川神あいの「清水次郎長外伝~お蝶」。一人三役を演じる歌謡浪曲にチャレンジ
輝きを放つ3曲を収録したシングル「清水次郎長外伝~お蝶」をリリースした川神あい。カップリング曲「真(まこと)の夢」では自身初の作詞・作曲に挑戦し、山あり谷ありの歌手人生を支えてくれたファンへの感謝の気持ちを表現している。デビュー35周年の”あいちゃん”によるファンへの思い、新曲への意気込み思いを聞いた。
まさに川神あいの“情熱大陸”
――1987年にデビューされて35周年です。7月にはステージトラック「愛ドリーム号」のお披露目がありました。コロナ禍で歌う機会が減ってしまった川神さんのためにファンの方が準備してくださったとうかがいました。
川神 私がお金を出したり、スポンサーがいたりとかじゃなくてね。ファンクラブの皆さんが作ってくださったことに重みを感じます。「その台の下を担当するわ」とか、「つっかえ棒は私が担当するわ」とか。お金をたくさん出してくださった方もいますが、皆さんで協力し合っていただいて完成した「愛ドリーム号」。だから価値があると思っています。
――それだけファンの皆さんは川神さんの歌を聴きたいし、歌ってもらいたかった。
川神 そう。「あいちゃんに歌わせてあげたい。野外ならいいんじゃない」っていうのが最初のきっかけ。一年がかりでしたね。4トントラックを使っていますが、新車で買うと車両代だけでも相当お金がかかります。ですので、中古できれいな車を探してくださったんですが、探す作業だけでも大変だし、ラッピングはどうするか、誰に頼むか、いい人いないか・・・とか。限られた予算の中で、皆さん一生懸命工夫してくださった。それでも最終的に高額になっていると思います。発電機だ、照明だ、音響だ、スピーカーだって、楽器も含めて全部そろえるわけですから。でも、そういう皆さんの情熱があって、今の川神あいがいます。まさに“情熱大陸”なんですよ(笑)。
――ステージトラックが完成した時、どんなお気持ちでしたか?
川神 うれしいよりも感謝でした。皆さんもコロナで大変なのにね。余裕があるとかないとか、そういうことを度外視して、「やるんだ!」って目的に向かってくれた皆さんのその気持ちがうれしかった。コロナ禍では本当に仕事ができませんでした。イベントもできない、歌も歌えない。でも、皆さんの温かい気持ちがいつも私の周りにあって、「川神あいって幸せな歌手だな」って思いました。「自分の娘のように、家族のように応援してくださるファンの方たちが今日まで支えてくれたな」って、しみじみ。そういう感謝があって、今回の「真(まこと)の夢」ができたんですよ。
愛の花になって「ありがとう」って伝えたい
――新曲「清水次郎長外伝~お蝶」のカップリング曲ですね。「真の夢」の作詞・作曲者の北原三千代さんは、川神さんの作家名だそうですが、どんな作品ですか? また今まで作詞・作曲をされたことは?
川神 もう全然。まったくやったことない。自分には作詞・作曲の才能がないと思っていました。でも、感謝の日々が続いていたら、やっぱり涙も出るんですよ。自分が苦労していた時とか、支えてくれた人たちの思いが浮かんでね。「悔し涙も流したけど、情けの涙がいいな」って思ったし、「本当にこの人たちに支えられてきたんだ」って心の底から思っていたからできたのかもしれませんが、朝方の3時半ぐらいに歌詞が降りてきて。15分ぐらいで一気に書いたんですよ。タッタッタッタって言葉がドンドンと出てきて。歌詞の始まりは「人に見せない涙の数を 知って照らすかおぼろ月」。最初は“情け月”って出たんですけど、自分の涙で潤んで月がおぼろに見えるほうがいいかなと思って“おぼろ月”にしました。
――歌詞には、支えてくれた人への感謝と同時に、だからこそ頑張ろうという気持ちが表現されています。まさに川神あいさんの歌手人生?
