五木ひろし、坂本冬美

「五木ひろし特別公演 坂本冬美特別出演」が開幕。伝説の喜劇「喧嘩安兵衛」は今回がベストの出来

五木ひろしと坂本冬美による劇場公演が7月5日、東京・中央区の明治座で開幕した。

「五木ひろし特別公演 坂本冬美特別出演」と題する舞台は、五木のデビュー60周年記念の公演となっており、芝居と歌唱ショーの2本立て。芝居では自身6度目となる喜劇「喧嘩安兵衛」を上演。小野田勇・作、三木のり平・演出の芝居で、昨年、三木のり平の生誕100年を記念して、20数年ぶりに大阪・新歌舞伎座で再演されたところ好評を博し、明治座でも上演することなった。

五木ひろし、坂本冬美

喜寿を迎えた五木が大立ち回りを演じる挑戦の舞台でもあり、共演は笹野高史や太川陽介、曾我野寛太郎、麻乃佳世など。講談師・神田伯山がナレーションを務める。

同公演は7月27日まで行われる。初日舞台を終えた五木は、「暑いですから熱中症にお気をつけていただいて、明治座へ足をお運び下さい。来てよかったなと思っていただけるように頑張ります」と来場を呼びかけた。

五木ひろし特別公演 坂本冬美特別出演 明治座

写真提供:新歌舞伎座 Ⓒ田中聖太郎

五木ひろし特別公演 坂本冬美特別出演 明治座

写真提供:新歌舞伎座 Ⓒ田中聖太郎

デビュー60周年の集大成、衰え知らぬパワーで魅了

60年という長きにわたりトップランナーとして走り続ける五木ひろし。その記念すべき公演の初日は、万雷の拍手と熱気に包まれた。五木は「心地いい最高の気分です」と笑顔を見せ、「この雰囲気で千穐楽まで突っ走っていきたい」と力強く宣言した。自らの持ち味を「パワフルさ」と語る五木。その言葉通り、芝居と歌謡ショーという長丁場の舞台をエネルギッシュに牽引する姿は圧巻だ。

そんな五木を力強く支えるのが、特別出演の坂本冬美だ。坂本は「五木先輩の60周年という記念の公演にご一緒させていただけるのは、本当に幸せなこと。先輩のパワフルなエンジンについていけるよう、千穐楽まで誠心誠意努めます」と意気込みを語る。

五木も「今、もっとも輝いている女性歌手」と坂本を絶賛。デビュー当時から知る後輩との共演に、「本当に誇らしい。いい相手に恵まれました」と目を細めた。長年の信頼関係で結ばれた二人が織りなすハーモニーは、本公演の大きな見どころとなっている。

五木ひろし特別公演 坂本冬美特別出演 明治座

写真提供:新歌舞伎座 Ⓒ田中聖太郎

伝説の喜劇「喧嘩安兵衛」と舞台裏の“秘話”

第一部の芝居「喧嘩安兵衛」は、五木にとって思い入れの深い作品だ。もともとは昭和を代表する喜劇役者・三木のり平が演出し、五木が受け継いできた人情喜劇。昨年、三木のり平の生誕100年を記念して20数年ぶりに再演され、好評を博した。五木は「今回が最後の上演になるかもしれない」とその貴重さを語る。

五木ひろし特別公演 坂本冬美特別出演 明治座

写真提供:新歌舞伎座 Ⓒ田中聖太郎

五木ひろし特別公演 坂本冬美特別出演 明治座

写真提供:新歌舞伎座 Ⓒ田中聖太郎

この作品には、脚本家の故・小野田勇先生との思い出も詰まっている。五木は「小野田先生は台本が仕上がるのがものすごく遅いことで有名でしてね」と笑いながら明かす。「第一幕の稽古が終わったあとに、第二幕の台本が届くこともあった。でも、台本が遅れるほど面白い作品になるんです。それでも、せめて3日前には仕上げてほしかったな」と冗談めかし、取材陣を笑わせた。

