石原詢子がアコースティック・ライブで、いま届けたい「ありがとう」。またひとつ、扉が開いた。
石原詢子が11月5日、東京・吉祥寺のライブハウス「スターパインズカフェ」で、「石原詢子 アコースティック・ライブ2021~いま届けたい『ありがとう』~」を開催した。石原はコロナ禍でほぼすべてのコンサート活動が中止や延期になるなか、ファンの前で歌声を届けたいと、ライブハウスツアーを計画。感染防止のためにソーシャルディスタンスを保ちながらも10月に大阪と故郷・岐阜のライブハウスで有観客ライブを行い、この日がツアーの最終日だった。
デビュー以来、演歌歌手として活動してきた石原にとってライブハウスでのアコースティック形態でのステージは初めての経験だった。キーボード、アコースティックギター、ベースという編成に、大阪ではトランペットが、岐阜ではサックスが加わり、東京ではバイオリンが参加しての演奏で歌声を披露。「やってみたいことはまだいっぱいあるんですが、第一歩を踏み出せました」と、ファンに生歌を届けられる喜びを噛みしめた。
白のブラウスに黄色の花柄のスカートという衣裳で登場した石原は、「予感」と「夜汽車」からライブをスタートさせた。通常のコンサートでは基本的に着物姿で歌うことが多いだけに、洋装での石原は新鮮だった。しかもオープニングの2曲は、これまでほとんどステージで歌って来なかった曲だ。
「予感」はアルバム収録曲の一曲で、1994年、NHK『サンデー経済スコープ』のエンディングテーマに採用された作品。デビュー20周年を記念して2008年にリリースしたアルバム『しあわせ演歌・石原詢子です』にも収録したオリジナル曲だ。一方、「夜汽車」は、7枚目のシングル「三日月情話」(1994年)のカップリング曲だった。
「アコースティック・ライブを特別なものにしたい」という思いと、この2曲がアコースティックアレンジに相応しいということで、石原自らが選曲したものだったが、2曲とも今年10月に逝去した作・編曲家の川口真さんの作品ということで、追悼の意味も込められた。
続いてはライブの開催地にちなんだ曲のメドレーのパートへ。大阪公演では「悲しい色やね」「宗右衛門町ブルース」など、岐阜公演では「柳ケ瀬ブルース」「空も飛べるはず」などそれぞれ4曲を披露し、今回のライブツアーならではの趣向として好評を得てきた。
東京公演では「今日は東京の歌を歌います」と告げ、「東京ららばい」(中原理恵)~「神田川」(かぐや姫)~「大都会」(クリスタルキング)~「栄光の架橋」(ゆず)と、誰もが知るヒット曲をカバーした。「神田川」はバイオリンの音色が原曲に近いことからイントロから拍手が巻き起こり、バリエーションに富んだ名曲たちを、石原ならではの優しく伸びやかな声で歌い上げた。
歌い終えた石原は、「全部の曲、お分かりになりました?」と客席に話しかけ、演歌ファンの観客に気づかいながら一曲ずつ解説を加える。上京時に神田川のそばに住んでいたという思い出話や「栄光の架橋」については東京五輪の話題を織り交ぜて話していた。
「今回のライブツアーでは、自分がやりたかったことをさせていただいていて、演歌というよりも歌謡曲寄りの楽曲を選んでいます。演歌を楽しんでくださっているファンの皆様がどんな反応をされるか不安もあったんですが、実際にライブをやってみて払拭されました。『詢ちゃん、久しぶり』ってものすごく温かく迎えてくださいました。ファンの方とは2年弱ぶりにお会いする方も多く、本当にうれしそうな顔をしてくださいました」
コロナ禍でなければ、ライブハウスでのツアーを計画することもなかった。石原は今年5月にシンガーソングライター・古内東子によるポップス作品「ただそばにいてくれて」をリリースしているが、これもコロナ禍だからできた挑戦かもしれないという。
「新しいことをやってもいいという空気が背中を押してくれました」
観客との目線の近さが安心感にもつながり、ライブハウスでのステージも「自分に合っていると感じた」と石原。「まるでラジオ番組をやっているように、自分の素が出せました。この空間、好きです」。
石原はファンに“ありがとう”の気持ちを伝えたいと、古内東子の「誰より好きなのに」をカバーすると、AIの「STORY」、一青窈の「ハナミズキ」を歌った。石原が歌うJ-POP不朽の名曲を客席の演歌ファンは、ジャンルを意識せず聴き入っていた。
「今回のライブでは新たなことにチャレンジしています」
石原は初めて洋楽のカバーにも挑戦した。好きなアーティストのライブを観るために訪米するほど、カントリーミュージックが大好きだそうで、誰もがよく知る「Top of the world」と「Take me home country roads」を披露した。前者はカーペンターズの、後者はジョン・デンバーの作品だが、日本でも大ヒットしたオリビア・ニュートン・ジョンによるカバーバージョンを歌った。自らが手拍子をして体を揺らし、観客をリードしながら軽やかなボーカルを聴かせると、バンドメンバーによる美しいハーモニーと相まって観客を魅了した。
「緊張するー!」
ライブのヤマ場は今回のツアーのために練習を重ねてきたピアノの弾き語りだった。石原はピアノの前に座ると、「手が温まるまで、ちょっと待ってください」と、両手をこすったり振ったりしながら、自らの緊張を鎮めるように観客に語りかける。
「英語の歌とか、ピアノの弾き語りとか、ハードルを上げすぎちゃったので、次回は上げないようにしよう(笑)。じつは、ピアノの弾き語りでは、大阪でも岐阜でもイントロを失敗して、一回も一発で成功してないんですよ(苦笑)」
