中村美律子が大切に歌いたい「銀の雨」~天国の先生に届くように・・・~
「銀の雨」を天国の先生に届けたい
デビュー36年目の大ベテラン、中村美律子の2022年の新曲は「銀の雨」。夫婦2人で入った居酒屋で、お酒の力を借りながら普段口にしないような言葉をいう妻と、照れくさいのかそれにぶっきらぼうに答える夫。そんな熟年夫婦の会話が聞こえてきそうな、ほのぼのとした人情演歌だ。
作詞は今年3月に他界した坂口照幸氏。体調を崩しながらも言葉を紡ぎ、2月に詩を完成させたが、その1カ月後に帰らぬ人となった。予期せぬ出来事に驚きを隠せない中村だが、「天国の先生にしっかりと届くように歌唱していきたい」という。
担当ディレクターが今年1月に作詞を依頼して、坂口先生ご自身も私の曲は29年振りになりますので、曲の完成をとても楽しみにしておられたそうです。私も先生のお名前を聞いたときはとてもうれしく、レコーディングでお目にかかれるとその日を待ち遠しく思っていました。でも、その直前に亡くなられてしまい、今でも信じられない気持ちです。
遺作というとどなたかが預かっていた作品を何かの機会に発表する・・・というケースが多いですが、今回はそうではありません。私のために作ってくださった詩。2番にある“人のご縁は つながるように”というフレーズは、私との久々のお仕事を喜んでくださっているお気持ちも隠されているのではないかなと思ったりしています。歌声を聴いてもらえなかったことは残念でなりませんが、だからこそ大事に歌っていきたいですね。
この作品、「銀の雨」というタイトルにまず惚れました。提灯の灯りなのか、ネオンの灯りなのかはわかりませんが、雨がそんな光に当たってキラキラと輝いている。酸いも甘いも共有している夫婦を優しく包み込んでくれそうな、とてもステキな光景です。ジトジトの梅雨はおっくうかもしれませんが、そんな雨だったら降られてもいいなと思ってしまう、ものは考えようですね(笑)。
歌詞のなかに夫婦という言葉は出さず、あくまで男女それぞれの素直な思いを詩にすること。そんなやりとりがディレクターと先生との間であったそうです。私は以前、坂口先生から「袖摺坂」(1993年)という曲をいただき、今でもはっきり覚えているほど詩が気に入っていました。“すわり直して 盃ふせて 俺の女房に なれと云う”と始まり、“何を云うのよ からかわないで”と続く冒頭。二人がまるで会話しているような言葉の流れで、今回の「銀の雨」も同じようにその情景が目に浮かんでくる明るい詩が印象的です。
「銀の雨」の3番には“そうよまだまだ 相合い傘も”という歌詞があり、歌う私もちょっと照れくさい感じ(笑)。でも、こうした暖かみのある世界観を味わえるのは歌の中だからこそです。
そんな詩に曲をつけてくださったのは、弦哲也先生。予想どおり、歌詞にぴったりなメロディーができあがってきました。カラオケで歌う際は、テンポがゆっくり目なだけに崩れやすくもあるので、そうならないよう丁寧に歌うことを心掛けてください。私も、自分自身にそう言い聞かせて歌おうと思っています。6~7分くらいの力で、できるだけ強弱はつけず柔らかな雰囲気で。映画のワンシーンのような情景をイメージしながら、ご夫婦で歌っていただくのも楽しいと思います。
「負けない、泣かない、がんばるぞ」
カップリング曲には、作詞が麻こよみ氏、そして「銀の雨」同様、弦哲也氏の作曲による「明けの明星」が収録されている。耳にしてまず思うのは、アレンジの妙である。伊戸のりお氏によるイントロが明るく行進曲のようなテンポで、聴く者の心をググっとわしづかみ。インパクトは抜群で、そのあとの流れるような中村の歌声に好影響を与えている。
すっごい! イントロを聴いて度肝抜かれましたね。さすが編曲の伊戸のりお先生。レコーディングのとき、歌いながら思わず伊戸先生にグッドのサインを出してしまいました(笑)。
じつはアレンジが完成する前は、逆にこの歌をどう歌うべきなのかちょっと迷っていました。私らしく王道の演歌で歌うべきなのか、でも、弦先生はデモでそうは歌っていない。それでどうしようかと考えていたところ、アレンジを聴いて、そうか、こういうことかと。
つまり、これは応援歌なんです。たくさんの人を励ますと同時に、また私自身にも向けた「負けない、泣かない、がんばるぞ」というエールです。そういう思いが歌うときに前面に出ていればいいんじゃないかなと、そう理解しました。
