徳光和夫

徳光和夫に聞く“司会者”としての歌謡史~『徳光和夫の名曲にっぽん』明治座公演に向けて~

人気音楽番組『徳光和夫の名曲にっぽん』が東京・明治座に登場。明治座創業150周年×番組放送10周年記念として開催される舞台に、豪華アーティストが集結する。11月14日から始まる劇場版『徳光和夫の名曲にっぽん』に向けて、司会を務めるレジェンドアナウンサー 徳光和夫に話を聞くと、“徳光流音楽論”まで飛び出した。

 

『徳光和夫の名曲にっぽん』は通りすがりの番組だった!?

BSテレビ東京の音楽番組『徳光和夫の名曲にっぽん』は2013年に放送を開始し、今年10周年を迎えている。明治座での舞台化が発表されると、当サイトでも大きな話題となった。明治座での記念公演は7日間11公演が予定されており、若手からベテランまで多彩なアーティストが演歌歌謡曲の名曲を届ける。

――『徳光和夫の名曲にっぽん』の放送開始10周年おめでとうございます。劇場で舞台化されることについてはいかがですか?

徳光 まさかこんなことが実現するとは思ってもみませんでしたね。150年の歴史がある明治座で一音楽番組が舞台化されるとは。明治座という舞台は、お芝居もそうですが、歌の殿堂でもある。多くの歌い手が明治座の舞台に憧れ、舞台に立つことで一流と呼ばれるようになります。テレビの音楽番組史の中でも初めてのことじゃないでしょうか。本当に光栄です。

――この話が決まったときのお気持ちを聴かせてください。

徳光 日本テレビにアナウンサーとして入社した1年目から、司会者として歌番組を担当してきましたが、人生の中の大きな喜びとしては二つ目です。一つ目は、『年忘れにっぽんの歌』の司会を玉置宏さんから引き継いだときに、長い間、歌番組の司会をしてきてよかったなと思いました。今回は、まさか自分の番組が明治座の舞台で再現化できるとは? という、気分的には“してやったり”という喜びです。ただ、こんな思い出深い年に、我が読売ジャイアンツはなぜこんなにも体たらくなのか(笑)。

――『徳光和夫の名曲にっぽん』が長寿番組になるという予感はありましたか?

徳光 歌番組のMCとしては、通りすがりみたいな、軽い気持ちでお引き受けしました。申し訳ない言い方ですが、それが偽らざる出発点です。のちにうかがいましたが、当初は半年の予定だったそうです。ところが、BS放送の番組に、歌番組があまりなかったせいもあったんでしょうけれども、徐々に皆さんに受け入れられるようになり、歌手の皆さんからも評判もあって10年間続いています。

ミニスカートで歌う丘みどりに演歌の歌心を感じた日

――番組での印象的なエピソードや思い出は?

徳光 たくさんありすぎますが、(丘)みどりちゃんがそうかな。当時、彼女が関西ローカルで深夜に放送されていた歌番組のアシスタントをしていたんですが、ミニスカートの彼女が「越冬つばめ」を歌うわけです。「これほどまでにうまく歌うとは?」と驚きました。とくに声の伸びが素晴らしくて、「我々の番組に来てもらえないか」とお願いして出てもらったことがありました。

――丘みどりさんは番組への出演をきっかけに、上京を決意されたそうですね。まさにスカウトですね。

徳光 いえいえ。こんなかわいい女の子で、演歌をちゃんと歌える人はそれほどいるわけじゃなかったですからね。しかも超ミニスカートで歌っていましたから(笑)。歌謡曲の一ファンとしまして、彼女の演歌に歌心を感じました。みどりちゃんは、「メジャーな歌番組への最初の出演だった」と言って感謝してくれていますが、彼女の出演は印象に残っています。

徳光和夫

司会者に課せられた役割は”つなげること”

――番組ではムード歌謡も人気です。

徳光 私の勝手なんですが、「ムード歌謡を絶やしたくない」という思いがあります。和田弘とマヒナスターズから始まり、ロス・インディオスやロス・プリモス、東京ロマンチカなどムード歌謡の世界は歌謡曲につきものです。この世からスナックがなくならないかぎり、ムード歌謡は永遠だと思っていますが、令和の時代になっても、今もどこかのスナックで「銀座の恋の物語」とか「別れても好きな人」が歌われているでしょう。だからこそ、ムード歌謡を消したくないんですね。

――番組では昭和のムード歌謡を若手歌手が歌うことも。

徳光 山内惠介くんを始め、真田ナオキくん、辰巳ゆうとくん、新浜レオンくんなどに歌ってもらったところ、視聴者の皆さんがムード歌謡に入り込んでくださった。新しい演歌の担い手が番組で歌ってくれたことで、彼らのファンに響きました。一例を出しますと、惠ちゃんがマヒナスターズの「泣きぼくろ」を歌ってくれたときの評判がとてもよくて、彼がコンサートで歌うようになったんですが、番組きっかけで歌がつながりました。

