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山安田裕美安田裕美

名ギタリスト・安田裕美の一周忌イベント「安田裕美の会」。山崎ハコが亡き夫の音楽への愛を引き継ぐと、1年半ぶりにステージで歌声を披露

山崎ハコの夫であり、多くの作品にアコースティックギターの名プレーヤーとして参加した不世出のギタリスト・安田裕美を偲ぶ「安田裕美の会」が7月4日、都内の原宿クエストホールで行われた。

安田は2020年7月6日、午後2時33分に大腸がんで永眠した。享年72だったが、本人の遺志や新型コロナウイルスの感染が拡大している時期だったこともあり、葬儀・告別式は行われなかった。

訃報に際し、山崎はいつか最初で最後の「安田裕美の会」を行いたいとしていたが、一周忌間近のこの日に実現。昼の部(音楽関係者)と、夜の部(一般客)が行われ、山崎が構成した安田の経歴スライドショーや、安田のライブ演奏動画の上映、山崎によるミニライブが行われた。経歴スライドショーは安田による演奏がBGMで流れる中、安田の写真が映し出されたが、山崎との結婚式の写真や、コンサートでの共演写真も多く、「何百枚もの写真の中から選ぶのに、3分の2の時間は泣いていました」と、山崎は告白していた。

山崎ハコ 安田裕美

安田裕美は音楽パートナーとして、山崎ハコを支えてきた。山崎のステージにはいつも安田がいた。「安田裕美の会」では、ステージでの2人の写真がたくさん紹介された。

1948年、北海道に生まれた安田裕美は10歳の時に実母が亡くなり、1960年、父の再婚に合わせて祖母と暮らすことになる。大学時代に、初期の「六文銭」のメンバーとして井上陽水(当時はアンドレ・カンドレ)のデビューシングルのスタジオ演奏に参加。ここからプロとして井上陽水のほか、小椋佳、山崎ハコの初期アルバムでスタジオミュージシャンとして演奏し、同時に編曲も多く手がけようになる。そして杏里、松任谷由実、中島みゆき、松山千春、中村雅俊、アリス、海援隊、山口百恵、石川さゆり、松代聖子など様々なジャンルのアーティストとセッションしてきた。また、“子犬のCM”としても名高いサントリーウイスキー“トリス”のCM(カンヌ国際広告映画祭金賞)では、曲の編曲と演奏をしている。

そんな安田と山崎は、山崎のデビュー当時から多くの仕事を共にし、2001年に結婚。公私ともにパートナーとして支え合ってきた。

安田に大腸がんは発見されたのは2017年。手術を行ったものの、2018年には肝臓への転移が見つかるなど晩年はがんと戦ってきた。2020年3月には入院し、4月からは自宅療養を続けていたが、死の直前まで音楽への熱意は変わらず、4日前までスタジオで仕事をしていたという。また山崎の誕生日である5月18日には、いち早く誕生日おめでとう、とメッセージを送ろうとして、18日を迎える4分前に送信してしまった安田の微笑ましいエピソードも明かされた。山崎のスマホの画面には、5月17日23時56分に送信された安田からのメッセージが残っていた。

山崎ハコ 安田裕美

コロナ禍ということもあるが、安田裕美が亡くなったあと、ステージで歌うことがなかった山崎ハコ。歌う前に生きることで精いっぱいだった。

1年半ぶりにステージで歌った山崎ハコは、「安田さんは逝く気はなかった。やる気満々でした」と、夫であり、大切な音楽のパートナーだった安田について話した。

「(安田の死後は)歌うという前に、生きていかなければならない状況でした。毎日毎日、自分に頑張れって、自分を励まさないと挫けそうでした。光がなくなって、暗闇しかなかった。初めての経験でした。でも、安田さんは直前まで仕事をしていて、逝く気はなかったし、やる気満々でした。職人でした。趣味はなく、ギターだけが大好きな人でした。その音楽への熱、音楽愛は私が引き継ぐことにしました。だから、私は歌わないといけないんです」

