
【インタビュー】藤あや子の深化と成熟。新曲「想い出づくり/小さな鐘の音~ラ・カンパネラ~」は“祈り”と“人生”の二重奏
藤あや子がリリースする両A面シングル「想い出づくり/小さな鐘の音~ラ・カンパネラ~」。この2曲は、単なる新曲という枠を遥かに超え、一人のアーティストが長年のキャリアを経て到達した表現の深みと、時代に向き合う真摯な姿勢を見事に描き出した記念碑的作品と言えるだろう。
片や自身の人生を赤裸々に綴ったパーソナルな物語。片やクラシックの名曲に普遍的な祈りを込めた壮大な叙事詩。藤あや子が生み出した対照的な2曲は、ミクロな人生への慈しみと、マクロな世界への眼差しとを同時に描き出し、聴き手の心を強く揺さぶる。
まずは、「想い出づくり」から新曲への思いを聞いた。藤あや子がペンネーム「小野彩」で手がけた詞曲は、彼女の人生のアルバムを一枚一枚めくるような親密さに溢れている。
文=藤井利香
人生の普遍性を紡ぐ、温かな自叙伝「想い出づくり」
――“何度も泣いた 何度も笑った”という冒頭のフレーズが、とても印象的なニューシングル「想い出づくり」。作詞作曲の両方をあや子さんが担当しています。
藤 これまでいろんな女性の歌を歌ってきましたが、今度は自分自身の歌を書いてみたらどうですかって、プロデューサーから提案がありました。家族も含めてこれまで出会った人たちのことを、日記をつけるように綴ってみたらどうかと。当初は歌になるのかと疑問だったんですが、まず曲調を考えてみたときに、演歌というよりは昭和歌謡、またはフォークソング、トップバラードといった感じかなと思って、ふと思い浮かんだのが甲斐バンドさんの「安奈」。こんな構成もいいんじゃないかなとイメージを膨らませ、自然とできあがったのが冒頭の“何度も泣いた 何度も笑った”の部分です。そのあとは次、次と詞を重ね、いつもそうなんですが、そこにメロディーをつけながら全体をまとめていきました。
――変化のある曲調は、歩んできたこれまでの人生を表現していると言っていいんでしょうか。
藤 これまで本当にいろいろなことがありましたからね。人生はまさに旅だなと。何度も泣いたり笑ったりしたし、淡々としているときもあれば、ガーンと力の入った時期もあって、一筋縄ではいかない。それが曲調にも表れているんじゃないかと思います。