こうした伝説のクリエイターたちの魂が宿る舞台を、現代に継承していくことへの使命感も強い。

「最近は芝居と歌の二本立てという劇場公演が少なくなってきましたが、この形式を大事に、次の世代にも受け継いでほしい」と五木は語る。稽古では、誰よりも早くセリフを覚えてしまうという五木だが、座長がセリフをすべて覚えていると共演者に余計なプレッシャーをかけてしまうと、公演直前まであえて台本を持ち稽古。共演者との調和を大切にしながら全体像を掴むスタイルを採る。

一方、坂本は「覚えるのに時間がかかるので、自分でセリフを録音して繰り返し聴いて覚えています」と、地道な努力を明かした。対照的ながらも、最高の舞台を作り上げようとする二人のプロ意識が垣間見える。

五木ひろし特別公演 坂本冬美特別出演 明治座

写真提供:新歌舞伎座 Ⓒ田中聖太郎

「底辺とてっぺん」を知る60年、そして未来へ

1965年のデビューから60年。五木は「売れない底辺の時代も、頂点も、両方を経験させてもらった。この経験こそが今の自分の糧になっている」と、その歩みを静かに振り返る。そして、「子どもたちが『お父さんは頑張っているな』と誇りに思ってくれることが、頑張り続けるモチベーションになっています」と家族への思いを語り、さらには孫が物心つくまで頑張りたいと、その目標はさらに先へと広がっている。

五木ひろし特別公演 坂本冬美特別出演 明治座

写真提供:新歌舞伎座 Ⓒ田中聖太郎

五木ひろし特別公演 坂本冬美特別出演 明治座

写真提供:新歌舞伎座 Ⓒ田中聖太郎

坂本もまた、来年にデビュー40周年という大きな節目を控える。

「40年と聞くとすごい年月ですが、60周年の先輩の隣にいると、まだまだだなと感じます。目標となる先輩方がいるから頑張れます」と謙遜する。しかし、五木は「(彼女の)師匠である二葉百合子先生は(私より)さらに長く歌われていますし、上を見ればきりがないから頑張って」とエールを送る。

公演は真夏の開催となるが、健康管理にも万全を期す。五木は「部屋の冷房を効かせすぎないこと」を徹底。坂本は「温かいものと冷たいものをバランス良く摂ったりして調節しています」と工夫を明かした。

最後に五木は、「(芝居に関して)新歌舞伎座での公演からさらに内容が充実し、今回の公演がベストだと自負しています。劇場ならではの演出も楽しんでほしい」とアピールした。

60年の芸の深みと、未来への尽きせぬ情熱が交差するステージをこの目で確かめたい。

 


五木ひろし、坂本冬美

五木ひろし・坂本冬美 主なQ&A

Q 初日の舞台を終えられた、今のお気持ちをお聞かせください。

五木 おかげさまで最高の気分で初日を終えることができました。お客様から大きな拍手とご声援をいただいて、心地いいです。疲れも一気に出てきましたから、本当なら今すぐに家に帰りたいぐらいですけど(笑)。この良い雰囲気のまま、千穐楽まで突っ走っていきたいと思っています。

坂本 本当に、もう千穐楽じゃないかと思うくらい、お客様の反応が温かくて…。大きな拍手と笑い声に包まれて、感無量です。舞台に立てること自体が幸せですが、お客様からいただく拍手が本当に大きな励みになります。

Q お芝居と歌謡ショーの二本立ては、体力的にも大変ではないですか?

