
葉月みなみがセカンドライブを全曲解説!~マジカルボイスで自分色に~
改修工事を終えたばかりのNHKホールのステージに葉月みなみは立っていた。NHKの音楽番組『新・BS日本のうた』への出演が決まり、この日は公開収録日。番組は9月上旬に放送予定とのことだが、収録を終えた葉月は、「とてもいい緊張感で舞台に立たせていただきました。ここからまたスタートだと思い、また気合いを入れて頑張っていきます!」と息を弾ませていた。
この収録からさかのぼること2週間と少し前。2022年6月23日。移籍第一弾シングルを発売して丸1年の記念日に、葉月は“新生・葉月みなみ”のセカンドステージ開幕を宣言していた。その宣言通り、いよいよ天下取りに向けて大きな一歩を踏み出した。

『新・BS日本のうた』の公開収録に臨んだ葉月みなみ。故郷・新潟からはファンクラブや後援会の方々も応援に駆けつけてくれたという。


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全国放送への番組出演を果たすなど、マジカルボイス 葉月みなみがセカンドステージを歩き始めた。その起点は「天下取り」を宣言してから丸1年の記念日に開催したセカンドライブ in TOKYOだ。発売日未定ながら新曲「レイニー・バスステーション」を初お披露目するなど、ヒーローよろしく、勇気と正義の拳を天に突き上げたのだ。
6月23日じゃなければならない
2022年6月23日。葉月みなみは東京・港区のライブレストラン「エムゼス東京」のステージに立つことを決めた。昨年12月に東京でのファーストライブを開催した場所であり、“6月23日じゃなければならない” 記憶に残る魂のライブにしたいと思った。
「一念発起して故郷・新潟から上京してきたのが2020年でした。プロデューサーの岩尾三四郎さんとの劇的な出会いがあり、そこからの日々は瞬く間でした。翌年の6月23日にはテイチクレコードから移籍第一弾シングル『許さないで…ねぇ』をリリースし、テレビやラジオにも出演させていただきました。コロナ禍でお客様の前で歌う機会は多くなかったのですが、あっという間に1年が過ぎました。新潟時代はド演歌を歌っていましたが、今は、“アーティスト・葉月みなみ”として、老若男女に支持される歌を歌っていきたいと思っています」
ライブのリハーサルを終えた葉月はスポーツ新聞の取材を受けながら、一気にしゃべっていた。「許さないで…ねぇ」がロングヒットし、「夢のようなスタートが切れました」とも話した。

本番に向け、リハーサルを重ねる葉月みなみ。岩尾三四郎プロデューサーとも最終確認を行う。
「キャッチコピーはありますか」
記者からの質問に、「マジカルボイス 葉月みなみです!」と即答する。
葉月は大手芸能プロダクションで多くのアーティストを見つめてきた岩尾さんとの二人三脚で「天下を取る」と決めた日から、ボイストレーニングをゼロからやり直し、課題曲に取り組んできた。
「課題曲を与えられるたびに、新しい表現方法を学ばせていただいています。最近では裏声に艶があると褒めていただけるようになりました。どんな曲でもいろんな表情の声が出せると、私の歌声に“マジカルボイス”というキャッチをつけてくださいました」
ほどなくして、“マジカルボイス”を届ける「葉月みなみ セカンドライブ in TOKYO 歌謡界の隠し球から本格派!マジカルボイス葉月みなみ さらなる飛躍へ!」の舞台が開けた。
宇宙にきらめく エメラルド♪
「皆様~。こんばんは~。葉月みなみです。よろしく~っ」
胸躍るメロディーに乗せてパンツスーツ姿の葉月みなみがステージに飛び出してくると、“宇宙にきらめく エメラルド♪ ” と歌い出す。地球を守るヒーロー、「ウルトラマンレオ」の主題歌だ。作詞は阿久悠、作曲は川口真。昭和の音楽を牽引してきた大作家による楽曲。「昭和時代のヒーローもの主題歌やエンディングテーマが大好きです。歌詞もメロディーもいいですよね。いつかは自分のライブやコンサートで歌いたいと思っていました。でも、まさかこんなに早く実現できるとは!」と葉月。
じつはこの話には裏話がある。プロデューサーの岩尾三四郎さんから与えられた課題曲がうまく歌えない時のこと。岩尾さんが「気分転換で好きな歌を歌っていいよ」と言うと、葉月はヒーローものの歌を歌っているという。
「必ず戦隊ものやヒーローものを歌うんですけど、それで機嫌が直ります(笑)。でも、聴いていて心地よかった」
よくあるライブやコンサートでは、箸休め的に普段あまり歌わない楽曲を特別に披露することはある。だが、岩尾さんの発案で、ライブのオープニングに戦隊&ヒーローものの楽曲を披露することなった。
「『やろう』と言われた時は、『本当にいいの!?』って。でも、やってよかった」
葉月は「ウルトラマンレオ」のほか、「太陽戦隊サンバルカン」「仮面ライダースーパー1」「ウルトラマン80」の主題歌をメドレーで気持ちよく歌い上げた。新潟時代に着物姿で演歌ばかりを歌っていた葉月を知っているファンは、目が点になったに違いない。
「賛否はあったかもしれませんが、お客様は意表を突かれたと思います(笑)。パンツスーツの衣裳で歌ったのも初めての経験でした」
このセカンドライブ、いったいどこへ向かうのか?

