西方裕之

西方裕之の「ずっと歌いたかった」~倖せ演歌「おまえひとりさ」で男の優しさを表現~

昨年、歌手デビュー35周年を記念したシングル「帰郷」で郷愁を誘う望郷歌をドラマチックに歌い上げ、新境地を切り開いた西方裕之。今回は作詞家・万城たかし氏、作曲家・弦哲也氏とタッグを組み、記念シングル第二弾「おまえひとりさ」で勝負する。ベテランの域を超えた今も、ただひたむきに歌い続ける西方に新曲への思いを聞いた。

「あぁ、もうこれだ!」

――47作目となる「おまえひとりさ」は支え合う二人の絆を歌った、倖せにあふれた演歌ですね。

西方 最初、歌詞を目にした途端、「あぁ、もうこれだ!」って思いました。自分が歌いたい世界を万城(たかし)先生が書いてくださいました。この歌詞に弦(哲也)先生のメロディーがついた時には、本当に素晴らしい曲をいただけたなと思いました。こんな作品を僕はずっと歌いたかったんです。

新録してカップリングに収録した「遠花火」もそうですが、以前から、僕には女唄のイメージが強かったので、男の優しさを歌った倖せ演歌を歌いたかったんでうす。今回やっと念願が叶いましたし、これまでありそうでなかった世界観の演歌です。

――西方さんの過去作品にはない温かみのあるメロディーですね。「昭和」の香りがしつつも、令和アレンジの倖せ演歌となりました。レコーディングはいかがでしたか?

西方 とてもスムーズに歌えましたね。オケ録をした時に「歌も入れよう」ということになりまして、カップリングの「遠花火―新録版―」と一緒に、その日のうちにレコーディングを終えました。サッと歌って、スッと熱海に帰ることができました(笑)。

褒められる方が伸びるタイプ(笑)

――両先生から何かアドバイスはありましたか?

西方 万城先生はあまり多くを語らない方ですので、アドバイスはとくになかったですが、弦先生は今回よく褒めてくださいました。僕は褒められる方が伸びるタイプなんです(笑)。

弦先生がスタジオに入られると、どこか緊張感が走るんですよ。でも、先生は僕がプロ歌手になるきっかけとなったカラオケ大会の審査員でしたので、長くかわいがってくださっています。今回は自分の積み重ねてきた歌手としての姿をちゃんと受け止めてくださったんだと思います。35年経って、「うまくなったね」って言われた時は、正直照れくさかったですね。

――ご自身で気をつけていることはありますか?

西方 まずは暗くならず、優しく包み込むように歌うように歌っています。2番に“誰にも言えぬ こころの傷”という歌詞があるので、ただただ倖せを表現するのではなく、演じ過ぎず、等身大の自分を出して歌うことに一番気をつけています。また、いつもの僕の声のキーより今回は半音落として歌うことに挑戦しています。トーンを変えることで、歌に温かみが出たのではないでしょうか。

あの頃の自分に負けないように

「おまえひとりさ」のカップリング曲は、西方裕之の歌手活動の原点とも言える代表曲「遠花火」を新たな想いでセルフカバーした。前作「帰郷」に収録した「赤とんぼー新録版ー」が大好評だったことを受けて、「遠花火ー新録版ー」が実現した。

――「遠花火」(1989年)は西方さんの代表曲ですね。

西方 「遠花火」はデビュー3作品目の楽曲です。当時の僕は男唄でずっと勝負していきたいと思っていましたから、次の新曲が女唄だと聞かされた時は、正直言って敗北感を抱きながら歌っていました。当時は女唄があまり好きではなかったので、「なんで僕がこの曲を歌うんだろう」って。

――最初はあまり売れなかったそうですね。

西方 最初の一年間はあまり売れませんでした。「僕もこの曲で最後なのか」と、正に土俵際に立たされた気持ちでした。それが2年目に入り、地道にキャンペーンを続けていたら、徐々にファンがついて来てヒットにつながりました。それから女唄が6作品続きましたが、敗北感は拭えなかったですね。当時、「遠花火」は25万枚も売れて僕の代表曲になっていましたから、毎回コンサートで歌わなくてはならない曲になっていました。

