蘭華がアルバム『遺書』発売を記念しワンマンライブを開催。約3時間、魂の叫びを聴かせた。
シンガーソングライター 蘭華が4月6日、東京・新宿区神楽坂のライブハウス「THE GLEE」で、前作から5年振りとなるアルバム『遺書』の発売を記念したワンマンライブを開催し、アルバム収録曲の全曲を披露したほか、アルバムコンセプトにそった自身の作品を選曲して届けた。
昨年12月13日に発売されたアルバム『遺書』は自身も経験したSNSでの誹謗中傷など、社会問題に鋭い視点で切り込んだ意欲作。生きづらさを抱え、悩み苦しんでいる人たちを一人でも多く救いたいという願いが込められた蘭華の魂の叫びが収められている。
『蘭華♡アルバム「遺書」発売記念ライブ』と題されたステージ。SNSでの誹謗中傷から親友を自死で失い、さらには自身も同じ悩みを抱えてしまった蘭華には警察からの自粛要請もあり、約1年半ぶりのワンマンライブとなった。
2015年夏に発売したメジャーデビューシングル「ねがいうた/はじまり色」のカップリング曲「心風景」の歌詞を朗読するところから始め、途中から歌に入る演出でファンの心に作品への思いを伝えた蘭華は、「今も世界の片隅で、毎日毎日命が失われています」と話し始めた。
2015年は戦後70周年の節目の年。「あんな戦争は二度と起きてほしくないと思って書いた反戦歌ですが、今も世界の片隅で、毎日毎日命が失われている国や地域があります。1曲目にこの曲を聴いてもらいたいと思いました」
親子の絆や家族愛、人生、命、故郷をテーマにした作品を多く手掛けている蘭華らしい選曲だった。
蘭華が「心風景」に続いて歌ったのは、「愛を耕す人」だった。2019年12月4日にアフガニスタンで凶弾に倒れた中村哲医師へ捧げる鎮魂歌。35年もの間、海外で医師として人々の命を支えながら、アフガニスタンでは人道支援に尽くした中村医師の存在を知った蘭華が三日三晩、中村医師のニュースに触れ、中村医師の思いを馳せてつくった“永遠のクリスマスソング”だ。当時、一曲も作品が書けず悩んでいたが、恵まれない人たちの命を救った中村医師に感銘を受け、「先生に捧げる曲が一夜にして生まれました」(蘭華)。
蘭華はその年の12月13日。自由が丘のシャンソンカフェで予定していたクリスマスライブのセットリストに急きょ組み込み、「聖夜」という仮タイトルで初披露した。そして、このライブでピアノを演奏していたのが、ピアニスト 松下福寿だった。今井翼、IMALU、森山直太郎ら様々なアーティストのサポートピアニストも務める松下は、この日のワンマンライブでもピアノ演奏で蘭華を支えていた。
「蘭華史上、もっとも曲数が多いライブです。アルバム収録曲を全曲披露します。今まではオリエンタルな曲が多かったのですが、今回のアルバムはブルース、ボサノバ、ポップス、ヒップホップ、R&Bなどこれまでの私にはない世界観の、冒険した作品になりました。昔の蘭華の音楽スタイルを知る人は驚くかもしれませんが、このアルバムには“生きる”という裏テーマが込められています」
ここからはほぼアルバム収録順に楽曲が届けられた。重たいテーマの作品も多かったが、どんなに苦しくて悩んでいでも生き抜いてほしいという蘭華の思いが込められていた。
とくに若い世代にもアルバムを届けたいと、アニソン風のメロディーもあり、蘭華をはじめオフコースや小田和正、泉谷しげる、稲垣潤一らの楽曲制作に携わってきた音楽プロデューサーの柿崎譲志氏は「蘭華自身も体験した、いじめや誹謗中傷、あるいはこれらによって生命を絶ってしまった親友へのメッセージを歌った作品等を収録しており、彼女自身の実体験から生まれた出来事を言葉にしたことが、さらにこのアルバムに重みを与えているのでしょう。サウンド面では上質なメロディーに、何度聴いても飽きない作品群を生み出しています」とコメントしている。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まった頃に書いたという「僕は生きてる」、まだ寒い2月に鎌倉プリンスホテルの駐車場で思いついたメロディーだと明かしたラブソング「With you」、柿崎氏がギターの演奏でも参加しているボサノバ風アレンジのラブソング「ヒーローになりたい」などを聴かせていく。