兄と弟の影響で、一緒に戦隊&ヒーローもののテレビ番組をよく観ていたという葉月みなみ。この日は4曲をメドレーで歌ったが、ほかにも「電子戦隊デンジマン」とか「科学戦隊ダイナマン」とか、あと「帰ってきたウルトラマン」とか・・・。次々に歌いたかったヒーローの名前を挙げていた。
新生・葉月みなみの成長をファンに!
「高揚感はありましたが、前回とは全然違って落ち着いていました」
ファーストライブの時も「思ったより平常心でした」と語っていたが、それなりに緊張もしていたのだろう。このライブでは「お客様の顔を見る余裕もありました」と話す。
白い衣裳に着替えて再登場した葉月は、松山恵子の「お別れ公衆電話」、瀬川瑛子の「命くれない」の2曲をカバーする。
「松山恵子さんの曲は何曲か勉強させていただいていますが、今回は『お別れ公衆電話』を歌わせていただきました。『命くれない』はモノマネにならないように、葉月みなみの歌い方で歌いました」
葉月はファーストライブでも松山の「未練の波止場」をカバーしているが、岩尾さんによれば、「お恵ちゃんのおかげで(松山恵子作品を学ぶことで)、葉月さんの裏声が磨かれました」という。
「葉月みなみ セカンドライブ in TOKYO」は、新生・葉月みなみの成長をファンに披露する場でもあった。
ここで最初のMCがやって来た。葉月がファンに語りかける。
「オープニングは戦隊ヒーローもので始まりまして、今日はいったい何が始まるのかと思われたかと思いますが、こんな世の中なので勇気や正義を皆様に与えられたらいいなと思いました。6月23日は、『許さないで…ねぇ』を発売してちょうど1年の日です。記念日にセカンドライブを開催できて本当にうれしい」
“平和”を考えさせられる昨今に届けられる勇気と正義。そして記念日。「『この味がいいね』と君が言ったから七月六日はサラダ記念日」。俵万智のそんな現代短歌が話題となったのはいつだったか。六月二十三日は葉月みなみのマジカルボイスを楽しむ記念日だった。
「のど自慢に落ちました!」
続いて葉月は田川寿美のデビュー曲「女・・・ひとり旅」、大月みやこの代表曲「女の港」を熱唱する。「女の港」は岩尾さんが「大月みやこさんの後継者を目指してほしい」という思いから葉月に与えた課題曲だった。
一方、「女・・・ひとり旅」は、葉月が「歌手になってやる」という思いを強くした曲だった。
「小さい頃から演歌ばっかり聴いていたので、演歌は身体に染みこんでいます。新潟の小出町に『NHKのど自慢』がやって来た時がありました。のど自慢に出場するのが夢だったのでハガキを出しました。応募が3万通あったと聞きました。その中の250組に選ばれて予選に臨み、その時に歌ったのが田川寿美さんの『女・・・ひとり旅』でした。母が大好きな曲でした。テレビに出られる本選には20組が進めるのですが、見事に落ちました(笑)。でも、その時に『もっとうまくなってやる』『絶対にプロになる』と決めました」
彼女の魂に火をつけた『NHKのど自慢』での落選。今では歌手として“天下取り”を目指すことになるとは・・・。
話は少し進んで、『NHK 新・BS日本のうた』の公開収録のステージ。共演した若手&新人歌手は、自己紹介で「のど自慢チャンピオン」をアピールしていた。ところが、葉月は「のど自慢に落ちました!」。まるでお笑いの三段落ち。客席は爆笑だった。
「葉月さんは真面目なんですよ」と岩尾さん。「『母が大好きな曲です』って書いて応募するから、審査するほうは『お母さんが病気かな』とか『もしかして亡くなってしまったのかな』って思うじゃないですか? でも、葉月さんは予選で『お母さんは?』って聞かれて、『はい! 元気です!!』って(笑)」
番組制作の裏側もわかる岩尾さんは、「のど自慢」に落ちた理由のひとつとして、エピソードの弱さを指摘して苦笑していたが、時を経て、葉月は三段落ちのネタを手に入れた!?
ミーハー・コンビの初お披露目
「ハーちゃん!!」
「あっ、先に言われちゃった(笑)」
葉月が真新しいフルートを手にスタンドマイクの前に立ち、フルートについて話し始めると、客席から「ハーちゃん!!」の掛け声がかかった。「ハーちゃん」とは、葉月が新しいフルートにつけた愛称だった。
子どもの頃、TVアニメ『世界名作劇場 小公子セディ』の主人公が吹いているのを見て始めたフルート。「許さないで…ねぇ」のカップリング曲「ふるさと慕情」では前奏・間奏・後奏で、葉月はフルートを吹いている。