川神 そうなんですよ。頑張っていた時の情けって染みますよね。ですので3番では、今度は自分が夢を実らせて、支えてくれた人たちを幸せにする、自分が愛の花に変わるんだっていう思いを表現しました。愛の花になって、みんなに「ありがとう」って伝えたいと思いました。
――作詞は突然、降りてきたとのことですが、作曲は?
川神 自然とメロディーが出ちゃったんですよ。歌詞が浮かんだ翌日の6時半に! いつも降りるのが朝なんです。ふっと目が覚めた時に鼻歌で歌っていて、自分でも、いいメロディーだなと思って、譜面に起こしました。
――そして、「真の夢」を収録されることになったわけですね。
川神 そうですね。35周年の記念曲として、「真の夢」のような作品が一曲ぐらいあってもいいと思って、ディレクターさんに相談しました。「お客様への感謝の歌を自分で書いたんですけど、どうでしょうか?」って。ディレクターさんも「いいじゃない」って言ってくださって、それでボーナストラック的な感じで入れていただきました。
――作詞・作曲することへの気持ちに少し火がつきましたか?
川神 これまでもつながりのある先生方に書いていただきましたし、今後もそれは変わらないと思います。本格的にシンガーソングライターになろうという気持ちもないですが、ちょっと端っこで、こういうチャレンジはあってもいいかな。散歩していて「あれ? これ、いいな」とか思って、ササッと書くのはありかもしれません。ただ、追い立てられても作品は書けないと思います。既存のいい言葉だけ並べて歌っても感動しないですもんね。
「清水次郎長外伝~お蝶」。これぞ川神あいの世界観!
――表題曲「清水次郎長外伝~お蝶」についてもお聞かせください。幕末から明治にかけて博徒や実業家として名をとどろかせた人物と、最初の妻・初代お蝶との死別が描かれる歌謡浪曲となっています。
川神 持ち歌にオリジナルの歌謡浪曲がなかったので、一曲ほしいなと思っていました。「瞼の母」や「岸壁の母」「九段の母」など、既存の歌謡浪曲を披露させていただくと、お客様がとても喜んでくださるので、ステージでは必ず歌謡浪曲を一曲は歌っていました。いろんなジャンルの歌を歌わせていただいていますが、歌謡浪曲は子どもの頃から親しんでいる原点でもあったので、川神あいの世界観を感じていただくいい機会かなと思いました。
――歌だけじゃなく、浪曲やセリフが入っています。
川神 ええ。オリジナルでは初めての試みでした。セリフでは一人で3役を演じ分けています。皆さんが面倒でやらないだろうなと思う世界を逆にやってみたかったんです。「一人で演じているの!?」って思わせるぐらいやろうって。チャレンジでしたが、聴きどころでもあります。
――レコーディングはいかがでしたか?
川神 今年3月に発売したアルバム(「川神あいリクエスト23『飛翔』」)の中に、「お蝶」という作品が入ってます。「清水次郎長外伝~お蝶」は「お蝶」のシングルカットなんです。「お蝶」自体は5年前にできていて、当時は12~13分の長尺だったんですが、浪曲を入れつつ6分に縮めました。アルバムのレコーディングでは、あまり感情を入れないで、サラッと軽く歌っています。でも、シングルカットのレコーディングでは少し情念を込めて歌いました。アルバムは他の曲との流れもあるのでサラッと。シングルはドシッとって感じです。
「情艶恋歌」は令和の「天城越え」か
――カップリング曲「情艶恋歌」も聴き応えがありました。カラオケで人気が出そうです。
川神 この曲も情念の歌なんですけど、メロディーは柔らかいんです。石川さゆりさんの「天城越え」まではいかないけど、世界観としては「天城越え」に近いかな。作曲の西村幸輔先生は、普段は歌詞が先にあってメロディーをつけられますが、「情艶恋歌」では、先にメロディーができあがって、「これにハマる詞を考えたいよね」、「あいさんに合う世界観の歌を作りたい」と、歌詞が考えられました。
――作詞の内田りま先生(2015年、日本作詩家協会50周年記念大賞受賞)とのコンビは初めて?
