「明けない夜はない」浜 博也が歌う悲しみの先にある希望

浜 博也が、8月19日に両A面シングル「一輪挿し/呼子鳥(よぶこどり)」を発売した。
夫婦というのは始まりは他人。しかし、ともに生き、数えきれない泣き笑いを重ねて、“家族”という絆で結ばれていくもの。「一輪挿し」は、その存在を失い、ひとり残された妻の悲しみを歌う。
そして、「呼子鳥」は、浜の故郷である山形県の民話をもとにした母子の悲しい物語。やさしく、その傷に寄り添うように歌う浜に、2曲の魅力を聞いた。

 

悲しみにそっと寄り添う癒やしの歌声


――新曲は両A面シングルですが、まずは「一輪挿し」のお話しからお伺いしたいと思います。どんな作品ですか?

 前作の「夕凪橋~ゆうなぎばし~」と同じく、「一輪挿し」はともに人生を歩く夫婦愛、家族愛がテーマの曲で、夫に先立たれた妻のやるせない気持ちを歌っています。これまで男と女の愛の世界をメインに歌ってきた僕にとっては、今まで歌ったことないようなタイプの曲で、とても新鮮に感じましたね。

――でも、この曲を歌われるのを少し躊躇されたところもあったとか?

 いちばん俺が懸念したのは、こういうシチュエーションって、はたして聴いてくださる人にとってどうなんだろうと。歌って、楽しくなるからとか希望が湧くから買うっていう方が多いんじゃないかなとか、ちょっとはじめは真面目に悩んで考えちゃったんですよね。俺だったらこの歌を自分で聴いてて寂しくなっちゃうなとかね。でも、「映画や小説と同じでいわゆるフィクションの作品なんだから、ひとつの物語として語り部となって伝えればいいのでは?」とスタッフに言われて心が楽になりました。

――現在の状況(新型コロナウイルスの感染拡大)の中で、こういった現実に直面されている方もいらっしゃるかもしれません。

 じつは、こないだ発売前は歌っちゃだめって言われてたんだけど(笑)、リサーチのために歌ったら、みんな泣いてました。いちばん号泣されてた方に話を聞いたら、4日前に妹さんを亡くされたと。やっぱりこんな時期だから、県をまたげなくて看取れなかったんだそうです。生きていればさまざまなやり場のない悲しみに遭遇するでしょう。そんな時にこの歌を聴いてもらって、泣きたい時は我慢しないで思いっきり泣いてほしいと思う。

――メロディーについての第一印象はどんな感じでしたか?

 オシャレな歌謡曲を歌うなら大谷先生しかいない!って思って、ディレクターにお願いしてもらったんですが、作曲の大谷(明裕)先生が歌われているデモテープで初めて聴いた時は、聴いた途端ゾワゾワ~って来たよ。先生の歌がお上手なのもそうだけど、とてもいい曲で。俺の狙い通りの曲を作っていただいてうれしかったですね。

――実際に歌われてみていかがでしたか?

 正直言って、こういう歌がいちばん難しいです。淡々と歌うことほど難しいことはない。ここでコブシを回してとかのテクニックがいっさい必要ないんですから。淡々と歌っていかにお客様に伝えられるか、聴かせられるかというのが、歌い手の腕の見せどころなんですよね。

――カラオケで歌う際のワンポイントアドバイスを教えてください。

 そうだよねぇ……。だから、全体的に力まないで歌ってもらって、力むのは三行目の終わりの「悪戯かしら」(1番)「見えるでしょうか」(2番)「するんじゃないと」(3番)のフレーズね。そこだけ思いを込めて力を入れて歌えば大丈夫です。あとは淡々と、他人事のように歌ってください(笑)。いや、本当に。冗談じゃなくて、そうじゃないと絶対重くなっちゃうから。

悩んだ末に達した新境地
「希望は必ずある」


――もう一方の「呼子鳥(よぶこどり)」についても聞かせてください。

 こっちは俺の故郷の山形県に昔から伝わる有名な、悲しい民話がもとになっているんだけど、子どもを置いていかざるを得なかった母親の、子どもへの愛を描いた曲です。白川奈美さんの「遠くはなれて子守唄」※が昔から好きで、そういうような曲を歌いたいって作詞の鮫島先生と飲んでる時に話して、作っていただいた曲ですね。

※「遠くはなれて子守唄」
作詞/神坂 薫 作曲/野々卓也
1971年に白川奈美が歌い大ヒットした。夫と死別しやむなくわが子を里親に預けて都会で働く母親の心情をつづり、当時キャバレーなどで働く同じような境遇の女性たちの共感を呼び、人気を集めた。

――こちらの曲もとても切ないですね……。

 だから、こっちも歌う前はすごい悩んだんだよね。歌いたいってお願いしたのは俺なんだけど、今の時代にはない状況だからはたして受け入れられるのかなって不安になったり、自分自身が納得するまでは苦しかった。でも最終的に「一輪挿し」と同じで、「俺は語り部でいいんだ。そこまで歌い手は入り込まなくていいんだ」と納得できて歌うことができたんです。

――とことん悩んだ末に、新境地を拓く両A面シングルが完成したんですね……。最後に、読者へメッセージをいただけますか。

 現実もまだまだ落ち着かない状況が続いているし、この2曲の内容もそうだけど、「明けない夜はない」。必ず、希望はある。落ち着いた時には、皆様の前でこの2曲を歌わせていただきたいと思います。あ、あとオススメは「一輪挿し」のプロモーションビデオね。出てきた時から俺に紗がかかっててさ、最後で出てくる写真立てに入ってる死んだ亭主の写真が俺なのよ。俺が死んだことになってんの。おかしくねぇか!?(笑)。でもそこが狙いっていうか、おもしろいじゃん! ぜひ観て欲しいね。


2020年8月19日発売
両A面シングルで放ついぶし銀の魅力
浜 博也「一輪挿し/呼子鳥(よぶこどり)」

「一輪挿し」  
作詞/鮫島琉星 作曲/大谷明裕 編曲/石倉重信  
「呼子鳥」 作詞/鮫島琉星 作曲/大谷明裕 編曲/石倉重信  
テイチクエンタテインメント TECA-20049 ¥1,227+税

38年歌い続けてきた浜 博也のいぶし銀の魅力を堪能できる両A面シングル。愛する夫を亡くした妻が、変わらぬ日常生活のなかでふとした瞬間に感じる夫の面影。悲しみにくれる妻の姿を、しみじみとやさしく歌う「一輪挿し」。「呼子鳥」は浜のリクエストで完成した山形県の民話をもとにした一曲。


Profile
浜 博也(はま・ひろや)
1962年1月8日、山形県生まれ。大学生の時に出場したTBS『11時に歌いましょう』でグランドチャンピオンに輝き、歌手の道へ。1982年、“鶴岡雅義と東京ロマンチカ”の3代目リードボーカルとして歌謡界にデビュー。美しい高音と都会的なムードで多くのファンを魅了。1994年にソロ活動を開始。2000年「おまえがすべてさ」、2001年「おまえに逢いたい」と連続ヒットを飛ばし、知名度は全国区へ。2022年のデビュー40周年を目前に、その味わい深い歌声にますます磨きをかける。ラジオ番組『博也とまどかの歌謡ロード』でのユーモアあふれるトークでも人気を集める。

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