竹島宏が歌で至上の喜びを! 「プラハの橋」から続くヨーロッパ三部作ではファンの声と人工知能を融合した初の試みにもチャレンジ
竹島宏が10月15日、都内の渋谷区文化総合センター大和田・さくらホールで「竹島宏コンサート2023 “Heaven”~音楽でめぐるヨーロッパの旅~」を開催した。同ホールでは3年ぶりとなるコンサート。「プラハの橋」から続くヨーロッパを舞台とした3作品が完結したことを受けて、ファンから送られた物語とAI(人工知能)を駆使したオリジナルラブストーリーを朗読で披露し、ファンを夢の世界へと誘った。
磨き上げてきたヨーロッパの世界
竹島宏は2021年にチェコを舞台にした「プラハの橋」を発表し、翌2022年の「一枚の切符」ではフランス・パリがその舞台に。そして今年、ヨーロッパ・シリーズ3部作の完結編として、イタリア・フィレンツェを舞台にした「サンタマリアの鐘」をリリースした。
「『プラハの橋』を発表したときはコロナ禍の真っ最中でしたが、この3作品を手がけてくださった幸耕平先生が『竹島宏を紅白に出してあげたい』という思いの中で、竹島宏にしかつくれない世界を、出せない色を出してくださった作品でした。この『プラハの橋』が一連のヨーロッパ三部作の走りになりました」
ヨーロッパ三部作により、竹島ならではの“大人の歌謡曲”というジャンルが確立された。
「幸先生がよくおっしゃるんですが、ホップ・ステップ・ジャンプだと。俺の中では3年計画でがんばりたいとおっしゃってくださいました。『プラハの橋』、『一枚の切符』に続く今回の『サンタマリアの鐘』で、ジャンプに相応しい作品をつくっていただきました。3年をかけて磨き上げてきたヨーロッパの世界です。このコンサートでは自分自身の歌心を出したいと思います」
最高の喜び、最高の時間
本番前、竹島はこの3年間の集大成ともなる“Heaven”と題したコンサートへの期待に満ちあふれていた。
「今日のコンサートのタイトルは“Heaven”です。ヘブンには至上の喜びという意味もあるようです。竹島宏の歌でお客様を夢の世界に、そして歌で最高の喜び、最高の時間をもっていただけるように願っています」
コンサートでは、ヨーロッパ三部作を題材にしたオリジナルステージを竹島本人が演出・構成して届けるという。中でも目玉はオリジナルラブストーリーの初披露だった。ファンからメールや手紙で寄せられた三部作についての感想や物語を今話題のチャットGPTで生成した。チャットGPTとはAI(人工知能)システムのひとつで、AIとの会話を通じて文章などを生成してくれるアプリだ。「今日は哀愁のある曲が聴きたいの。竹島宏の曲からオススメ楽曲を教えて」と聞けば答えてくれる。
「突然、思いつきました。ファンの皆さんから今回のヨーロッパ三部作を聴いた感想や、皆さんながらに歌の世界のドラマを書いてファンクラブへ送ってくださったストーリーがあります。今回のコンサートで、そのうちの何通かをご紹介させていただこうと思ったときに、うまく文章をつくってくれたり、編集してくれたりするチャットGPTというシステムがあることを知りました。試しにファンの皆さんからのいくつかの物語をまとめてもらったところ、思いのほか綺麗にまとめてくれました。言い回しなどは変更しましたが、ファンの皆様とチャットGPTとの共同作業の物語を、今日は朗読させていただきます」
アナログ人間だと自認する竹島がAIを使った演出で、ファンに竹島の歌世界を届ける。果たして、ファンはどんな反応をするのか?
カラスとカモメを間違えた!?
