
工藤あやのが表現する“炎のごとく”~本格演歌「洗ひ髪」で感情が揺さぶられる歌声を~
コロナ禍で活動が休止状態だったとき、工藤あやのはこのまま自分はどうなるのかと、揺らぐ思いを隠すことができなかったという。だが、昨年リリースの前作「白糸恋情話」で新境地を開き、歌い手として大きく飛躍するきっかけをつかむ。そして迎えた2023年、新たな決意のもとに世に送るのが、通算8枚目のシングル「洗ひ髪」だ。
工藤あやの新曲「洗ひ髪」は前作「白糸恋情話」同様、文学の香り漂う本格演歌作品。旧仮名づかいを使ったタイトルが、かつての時代を生きた古きよき女性の姿を連想させる。恋する相手に対する情念の激しさ、はかなさと強さが表現され、工藤が歌い方に徹底的にこだわり抜いて、感情豊かに仕上げている。
「山形のひだまり娘」のキャッチフレーズでデビューした工藤も、間もなくデビュー10年目を迎える。「当時の自分は下手で情けない」と謙遜するが、時を経て大人っぽさ、艶っぽさも増し、深みのある曲を歌いこなす歌唱力に関係者の評判は上々だ。
CDのジャケット写真やミュージックビデオでは、自身でイメージを考え、髪型や髪飾り、着物の色合いなどをコーディネイトしたという。歌うことを軸にあらゆることを楽しみながら、すべてに全力。そんな工藤の人生観をも感じることができる作品となっている。
「洗ひ髪」で新たに発見した自分の声
――「洗ひ髪」は、心に染み入る素敵な曲ですね。
工藤 作詩は原文彦先生ですが、前作の「白糸恋情話」よりも以前にお書きになられていた作品なんです。私のもとに「洗ひ髪」が来たのはじつは前作と同時期でした。そのとき、「“白糸”でがんばったら次はこれだからね」と渡されていました。私自身は“白糸”を歌いきることだけを考えてきましたが、今回その延長線上であらためてチャンスをいただくことができ、うれしく思っています。
――タイトルに旧仮名づかいいが使われています。
工藤 タイトルの「洗ひ髪」は、「あいうえお」でなく「はひふへほ」の旧仮名づかいを使っていて、「ひ」の一字に現代の言葉だけでは表現できないいろいろな思いが詰まっていると感じています。その深みを出すために、何度、弦(哲也)先生のデモテープを聴いたかわかりません。指導を受けながら体に染み込ませ、そして臨んだレコーディングではこんな声が自分に出せたんだと、新しい発見が多々ありました。
――歌い方にかなりこだわったそうですが、弦先生(作曲)の指導のなかでそれが特に感じられるのはどのあたりですか?
工藤 1番だと例えば「炎(ひ)のごとく こころは燃えど」のところ。「炎のごとく~」を少し引っ張りながらタタタとかけていくようにスピード感を出し、続いて「燃~え~ど」ではぐわんぐわんと上下するような歌い方をしています。そのあとに「肩に冷たし」と続くのですが、ここでは「つ・め・た・し」と声を抜きつつ、ファルセットにいったかと思えば地声に戻します。先生が冷たさが伝わる歌い方を指導してくださって、どれも繰り返し練習して形にしました。
――感情が見事に表現され、弦先生も喜ばれたのでは?
工藤 「うまくなったな」って、しみじみおっしゃってくださいました。「あやのの成長する姿を見られるのはうれしい」とも。そうなれたのも、自分の中で覚悟が決まったのが大きいと思います。この曲でがんばるぞという気持ちの軸がこの1年で太くなり、落ち着いてレコーディングに向かえたので、それが声にも出ているのかなと。聴き比べたら「さくらんぼ 恋しんぼ」(デビュー曲)のときとは雲泥の差です(笑)。
イントロだけでも100回は聴いて!
――カラオケでも皆さんがこだわって歌われそうですね。
工藤 鼻濁音(※)をはっきりと鼻にかけて歌うといいと思います。「ちぎる」(ガ行鼻音)なら「ぎ」の部分ですが、音色に埋もれてしまわないよう前に出すといいですね。私も苦労しましたが、そういった部分もポイントです。でも前作のようにもとの題材がない(「白糸恋情話」は泉鏡花の小説「義血侠血」を題材とした作品)ので、皆さんそれぞれ頭の中で描いたイメージで歌っていただければと思います。
※鼻の方へ抜いた発声法。言葉を響かせて美しい音になると言われる。
――時代劇とかドラマのエンディングテーマ曲にぴったりのような気がします。
工藤 そうそう。サスペンスやミステリーに合いそう。MV(ミュージックビデオ)の冒頭も竹林の中を逃げているようなイメージに仕上がっています。何人か人を殺してきたような情景だねって、スタッフと話していたほどで(笑)。エンディング曲として使ってもらえたらうれしいなぁ。
――楽器も篳篥(ひちりき)や琴などが使われていて、感情が揺さぶられます。
工藤 若草恵先生のアレンジって、落ち葉がそのままさっと落ちるのではなく、ちょっと遊んでからはかない命を終えるようなイメージがありますよね。それが見事に表現されていて、そこも聴くどころです。イントロだけでも100回くらい聴いて、そしてカラオケで歌ってください!
主人公の世界へ。工藤流でこだわる
――ジャケット写とMVについても、こだわりがあちこちに?
