シンガーソングライター 蘭華が2年ぶりのバースデーライブ。「歌い続けることで恩返ししたい」
シンガーソングライター 蘭華が9月28日、東京・代官山のライブハウス「晴れたら空に豆まいて」でバースデーライブを開催。意欲的なアルバム『遺書』から「誹謗中傷をやめないあなたへ」「遺書」などを披露した。
新生・蘭華のステージへ
2015年7月22日、両A面シングル「ねがいうた/はじまり色」でメジャーデビューした蘭華。翌2016年9月には自身が全曲作詞・作曲したファーストアルバム『東京恋文』をリリースすると、“癒やし系シンガーソングライター”として注目を浴び、同アルバムが日本レコード大賞の企画賞を受賞した。
ライブハウス「晴れたら空に豆まいて」は、受賞を記念して行ったライブの会場でもあった。ピアノの松下福寿、バイオリンの福澤里泉とともに想い出のステージに静かに立った蘭華は、「髪の毛を染めました」と話し始めた。
「蘭華のバースデーライブ2024ということで、2年ぶりのバースデーライブを開催させていただきます。今日はバイオリンの福澤さん、ピアノの松下くんと一緒にお送りします。じつは一昨日、髪の毛を染めました! この1、2年、あまりいいことがなかったので、その雰囲気をちょっとでも変えたいなと思って」
本当は金髪にしたかったそうだが、マネージャーからNGを出されたという。ミルクティー色に染めた髪に、大好きな色であるグリーンのドレスを着用した蘭華は、新生・蘭華のステージを見せたいと歌い始めた。
まずは、よしもとばななの同名小説を原作とした映画『海のふた』の主題歌ともなったデビュー曲「はじまり色」から歌声を届けた。デビュー前の不安と未来へ向けた期待を色にたとえ、“はじまり色”と表現した作品を8年ぶりに歌った。
続いて披露したのは最新アルバム『遺書』から「僕は生きてる」と「With you」だった。鎌倉プリンスホテルの駐車場で思いついたメロディーだという「With you」は恋愛ソングだが、同アルバムにはメッセージの強い作品たちが収められている。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まった頃に書いた「僕は生きてる」もその中の一曲であり、アルバムのタイトル曲候補としても検討された曲だった。
「蘭華さんの歌は、人が死ぬ曲が多すぎると言われます。それもそうだなと思いますが、東日本大震災の年に亡くなった最愛の父への思いを歌った『花時』など、人生、人の命、大切に育ててくれた家族、支えてくれる人、大切な人を亡くしたときに曲を書きたいという気持ちが溢れてきます」
自身の歌への向き合い方を告白した蘭華。だが、重いメッセージをそのままダイレクトに伝えるのではなく、あくまで音楽として楽しんでもらいたいと、彼女の王道であるバラードに加え、R&Bやヒップホップ、アニソン風、さらにはシャンソンなど洋楽のエッセンスを取り入れるなど幅広いメロディーで聴かせていく。
また、この日のために準備したバースデーメドレー「子守唄~愛しき我が故郷~ものがたり」や、越路吹雪の生誕100年を記念したシャンソンメドレー「愛の讃歌~パリの空の下~マイウェイ」も披露し、蘭華の世界を作り上げていった。
“あたなを愛する人がいる”
冒頭、蘭華は「この1、2年、あまりいいことがなかった」と話していたが、SNSでの誹謗中傷に悩まされ、朝方まで眠れない日々を過ごしてきた。しかも、その誹謗中傷で親友を亡くしてもいた。
「大切な親友でした。最後にお別れしたのは小倉駅の新幹線ホームでした。抱擁して新幹線に乗り込みましたが、窓の外で彼女は号泣していました。『いつの日かでいいから、いじめや嫌がらせで悩んでいる人を救ってあげられる曲をつくって』。そう彼女に言われ、必ずつくるねと、指切りげんまんをしました」
だが、作品ができる前に彼女は自死してしまった。その後、自らも誹謗中傷を受けたことで、彼女の苦しみを経験した蘭華は、「一人でも多くの人の命を救いたい」と、親友との約束を果たした。それがアルバム『遺書』であり、収録曲「誹謗中傷をやめないあなたへ」や「遺書」などだった。
衣裳を着替えた終盤、蘭華はこの2曲を披露すると、「魂を込めてつくった作品です」と命の大切さを訴えた。
