
【注目曲】「お父う」から「おっかのよされ」へ――花京院しのぶが歌う、心に沁みる母と娘の望郷歌
「望郷新相馬」(2003年)に収録されたカップリング曲「お父う」が発売から20年以上を経て、今なお、カラオケファンに歌い継がれるという稀有なロングセラーを持つ歌手、“みちのく演歌の星” 花京院しのぶが、実に8年ぶりに新曲「おっかのよされ」をリリースした。
コロナ禍や大切な人との別れを乗り越え、満を持して世に放たれた一曲。彼女の真骨頂である“望郷演歌”の新たな金字塔となることを予感させる、感動的な作品に仕上がっている。
「お父う」から「おっか」へ。娘の視点で描く“望郷演歌”
多くの演歌が「都会に出た子が故郷の親を想う」という構図を描く中、この「おっかのよされ」は、その視点を巧みに反転させている。本作の主人公は、故郷に残り、都会へ出稼ぎに出た母(おっか)を案じる娘だ。
冒頭から広がるのは、雪深いみちのくの厳しい冬景色。その中で、娘は父と囲炉裏を囲みながら、都会にいる母を想う。花京院の代表曲「お父う」が息子から父への無骨な愛情を歌ったのに対し、「おっかのよされ」は娘から母への繊細で切実な情愛を描き出す。
――「おっかのよされ」は8年ぶりの新曲となりました。
花京院 本当は2020年頃に新曲を出すお話もあったのですが、コロナ禍になってしまって。その後、今度はプロデュースをしてくださっていた小西良太郎先生が亡くなられて・・・。なかなかタイミングが合わなかったんです。ようやくファンの皆さんにお届けできて、本当にうれしいです。

――2003年「望郷新相馬」、2008年「望郷やま唄」、2011年「望郷あいや節」、2014年「望郷よされ節」、2017年「望郷五木くずし」に続く望郷演歌となっています。
花京院 どんな曲にするかなどは、もうプロの皆さんに任せっきりですが(笑)、「望郷新相馬」のカップリングに「お父う」という歌がありました。これは出稼ぎに行ったお父さんが帰ってこなくなる、という内容だったのですが、今作の「おっかのよされ」はその逆なんです。おっか(お母さん)が出稼ぎに行くんです。おっかは少し器量が良いので、故郷に残ったお父さんは「都会で悪い男に騙されていないか」なんて、囲炉裏端で娘と噂をしながら、焼きもちを焼いている。そんな、恋しいお母さんを想う歌です。
――出稼ぎに行くのが「おっか」というのは、少し珍しい設定ですね。
花京院 そうなんです。本当はお父さんが行きたかったけれど、体が弱かったり、何か事情があったんでしょうね。だからおっかが「私が行くしかない」と。厳しい農閑期を乗り越えるための家族の物語です。
――曲中にある「おっかあ 今ごろどうしてっぺな・・・」というセリフが非常に印象的です。
花京院 実はあのセリフ、私が「ここにセリフがあると、もっと気持ちが伝わるんじゃないかしら」と提案させていただいたんです。そうしたら作詞の先生も「花京院さんが考えてやってみて」と言ってくださって。95歳になる母がいるのですが、その母を思い浮かべながら、ぶっつけ本番で言ったセリフなんです。だから気持ちが入ったのかもしれませんね。
カラオケファン待望!「聴くほどに深みが増す」歌い方のコツとは?
――評判はいかかですか?
花京院 発売する前から、ファンの方にLINEでちょっと1番だけ送ってPRしたんですけど、評判がよくて。聴いてくださった方が皆さん、「なんか歌いやすい曲ね」とか「私のいい声が出る曲だね」とかって、分析もしてくださって(笑)。一度、聴いた時よりも、聴くほどに深みが増すようです。リリースしてよかったなと思います。
――代表曲となった「お父う」は今もカラオケで歌われる息の長い曲になりました。
花京院 そうですね。最近の曲はカラオケファンの方には「これは難しいから私には歌うのは無理だわ」と思われるような曲が多かったのかもしれません。でも、今回の「おっかのよされ」は、皆さんに楽しんでいただけると思います。
――挑戦するファンの方へ、歌い方のコツはありますか?
花京院 「おっかのよされ」は、サビの“よされ よされ”のところで、“ん”を少し意識して入れると節回しがしやすくなるんです。“よされん よされん”という感じですね。あとは何より、CDをたくさん聴いて、まずは真似てみてください(笑)。

