野中さおりが表現する和の世界観~20年以上温められた新曲「雪すみれ」~
耳に心地のいいファルセットで女心を歌う野中さおり。新曲「雪すみれ」は恩師である作詞家の松井由利夫氏が20年以上前に書き下ろし、野中が手元に置いてずっと温めていた歌詞に、松井氏と親交のあった作曲家・岡千秋氏が曲をつけたもの。デビュー35周年を目前に控え、思いの詰まった曲で和の世界観を表現する。
きっと先生がエールを!
――新曲「雪すみれ」は素敵なタイトルですね。どのような内容の作品でしょうか。
野中 皆さんご存じのように“すみれ”は可憐でありながらも健気にどんな場所にでも花を咲かせます。それはたとえ大地を覆う根雪の中にだって咲かせるという強さです。大変な状況の中でもしっかりと咲くすみれに芯の強い女性をたとえて、その心境を歌いました。
――作詞は松井由利夫先生(2009年2月に逝去)、作曲は岡千秋先生ですが、松井先生はずいぶん前にこの詩を書かれていたそうですね。
野中 もう20年以上前のことになります。先生から直接、手渡しでいただき大切に持っていたものです。
――作品としては、3作目のシングル「火振り酒」(1992年)からのご縁ですね。
野中 デビューして間もない頃で、ちょっとした悩みや相談ごとがあると先生に連絡させていただくことが何度もありました。そんなある日、先生が私を元気づけようと、先生のお好きなあんみつを食べに連れていっていただいたことがあって、その時に「こういう詩を書いたんだけど」と渡してくださいました。
――それからずっとご自分の中で温めていた?
野中 大切にしていましたね。先生は「今すぐでなくていいから年を重ねていいタイミングが来たら歌ってくれるとうれしい」とおっしゃって、私も当時は20代前半だったので今ではないと思って。大切にしすぎてタイミングがわからなくなった時期もありましたし、新曲の話をいただくたびに何度も何度もこの歌詞を取り出して眺めていたこともありました。この歌を歌うのはいつなんだろうと思う一方で、何となく今じゃないよなと思っていました。
――今がちょうどそのタイミングになったのですね。
野中 私も年を重ねて40代最後になったのと、今年はデビューして丸33年が経ち、35周年目前なんです。それに向けてホップ・ステップ・ジャンプと勢いつけるためにも先生の想いをお借りしたいをという思いもあり、いいタイミングだと思って。先生もきっとエールを送る意味合いもあって手渡してくださったのかなあと感じています。この心境になるまでに20年が経ちました。
「夢をあきらめないで」
――野中さんにとって、松井先生はどのような存在でしたか?
野中 歌手とは何たるものかを教えていただきました。今頑張れているのは先生のいろいろな言葉があったからだと思えるほど、たくさんのアドバイスやお声をかけていただいて、師匠であり父でもある方です。
――心に強く残っている先生の言葉はありますか?
野中 お手紙のやりとりをさせていただくと、必ず最後に「夢をあきらめないで」と書いてくださいました。歌手はファンの方に夢を感じていただくことも大切なので、私自身も夢を持ち続けてステージに立たせていただくことがとても大切だと感じています。また、自分の思った方向に進んでいくことで、ぶれることなく一人の歌い手が確立していくというお話も印象に残っています。先生と出会った18歳の時にこういうお話しをしてくださって、私を見守ってくださる人がいると思うと、とても心強いことでした。
――新曲「雪すみれ」への想いもひとしおですね。野中さんの心地よく響くファルセットが魅力的ですが、新曲ならではの歌い方に工夫はありますか?
野中 この曲は歌い上げるというより隣の人に話しかけるように歌っています。サビの部分だけは感情を込めて訴えかけるように、ほかは語り掛けるようにしてファルセットもサビの部分ではなくて、ところどころにちりばめました。歌詞が和の世界を美しく表現しているので、作品の世界観が伝わるようにと表現しました。
――ジャケット写真の髪型も大正ロマン風で、こちらも曲の世界観にぴったりですね。
野中 おかげさまで着物を楽しみにしてくださるファンの方々も多いので、女性のスタッフさんと相談に相談を重ねてこの紫の着物に決めました。大正から昭和の初めごろの懐かしい雰囲気も感じていただければと思います。
歌手生活35周年に向けて・・・
――カップリングの「夢かんざし」の作詞もまた、里村龍一先生(2021年10月逝去)の遺作ですね。
野中 そうなんですよね。里村先生が「曲にするのはいつでもいいから」と詩を渡してくださって、こちらもずっと温めていた作品です。故郷を離れて頑張っていらっしゃる方の想いを歌うので、今の状況にいいんじゃないかと、思いきってレコーディングした曲です。「変に頑張りすぎずに頑張れよ」と先生に応援していただいているようです。
――「夢かんざし」の“夢”は、松井先生の「夢をあきらめるな」という言葉にもリンクしていますね。野中さんの夢を聞かせてください。
野中 存在感がある歌い手になりたいですね。歌手を目指す10代の子が私の衣裳を真似してくれることもあるので、影響力のある歌い手になりたいと思いますし、そうでなくても私の歌を聴いていただいて「元気が出たなあ」「よかったなあ」と思っていただきたいですね。
――今年デビュー34年目を迎えられますが、記念となる35周年が楽しみです。
野中 毎年、「もう少し、もう少し」と思いながらここまで続けられてきたのは、皆さんのおかげです。35周年に向けてホップ・ステップ・ジャンプで言えば、今は“ホ”のあたり。35周年にはせめてホップの“プ”ぐらいまでいって、記念のステージができるように頑張ります。
2022年3月2日発売
野中さおり「雪すみれ」
恩師・松井由利夫氏が20年以上前に野中さおりのために書き下ろしていたという「雪すみれ」。しっとりとした情緒あふれる歌詞の中に、女性の芯の強さを感じる表題曲。カップリング曲の「夢かんざし」もまた作詞家の里村龍一氏が野中のために書き下ろしていた作品。故郷を想いながら都会で頑張る主人公が描かれる。作曲は2曲とも岡千秋氏。親交のあった岡氏が両氏の詞の世界観を鮮やかに描き出す。CDには日舞・五條流(野中本人稽古中の流派)の振付用紙が封入される。
profile
野中さおり(のなか・さおり)
栃木県生まれ。1987年、テレビ東京「スターは君だ! ヤング歌謡大賞」でチャンピオンを獲得。1989年、「やらんかい」でデビュー。1994年、5枚目シングル「雪国恋人形」がカラオケファンに絶大な人気を得て15万枚を超えるヒットとなる。1997年、デビュー10周年記念コンサートを全国60カ所で開催。2018年、30周年を機に、歌手名を「野中彩央里」から「野中さおり」に改名。同年8月、歌手生活30周年記念作品「天の川恋歌」をリリース。昔からラジオが好きで、「とくに最近はラジオドラマをよく聞くようになり、多彩な表現方法や間の取り方などにテレビと違う映像が頭に浮かび感動することがよくある」と言う。「朝はさわやかな声、夜なら落ち着きのある声といった具合に時間によってラジオから流れる声も変わるので、機会があれば、ラジオドラマにも挑戦したい」(野中)。2021年8月、有線放送のお問合せランキングで1位となったユニット「黒谷兄弟withさおりママ」の“さおりママ”に似ているという噂がある。
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