「想い出づくり」の歌詞は4番まである。“親孝行したい時に親はなし”という誰もが胸に抱くであろう後悔(1番)から始まり、がむしゃらな初恋、子を授かった喜びと親としての覚悟(2番)、友との絆(3番)、そして人生の後半で訪れた新たな愛(4番)まで。一人の女性の人生の軌跡が綴られている。
――聴く人自身の「想い出」とも重なる物語ですが、一話完結で物語が紡がれています。1番はご両親への思いですね。
藤 父が先に亡くなり、そのあと母が亡くなってもう20年になるんですが、娘としてやれるだけのことはやった、後悔はないと当時は思っていたんです。ところが時間が経つにつれて、もっとこうしてあげたかったなという思いがどんどん出てくる。食事しながら両親にも食べさせたかったなとか、旅行先では一緒に連れてきあげたかったなとか。困らせたことも多かったはずで、今さらながら謝りたいって思ったりします。こういう気持ちは、多くの人と共有できますよね。
――何歳になっても親はいたほうがいいって言いますね。
藤 そのとおりだと思う。本気でもう一度声が聞きたいです。私、もともと声フェチなんです。だから、声を聞くことができないというのはすごくつらい。歌詞にもあるように、あの世から叱ってくださいってしみじみ思います。
――2番は20歳で結婚し、娘さんを授かった頃の思いですね。
藤 最初の結婚は初恋の相手で、16歳というめちゃくちゃわがままな少女が恋をしているわけですよ。家事ができるわけでもない、他人と暮らすということも予想以上に大変で、結婚生活がいいとはなかなか思えなかったというのが正直な気持ちでした。しかも私は若いときから破滅型の人間で、40歳以降の自分がまったく想像できなくて、その頃にはさっさと人生を終えているんじゃないかと思っていたくらい。そんな自分に娘が生まれ、さらに46歳で孫もできた。これはもう描いていた人生とはまったく違って、まさにドキュメントですよね。あり得ないことばかり起きて、でもそのおかげで母親の気持ちを知ることができ、かけがえのない子どもや孫への思いも深くなっています。
――55歳で再婚されましたが、それが4番の歌詞ですね。
藤 この結婚はね、事故かもしれない(笑)。いいわねって言ってくださる方も多いけど、55歳ではきつい。結婚の難しさを知っているし、この年齢ならもっと自由に、楽に過ごしたほうがいいわけです。でも、人を泣きたいくらい好きになり、ご飯も食べられないくらいやつれてどうしようもなくなって・・・。だけど、不思議。この年齢になると経験を積んできたせいか、若い頃には許せなかったこともプラスに思えて何とかなっていくんです。時間の経過って、決して無駄ではないということですね。だから同年代の人には、年だなんて言わないでねって言いたいし、若い人には苦しいときがあってもこの先きっといいことがあるわよって、歌を通じて伝えたいです。
――3番には、家族同様に欠かせないご友人が登場します。坂本冬美さんやプライベートのご友人のお話ですね。
藤 初め、この部分はなかったんです。両親、娘や孫、現在の夫まで書き終えたあと、ちょっと待てよと。大切な友だちがいるじゃないのって気づいて、最後に書きました。本当に家族みたいで、これまでも、そしてこれからも大切な存在。彼女たちにまだこの詞ことは話していないんですが、反応が楽しみです。
――これまでの足跡をたどったこの日記は、まだまだ続きがありますね。
藤 想い出づくりですから、エンドレスです。この先どんなふうに描かれていくのか自分でも楽しみです。今回、恥ずかしながら自分の歌をつくってしまいましたが、これまでの人生が歌にできたといことがまずうれしいし、過去を振り返るという時間がもてたこともすごくよかったと思っています。そもそも日記をつけるような性格ではなかったし、過去より今を大事にしたいタイプなので、改めてそのときどんな思いだったのかと考える時間は有意義でしたね。文字にしてみるとまた違って、自分で自分を叱咤激励する機会にもなりました。
――想い出がたくさん詰まった新曲ですが、通常2コーラスとなるテレビでの歌唱は、何番と何番を歌われますか?
藤 私は個人的にも1番が好きなので外せないですが、あとはどこを歌うか迷っちゃいますね。できれば皆さんにはCDで全部聞いていただき、テレビでは、今日は2番だったわとか、4番だわとか、そんなふうに楽しんでいただくのがいいかもしれません(笑)。

私がやらねば・・・。壮麗なる反戦と平和への祈りの鐘
「小さな鐘の音~ラ・カンパネラ~」は藤あや子による反戦と平和への祈りの歌だ。メロディーはフランツ・リストのピアノ曲「ラ・カンパネラ」をベースにしているが、原曲の持つ切迫感と輝きを、工藤拓人による巧みな編曲が見事にメッセージソングへと昇華させている。
圧巻なのは藤のボーカルだ。“どうか鎮めさせて 壊れた地球(ほし)の悲しみを”という冒頭から、その歌声は慈愛に満ちた祈りそのものとなっている。
――両A面のもう1曲、「小さな鐘の音~ラ・カンパネラ~」は、フランツ・リストのピアノ曲「ラ・カンパネラ」に歌詞をのせたものです。ピアニストのフジコ・ヘミングさんも愛された曲で、あや子さん自身もコンサートに行き、映画『フジコ・ヘミングの時間』の特別上映会では、フジコさんと対談もされて感銘を受けたと聞いています。
藤 フジコ・ヘミングさんとの出会いは、私にとっても大切な思い出のひとつです。それもあって、レコード会社からクラシック音楽に歌詞をのせて歌ってみませんかという企画をもらい、手探りで進めていった作品です。まず、どうやって詞をつけるのか。アレンジャーの工藤拓人さんにメロディーを大まかでいいので拾ってもらい、そこに自分の歌詞を合わせるようにしたんですが、ピアノ曲ですからAメロ、Bメロといってもその繰り返しで、しかも途中でぜんぜん違う曲調になります。できたデモテープを聞きながら進めようとしたものの、実は途中で挫折して一時期放置というか、お休みしてしまったんです。
――煮詰まってしまったと。
藤 そうなんです。そうしているうちにたまたまテレビのニュースで、トランプさんとゼレスキーさんが言い争っているシーンが流れてきて、すごいショックを受けたんですよ。私たちは何事もなかったかのようにリラックスしてテレビを見ているのに、奪う者と奪われる者の構図を目の当たりにし、これは今本当に起きている出来事なのかと。そのときに“血眼で欲をむさぼる”という歌詞が頭に浮かんだんです。放置していたのに、やらなくちゃとスイッチが入りました。