――ムード歌謡を知らなかった人が評価くれました。

徳光 過去の名曲ですが、ファンには新鮮に聞こえたんでしょうね。過去の名曲や隠れた名曲を今につなげることが、私たち司会者に課せられた役割だと思います。五木ひろしさんなどは自らが歌うことで継承されていらっしゃいますし、その姿勢は立派だと思います。司会者はつなげることで、新しく出てくる歌い手に演歌歌謡曲を継承してもらいますし、つながることがある種の快感であると同時に、私の役割じゃないかと。それは『名曲にっぽん』の中ではつながっていますし、歌謡浪曲の世界では三山ひろしくんや山内惠介くんが、三波春夫さんという巨匠が残したものを息づかいまで再現して、見事に歌ってくれています。番組では歌謡浪曲だけを取り上げるという試みをしたことがありますが、我々の番組が最初だったと思います。「俺たちが最初だ!」という小さなやった感はありますね(笑)。

歌謡曲で大人の世界を知った少年時代

――徳光さんと演歌歌謡曲との関わりについてはいかがですか?

徳光 つねに一緒に歩いてきた気がします。マラソンの伴走者のような形で、歌謡曲を聞いて生きてきました。小学校時代に初めて美空ひばりさんの「越後獅子の唄」を4番まで歌えるようになったときの喜びはなかった。あそこから始まって、小学6年生になると、芸者さんの恋の歌を歌って大人の世界を知るわけです。ムード歌謡で、都会の夜の世界を知るわけです。

髙橋真梨子さんや竹内まりやさん、杏里さんなんかも歌謡曲というジャンルに入るかと思いますが、今、歌謡曲が若い人にも徐々に受け入れられています。歌謡曲はメロディが覚えやすいし、魅力がある。歌いやすいというのもあります。そこに若い人が気づいた。昭和歌謡や平成初期の歌謡曲が若い世代に支持されています。歌謡曲の伴奏者として、これは本当にうれしいですね。

徳光和夫流音楽論~理性世代と感性世代の歌世界~

――演歌歌謡曲の変遷も見てこられたわけですね。

徳光 世代を考えてみますと、60代後半ぐらいまでは理性世代、それ以前の若い人たちは感性世代だと思います。理性世代は物事を一つひとつ、何が正しいのか正しくないのか、これがためになるのかならないのかを判断してきました。ですから、ひとつの物事に対してじっくりと取り組みます。一方、感性世代はデジタル時代になって、情報がどんどん飛んでくるようになりました。すると、感性のアンテナを立てておかないと情報がキャッチできないわけです。物事の基準が好き嫌いとか、かっこいいかっこ悪い、得する損するかが判断の基準になってきました。テレビを通してそれを感じるわけです。

歌の世界も同じように変化してきまして、三人称の歌から二人称となり、「私だけがこう思う」という一人称の歌が主流になってきました。僕たちのような理性世代には付いていけない世界になってきた。理解するのに時間がかかるようになって、理解したときには、もう次の次まで進んでいます。ずっと音楽番組を担当してきて、私なりにそのように分析しています。

でも、取り残してきた、置き去りにしてきた歌にもたくさんのいい歌があります。私の中ではそれがムード歌謡の世界ですが、今、歌謡曲を歌ってくれる若い世代に過去のいい歌を伝え、つなげていきたいと強く思っています。

――徳光さんが長年、歌番組に携わる理由はなんでしょうか?

徳光 私は野球中継をやりたくて、長嶋茂雄さんの一挙手一投足を伝えたくてアナウンサーになりました。歌はただ単に好きなだけでした。司会者として歌番組を担当することになったときは、正直、残念でした。野球中継ができなくなっちゃうなと。でも、本物の歌手の本物の歌を番組の中で聴いたときには、「歌ってすごい」「この人たちはすごい人だ」と目の当たりにしました。その感動が私を歌番組へ向けさせてくれました。

ミーハーとして美空ひばりさんの歌のすごさや、北島三郎さんの表現力に圧倒され、さらには歌謡曲全盛時代を現場で体感しました。加山雄三さんの湘南サウンドがワーキャー言われ、その片方で北島三郎さんの女シリーズの演歌がヒットし、人気を二分した時代です。少し遅れてジョッキー吉川とブルーコメッツによるGSの世界が入ってくるわけですが、そんな時代の移り変わりに歌番組の中心にいることができました。日本には1億2000万人の人がいますが、それを体感したのはひとつまみの人だけ。60年以上のアナウンサー人生ですが、時代を体感できたのは感動です。

明治座で観る初めての歌謡ショーに向けて

――明治座公演ですが、どのような舞台になりそうですか?