山野楽器 銀座本店フルートサロンで購入したフルートを吹く葉月みなみ。たくさん試奏した中でもっとも自分と相性のいいフルートを選んだという。新しい相棒の愛称は”ハーちゃん”。
この日は新調したフルートをファンに初お披露目し、フルート演奏を届ける予定だった。
「購入したのはH管(はーかん)と言って、足部管が長いタイプ。これまでのフルートでは出なかった音も表現できるようになりました。H管の“ハーちゃん”と、みなみの“ミーちゃん”。ミーハー・コンビです(笑)」
「ふるさと慕情」を披露した葉月は、ここで現在、番組パーソナリティーを務めているラジオ番組『葉月みなみのみなみだより~音風に乗って~』を紹介する。この番組のオープニングでは葉月が作曲したテーマ曲をフルート演奏している。オリジナル曲を作曲したのは初めてだった。
番組宣伝も兼ねて番組テーマ曲を披露した葉月は、いつも寝る前に聴いているという「息吹」を演奏すると伝える。同曲は同郷のフルート奏者・本宮宏美のオリジナル作品。“笛人(ふえびと)”として活躍する本宮の最初の作曲作品でもあり、代表曲だ。
「ステージでフルートをフルに演奏するのは初めてでした。うれしさと緊張といろんな感情が入り交じっていました。でも、いっぱい練習してきたので、その成果をぶつけるしかないと思いました。心を込めて演奏するしかなかったですね」

フルート演奏とともに、「ふるさと慕情」を披露する葉月みなみ。
涙を堪え、ベストを尽くす
いよいよフルートの演奏に入ろうした、その時だった。
「葉月みなみさん、お久しぶりです」と、本宮からのビデオメッセージが会場のスクリーンに映し出された。
「!?」
きょとんとする葉月。
「笛人・本宮宏美です。新潟を拠点にフルートのオリジナル楽曲を演奏し活動しています。私のデビュー曲『息吹』を演奏してくださるということで、生で演奏を聴きたいんですが、どうしてもおうかがいできません。ファンの皆様ッ! 私の分まで葉月さんの演奏を堪能してください。葉月さん、今度、共演させてくださいね」