カップリング「つわぶきの花」に込められた無償の愛
カップリングには表題曲とは対照的に、娘を送り出す母の視点で描かれた「つわぶきの花」が収録されている。愛する人の元へと列車に飛び乗った娘。その姿を、母は自らの若き日と重ね合わせ、その覚悟を静かに受け止める。
――「つわぶきの花」は娘を想う母の無償の愛が描かれています。
花京院 好きな人のもとへ駆け落ち同然で家を出て行ってしまう娘を、止めることができない母の歌ですね。なぜなら、自分も昔、お父さんと駆け落ちしてきたから。だから娘を叱れない、という、少し諦めにも似た切ない親心ですね。
――母も、かつて車窓から見た黄色い花、日陰でも健気に咲く“つわぶき”が咲く風景を思い出し、“つまずきゃ帰って 来ればいい”と歌う最後のフレーズが心に響きます。
花京院 その言葉に、この歌のすべてが詰まっている気がします。どんなことがあっても、ここはあなたの帰る場所なのだと。歌っていて、私自身も胸が熱くなります。

「元気を押し売りしにきました!」。苦労も喜びに変える笑顔の源
――新曲発売までの8年は長かったですか?
花京院 いえ、気づいたら8年も経ってしまって(笑)。苦労は、誰にでもいろいろあるでしょうけど、私はその苦労を「喜び」に感じるようにしています。何でもすんなり行かないからこそ、それは修行の一環なのだと。血液型がO型だから、楽観的なのかもしれませんね(笑)。
――花京院さんは、いつも素敵な笑顔でいらっしゃるのですね。
花京院 笑顔です! ステージでも「元気を押し売りしにきました!」って言うんですよ(笑)。落ち込んだ時があれば、この私の福々しい顔を思い出して、笑顔になってほしいですね。
――そんな花京院さんでも、苦労を経験した時は、「宝くじで3億円当たったら歌手なんてやめる」とおっしゃっていたそうですね。
花京院 アハハハ・・・。今は逆! もし当たったら、余裕をもって楽しく歌手を続けますよ。今回、長い間お待たせしましたが、ようやく皆様に新しい歌をお届けすることができました。この「おっかのよされ」を聴いて、少しでも元気になったり、ご家族のことを思い出したりしていただけたら、これ以上にうれしいことはありません。これからも心を込めて歌ってまいりたいと思います。

○
母と娘という永遠のテーマを、二つの異なる視点から描き分けた「おっかのよされ」と「つわぶきの花」は、ともに作詩・久仁京介氏と作曲・四方章人氏という、「南部蝉しぐれ」を生んだ黄金コンビが手がけている。
花京院しのぶにとって8年という歳月は、この感動的な作品と出会うための時間だったのかもしれない。彼女の中に滲む温かみと哀愁を帯びた歌声に、東北の厳しい冬景色と、そこに生きる人々の情の深さが鮮やかに浮かび上がってくる。時代や境遇は違っても、誰もが胸に抱く家族への想い。それを優しく包み込み、明日への一歩を後押ししてくれるような力が「おっかのよされ」には宿っている。再び多くの人々の心に灯をともし、長く歌い継がれる一曲となるだろう。
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2025年8月20日発売
花京院しのぶ「おっかのよされ」
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「おっかのよされ」
作詩/久仁京介 作曲/四方章人 編曲/南郷達也
c/w「つわぶきの花」
作詩/久仁京介 作曲/四方章人 編曲/周防泰臣
ビクターエンタテインメント VICL-37792 ¥1,500(税込)
profile
花京院しのぶ
宮城県仙台市出身。1978年「夫婦道」(クラウン)でデビュー。故郷・仙台を拠点に、立ち弾き三味線をトレードマークに活動し、1995年に日本文化振興会から津軽三味線立ち弾き語りで「最優秀国際グランプリ」を受賞。2003年にビクターから「望郷新相馬」をリリースしロングセラーを記録、それ以降「望郷~」をタイトルに冠したシングルがどれもロングセラーに。2025年8月20日、8年ぶりのシングル「おっかのよされ」をリリース。





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