徳光 歌をつないでくださる皆さんが真剣になって歌ってくれるでしょう。司会者ではありますが、ひとりの伴奏者として素晴らしい体験ができると楽しみにしています。歌い手の皆さんも明治座で歌えるとなると、心構えも変わってきます。テレビ収録では何度も同じ歌を歌うので、うまくこなすという気持ちも出てくるでしょうが、明治座の舞台では一人でも多くのお客様に歌を伝えないといけません。そんな中で司会ができるのは冥利につきます。

――7日間11公演になりますが、毎公演、新たな発見がありそうですね。

徳光 司会者としては“紹介”をするのが仕事ですが、長年、テレビに携わってきたことを語れると思います。歌番組の司会者として、それからアナウンサーとして重大な局面を目撃してきましたから、テレビの内側を話せるかな。そこはこれまでの明治座の舞台とは違うかな。変えるとするとそこかなと思います。私なりに感じた美空ひばりさんのお人柄などを語らせていただければありがたいと思っていますし、これまでの明治座での歌謡ショーとは違う味付けができると思います。

まさかこれだけの皆さんが顔をそろえてくださるとは、私自身、びっくりしています。こちらからこういう歌を歌ってほしいとお願いしたリクエストが実現する歌もありますので、本番の舞台でどう歌ってくださるのかが楽しみです。観に来てくださる皆さんが、明治座のファンの方が「これまでの明治座にはない歌謡ショーだった」と思ってくださるとうれしいですね。

 


徳光和夫の名曲にっぽん

公演概要

【公演名】明治座創業150周年記念『徳光和夫の名曲にっぽん』
【出演】〈MC〉徳光和夫
【アシスタント】おかゆ

【スペシャルゲスト(日替わり出演)】
14日(11:30/16:00)
由紀さおり・小林幸子・市川由紀乃・辰巳ゆうと・ベイビーブー

15日(13:00)
五木ひろし・市川由紀乃・丘みどり・新浜レオン・ベイビーブー

16日(11:30/16:00)
五木ひろし・小林幸子・天童よしみ・新浜レオン・ベイビーブー

17日(13:00)
坂本冬美・原田悠里・福田こうへい・中澤卓也・二葉百合子

18日(11:30/16:00)
里見浩太朗・中尾ミエ・堺正章・福田こうへい・はやぶさ

19日(13:00)
里見浩太朗・中尾ミエ・堺正章・すぎもとまさと・はやぶさ

20日(12:00/16:30)
坂本冬美・原田悠里・北山たけし・辰巳ゆうと・二葉百合子

【スペシャルゲスト紹介】
数多くの時代劇で主演を務め、明治座には2007年以来の出演となる里見浩太朗。歌だけでなく、映画やテレビドラマからバラエティーまで、多方面で活躍を続ける中尾ミエ。歌手、役者、司会とマルチな才能を発揮し、本作で19年ぶりの明治座登場となる堺正章。紅白歌合戦50回連続出場という歴代1位の記録を持つ、歌謡界のトップランナー五木ひろし。圧巻のステージパフォーマンスで若い世代からも支持されるラスボスこと小林幸子。ジャズから童謡まで、幅広いジャンルの楽曲で魅了する由紀さおり。艶やかかつ伸びやかな歌声で聴かせる天童よしみ。作曲家の顔を持ち、数々の名曲を世に送り出してきたすぎもとまさと
演歌歌手として不動の地位を築き、唯一無二の存在感を放つ坂本冬美。民謡で培った歌唱力で、観る者の心を震わす福田こうへい。実力派として演歌界を牽引する原田悠里市川由紀乃北山たけし丘みどり。演歌次世代スターとして注目される中澤卓也辰巳ゆうと新浜レオン。そして、ベイビーブーはやぶさ

徳光和夫と豪華アーティストたちが織りなす、明治座創業150周年と番組放送10周年を記念した夢のステージ『徳光和夫の名曲にっぽん』。この機会にしか観ることができない特別な時間になることは間違いない。なお、シークレットゲストは歌謡浪曲の第一人者である二葉百合子に決まった。

【スタッフ】
〔制作〕オフィスプロペラ
〔制作協力〕エムファーム
〔後援〕BSテレビ東京
〔企画・主催〕明治座

【公演日程】
2023年11月14日(火)~20日(月)

【開演時間】
11:30/12:00/13:00/16:00/16:30

【料金(税込)】
【11:30/12:00/13:00】S席12,000円(1・2階席) A席(3階席)7,000円
【16:00/16:30】 S席11,000円(1・2階席) A席(3階席)7,000円
※未就学児入場不可

【チケット発売】一般販売:販売中
【チケット問合せ】明治座チケットセンター:03-3666-6666(10:00~17:00)
10名以上のグループ鑑賞:03-3660-3941

【公式サイト】https://www.meijiza.co.jp/info/2023/2023_11_2/
【会場】明治座(東京都中央区日本橋浜町2-31-1)

関連記事一覧