その「ヒーローになりたい」では、スペシャルゲストとして柿崎氏が登場し、蘭華をサポートした。
「今日は蘭華のためにどうしてもギターを弾きたいと、大好きなギターに内蔵マイクを仕込んで柿崎譲志さんが来てくださいました(笑)」
ライブは二部構成で行われたが、第1部の最後は「誹謗中傷をやめないあなたへ」、そして「遺書」で締め括られた。
「いろんな媒体でこのアルバム『遺書』を制作した経緯や思いを話してきましたが、私の大切な親友の存在があります。東京で出会った親友でしたが、ずっとSNSの誹謗中傷で悩んでいました。その苦しみから逃れるように故郷へ帰っていったのですが、苦しみぬいた結果、残念ながら彼女は自死でこの世を去ってしまいました。生前、彼女は『蘭華ちゃん、いつの日か私のように誹謗中傷で苦しんでいる人を救う曲を書いてね』と言っていました。その約束をしたんですけれども、数カ月後に彼女は去ってしまい、彼女を救えなかった苦しみ、後悔で曲が書けなくなってしまいました」
しかし、自身もSNS上で誹謗中傷を受けることになり、彼女の苦しみを実感した蘭華は「今だったら、彼女と約束した曲が書けるかもしれないと思い、そして彼女のように今も悩んでいる人をひとりでも多く救いたい、残された遺族がこれ以上増えないようにとの思いで、このアルバム『遺書』をつくる決意をしました」。
ストレートなタイトルの「誹謗中傷をやめないあなたへ」は、安全な場所から攻撃を仕掛けてくるヤツらへのカウンターパンチであり、「遺書」はいちばん仲が良かった親友へ捧げた曲だった。
「親友と約束していた曲がやっとできました。生きて彼女に聴かせたかったなと思いますが、でも、きっと聴いてくれていると思います」
蘭華はこのアルバムに込めた思いを、長い時間を掛けてひとりでも多くの人に届けたいと、魂で歌った。
「私のライブは思いが強いので、ライブじゃなく“トーク&ライブ”と言われます(笑)」
シンガーソングライターとして生み出す作品への“愛”があふれている。一曲一曲、曲への思いを語っていたが、第2部は春らしいライトブルーのドレスで登場し、「町中華にハマっています」と、最近の食事情のエピソードなどを明かしながらリラックス。102歳で亡くなった祖母の愛の物語を歌った「愛の遺産」から蘭華の世界を築いていく。
アルバム『遺書』のテーマに沿って選曲したオリジナルソングだが、「今日、いちばん明るい作品です」と前作のアルバム『悲しみにつかれた』から「大地の祭り」を熱唱すると、「ステージに立つまでは不安でいっぱいでしたが、楽しいです!」と、この日、いちばんの笑顔を見せていた。
そしてライブの最後には、「第58回輝く! 日本レコード大賞企画賞」を受賞したファーストアルバム『東京恋文』から「ともしび」を披露した。最愛の父はインディーズ時代から、足繁く蘭華のライブへ大分から駆けつけてくれたという。
「父が最期に倒れる前に歌った曲です。命のともしびを歌っています。皆さんが今まで生きてくださったことに感謝して、心を込めて歌います」
○
アンコールに再登場した蘭華は、メジャーデビュー曲「ねがいうた」をラストソングに選んだ。蘭華のライブに初めて参加したという観客が3分の1ほどいたが、「どんな小さな会場でも必ず歌ってきました。現在所属する徳間ジャパンコミュニケーションズに移籍した2020年に新録バージョンを出すことができましたが、オリコン初登場で総合33位、演歌・歌謡曲ランキングでは1位を獲ることができました」。