ラストソングは「大切なものへ」。カバーアルバム『昭和を詠う~大切なものへ~』に収録したオリジナル曲だった。
「インディーズ時代の2011年に書いた曲です。私の大切な家族に向けてつくった曲でした。今回、この曲を歌うことに決めたときに、この曲を彼女にも聴いてもらえたらよかったなと思いました・・・」
アルバムでは中国楽器の二胡が心地いいが、この日はバイオリンの音色が歌声と融合し、蘭華は“あなたを愛する人がいる”(歌詞より)と言霊を届けた。
来年7月22日にまた会いましょう
「すごくいい匂い。今日、初めてホッとしました。うれしいな」
アンコールに登場した蘭華にファンが花束を贈ると、花のいい香りに蘭華は癒やされていた。じつは3週間ほど前に引いた夏風邪をこじらせてしまい、ライブの3日前まで寝込んでいたという。9月28日という誕生日当日に開催することが決まった記念ライブに、蘭華はハッピーになりたいと期待していたが、不安な気持ちを抱えたまま本番を迎えていたのだ。
無事、ライブを終えた安堵感から笑顔を見せた蘭華は、「私のオリジナル曲の中でもいちばん明るい曲です」と、セカンドアルバム『悲しみにつかれたら』から「大地の祭り」をアンコールに歌うと、観客は手拍子で応えた。
「この曲の作詞はマネージャーなんです。今日、初めて言いました(笑)」
作詞 “島あづき”の正体が水島秀昭マネージャーだと明かすと、蘭華はいらずらっぽく笑っていた。そして、この日の最後に「私がいちばん大切にしている歌です」と、もうひとつのデビュー曲「ねがいうた」を歌った。
「『ねがいうた』には、いつか私を支えてくれた人に恩返しをしたいという思いが込められています。念願だったオリコンで初登場33位という順位をいただきました。演歌歌謡曲ランキングでは1位でした。たくさんのお客さんに出会って、その人たちのおかげで今も頑張れています」
デビュー曲「ねがいうた」は2020年、現在の所属レーベル 徳間ジャパンコミュニケーションズから両A面シングル『ねがいうた/愛を耕す人』としてもう一度リリースされている。
蘭華は「この歌を全国の人に知ってもらいたいと、今も思っています」と約2時間半のステージを終えると、来年7月22日のデビュー記念日にまた会いましょう! とファンに呼びかけた。この日、蘭華はメジャーデビューして丸10年を迎える。
「蘭華バースデーライブ2024」では音楽プロデューサーの柿崎譲志氏とマネージャーの水島秀昭氏が加わり、ファーストアルバム『東京恋文』から「楽園」が披露される場面もあった。
2023年12月13日発売
セルフプロデュースによる3rdアルバム
蘭華『遺書』
蘭華にとって第3作目となる本作には、生きづらさを感じるすべての人への切実なメッセージが込められている。自身が体験した現代の闇に鋭い視点で切り込んだメッセージの数々、社会への問題定義を問う意欲作だが、メロディーにも注目したい。
前作『悲しみにつかれたら』では、ジャズ、ブルース、シャンソン、和など、様々なジャンルが凝縮された世界観を作り出したが、今作では令和サウンドを追求し、耳に残るキャッチ―なメロディーと、リアルな思いが詰まった全10曲で構成。彼女の王道であるバラードの他に、R&B、ヒップホップ、アニソン風など新境地とも言える作品群が並ぶ。
またディレクターには加藤和彦、稲垣潤一、小田和正、泉谷しげるをはじめ、多くのアーティストに携わった柿崎譲志。さらにアレンジャーには、船山基紀、宮原慶太、入江純、住吉中、小名川高広、菊池達也など豪華な面々が集結した。
収録曲
01.僕は生きてる
作詞/蘭華 作曲/蘭華 編曲/綾部健三郎
02.あの娘は今日も
作詞/蘭華 作曲/蘭華 編曲/小名川高広
03.With you
作詞/蘭華 作曲/蘭華 編曲/宮原慶太
04.ヒーローになりたい
作詞/蘭華 作曲/蘭華 編曲/蘭華
05.誹謗中傷をやめないあなたへ
作詞/蘭華 作曲/蘭華 編曲/森俊之
06.米花町ブルース
作詞/蘭華 作曲/蘭華 編曲/住吉中
07.扉を開けるなら今
作詞/蘭華 作曲/蘭華 編曲/入江純
08.愛しき我が故郷
作詞/蘭華 作曲/蘭華 編曲/柿崎譲志、菊池達也
09.愛を耕す人
作詞/蘭華 作曲/蘭華 編曲/綾部健三郎
10.遺書
作詞/蘭華 作曲/蘭華 編曲/船山基紀