工藤 もちろんです! ジャケ写で髪の毛をストレートに束ねるアイデアや、髪飾りなどの備品も自分で探しました。着物に関しては水色の着物で撮影しましたが、これがビンテージもので他にはなかなかない貴重なもの。それに合わせて重ね衿などにもこだわり、最後まで難航したのが帯でした。なかなか合う帯が見つからなくて、いよいよ撮影という数日前にバラの絵柄が入ったステキな帯が見つかったんです。じつは着物にもよく見ると薄くバラが描かれていて、出会うべくして出会ったんじゃないのかと、そう思うほどの運命的な出会いでした。
髪の毛は、エクステ(ヘアーエクステンション)を人生で初めてつけました。1本の櫛で髪を束ね、櫛をはずしたときにクルクルッと落ちていくシーンをMVで撮るためです。きれいにパサッっと髪を降ろすのは難しかったけど、何とか5回ほど挑戦して納得のいく仕上がりになっています。

新曲のための着物や髪飾りなどの備品にも工藤あやのはこだわった。髪の毛にエクステをつけたのも今回が初めて。また前作「白糸恋情話」の題材になった小説「義血侠血」の著者・泉鏡花が兎の置物など、今風に言えば”兎グッズ”を収集していたのを受けて、髪飾りが兎の耳をイメージした形となっている。
――見所のひとつになりますね。
工藤 ええ。ほかには木の風呂桶を前に髪を洗い、絞っているようなシーンも。とても気に入っています。また、櫛や手鏡の後ろに兎(ウサギ)が描かれていたり、ジャケ写の髪飾りもよく見ると兎の耳のような形をしていて、そんなこだわりが随所に散りばめられている作品です。
――デビュー10周年の年、どんな反応が得られるか楽しみですね。
工藤 張り切っています! 10周年にふさわしいとか、工藤あやのという歌い手の人生観がつまっているとか、いろいろな評価をいただいています。自分の代表曲になるよう、しっかりと歌っていきたいと思います。
(文=藤井利香)
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2022年を振り返って、心に残った出来事は?母校の高校で講演をさせていただきました。歌うというよりはしゃべるほうで、生い立ちから今現在のこと、また高校在学中にいじめにあったことも赤裸々に話しました。きれいごとは嫌ですし、歌も歌いましたが、まずは人柄を知ってもらいたいと思ったから。そうしたら、SNSを通じてびっくりするほどの反響があって、まるで人生相談のように何人もの生徒さんとやり取りをしました。
コロナの影響で、生きるか死ぬかの思いで毎日を過ごしていた生徒さんがたくさんいたんですね。思わず、すぐにでも進路指導室に入りたいと思っちゃいました。
歌とは別に、メンタルケアに関連する資格を取ること。それが私にとってもう一つの目標になりました。私自身メンタルは強くなく、自ら勉強することで歌にもいい影響があると思います。何より、苦しんでいる人の力になれますし。
そしてこの活動を通し、今まで用意してもらった環境の中でしか動いていなかったことを反省。もっと自分からやれることをどんどんやっていこう。そう考え方を変える、いいきっかけにもなりました。まだ20代、有意義な時間を過ごすためにも自分を信じてがんばりたいです!
2023年1月18日発売
本格演歌作品第2弾
工藤あやの「洗ひ髪」

「洗ひ髪」
作詩/原文彦 作曲/弦哲也 編曲/若草恵
c/w「加賀友禅燈ろう流し」
作詩/麻こよみ 作曲/弦哲也 編曲/伊戸のりお
徳間ジャパンコミュニケーションズ TKCA-91475 ¥1,400(税込)
「洗ひ髪」は工藤あやのの8枚目のシングル。前作「白糸恋情話」から1年ぶりの新曲となり、大人の女性の切ない恋心を歌った本格演歌となっている。カップリング曲「加賀友禅燈ろう流し」は前作「白糸恋情話」と同じ石川県が舞台の作品。金沢市で毎年6月に開催される「金沢百万石まつり」の風物詩のひとつ「加賀友禅燈ろう流し」をモチーフに、逢いたい人への想いが綴られた作品。
「『加賀友禅燈ろう流し』では、前作でいただいた石川県とのご縁を、今回も結ばせていただきました。ノリのいい楽曲というよりは、日の光が差してくるような曲調です。オケ録りではお琴を弾いていただいたのですが、イントロの部分では、私がステージの袖から出てきて、顔を隠しながら、ちょうどいいタイミングでちらっと顔見せするようなイメージでお願いしますとお願いしました。そうしたら全部汲み取ってくださって、うまく間を開けながら奏でてくださいました。楽器の音色も楽しみつつ、聴いていただければと思います」(工藤)
profile
工藤あやの(くどう・あやの)
1994年5月7日、山形県生まれ。歌手志望だった母親に連れられ、幼少期より民謡を習い、数々の民謡大会で優勝するなど実績を上げる。2010年、16歳の時に母親が応募した「弦哲也 北区(きた)の演歌座2010」新人歌手発掘オーディションで大賞を受賞。作曲家・弦哲也氏の門下生となる。2013年、地元の高校を卒業後に上京し、2014年1月29日、「さくらんぼ 恋しんぼ」でデビュー。キャッチフレーズは“山形のひだまり娘”。2017年、ソロコンサート「工藤あやのin北とぴあ」を開催。2018年、津吹みゆ、羽山みずきと歌謡ユニット「みちのく娘!」を結成。「春ッコわらし」でユニットデビュー。2019年11月、演歌路線の「大阪花吹雪」をリリース。2021年12月、みちのく娘!の3作目となる「みちのく恋の花」を、2022年1月、本格的な演歌作品「白糸恋情話」を発売。2014年の「やまがた特命観光・つや姫大使」に続いて、この年、同作の舞台・石川県から「いしかわ観光特使」を拝命。また910(KUDO)プロジェクトと銘打ったコンサートを東京・大阪・山形で開催。デビュー10年目を迎える2023年は1月に本格演歌作品第2弾として「洗ひ髪」をリリース。
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