憧れの本宮宏美から葉月みなみに届いたビデオメッセージがスクリーンに映し出される。本宮が吹く「息吹」は公式YouTubeチャンネル「笛人・本宮宏美♪」で聴くことができる。
サプライズ演出だった。
「ファーストライブでは花岡優平先生がサプライズで登場し、葉月さんと『恋ごころ』をデュエットされましたよね。今回は何かそういうサプライズはありますか」
「今回はそういうのはないですね」
報道陣にもそうシラを切っていた岩尾さんが密かに仕掛けていたのだ。

サプライズで届けられた本宮宏美からのメッセージに、葉月みなみは驚き、感謝し、涙を見せる。
「ありがとうございます・・・。びっくりしました」
本宮の言葉を聞いた葉月が涙ぐむ。だが、グッと涙を堪える。プロデューサーの岩尾さんからステージで泣いてはいけないと、常々、注意されていたからだ。泣きたければステージを降りてから泣けばいい。ステージで本気で泣いてしまっては、ちゃんとした歌を届けることができない。それはプロではない。
「すっごくうれしかったので、涙が出てしまいました。でも、ちゃんと演奏しないといけないと思って、深呼吸して気を取り直して・・・。演奏に集中しました」
「以前だったら泣いてダメになっていたでしょうね(笑)」
プロたるもの、どんなにうれしくても、どんなに悲しくてもステージでは泣いてはいけないのか? 自らサプライズを仕込んでおいて泣くなとは・・・。鬼プロデューサーか(笑)。