コンサートが開幕すると、竹島は「いつもとは違った雰囲気で届けたい」と、ミュージカル映画『キャッツ』のナンバー「Memory」から披露し、初めてゴールドディスクを獲得した「月枕」、そして「愛の嵐」を歌った。「愛の嵐」は、「この歌を歌うと、お客様がゾクゾクして、“待ってました”とばかりにいつも拍手をいただける作品」(竹島)だった。
演奏で竹島を支えるのは、バラダン(室内管弦楽団)だ。“バラダン”とはフランス語で“旅するアーティスト”の意味。クラシック・スタイルの7人編成の小さなオーケストラで、全国に癒しの芸術品を届けている。
バラダンによる優美な演奏によって、竹島は作品をつないでいく。
「どの歌も哀しみを思い出にしながら、少しずつ前を向いて歩いていこうとする主人公が描かれています」
「紫の月」「泣きぬれて・・・」「哀愁物語」「夜明けのカラス」の4曲を続けて披露すると、「僕の作品には哀しみの歌が多いんですが、よくいただく手紙にはご自身の体験、記憶が蘇ってくる歌が多いけれども、『それでもなぜか宏くんの歌を聴くと、涙して、心がすっきりして楽になっていることが多い』と書かれています」と語り、琴線に触れる作品を選曲したと明かした。
ただ、デビュー15周年記念曲「夜明けのカラス」の説明をしているときだった。
「『夜明けのカラス』のカラスは群れているカラスじゃなくて、一羽のカラスです。お仕事で青森へ行ったときに、津軽海峡のフェリーターミナルあたりまで行きました。海辺の波を見ていましたらカモメが一羽飛んでいたんですね・・・、あっ、今のはカラスだった。カラスとカモメを間違えました。でも、まあ、鳥という部類では同じです。白か黒かの違い・・・(苦笑)」
竹島は言葉を噛みしめながら、またひとつひとつ言葉を紡ぎながら心の奥底の思いを話してくれることが多いが、コンサートという生の舞台ならではのやらかし(!?)にファンは大爆笑。竹島が青森で見たカモメのエピソードは次回以降に持ち越しへ。
コンサート前半の締めくくりはファンに“やさしいエネルギー”が届けられた。
「誰もが幸せになりたいと思って日々を過ごしていらっしゃると思います。もちろん、僕もそうです。でも、哀しみや苦しみなど日々葛藤もあり、そうした悩みを乗り越えないといけないのが人生です」と、竹島作品ではお馴染みの作詞家・松井五郎氏による作品から「生きてみましょう」「夢の振り子」の2曲を選曲。「皆さんが生きていくにあたって、松井先生の歌詞がやさしいエネルギーを、背中をそっと押してくれるようなパワーをくださるんじゃないかな」と歌声を聴かせた。
さらに「この作品も人生の応援歌として聴いておられる方も多いんじゃないでしょうか」と、美空ひばりの「川の流れのように」をカバーした。
~音楽でめぐるヨーロッパの旅~
竹島は緊張していた。後半に控えるヨーロッパコーナーに向けて頭がいっぱいだったようだ。
暗転したすステージに「月影のナポリ」のイントロが流れると、衣裳チェンジした竹島が現れ、“ティンタレラ・ディ・ルナ♪”と歌い、続く「Volare(ヴォラーレ)」ではステージで陽気に弾んだが、日本にカンツォーネブームをつくった「月影のナポリ」、イタリア発の世界的名曲「Volare」を披露した竹島は、「やっとほぐれて来ました」と笑顔をみせた。
いよいよ後半戦の幕が切っておろされた。
ヨーロッパ三部作へのプロローグとして竹島は、引き続き「愛の讃歌」「百万本のバラ」「雪が降る」の3曲を聴かせた。どの曲もヨーロッパ発祥の作品で、日本でも訳詞バージョンが大ヒットした。
いよいよクライマックスへ。厳かな雰囲気の中、バラダンによる「恋はみずいろ」の演奏が始まった。日本ではポール・モーリアのインストゥルメンタルバージョンで有名となったヨーロッパのポピュラーソングだ。
ファンの物語が”僕たちの物語”に
演奏が終わるとステージが暗転した。バックドロップにはヨーロッパのルネサンス建築を模した建造物の絵が浮かび上がっている。ロング丈のジャケット姿で現れた竹島が静かにハイスツールへ腰掛けると、ピンスポットに映し出される。竹島は静かに物語を読み始めた。
ヨーロッパ 僕たちの物語の舞台。
旅するラブストーリーの始まりはフランスparis
45才になった僕はこれから先の人生を見つめ直すため、あてのない旅に出た。
ファンから届いた物語がAIによってひとつの物語となった。
当時25歳だった主人公は仕事で海外出張も多い。5年間付き合った彼女とは次第にすれ違いが多くなり、ある日、突然彼女は消息を絶ったという。「歌の勉強をするためにフランスへ行きます。さようなら愛しています」というメモだけが残されていた。あの日から20年。主人公はあてのない旅で、偶然、別れた恋人の歌声を聴くことになる。シャンゼリゼ通りの小さなお店から微かに漏れていたのだ。引き寄せられるように、その店の扉を開けると、“懐かしい君”がそこにいた。「どうして…」と驚く別れた恋人。竹島による朗読は続いていく。そして・・・。
その日から僕たちは深い愛に落ちた。。。
偶然を運命に結びつけて、、、愛してはいけない人と。。。
ねえ 愛してる…。
“哀しい物語よ どうかふたりを責めないで”と、竹島は物語の始まりとなる「一枚の切符」(2022年)から歌い始めた。フランス・パリをあとに、列車で北へと走り出した二人は冬の午後、チェコのプラハ駅にたどり着く。だが、主人公は彼女に帰りの切符を渡す。なぜ? と彼女。竹島は“どうか幸せに なって下さい 祈る様に鐘が鳴る”と「プラハの橋」(2021年)へと歌い紡ぐと、三部作の完結編「サンタマリアの鐘」を聴かせ、静かにステージを降りた。竹島宏コンサート2023“Heaven”がフィナーレを迎え、余韻がそこに残っていた。