愛おしさを感じながらの新録音

――その曲を今回、新たにレコーディングし直されたわけですが・・・。

西方 今回、改めて35周年を機に過去の楽曲を全部レコーディングし直そうということになりました。自分自身、当時のCDを聴き返してみたら、敗北感どころか、なんていい曲なんだって気づきました。これはもう、当時よりもうまく歌わないといけないと奮い立ちましたね。

最初に歌っていた20代の自分を俯瞰してみているような気持ちで、今回の新録音では、愛おしさを感じながら歌いました。そして、この曲があったからこそ、今こうして35年間も歌い続けられることができているんだと再認識しました。

――レコーディングではどんな気持ちでしたか。

西方 不思議な感覚でしたね。「男唄しか歌いたくない」と言っていた、あの頃の自分に負けないよう、そして作品にも負けないように、今回は包み込むように歌いました。自分の原点とも言える作品を長い年月が経った今、ふたたびセルフカバーで歌えるということに本当に喜びを感じました。

――デビュー35周年を迎え、歌に対する想いも変化したわけですね。

西方 デビュー当時は、この年齢になるまで歌っているとは思ってもいませんでした。還暦を過ぎましたが、今も衰えるどころか、逆に元気な自分がいます。歌の奥深さや、歌に対する心構えが進化していると思います。「まだまだこれからだな」っていう感じです。この先もずっと歌い続けられることが楽しみです。

(文=小西康隆)

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2022年2月9日発売
デビュー35周年記念 第2弾シングル
西方裕之「おまえひとりさ」
西方裕之

「おまえひとりさ」
作詩/万城たかし 作曲/弦哲也 編曲/南郷達也
c/w「遠花火―新録版―」
作詩/竜はじめ 作曲/徳久広司 編曲/南郷達也
キングレコード KICM-31048 ¥1,400(税込)

デビュー35周年記念 第2弾シングルとして発表された「おまえひとりさ」は、愛し合い支えあう夫婦の日常で綴られた歌のラブレター。一度聴いたら離れられないメロディーで、温かみのある演歌となっている。西方裕之史上最も歌いやすい楽曲!! カップリング曲は西方の代表曲であり、カラオケでも長く愛されている「遠花火」を新録バージョンとして収録。

カラオケ・ワンポイントアドバイス

「僕自身、この曲は声のトーンとか言葉の置き方とかは、暗くならないように気をつけました。『おまえひとりさ』はとても優しい歌なので、流れに身を任せて小難しく考えず、言葉の頭のアクセントをしっかりと押さえて歌ってみてください。とくに歌詞の中に“おまえ”という言葉が何度も出てきますので、母音をかみしめるように歌うといいですね。ところどころの母音を大事に歌うと優しさが伝わると思います。伴奏を聴いてから歌うと遅れがちなるので、カラオケよりも先行して歌うようにしたほうがいいでしょう」(西方裕之)


Profile
西方裕之(にしかた・ひろゆき)
1961年7月1日、佐賀県生まれ。小さな頃から歌が好きで、よくカラオケ大会に出場し入賞。1986年、佐賀県で行われた「第一回ザ・スターカラオケ選手権大会」に出場して優勝。審査委員長をしていた作曲家・徳久広司先生にスカウトされ歌の世界へ入る。翌1987年に上京し、半年後の同年年7月21日「北海酔虎伝」でBMGからデビュー。1998年にテイチクレコードへ移籍し、2002年からはキングレコード所属。「男女の心の機微を歌わせたら右に出る者はいない」と評価される。ステージでは演歌歌手らしくない軽妙なトークで観客を魅了する。歌う前には必ずコーラを飲むという。いろいろ試した結果、コーラを飲むと一番歌いやすいそうだ。2021年5月、デビュー35周年企画の第一弾として「帰郷」を発売。2022年2月、第二弾「おまえひとりさ」をリリース。長年住んだ東京を離れ、故郷・唐津の海を彷彿させる熱海での生活を楽しんでいる。

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