「いっぱい練習した」という「息吹」を見事に聴かせた葉月みなみは、演奏を終えた瞬間、大きな笑顔を見せた。
バンドとともに葉月はフルでのフルート演奏を初披露し、ファンは固唾を呑みながら聴き入る。「息吹」は本宮が、父親が亡くなるという悲劇を乗り越えて完成させた作品でもあった。曲の前半ができた頃に最愛の父を失っているのだ。
「目に見えない恐れや不安が、少しでも身体の中から解き放たれますように」。そんな思いで本宮がつくった「息吹」の後半には力強さも感じられた。
「あとで岩尾さんがおっしゃっていたんですが、あの時の私には本宮さんが乗り移っていたねって。まだまだ勉強して練習が必要ですが、ベストは尽くせたと思います。バンド演奏でのアレンジもよくて、バイオリンとハモるところは、フルートを吹いていてもゾクッとしました」
チーム葉月の一体感
フルート演奏のために口紅を落としていた葉月が、ここで化粧直しをするためにいったんステージを降りた。バイオリンの入山ひとみが即興で「ルージュの伝言」を弾いて、ステージの熱を冷やさないように配慮する。元々なかった演出。チーム全員がひとつになっていた。
裏方ではもう一人、葉月をバックアップしていた人物がいた。ヘアーメイクアップアーティストの髙橋貢だ。ファッショングラビアの黎明期に活躍した新井克英のアシスタントとしてヘア&メイクを学んだ高橋は、今井美樹の初の全国コンサートに帯同したことを機にフリーランスとなり、映像広告を中心に雑誌などでも活躍中だ。コマーシャルに出演するフィギュアスケートの浅田真央やボクシングの井上尚弥、テニスの錦織圭などアスリートのヘア&メイクを担当した実績も持つ。
そんな髙橋が、今回、葉月のセカンドステージに相応しいヘア&メイクを担当していた。
新曲「レイニー・バスステーション」への花道
セカンドライブは6月23日でなければならない。そのもっとも大きな理由が発売日未定ながら”一周年記念”として新曲をお披露目することだった。
「許さないで…ねぇ」からちょうど1年。この日のために準備を進めてきた新曲「レイニー・バスステーション」と「風の東京」をファンに真っ先に聴いてほしかった。
「『レイニー・バスステーション』はこれまで歌ってきた楽曲とは違う大人の雰囲気の作品です。表の声と裏の声が交じっているような、マジカルボイスが活きる歌だと思います。歌詞の中に、“パンの欠片”が出てきますが、このワードがミソです。詩の深さを感じていただける作品です」
「レイニー・バスステーション」の作詞は、「君は薔薇より美しい」で知られる門谷憲二氏、作曲はファーストライブにサプライズで登場した花岡優平氏。アレンジは中村力哉氏で、この日、葉月のバンドでピアノを演奏して支えていた。
もう一曲の「風の東京」も花岡氏と中村氏が作品づくりに関わり、作詞はチュウニの初期の作品を数多く手がけた夏海裕子氏が担当した。
「夏海先生は、一人の女性が東京へ出てきて頑張っている姿を描いたとおっしゃっていて、私そのものだなって思いました。詩に共感できる部分も多いですね」
ルージュを引き直してきた葉月が歌い出す。
「初披露ということでド緊張していました。でも、新曲をファンの皆様に聴いていただけて本当によかった。歌い終わったあとはホッとしましたね。皆さんどういうふうに感じてくださったのかな」
初披露の瞬間を思い出しながら話す葉月に、岩尾さんは「あの日、いちばんの拍手だったよ。反響も大きかった」と頬を緩めていた。
「すごくよかった」「わお!」
大きな山を越えたセカンドライブはここからフィナーレへと向かう。この日のために準備した新しい衣裳に着替えた葉月は、「大阪から京都、博多へお連れします」と3曲をメドレーで届ける。
欧陽菲菲がカバーしてヒットした「雨の御堂筋」、今陽子がアルバムに収録した曲を小柳ルミ子が歌って自身の代表曲のひとつとなった「京のにわか雨」、藤圭子が歌い、その後多くの歌手にカバーされている「京都から博多まで」を聴かせた葉月は、後日、「とくに『京都から博多まで』は課題曲のひとつとして、新しい表現方法を学ばせていただいた作品です」と明かした。
岩尾さんが「すごくよかったという声があったよ」と伝えると、「わお!」と葉月。ファンからのうれしい声に、葉月は感動していた。
岩尾さんとの二人三脚で天下を取ると決めた日から、葉月は新潟時代に歌っていた曲を封印していた。大好きな長編歌謡浪曲も人前では歌っていない。かつてを知るファンからは「あの曲を聴きたい」という声もありそうだが、とにかく今は、与えられた課題をひとつずつクリアしていく時間だった。
天下を取るための挑戦。天下を取ってからの挑戦。「円形脱毛症となり、いったい何本の髪の毛が抜けたかわからない」と告白するトップスターもいる。葉月にとって必要なのは、天下を取ったあとの基礎体力だった。
マジカルボイスで自分色に
「この歌は絶対に歌いたいと思いました。自分のオリジナル作品ではありませんが、歌えば歌うほど身体に入っていく感じがします。歌えば歌うほど、まだまだ変化していく作品です」
その作品とはファーストライブで披露し、ファンに感動を与えたしばたはつみの「合鍵」だった。
「しばたさんの声は独特でハスキーです。私とは違います。だから、しばたさんをあまり意識しないように、私の『合鍵』を歌いました」
カバー曲だったが、自分色に染めていく葉月。こちらもファーストライブで好評だった「バラの香水」を続いて聴かせる。今から四半世紀前、矢野裕子が歌った「バラの香水」は、荒木とよひさ氏が作詞し、幸耕平氏が作曲した隠れた名曲。幸氏は現在、市川由紀乃、純烈、竹島宏、藤井香愛らに多くの楽曲を提供しているが、竹島がアルバムの中でカバーするなど歌い継いでいる。葉月もその継承者のひとりになりたいと願っている。
新曲「レイニー・バスステーション」を歌うために
葉月が「勉強になった曲でした」と語るのは平原綾香の「マスカット」を歌った時だ。
「難しかったですね。いちばん苦労した曲だったかもしれません。最初はモノマネになってしまっていました」
「マスカット」は平原綾香が2006年に発表したアルバム『Love』に収録された一曲。玉置浩二が作詞・作曲し、ブドウの実にたとえてひとりの少女の成長と愛を歌っている。
サックス奏者の第一人者である平原の父・平原まことが玉置浩二や安全地帯のライブにゲストプレーヤーとして参加していたことがあり、小さい時から平原綾香のことをよく知る玉置が、色っぽさと意味深な言葉をちりばめてつくった作品だ。言葉数も多く、歌うのが難しい曲として知られる。
岩尾さんは「この歌が仕上がっていくことで、新曲の歌唱につながりました」と語る。
「ある時、葉月さんと3時間ぐらい連絡が取れなくなった時がありました。でも、あとで聴いたら、ひとりカラオケボックスで『マスカット』を練習していたって言うんですよ。よりによって重要な連絡の時に(笑)」
笑い話のように話す岩尾さんはうれしそうだった。「マスカット」が歌えなければ、新曲「レイニー・バスステーション」を歌わすことができなかったからだ。
葉月らしく「マスカット」を披露した葉月は、この1年歌ってきた「許さないで…ねぇ」でライブを締めた。
私の相棒「許さないで…ねぇ」
「『許さないで…ねぇ』はいつ歌っても新鮮です。もう1年経ったなんで感じはなくて。皆さんが振付も真似してくださってうれしかったですね」
曲終わりで、葉月が肩をすぼめる“あざとかわいいポース”まで真似て、盛り上がるファン。葉月は歌い慣れた自分の曲をただただ楽しんで歌っていた。
チーム葉月としてバックを支えたバンドの存在も大きい。バンドのアレンジも担当したベースの周防泰臣、ギターの林勇治、ドラムのイトウ“ぼぶ”トモヒコ、バイオリンの入山ひとみ、そしてピアノの中村力哉。
「絶対音感を持っている葉月さんは全員の音がわかります。少しでも音がズレると気持ちが乗らない。そんなお話をさせていただきました。おかげでバンドの皆さんの音も本番ではより一層引き締まっていました。気合いを入れていただき感謝しています」と、岩尾さん。
「いろんなジャンルの歌を歌いたい。フルート演奏もお聴きいただきますし、やりたかった戦隊ヒーローものも歌います。新曲も皆さんに披露します」と、この日のライブが盛りだくさんであることを語っていた葉月は、アンコールに応えて江利チエミの「酒場にて」、和田アキ子の「天使になれない」、髙橋真梨子の「for you・・・」を選曲。「for you・・・」ではアカペラから入るアレンジで、ファンとともにエンディングを噛みしめていた。