川神 ええ。メロディーができた後、西村先生から内田先生をご紹介いただき、3人で詞の世界観をディスカッションさせていただきました。そうしてできあがったのが「情艶恋歌」です。「天城越え」には、“あなたを殺していいですか”という歌詞がありますが、「情艶恋歌」では、“あのまま殺して 欲しかった”という受け身の歌詞になっています。ちょっと柔らかい情念の歌。演じて歌うっていうかな。歌の世界に入り込んで、自分が主人公なりきって歌うと楽しんでいただける一曲です。
――“火鉢のあかい火で 映した白い肌” “真っ赤な契りの 爪あとを”など、少しエロティックな言葉も入っています。
川神 カラオケで歌うときは、色っぽさも表現してほしいですね。
――シングル「清水次郎長外伝~お蝶」をリリースされた今のお気持ちは?
川神 「清水次郎長外伝~お蝶」に関して、5年越しのシングルカットだし、「真の夢」では自身初の作詞・作曲の曲を入れてもらえたし、35周年という節目の年にいい3曲がまとまったかなと思っています。全曲が違う色の歌で、盛りだくさんの一枚になりました。お客様も飽きないんじゃないかと思います。
――35周年についてはいかがですか? 今後一年、どのような年にしたいですか?
川神 ウィズ・コロナになって、皆さんも少しずつ恐怖から解放され、安心して歌を聴いていただける環境になってくると思うので、一人でも多くの方のところへうかがって、歌を聴いていただく機会を持ちたいですね。この2年間、ほとんどキャンペーンができなかったので、前作「三日月オペラ」も引き連れながら全国を回りたいと思っています。
(構成=渡部夏海)
前作「三日月オペラ」がロングヒット。急上昇ランキングで第1位に!
川神あいが2020年4月にリリースした「三日月オペラ」は、ほとんどプロモーションができていないが、YouTubeにアップされているミュージックビデオの再生回数が30万回を超えている。(2021年12月時点)。
「今年(2021年)の1月27日には、DAMの全国で歌われているカラオケ急上昇ランキングで総合1位を獲ったんです。演歌歌謡曲部門じゃないですよ。私も『えっ!?』って思ったの。ファンの方が『三日月オペラ』が乃木坂46を抑えて1位になってるよって。その日だけ集中して全国的に『三日月オペラ』が歌われたんだろうなと思いますが、新曲『清水次郎長~お蝶』と一緒に、この曲もまだまだ歌っていきたいと思います」(川神)
2021年11月3日
川神あい「清水次郎長外伝~お蝶」
「清水次郎長外伝~お蝶」は伝説の大親分・清水次郎長の妻、初代お蝶が主人公の時代劇風作品。夫婦の愛情を感じさせる聴きごたえ充分の歌謡浪曲に仕上がっている。次郎長、お蝶、子分の3人のセリフを一人で演じ分けているところはじっくり聴きこんでみてほしい。
2020年4月1日発売
川神あい「三日月オペラ」
Profile
川神あい(かわかみ・あい)
6月9日、茨城県生まれ。1987年、木村優希としてワーナーパイオニアより「恋知りざかり」でメジャーデビューを果たし、数々の新人賞を受賞。テレビ、ラジオ、舞台、座長公演と、歌だけにとどまらずオールマイティーな才能を発揮してさまざまなフィールドで活躍する。2004年、「水をください」を発売。同時に現芸名の「川神あい」へと改名。演歌、歌謡曲、ポップス、歌謡浪曲となんでも歌いこなし、その明るい笑顔とパワフルな歌声で多くのファンを魅了し元気を与え続けている。2021年7月、ファンクラブが製作したステージトラック「愛ドリーム号」が完成し、地元で開催した初お披露目ライブでは、約800名の観客が集まった。2022年はデビュー35周年。「愛ドリーム号」で全国へ歌を届ける。