“明けの明星 明々(あかあか)と”という歌詞があります。“明々と”、それだけで元気が湧いてくるようです。ここはとくにポイントだと思ったので、最初歌い方を変えてみました。でも、そこだけやたら強調されてしまったので、結局は元に戻して流れるように歌っています。メロディーもそこは大きい部分、むしろ自然な感じがいいなと。
そして、力を入れるべきは最後の1行です。“泣いて笑って 泣いて笑って 生きて行く”。コロナ禍にあって苦労は尽きませんが、思いを込めて歌いたいフレーズです。
前作の「命の花道」も応援歌でしたが、同じようでまったく違う作品。イントロがパンチ力抜群ですので、カラオケでは逆に肩の力を抜いて、楽に歌っていただければと思います。
(文=藤井利香)
INFORMATION
デビュー記念日の8月25日に、新歌舞伎座で開催
中村美律子コンサート2022
会場:大阪・新歌舞伎座
開催日時:2022年8月25日(木) 15:00開演
料金 (税込):1階席 10,000円
2階席 6,000円
3階席 3,500円
特別席 11,000円
▼チケット購入や詳細は新歌舞伎座HPへ
https://www.shinkabukiza.co.jp/perf_info/s20220825.html
大阪・新歌舞伎座で開催される「中村美律子コンサート2022」。内容はこれから具体的に詰めていくそうだが、ホールでのコンサートとは違った劇場バージョンの構成を検討中という。中村の過去の楽曲を20曲ほどセレクトし、目の前のファンからリクエストをもらってその場で歌う・・・そんなファンとの直接のやり取りでステージを盛り上げていったり、長年親交のある作詞家・もず唱平氏の作品を中心に昭和の時代を再現したり・・・といった企画も候補に挙がっているそうだ。また「まだ内緒」と中村は笑うが、サプライズも予定しているそうだ。コロナ禍で思うような歌手活動ができなかった空白を埋めるべく、充実のステージを披露したいと意欲満々である。
中村美津子 コロナのおかげで生まれた十分な時間。こんなときだからこそ、やらなあかんことはたくさんある! と、三味線をとことんやったり、またジムに通って体づくりも続けたりしていました。でも、節制できずにかなり太ってしまいまして(笑)、本来は痩せたいけれどなかなか思うようにいきません。体づくりというよりは今の体を維持する程度のことですが、これも仕事のひとつと思って筋肉痛にめげずに頑張っています。
コンサートでは「みっちゃ~ん!」とか、やはりお客様からの掛け声がとても励みになります。皆さん、今まで声が出せなくてストレスもたまっていますよね。可能な範囲で声に出して一緒に歌ったりできるようになるといいなと思っています。
そして、この先の私としては王道演歌で勝負しながら、浪曲もこれまでどおりやっていきたい。私の場合はいろいろな楽器の音を使って披露していますが、昔の浪曲師は三味線一本で唄の世界観をちゃんと表現し伝えていました。こんなすごい芸、ないですよね。そんな浪曲を自分なりの方法で伝承していく、それも与えられた役目のひとつではないかと思っています。8月のコンサートでも、あらためて披露する予定です。
2022年5月25日発売
中村美律子「銀の雨」
長年連れ添った男女の絆・愛情が感じられる表題曲「銀の雨」。カップリングには人生の応援歌「明けの明星」が収録される。「『明けの明星』は、今はつらいけど、いいときはいつかきっと来るから、という応援歌です。最初、デモを聴かせていただいたときとは違って、アレンジが入ると、こちらが表題曲になってもいいんじゃないかと思うほど印象が変わりました。編曲の伊戸のりおさんに、思わずこう(サムアップ)したぐらいです。根性ものの作品はたくさんありますが、『明けの明星』はボレロなので迫力を感じていただけると思います」(中村)
profile
中村美律子(なかむら・みつこ)
7月31日、大阪府生まれ。高校在学中に、名人と言われ、河内音頭宗家初音家二代目としても活躍した初音家賢次のもとで修行し、「初音家みつ子」として河内音頭の音頭取り(歌い手)となる。1986年に「恋の肥後つばき」でメジャーデビュー。サードシングルとしてリリースした1988年の「河内おとこ節」がじわじわとヒットし、1992年の『NHK紅白歌合戦』に初出場(これまでに15回出場し、同曲を8回歌唱)。代表曲に「瞼の母」「島田のブンブン」「風まかせ」「だんじり」など多数。劇場での座長公演のほか、音楽番組の司会や、映画やテレビドラマにも出演するなどマルチに活躍。健康法はよく食べて、よく寝ること。いつも笑顔でいること。大阪から上京した際には、健康管理も兼ねてよく皇居の周りを散歩するという。