チーム葉月のメンバー。左から中村力哉(ピアノ)、入山ひとみ(バイオリン)、周防泰臣(ベース、アレンジ)、葉月みなみ、イトウ“ぼぶ”トモヒコ(ドラム)、林勇治(ギター)。
「凱旋コンサートをやります!」
セカンドライブから一週間ほど経った頃、葉月にライブの感想を聞くことができた。
「当日はライブを振り返る余裕はなかった」と話す彼女は、ライブで完全燃焼していたようだった。自宅に帰っても片付けをして、お風呂に入って、すぐに寝てしまったという。だが、少し落ち着くと、反省点も多かったと残念がる。
「歌もフルートもトークももっとこうすればよかったというのがありました。でも、それは次に活かして、もっとよくなるようにしたいなと思います」
「盛りだくさんのセットリストでしたね」
「はい、このセットリストが今まででいちばん好きです。もっともっと突き詰めて歌いたいと思います」
「このセットリストでツアーとか回れたら・・・」
「ええ、もう一回、このセットをいろんなところでやりたい」
ここで岩尾さんが口を挟む。
「来年、新潟で凱旋コンサートをやります! (フルート奏者の)本宮宏美さんもゲストで出演してくれます。葉月さんのバースデーを記念して3月に開催できたらいいんですけどね」
「わお!」
葉月はこの日も岩尾さんの言葉に「わお!」と反応していた。

