書いてやるよ』と初めて書いていただきました。従兄であってもこれまで曲をお願いしたことはありませんでした。北島さんに聞いたら、『お前の夫が作曲家だから俺が書いちゃまずいよ』と、遠慮していたそうです。でも、主人から50年目の記念曲は俺以外の人に書いてもらえと言われ、初めてお願いしました」
シルバーのスーツに着替えて舞台に戻ってきた三山は、2015年の大晦日、『NHK紅白歌合戦』に初出場した時に歌った「お岩木山」を聴かせた。
「師匠・中村典正先生につくっていただいた一曲です。師匠は8月にお亡くなりになりましたが、いつまでも歌い継がれていく歌をたくさん残されました。私も師匠のようになりたい。私もいつまでも歌い継がれていく歌を歌っていきたい」
三山はそんな師匠の代表曲を歌ったアルバム「絆の譜~恩師・中村典正を歌う~」を今年8月にリリースしていることをアピールしつつ、今年の勝負曲「北のおんな町」をフルコーラスで歌い上げた。
▲宣伝タイム! 見事な口上で、三山がオリジナルグッズを紹介していく。松前が「自分のばっかり宣伝して」と注文をつけると、「いえいえ、師匠のペンライトとキーホルダーも紹介しました」と弁明に追われていた。
舞台袖から舞台に戻ってきた松前は、「最高! そのスーツ、とっても似合うね。キラキラしていて」と、三山に声をかける。「あ、はい」と三山。
松前「私もキラキラだけど、三山君のキラキラはまた違うね」
三山「師匠につくっていただきました」
松前「それを言ってほしかったのよ!」
三山「ありがとうございました」
松前「でも、15年前に初めて会った時は、セールスマンかなと思ったわ」
三山「コーヒー豆の販売員だと勘違いされ……」
そんな三山も上京して15年になるという。歌手を目指して高知から出てきたが、生活にも困る状態。そんな時に三山は中村典正氏と松前の元で働きはじめ、2009年、「人恋酒場」でデビューすることになる。
三山「考えてみますと、15年、東京で生活しておりますが、本当にお世話になりありがとうございます」
松前「本当に素晴らしい成長ね。皆さんと一緒に言いたいと思います。紅白、6回目の出場おめでとうございます!」
松前の言葉によって、会場には土砂降りのような拍手が響く。11月15日に大晦日の紅白出場歌手が発表され、三山は6回目の出場が決まったばかりだった。
三山は、この吉報を事務所の社長でもある松前から知らされた。
「皆様のおかげでございます。私一人ではなくて、皆様と一緒にステージに立つ! そういう思いで歌わせていただいています。しっかりとステージを務めさせていただきます」
「6年連続出場というのは簡単な夢ではないので、メーカーの大きな力と、支えてくださった皆様のおかげですね」と、松前が三山のコメントに添えた。
コンサートも最後の一曲となった。
「2021年に向かってコンサートの形は変わっていくんでしょうけど、私たちの情熱は変わらずに一生懸命歌の世界に邁進し、楽しんでいただけるコンサートを目指して頑張っていきます」
三山のリードにより、ふたりは感謝の気持ちを込めてエンディング曲を歌う。タイトルは「貴方にありがとう」。
きっとまた逢えますね きっとまた逢いましょう
あの町この町で 素敵なあなたと
(「貴方にありがとう」歌詞より)
「会場にお越しいただいたお客様には感染症対策をお願いし、ご迷惑をおかけしましたが、インターネットを通じた配信が同時にできました。新しい生活様式でのコンサートです。マイナスに考えないでこれをプラスに考えて、2021年に向かっていきたいと思います。今日はその第一歩でした」(三山)
「本当なら20回目の“いい夫婦の日”は、750名のお客様をお迎えして恒例のディナーショーを開催したかったのですが、コロナ禍で、夢が叶いませんでした。ですが、こういう形で皆様に歌をお届けできたことに感激で、胸がいっぱいです」(松前)
松前と三山の師弟の絆は強く、これからも続いていく――。
INFORMATION
2020年11月18日発売
松前ひろ子「歌手人生50周年記念コンサート~私が愛したすべてに~」
2019年6月2日、東京・浅草公会堂で行われた「松前ひろ子 歌手人生50周年記念コンサート」の模様が収録されたDVD。三山ひろしも共演し、ゲストとして中村仁美がステージにかけつけた。
▲写真は昨年6月の浅草公会堂での一コマ。師匠の50周年を祝福する三山と中村仁美。デビュー52年目を迎えた松前は、「サブちゃん(北島三郎)に言われました。声が出るかぎり歌っていればいいよと。ですから、もう少しだけ歌わせてください」。