五木 僕はもう50年近く、この形式の公演を続けていますからね。これに慣れています。ただ、最近はこういうスタイルの公演が少なくなってきているのが少し寂しい気もします。日本の劇場文化として、こういう良いお芝居と良い歌を両方楽しんでいただく形を、僕らの次の世代にもぜひ受け継いでいってほしいなと思っています。

坂本 体力的にはもちろん大変なことではありますが、それ以上に、この舞台を経験させていただけることが幸せです。大変さを上回る喜びを、お客様からの拍手でいただいています。でも、五木先輩はもう、私たちが思っているのとはエンジンが違うんです。本当にパワフルで。その先輩の姿を見ていると、私も「大変」なんて言っていられません。一生懸命ついていけるように頑張ります。

Q セリフ覚えの工夫などがあれば教えてください。お二人は覚えるのが早い方ですか?

五木 僕はすごく早いんですよ。でも昔、デビューして座長公演を始めた頃、早く覚えすぎて一人でどんどん先に進んじゃって、周りにプレッシャーをかけたことがあってね(笑)。それ以来、覚えていてもあえて台本を持ちながら、全体の流れや共演者とのバランスを見るようにしています。本番の3日前くらいには完全に頭に入れて、本番に備える感じですね。ただ、お芝居のセリフより、歌の歌詞を覚える方が難しいんですよ。

坂本 私はかなり時間がかかる方です(笑)。ですから、自分で自分のセリフをスマホに録音して、移動中とかにそれをずっと耳で聴いて覚えるようにしています。目と耳と両方で体に染み込ませる感じですね。

Q デビュー60周年を迎えられ、改めて今のお気持ちは?

五木 1965年のデビューですから、本当に長い道のりでした。もちろん、なかなか売れない不遇の時代もありました。でも、今思えば「底辺」と「てっぺん」の両方を経験させてもらった。この60年間のあらゆる経験が、今の僕の糧になっているんだと強く感じます。底辺を知っているからこそ、“五木ひろし”になって「よこはま・たそがれ」に出会ったあとも、ヒット曲を出し続けたいと強く思うようになりました。人間、何事も経験が大事ですね。

五木ひろし、坂本冬美

Q お二人は付き合いが長いですが、特に印象的な思い出はありますか?

五木 冬美ちゃんがデビューした頃から知っていますからね。彼女が順調に、そして素敵に成長していく姿を見るのは、先輩として本当にうれしいし、誇らしいですよ。今回も、今もっとも輝いている女性歌手だと思って声をかけさせてもらいました。

坂本 時代劇の初舞台は五木先輩の舞台でしたが、私にとって、五木先輩の舞台に出させていただくことは、デビュー当時から夢のようなことでした。プライベートでもゴルフや食事に連れていってくださいますが、子どもの頃からの大スターの先輩とこうしてご一緒できるのは、本当に奇跡だと思っています。千穐楽まで、ご恩返しができるように誠心誠意努めたいです。

Q 今後の目標についてお聞かせください。

五木 実は来年、「五木ひろし」という名前になってからちょうど55周年なんです。それから、うちの孫が僕のことをちゃんと理解してくれるようになるまで頑張りたいなと(笑)。あと4~5年かな。そう思うと、目標がさらに広がっています。

坂本 私は来年、デビュー40周年という節目を迎えます。普通の歌手だったら「40年」ってすごい年月だなと思うんですが、60周年を迎えられた先輩の隣にいると、まだまだ足元にも及ばないなと感じます。

五木 でも、彼女の師匠である二葉百合子先生は(私より)さらに20年近く長く歌っていらっしゃるわけですから。まさに「上を見ればきりがない」。そういう素晴らしい目標となる先輩方がいるんだから、頑張ってほしいなと思っていますよ。

Q 公演は長丁場ですが、お二人の健康管理について教えてください。

五木 夏の公演ですから、とにかく冷房の効かせすぎに注意しています。特に寝るときに部屋を冷やしすぎると、かえって体調を崩してしまうので。そこは一番気をつけていますね。

坂本 私は小さな扇風機を持ち歩いたり、着たり脱いだりしやすい服装を心がけたり。あとは、冷たいものばかりじゃなくて、温かい飲み物も摂るようにして、体のバランスを調整しています。でも、舞台が終わった後のアイスクリームはやめられないんですけどね(笑)。