2021年6月23日に発売したシングル「許さないで…ねぇ」のカップリング曲「ふるさと慕情」のミュージックビデオは葉月みなみの故郷・新潟で行われた。だが、コロナ禍ということもあり、この2年、帰省できていないという。
六月二十三日は葉月記念日
時をライブ前に戻そう。
「歌手としての目標はあるの?」
スポーツ新聞の記者に質問された葉月は、「目標はNHK紅白歌合戦に出場すること。天下を取ります!」と、いつものように語っていた。
「あとは?」
「ヒット曲を出すことです」
「葉月みなみは芸名?」
「はい」
「どういう由来があるの?」
「葉月の“葉”は、幸せを呼ぶ四つ葉のクローバーです。小さい時から四つ葉のクローバーが好きで、皆さんに幸せを届けたいという思いが込められています。“月”は人々をずっと見守ってくれますよね。私もそんな歌手になりたい。だから葉月です」
「みなみは? 本名なの?」
「いえ・・・、違います。アニメ『タッチ』に登場するヒロイン・浅倉南の影響で・・・。小学生の時からみんなに“みなみ”って呼んでもらっていました(笑)」

「許さないで…ねぇ」が発売され、新生・葉月みなみとして、天下取りに向けてスタートを切った頃の葉月。
「デビューは?」
「2009年デビューです」
「じゃあ、何年目かな?」
「13年です。新潟時代が11年です」
「それで2年前に一念発起して・・・」
「はい、岩尾さんと劇的な出会いをして、スピード感が早くて、いろんなことが決まっていきました」
「新潟ではどんな活動だったの?」
「着物を着てド演歌を歌っていました」
「これが今日のセットリスト? 見所は?」
「戦隊ヒーローものを歌って、皆さんに驚いてもらって。そのあとは演歌でホッとしてもらいたいと思います。フルートの演奏も初披露で、新曲も披露して、とにかく挑戦している姿をファンの皆様に観てもらいたいと思います」
たくさんの現場を取材するスポーツ新聞の記者は、より深くというより、より幅広い質問を次々にぶつけてくる。そこから記事のネタになりそうなものを見つけようとする。
ライブ当日のスポーツ新聞のWEB記事には「”マジカルボイス”の葉月みなみがセカンドライブ 『紅白出場も目標、歌謡界で天下をとりたい!』」というタイトルの記事として掲載された。
またテイチクが翌日発信した「”マジカルボイス”葉月みなみ セカンドライブでさらなる飛躍へ」と題するオフィシャルニュースは、いろんなニュースサイトに転載され、ある有名なニュースサイトでは主要ニュースのトップに掲載されていた。
そのサイトをチェックしていた岩尾さんは、1時間後ごとに「まだ1位です」とスマホの画面をキャプチャして関係者に送っていた。
「氷川きよしさんよりも、美空ひばりさんよりも、参院選のニュースより上ですね」
そう返信すると、「はい!」という短い返事が返ってきた。
「『天下を取りたい』という歌手はたくさんいます。でも、『天下を取る』と言い切る歌手はそんなにいません」
新曲「レイニー・バスステーション」「風の東京」のリリースを起爆剤に、天下取りに王手をかけると意気込む岩尾さん。葉月と二人三脚で世界を見つめている。
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「六月二十三日は葉月記念日」となったか。全力で歌うことで新生・葉月みなみの第二章開幕をアピールした彼女は、その日、自分へのご褒美として炭酸飲料のコーラを飲んだ。
「瓶のコーラが好きなんですが、近くに売ってなくて。ペットボトルのやつじゃなくて、缶のコーラを買ってきて飲みました!」
岩尾さんが補足する。
「普段から摂生しているので、葉月さんは太らないようにコーラを飲まないですよ」
でも、本当はコーラが大好きだという。
「500ミリリットルのやつを飲みました(笑)」
「ええっ!?」
驚く岩尾さん。でも、岩尾さん、そこは「わお!」でしょ(笑)。

葉月がみなみの”あざとかわいい”ポーズ。