「私の夢は支えてくださっている方が生きているうちにヒット曲を出すことです。またシンガーソングライターとしてだけじゃなく、作家としても素敵な曲を届けたい」
蘭華は恩師への感謝の気持ちを綴り、出会ったすべての人への感謝の歌「ねがいうた」を歌うと、音楽プロデューサー 柿崎譲志氏、ピアニスト 松下福寿と3人で、観客の拍手に笑顔と万歳で応えた。
「本当はもっとしゃべりたいんですが(苦笑)」。蘭華史上最大曲数を披露した『蘭華♡アルバム「遺書」発売記念ライブ』は、3時間近くに及んだ。また、自粛していたライブも少しずつ増やしたいと語り、9月にはバースデーライブも予定しているとのこと。「楽しみにしてくれたらうれしい」と再会を呼びかけていた。
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蘭華が放つ意欲作『遺書』~明日死んでしまうかもしれないと思ったことはありますか?~
2023年12月13日発売
セルフプロデュースによる3rdアルバム
蘭華『遺書』
蘭華にとって第3作目、約5年ぶりとなる本作には、生きづらさを感じるすべての人への切実なメッセージが込められている。自身が体験した現代の闇に鋭い視点で切り込んだメッセージの数々、社会への問題定義を問う意欲作だが、メロディーにも注目したい。
前作『悲しみにつかれたら』では、ジャズ、ブルース、シャンソン、和など、様々なジャンルが凝縮された世界観を作り出したが、今作では令和サウンドを追求し、耳に残るキャッチ―なメロディーと、リアルな思いが詰まった全10曲で構成。彼女の王道であるバラードの他に、R&B、ヒップホップ、アニソン風など新境地とも言える作品群が並ぶ。
またディレクターには加藤和彦、稲垣潤一、小田和正、泉谷しげるをはじめ、多くのアーティストに携わった柿崎譲志。さらにアレンジャーには、船山基紀、宮原慶太、入江純、住吉中、小名川高広、菊池達也など豪華な面々が集結した。
収録曲
01.僕は生きてる
作詞/蘭華 作曲/蘭華 編曲/綾部健三郎
02.あの娘は今日も
作詞/蘭華 作曲/蘭華 編曲/小名川高広
03.With you
作詞/蘭華 作曲/蘭華 編曲/宮原慶太
04.ヒーローになりたい
作詞/蘭華 作曲/蘭華 編曲/蘭華
05.誹謗中傷をやめないあなたへ
作詞/蘭華 作曲/蘭華 編曲/森俊之
06.米花町ブルース
作詞/蘭華 作曲/蘭華 編曲/住吉中
07.扉を開けるなら今
作詞/蘭華 作曲/蘭華 編曲/入江純
08.愛しき我が故郷
作詞/蘭華 作曲/蘭華 編曲/柿崎譲志、菊池達也
09.愛を耕す人
作詞/蘭華 作曲/蘭華 編曲/綾部健三郎
10.遺書
作詞/蘭華 作曲/蘭華 編曲/船山基紀
INFORMATION
田村淳プロデュース『イタコト展』へ出演
田村淳が2019年に設立した遺書動画を誰でも簡単にのこせるアプリ「ITAKOTO」を提供する株式会社itakotoとのタイアップが決定。蘭華のニューアルバム【遺書】の実話に基づくストーリーと、itakotoが掲げる理念が一致しタイアップが実現した。
itakotoとは、『この世から、心のこりをなくしたい』というスローガンを掲げ、大切な人と遺書動画を共有しようという日本初の動画による本格的な遺書動画サービスを運営する会社。
タイアップの展開として、様々な企画が進行中。その一環として、4月26日(金)〜28日(日)流山おおたかの森S・C森のまち広場で開催される、田村淳プロデュース『イタコト展』に蘭華が出演する。
蘭華の出演は、4月27日(土)14時〜
ミニライブの他、トークイベントなどに参加する予定。観覧は無料。
詳細は以下へ
https://note.com/itakoto_life/n/naaef407b735d