開演前にそう語っていた石原。ピアノに向かう彼女と、温かい目で見守るファン。石原が歌ったのは「ただそばにいてくれて」のカップリング曲「ひと粒」だった。
石原をイメージして古内東子が作詞作曲し、私小説的でパーソナルな言葉で紡がれた作品。その言葉のひとつひとつを丁寧に歌い、ピアノの一音一音をミスすることなく、丁寧に奏でる石原のそのひたむきな姿に、客席からは大きな拍手が湧き起こった。
最後の曲は、石原の希望で実現した古内東子のよる作詞作曲作品「ただそばにいてくれて」だった。
「月日が過ぎるのは早いものです。一分一秒という時間は二度と戻ってきません。でも、今日という時間は私の心の中にずっと残っていきます。同じように皆さんの心の中にも残ってくれることを願っています。今回、このライブをやれたことは、ひとつの扉を開けたに過ぎません。いろんなことにチャレンジしながら頑張っていきたいと思います。大好きな歌が歌える幸せを、このコロナで知ることができました」
コロナ禍によって気づいた大切で身近な存在への「ありがとう」。この気持ちをファンに伝えたくて今回のツアーを始めた。そんな自身の想いを歌に乗せて、石原はファンひとりひとりに寄り添いそうように歌った。
「人と人との温もりを感じながら、生で歌うのはすごくいいなって思いました」
ステージを降りた石原だったが、アンコールを求める拍手に再びステージに登場すると、“石原詢子の演歌”を期待する観客の気持ちにも応え、王道演歌「ひとり酔いたくて」を歌った。2019年に発表した楽曲ながら、「コロナになってしまって、テレビでも歌うことがなくって、お客様にも聴いていただく機会がとても少なかった曲」(石原)だった。アコースティックアレンジよって新鮮に生まれ変わった「ひとり酔いたくて」。石原は情感たっぷりに届けた。
演歌歌手として1988年、「ホレました」でデビューして34年。昨年から続くコロナ禍によって歌手活動は制限を受けたが、YouTubeチャンネルの開設や、ポップス曲「ただそばにいてくれて」の発表、そして今回のライブハウスツアーの開催など、逆境に負けることなく新境地を開拓しつづけた石原だった。この日のライブでも”シンガー 石原詢子”の魅力を存分に感じることができた。
アンコールの2曲目、お別れの曲は「逢いたい、今すぐあなたに・・・。」。別れた人を想う切ない心情の歌だが、2011年に新生・石原詢子をアピールする作品として発表した。「私にとってとても大切な、特別な歌です」。石原とファンがやっと逢えた喜びを分かち合うフィナーレだった。
ライブを終えた石原は晴れやかな顔をみせた。「楽しかった! またぜひやりたい!」。
「来年は35周年。特別な企画やアルバムづくりなどの準備期間として大事な一年になると思います。また『ただそばにいてくれて』は本当にいい歌です。この歌を多くの人に知っていただける活動の一年にしたいと思っています」
なお、このツアーラストの東京公演ではチケットを入手できなかったファンが多かったため配信でも届けられた。ライブの模様は11月11日(木)23:59までアーカイブ配信されている。
アーカイブ配信中!
石原詢子アコースティック・ライブ2021~いま届けたい「ありがとう」~
公演名:石原詢子アコースティック・ライブ2021~いま届けたい「ありがとう」~
配信:2021年11月11日(木)23:59まで配信中
価格:3,000円(別途システム使用料)
※チケットの発売は11月11日(木)20:00まで
※支払い方法はコンビニ決済、もしくはクレジットカード決済
購入方法:下記、URLより
★Streaming +(ストリーミングプラス)
https://eplus.jp/sf/detail/3512940001-P0030001
※購入にはイープラスへの会員登録(無料)が必要。
https://eplus.jp/
2021年5月19日発売
今、届けたい“ありがとう”
石原詢子「ただそばにいてくれて」
「ただそばにいてくれて」は、「何かみなさんの心が温まるようなメッセージソングを、そして、つらいこの状況の中で心の支えとなってくれた人たちに“ありがとう”と歌を通じてお届けしたい!」という石原の思いを、シンガーソングライターの古内東子が作品に仕上げた。オリジナル曲として初めてJ-POPを歌う石原にとって新境地となる曲。一方、カップリング曲の「ひと粒」は切ない恋心が描かれた曲となっている。「THEな感じの切ないラブソングを歌っていただこうと、等身大の大人の女性の恋心を描きました。こちらの曲に登場するのは、やっぱりお着物姿の詢子さんもいいな、なんて思ったりもしながら。そんな妄想も楽しかったです」(古内東子)
2021年11月3日発売
ベスト盤アルバム
石原詢子『特選演歌・ヒット全曲集』
1988年のデビュー以来、しあわせ演歌の代名詞として活躍してきた石原詢子。これまでに発売された、紅白歌合戦出場曲や数々の音楽賞受賞曲、ロングヒット曲、カラオケ人気曲やファン人気の高い曲など様々なオリジナルヒット演歌全16曲を収録した魅力満載の最新ベスト盤。
収録曲
紅い月/明日坂(詩吟「宝船」入り)/濃尾恋歌/三日月情話/手鏡(「籠の鳥」入り)/あなたと生きる/ひとり酔いたくて/ふたり傘/きずな酒/淡墨桜(詩吟「淡墨桜」入り)/みれん酒/桟橋/夕霧海峡/雨の居酒屋/しあわせの花/ホレました
▶伍代夏子・藤あや子・石原詢子『特選演歌・ヒット全曲集』スペシャルサイト