本番前、竹島は「ヨーロッパ三部作のアレンジは坂本昌之先生ですが、今回はクラシックを主に活動なさっているバラダンさんの室内管弦楽団ならではの優雅な、薫り高い演奏によってお届けします。ヨーロッパ三部作をよりドラマチックに楽しんでいただけると思います」と話していた。
また、朗読から歌へとつながる構成・演出を披露するのは今回が初とのことで、「朗読という、イントロとはまた違った形で気持ちをつくって歌の世界に入る形になりますが、温度の高い歌に仕上げることができるんじゃないかなと思います」と本番を楽しみにしていた。
毎回、死ぬ気で歌う
アンコールのコールによりステージに現れた竹島はファンに問いかけた。
「ヨーロッパ・シリーズ三部作はどうでしたか?」
大きな拍手に包まれた竹島は、「これはお世辞ではない拍手ですよね。皆さんが真剣に歌を聴いてくださるので、毎回、死ぬ気で歌わないといけないと思っています」と、うれしそうだった。
クラシックを専門に活動しているバラダン。歌謡曲を歌っている竹島宏。違う世界のふたつがどんな化学反応を起こすのか? ワクワク感満載だった「竹島宏コンサート2023 “Heaven”」はさくらホールの隅々にまで竹島の歌世界を響かせた。
竹島は、ここで今回の朗読したストーリーがファンからの感想や物語によってつくられたものだと明かすと、ファンは驚いていた。また、ストーリーの作成にはチャットGPTを使ったと説明した。
「何人かの方のお手紙をコンピュータに打ち込みまして、最初は映画の脚本風につくってもらったのですが、ぐちゃぐちゃでよくなかったので、素敵な物語をつくってとやってみました」
チャットGPTをよく知らないだろう方には、「スマホでピピピとやると、ピピピと返してくれる便利な機械があると覚えていただくとよろしいかと思います」とやさしく説明していた。
「僕にとって歌は祈りです」
竹島は、オリコン演歌・歌謡曲シングルランキングで2度の1位を獲得した「サンタマリアの鐘」(Cタイプ)のカップリング曲「絆…この手に」をアンコールの1曲目に歌うと、自身の今の思いをファンに吐露し、この曲で締めくくりたいと「明日のために空を見る」を届けた。
「最後の歌は人生の応援歌。僕にとっては大切なファーストコンサートをさせていただいたときの歌です。今のLINE CUBE SHIBUYA、当時の渋谷公会堂の向かいにあるNHKホールで歌わせていただけるようがんばりますと、歌った作品です。20代の頃でした。あれから20年近く経ちました。その間にたくさんのファンの皆さんが竹島宏という存在に出会ってくださいました。そして、竹島宏のことをずっと見守り続けてくださいました」
静かに聴き入るファン。
「中には、永遠の別れをしてしまった、もう二度とお会いできない人たちもいらっしゃいます。今日のこのステージを観ていただきたかった。また、大きなところで歌わせていただく、いろんな番組で歌わせていただく竹島宏の晴れ姿を観ていただきたかった方がたくさんいらっしゃいます。もうお会いできなくなった方もいらっしゃいますし、コロナ禍で体調が思わしくなく、『宏君の歌を直接聴きに行くことが難しいです。体もちょっとしんどくなっちゃったんです』という方もいらっしゃいます。
でも、僕はどんな時もどこにいても、僕と出会ってくださったすべての皆さんが幸せになってほしい。そういう思いを込めて、いつも歌わせていただいています。僕にとって歌は祈りです。皆さんが末永くお元気で、幸せでいられますように。また明日からも元気で毎日を過ごしていただけますように。そんな祈りを込めて歌わせていただきます。『明日のために空を見る』」
同曲は2005年6月20日、渋谷公会堂で行われた、竹島宏初のホール・コンサート「〜旅立ちの時〜」のラストに披露した作品だった。「何か光るものを感じた」と、竹島を歌手の道へと導いてくれた恩師の作詞家・久仁京介氏の作品だった。
「ありがとうございました~。また皆さんと笑顔でお会いできますように」
スマホのアプリを使った7色の光を揺らしながら最後の一曲を歌え終えた竹島は、ファンに再会を約束。ステージの幕が下りる最後の瞬間には「エアタッチでお別れしましょう」と、ファンと心をひとつにした。
ヨーロッパで三部作を歌いたい
ヨーロッパ三部作を完結させ、オリジナルストーリーを届けた竹島宏は、次なる夢に向かって走り出した。まずは現実的な思いとしては、今年まわることができなかった場所へ行きたいという。
「今年中に47都道府県をまわり、久しぶりに全国のお客様にお会いする旅をしたいなと思っていたんですが、全部をまわりきれませんでした。ですから来年は、今年うかがえなかったところへ行きたいですね。また、せっかくヨーロッパ・シリーズ3部作が完成しましたので、来年こそはヨーロッパへ行って、実際に現地でこの三部作を歌わせていただきたいと思っています。現地からインターネットを通じた生配信をするなど、ヨーロッパ三部作を歌える企画ができたらいいかなと夢見ています」
はやる気持ちは抑えないといけないが、ファンとしてはヨーロッパ三部作の次に来る竹島宏の作品も気になるところだ。竹島自身もまだまったくわからないという。
「ただ、僕は前川清さんや布施明さん、尾崎紀世彦さんのような、ニューミュージックのような作品を歌える歌手になりたいと思っています」
竹島宏の新たな挑戦も楽しみに待ちたい。