Q 最後にメッセージをお願いします。

五木 今日は本当にありがとうございます。一人でも多くの方がこの公演に興味を持って、明治座へ足を運んでくださればうれしいです。私のデビュー60周年記念のイベントは、この公演後もまだまだ続きます。そういう意味では、今回の公演で冬美ちゃんとの共演はしばらくお休みになりますが・・・(坂本さんの方を見て)来年は彼女の40周年ですからね。僕にできることがあればいつでも駆けつけますよ(笑)。お互いにこれからも頑張っていきたいですね。そして、ご来場くださる皆様、本当に暑い日が続きますので、熱中症にはくれぐれも気をつけてください。水分と塩分をしっかり補給して、元気に劇場へお越しいただければと思います。お待ちしております!

 


明治座「五木ひろし特別公演 坂本冬美特別出演」

第一部 花のお江戸の快男児 喧嘩安兵衛
小野田勇/作  三木のり平/演出  吉本哲雄/補綴 金子良次/補綴・演出
[共演]笹野高史、太川陽介、麻乃佳世、曽我廼家寛太郎ほか

《あらすじ》
元禄十五年十二月十五日明け七ツ、本所松坂町吉良上野介邸門前、大石内蔵助が打ち鳴らす山鹿流の陣太鼓を合図に赤穂四十七士が亡君の意趣を晴らさんと討ち入ったり・・・。

お話は討ち入りから遡りまして元禄七年、徳川の世も五代を重ねて将軍綱吉が納める下、天下泰平、商業・文化の花開く時代でございます。就中、江戸はお膝下、幕府始まって以来の繁昌を誇っておりましたが、その反面、武道はまったく軽んじられ、槍刀より金が物言う世の中、その上、幕府の大名取り潰し政策と相まって、扶持を離れ仕官の道を閉ざされた浪人の群れが八百八町にあふれておりました。ここ江戸上野は花見客で賑わう寛永寺清水堂から中山安兵衛と清水一学の歯車が廻り始め・・・。

《解説》
日本の三大仇討ちの一つである「忠臣蔵」に登場する実在の人物、中山安兵衛(のちの堀部安兵衛)の若き日を描いた人情喜劇だ。剣の腕は天下一品だが、少々酒癖が悪く、喧嘩っ早い好漢を五木ひろしが演じる。物語のクライマックスは歴史的にも有名な「高田馬場の決闘」。五木が大立ち回りで魅せる。

また、人情劇として安兵衛が暮らす長屋の住人たちとのコミカルで心温まるやり取りもふんだんに盛り込まれる。坂本冬美が演じる堀部幸は、そんな安兵衛を支え、彼の優しさを理解する存在として演じられ、二人の関係性も見どころ。観終わった後に心が温かくなるような物語に仕上がっている。

五木ひろし特別公演 坂本冬美特別出演 明治座 太川陽介

金貸し大判屋の用心棒を務める清水一学役の太川陽介。清水一学はのちに、赤穂浪士の吉良邸討ち入りの際には安兵衛と敵同士となる歴史上の人物だ。写真提供:新歌舞伎座 Ⓒ田中聖太郎

五木ひろし特別公演 坂本冬美特別出演 明治座 笹野高史

糊屋のおかん婆さん役を演じる笹野高史。今回の舞台には欠かせない役者のひとり。写真提供:新歌舞伎座 Ⓒ田中聖太郎

第二部 スペシャルショー
松園明/構成・演出
五木ひろし、坂本冬美の共演で届けられるショータイム

主な歌唱曲
五木ひろし「夜明けのブルース」「夜空」「よこはま・たそがれ」「山河」「母の顔」(新曲)
坂本冬美「祝い酒」「夜桜お七」「また君に恋してる」「浪花魂」(新曲)

[公演期間]
2025年7月5日(土)~7月27日(日)
[開演時間]
11:00/12:00/16:00 (※公演日による)

詳細は 明治座ホームページ

関連記事一覧