森山愛子、渾身の一曲~デビュー20周年記念曲「雨の空港」で今までにない歌の世界へ~
デビューは2004年。1985年生まれの38歳で、今年20周年を迎える森山愛子が、記念シングル「雨の空港」をリリースした。数々の経験を積んできた実力派歌手の一人だが、オトカゼでじっくりインタビューするのは初めてのことになる。改めて彼女の人物像に迫りながら、今回の新曲を紹介していきたい。
ヤバイ! テレビに映っちゃうじゃん!
――デビューのきっかけは、高校生のときに出場し“女ののど自慢 夏休み女子高生大会”で作曲家 水森英夫氏の目にとまったことだそうですね。
森山 母が民謡を習い、私も日舞をやっていた関係で、演歌や長唄といった世界に自然と触れる環境にいました。本気で歌手になる気はなかったのですが、歌うことは好きでカラオケ教室にも通っていましたね。そんな矢先に、母と叔母が勝手にのど自慢大会に応募してしまい、「明日、予選会だから」と言われてびっくり。当日は早く終わって帰りたいとその一心だったのに、結果は予選を通過して本大会へ。そのときはえ~ヤバイ! テレビに映っちゃうじゃん! と目を回しました(笑)。
――大した準備もしていなかったのに、見事、本大会へ進んでしまった?
森山 そうなんです。でも私自身、歌手になる運命をたどっていれば何をしていてもそのうち絶対になれるだろうと、そんな思いも心の中にあったので、本大会ではやるしかないと決心して臨みました。そのときに審査員だった水森先生に出会い、歌手として勉強しないかとお声をかけてもらったんです。このとき歌ったのは、島津亜矢さんの「都会の雀」でした。
――当時通っていた高校では、福祉の道に進もうと勉強されていたんですよね?
森山 片道2時間かけて通い、とことん勉強して介護福祉士の資格を取得しました。歌の道に行くのか迷いも少なからずありましたが、そのとき水森先生が「歌うことも福祉につながるよ」と。介護施設で認知症のあるお年寄りが、懐メロなどを歌うととてもいい表情をして一緒に歌ってくれるんです。そんな様子を何度か垣間見たことで歌の力を改めて感じ、先生の言うように、歌を通していろいろな人に寄り添っていけたらいいなと思うようになりました。
歌が好き、歌うことが好き
――デビュー曲は「おんな節」。2012年にリリースした9枚目のシングル「約束」は好評でしたね。途中には「キャベツ畑のサンマ」(作詞/高田ひろお 作曲/奥田民生)といったユニークな歌謡曲もリリースしています。
森山 水森先生の指導を受けながら、多くは本格演歌ですが、いろいろな曲を歌わせていただいてきました。私としてはこの20年、こうしたいとかこうしないといけないとか、あまり欲を出さず、ガツガツしないで歩んできたなという印象です。ひと言でいうなら、自然体。“森山愛子”という歌い手はこの世に一人しかいないのだから、自分を無理に作ろうとするのではなく、私らしさを常に出して歌っていけたらいいなと思っていました。
こうしてマイペースでやってこられたのも、水森ファミリーの一員であることが大きいのかもしれません。先輩には一時期一緒にお稽古していた山内惠介さんもいるし、今や後輩もたくさんいて、常に刺激を受けています。そして水森先生に見守っていただけて、無理をしてこなかったせいなのか、歌が好き、歌うことが好きという純粋な思いは今もまったく変わりません。20年目ですが、まだ5~6年かなというくらい新鮮な気持ちでいます。
新曲「雨の空港」で新たな挑戦
――それがまさに森山さんらしさでもありますね。そして今回の新曲「雨の空港」が、16枚目のシングルになります。
森山 近年のご当地ソングシリーズも含め、これまで演歌系の作品を中心にオリジナル曲を歌ってきましたが、今回はガラリと変わっています。「愛しくて切ない大人の恋模様を歌ったラブソング」とありますが、幅広い世代の方々に受け入れていただきやすい歌謡曲テイストの作品です。担当のディレクターさんなど周りの方々の意見を受けて今回このようなスタイルになり、つまり私にとっては20周年にして新たな挑戦。心機一転、デビューし直した気持ちで歌と向き合っています。
――演歌の王道から、新しい自分を表現するための一曲なんですね。
森山 生まれ変わったつもりでいます。ずっとファンでいてくださる方にはそのような見方をしていただきたいし、この曲で森山愛子を知っていただく方には、じゃあ前はどんな歌を歌っていたんだろうと興味を広げてもらえたらうれしいです。
――新曲は空港を舞台にした遠距離恋愛が描かれています。逢いたいのに逢えない恋心が苦しい歌ですね。
森山 はい。シンプルでわかりやすい歌詞で、絵が浮かびやすいですね。それだけに水森先生の指導で今までにない勉強をさせていただきました。
――これまでとは歌い方などにも変化が?