――歌を通して、伝えるべきことがあると思われたんですね。
藤 カンパネラとは鐘という意味です。鐘というと、平和のイメージが私のなかではすごく強い。この小さな鐘の音を、一人ひとりが手に持って鳴らしていったらやがて大きな鐘の音になる。この殺戮をそうやって沈めなくてはいけないと思いました。ロシアによるウクライナ侵攻により始まった戦争が起きたときはそれこそ信じられない、驚きでしかなかったのに、今となってはリアルな映像にも私たちは慣れてしまっています。でも、当事者である人々は未だに苦しんでいます。早く人の手で止めないといけない。幸い、私は歌手として歌を発信することができます。これまで30数年歌ってきた自分が、今やらねばいけないことだと痛感したんです。
――原曲は悲しみや切なさが迫るメロディーですが、静かに祈りが伝わるイントロで、アレンジにより優しく壮大なイメージの作品に仕上がっていて驚きました。
藤 “血眼”の歌詞が降りてきたあとは、このメロディーなら合うなという部分にそれを当てはめて、そこからまた戻って頭のAメロをつくっていきました。大まかなメロディーなので、どんなに伸ばそうが畳み込もうがある意味自由なんです。それを工藤さんとスタッフと一緒に、細かな手作業状態で仕上げていきました。私の歌詞はほとんどそのままで、あとは歌い方で変えていったという感じ。自分の歌詞をのせられて、作家であってよかったなと思います。誰でも知っているクラシック曲なので、世界の人々に、とくに紛争で本当に苦労している人にこの歌を届けられたらいいですね。
――それなら日本語だけでなく、いろんな国の言葉で歌うというのは!?
藤 それ、大切かもしれない! 以前、テレサ・テンさんの曲を中国語で歌うという機会があってすごくがんばったんですが、そうなったらまずは英語でしょうか。翻訳してもらわなくちゃ(笑)。
.jpg)
――ジャケットには、マルオレちゃん(マルとオレオの2匹の保護猫)が写っています。
藤 私の想い出づくりのなかで、マルオレの存在はめちゃくちゃ大きいです。でも歌に入れると童謡になってしまうから(笑)、そうだ、ジャケ写にしちゃえとなったんです。現時点での私の想い出づくりは、歌には出てきませんがこのジャケ写で完結です。しかもこれは、たまたま主人が撮ったプライベート写真。マルオレは絶対的に他人がダメなので、何かないかなと手持ちの写真から選んだものです。普通にうちのソファーでくつろいで、たわむれているワンショット。日常の想い出を表現しています。
――今回の作品は、曲の内容といいジャケ写といい、嘘偽りのないあや子さんを表現したもの。ファンの方はたまらないですね。
藤 ぜひぜひ、皆さんに楽しんでいただけたらうれしいです。

両A面シングル「想い出づくり/小さな鐘の音~カンパネラ~」はアーティスト・藤あや子のスケールの大きさを物語っている。
長年、演歌というジャンルでトップを走り続けてきた彼女が、今、自身の言葉で人生を歌い、クラシック音楽に社会的なメッセージをのせて歌う。これは単なる挑戦ではなく、円熟期を迎えたアーティストだからこそ可能な、必然の表現なのかもしれない。長く聞き継がれてほしい2曲だ。
2025年7月9日発売
両A面シングル
藤あや子「想い出づくり/小さな鐘の音~ラ・カンパネラ~」

「想い出づくり」
作詞/小野 彩 作曲/小野 彩 編曲/工藤拓人
「小さな鐘の音~ラ・カンパネラ~」
作詞/小野 彩 作曲/LISZT FRANZ 編曲/工藤拓人
ソニー・ミュージックレーベルズ MHCL-3140 ¥1,600(税込)
【Amazon.co.jp限定】想い出づくり/小さな鐘の音~ラ・カンパネラ~ (メガジャケ付)




-150x150.jpg)