山崎ハコ 安田裕美

安田裕美とのエピソードを話ながら、安田がギターを弾くカラオケ音源を使って歌を届ける山崎ハコ。「これが安田さんとの最後の共演です」。

山崎は安田がギタリストとして弾いているカラオケ音源を使って、「横浜から」「SNOW」「BEETEL」「縁-えにし-」「ごめん・・・」を歌った。安田によるアレンジが気に入っている作品を5曲、山崎自身が選曲した。

「安田さんとの最後の共演です。今日までは安田さんがここにいるものだと思って歌いました。最後に歌った『ごめん・・・』は東北の震災のその後の歌で、死んだ人の身になって、“ごめんね、逝っちゃって”と歌うので、涙を抑えるのがギリギリでした。でも、安田さんの音楽への熱を勝手に(笑)、引き継いだし、素敵な音楽を残してくれたので、これからもやり続けます。新曲には安田さんのギターがないけれど、安田さんの真似して弾きます(笑)」

山崎ハコ 安田裕美

山崎ハコには寡黙なイメージがあるが、この日の山崎は饒舌だった。実はかつて所属した事務所の方針で、そのようなイメージが作り出されていたのだという。多くの報道陣の前で話すのは、ほぼ今回が初めてという山崎は、「これが本当の私です」と話していた。代表曲「織江の唄」の歌詞になぞらえて、「織江も大人になりました」と笑わせた。

山崎ハコ 安田裕美

「本当の気持ちを私の言葉で伝えられるのはうれしいです。テイチクさんのおかげで、こうして話す機会をいただけました。昔は、『ホントにあの人は困るよ、全然、しゃべらないから』と言われていました(笑)。でも、しゃべる私も、しゃべらない私も、ハコです。ハコは一人しかいないので。これが私です」

そんな山崎ハコが安田裕美の音楽を知ってほしいと、6月30日にアルバム「山崎ハコ セレクション『ギタリスト安田裕美の軌跡』」を製作、テイチクエンタテインメントから発売した。

「自分はメインで表に出るのではなく、裏方に徹したい」「誰かの後ろで、この人うまいなあと思いながらギターを弾いていたい」

安田は時々、このように口にしていたという。だから、どの作品で演奏したという話はほとんどしなかったが、山崎は、誰もが知っているあの曲もこの曲も安田がギターを弾いていたんだということを、「CDを出して世の中に知ってもらいたいと思った」という。

全17曲。山崎自身が選び、レコード会社の垣根を越えて作品となった。16曲目には安田自身が演奏するインストゥルメンタル「ニューシネマ・パラダイス」が収録されている。多くの映画音楽を残してきた同曲の作曲家、エンニオ・モリコーネが亡くなったのも、安田と同じ2020年7月6日。山崎は「イタリアと日本で、同じ日に天使となって空に昇っていく姿が浮かび、また泣いてしまった」と述懐している。

自宅から「安田裕美の会」に向かう際、山崎は安田に「今日も一緒に来てね」と呼びかけてやってきたという。「これからも、これでいんじゃないかな」。

山崎ハコ 安田裕美

ロビーには安田裕美が愛用したギターが展示された。多くの作品で弾いたギターもまるで新品のように美しかった。素晴らしい奏者は楽器にも優しいのだろう。


2021年6月30日発売
山崎ハコ セレクション
『ギタリスト安田裕美の軌跡』
山崎ハコ 安田裕美

テイチクエンタテインメント TECE-3635 ¥3,300(税込)

収録曲
1.さらば青春(小椋佳)
2.帰れない二人(井上陽水)
3.桜三月散歩道(井上陽水)
4.あどけない君のしぐさ(井上陽水)
5.ゼンマイじかけのカブト虫(井上陽水)
6.悲しい水(宗次郎)
7.SOYOGI(松原正樹)
8.盆帰り(中村雅俊)
9.雪化粧(松山千春)
10.花火(石川さゆり)
11.望(山崎ハコ)
12.織江の唄(山崎ハコ)
13.白い花(山崎ハコ)
14.東京港町気分(山崎ハコ)
15.琥珀色の日々(菅原進)
16.ニューシネマ・パラダイス(安田裕美)
17.ごめん・・・(山崎ハコ)


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