森山 「雨の空港」は3連の歌で難しい歌ではないと思いますが、だからこそ逆に歌い過ぎない、歌い上げないという部分を今回はとても意識しています。そのうえで、詩の重みやストーリーをどうやって伝えるかということについて、水森先生からは前半は静かに歌いながらも迫力があるように、説得力があるようにと。「心のドラマをつくりなさい」と言われました。そして後半はドラマチックに歌っています。
山口百恵のように・・・
――じっくりレッスンを積んでレコーディングに臨まれたんですね。
森山 声の強弱で切なさを伝えるというのは難しかったですね。山口百恵さんがそうですが、表情を変えずに感情を込めて歌っておられました。「雨の空港」の歌唱で意識したスタイルです。
――カラオケで歌うときのアドバイスなどがあればお願いします。
森山 今、話したように歌い上げないが一つですが、1番なら「ゲートに消えて あなたは帰る」からのクライマックスでは、しっかりと強弱をつけて感情を表現するといいですね。クライマックスに入るあたりがちょっと難しいかもしれませんが、物語の中のいちばん心に残る部分なので、ぜひ挑戦していただけたらと思います。私も声がひっくり返るギリギリまで歌っています(笑)。
――ちなみに、空港が舞台の新曲ですが、森山さんはどこの空港をイメージして歌っていますか? 歌詞にはどこの空港かは書かれていません。
森山 羽田空港です! 歌のイメージとしては、羽田から男性が向かうのは北海道とイメージしています、勝手に(笑)。
――だから、ジャケット写真に写る風景が羽田空港近くの東京湾なんですね。
森山 羽田空港が見える公園で撮影しました。ミュージックビデオでは背景に空港も映っています。じつはジャケット写真の撮影のあと、雨がバーッと降ってきたんですよ。それまでに無事撮影できて、しかも今にも雨が降りそうな風景の中で撮影ができました。いい表情で撮れているとも、スタッフさんが褒めてくれました。やっと写真撮影にも慣れてきて、お、今年はもってるな私、という印象です!
“残ったままの ウイスキー”
――カップリングの「父さんのウイスキー」についても教えてください。”残ったままの ウイスキー”(歌詞より)をキーワードに天国に旅立った父を想いながら、先に亡くなっていた母にも想いを馳せる作品です。
森山 作品では亡くなった父のことを歌っていますが、亡くなった叔父と叔母夫婦の話を歌にしてもらったものなんです。叔父は闘病生活が長かったのですが、亡くなって数日もしないうちに叔母まで急死してしまい、私自身心の整理がなかなかつきませんでした。2人は私をとても応援してくれていたので、感謝の気持ちを歌にしたいとディレクターさんにお願いして出来上がりました。歌詞としては叔父叔母ではストーリーになりにくいので、両親に置き換えた作品になっています。キャンペーンで何回か歌っていますが、思わず込み上げてくるものがあります。
――「雨の空港」もこの曲も、森山さんのいろいろな思いが背景にあるわけですね。自然と力が入りますね。
森山 水森先生には、チャンスが来たときにそれをポンと掴めるようにいつも準備をしておきなさいと言われています。何事にも敏感でいないといけないし、いろいろなことに挑戦して心をふくよかにしていきたい。そして、味わい深い歌をきちんと歌えるように、今まで以上に経験を積んでいきたいですね。
20周年は通過点。より味わい深く
――ところで、歌っている森山さんはとても大人っぽいのに、こうしてお話しているとまるで少女のようなトーンでお話されます!
