【連載】師匠と僕 村木 弾 第9回

「デビューへの葛藤」

巨匠、故・船村徹先生の最後の内弟子である僕が、師匠との思い出の日々を紐解く。2015年、楽想館での最後の年末。僕は師匠から離れる寂しさに涙が止まらなかった。

 

2015年(平成27年)も終わりに近づいた頃、これから東京で一人暮らしをするためのアパートへの引っ越しも済ませ、内弟子として楽想館で迎える最後の年末となった。

23歳で船村 徹先生の内弟子になり、約12年半。時には唄い手になることを諦めて秋田へ帰ろうかと思ったこともあった。そんなとき、先生のご家族はじめ、兄弟子の先輩たちの励ましの言葉に何度も助けられた。そして、何よりも“船村 徹”という先生の人間性、人柄に惚れ、この先生に付いていきたいという気持ちが日に日に強くなっていった。社会人としての仕事が3年ともたなかった自分が、12年半もの間、同じところにいられたのは、先生への気持ち、この一点に尽きる。また、そんな半端者の自分を長い期間、そばに置いてくれた船村先生に感謝である。

内弟子として先生とともにする最後の夕食は、たくさんの思い出が頭のなかを駆け巡った。いろいろなことが甦り、涙が止まらなかった。デビューできることに喜びを感じている反面、やはり、まだ先生のもとから離れたくないと思っている自分がいた。毎日、先生に叱られた。人前で自分の弟子を褒めるということもしない先生だった。でも、2人で食事するときや車で移動する際、ポツリと一言、労いの言葉をかけてくれた。心の温かさ、懐の深さ、そんな先生を知っているからこそ、なおさら涙が止まらなかった。

夕食を終え、寝室へ向かう階段を上る先生の背中に、僕は「先生、12年半、ホントにお世話になりました。ホントにありがとうございました」とあいさつした。先生は「うん、ごくろうさん」と言って、寝室のドアを閉めた。

2013年6月の山の日、県決起大会での一枚。船村先生に寄り添って過ごした12年半は、忘れられない思い出ばかりだ

この日は、先生のご家族も楽想館に来ていっしょに食事をしたので、ご家族の皆様にも長い間、お世話になったあいさつをして、第二の故郷である栃木県の楽想館を後にした。

その後、アパートへ戻り、新たな出発となる2016年を迎えた。2月のデビューを控え、1月中は新聞社へのあいさつ回りから始まり、雑誌の取材や番組の収録などで過ぎていった。

2月12日、東京・日枝神社でデビュー曲のヒット祈願が行われた。船村先生は体調を崩していたため欠席だったが、舟木一夫さんと日本コロムビア社長(当時)に同席していただいた。本来であれば、この時期は一番寒い季節なのだが、春並みの陽気で天候にも恵まれ、無事終了した。

2016年(平成28年)2月17日、作詞&プロデュース・舟木一夫さん、作曲・船村 徹先生の「ござる~GOZARU~」で、村木弾は唄い手としてデビューした。

 

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船村 徹氏
昭和7年、栃木県船生村生まれ。昭和24年、東洋音楽学校(現東京音楽大学)ではピアノ科に学ぶ。昭和30年、春日八郎のデビュー作「別れの一本杉」で作曲家デビュー。その後、数々の名曲を世に送り出し、作品数は約5000曲以上とも言われる。歌謡曲の作曲家として初めて文化勲章を受章。2017年〈平成29年〉2月16日永眠。

 

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TEL 090-8101-8196
〒256-0812神奈川県小田原市国府津2-2-3
萩原保子




Profile
村木 弾(むらき・だん)
1980年秋田県生まれ。鳶職、現場監督の仕事に従事していたが、2003年、歌手を目指して故・船村徹氏の最後の内弟子となる。2016年に、作詞&プロデュース・舟木一夫、作曲・船村氏による「ござる〜GOZARU〜」でデビュー。

日本コロムビア 村木弾ページ
村木弾 公式Twitter