森山 びっくりされます(笑)。昔からしゃべっているときと歌うときが全然違うと言われていて、私自身どうしてなのかわからない。電話越しだともっと違って、とても子供っぽく聞こえるみたいです。それが歌うと声が太く重くなるようで、コンプレックスというよりはこのギャップの大きさを私の個性、魅力として見てほしいですね。歌で楽しんで、トークではそのギャップをまた楽しむ。どんどん突っ込んでもらってOKです!
トークの声を意識しながら歌っているのはアニメソングのカバーで、今後も機会があればもっと歌いたいですね。同時にこの先の思いとしては、日本の誇る抒情歌や童謡を、こぶしをきかせて歌っていくこともしていきたい。童謡にこぶしって難しいことなんですが、聴き応えはあります。これまで収録したのは「赤とんぼ」(「キャベツ畑のさんま」のカップリング)だけですので、レパートリーを増やしてたくさんの人に聴いていただけたらと思っています。
20周年も通過点です。デビューしたばかりの新人のつもりというか、20年目にして、もう一度スタートラインに立ったつもりで歌い続けていきたいと思います。
(文=藤井利香)
坂本冬美特別公演に出演します!
森山愛子は新歌舞伎座で開催される坂本冬美特別公演に出演する。一攫千金を目指すサギ師たちによる舞踏会を舞台に繰り広げられる芝居や、歌謡ショーに出演。歌謡ショーでは新曲「雨の空港」を披露する。
「大先輩である坂本冬美さんの舞台に、ここ数年ずっと出演させていただいています。お芝居は本当に難しいですが、客席からの反応が手に取るようにわかりドキドキ感が違いますね。歌も披露させていただきますので、ぜひご覧いただけたらと思います」(森山愛子)
大阪新歌舞伎座「坂本冬美特別公演」
公演期間:2023年2月3日~26日
第一部:第一部 華麗なるサギ師たち
第二部:坂本冬美オンステージチケット購入や詳細は大阪新歌舞伎座 公式ホームページへ
2023年2月1日発売
デビュー20周年記念曲
森山愛子「雨の空港」
デビュー曲の「おんな節」から近年のご当地ソングシリーズまで演歌系の作品を中心にオリジナル曲を歌ってきた森山愛子が20周年を迎え、新たな歌の世界の扉を開けた渾身の1曲をリリースした。今までにはなかった歌謡曲テイストの作品「雨の空港」は空港を舞台に逢いたいのに逢えない… 愛しくて切ない遠距離恋愛の大人な恋模様を歌った、マイナー3連リズムのバラード歌謡曲となっている! カップリング曲「父さんのウイスキー」は天国に旅立った父を想う作品で、ブルース調が心に響く歌謡曲に仕上がった感涙の一曲となっている。
profile
森山愛子(もりやま・あいこ)
1985年1月27日、栃木県生まれ。高校1年生の時(2000年8月16日)にNTV系『ルックルックこんにちは』の“女ののど自慢夏休み女子高生大会”に出場した際に審査員だった水森英夫氏の目にとまり、本格的なレッスンを受けることに。2003年、現在の所属事務所の社長の紹介で、アントニオ猪木さんの事務所でアルバイトを始める。このことがきっかけで猪木さんが名付け親に。「森と山、自然を愛する子」という意味で「森山愛子」と命名される。2004年5月19日、東芝EMI(現ユニバーサル ミュージック)より猪木さんの命名による“闘魂の歌姫”として「おんな節」でデビュー。第37回日本有線大賞および第46回日本レコード大賞で新人賞を受賞。以降、着実に歌手としてのキャリアを積み、2012年、9枚目のシングル「約束」ではレコチョクの演歌・歌謡曲チャートの1位を獲得。翌2013年には、草月ホールにて「デビュー10周年 闘魂の歌姫 森山愛子 『約束』 ヒット感謝祭コンサート」を開催した。また2019年の「尾曳の渡し」ではJOYSOUNDカラオケ年間ランキングの「令和発売曲ランキング」で総合10位となる。とちぎ未来大使。介護福祉士の資格も持つ。
森山愛子 公式ホームページ
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