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【スペシャルインタビュー】藤あや子が「今」を表現する珠玉の13曲~アルバム『Ayako Fuji Cover Songs 喝彩~KASSAI~』

ボーカリスト 藤あや子の魅力が発揮されたカバーアルバム『Ayako Fuji Cover Songs 喝彩~KASSAI~』がリリースされた。女性歌手の作品を歌った『Woman』(2011年発売)、男性歌手の名曲に挑戦した『GENTLEMAN~私の中の男たち~』(2017年発売)に続く3枚目のカバーアルバムで、珠玉の13曲が“藤あや子流”に生まれ変わっている。そして、このアルバムにはあるひとりの男性の想いが・・・。

文=藤井利香

「あや子のアルバムを作りたいんだ」

――カバーアルバム『Ayako Fuji Cover Songs 喝彩~KASSAI~』は幅広い年代の曲を集めた作品となりました。

 昭和、平成、令和にまたいだ楽曲を集め、どれも名曲ばかりです。演歌の私がこの曲を歌うの!? と思うようなものもあるし、歌ってみたらこんな歌詞の内容だったのかとか、こんなに難しい曲だったんだとか、発見がたくさんありましたね。そのなかにちあきなおみさんの『喝采』も収録していますが、アルバムのタイトルも同じ。でも、字を変えて『喝彩~KASSAI~』としました。曲作りをするときの「小野彩(このさい)」というペンネームからと、内容として彩りあるさまざまな曲が入っていますという意味での採用です。

――3作目となる今回のカバーアルバムですが、いつごろから企画が立ち上がりましたか?ずっと以前?

 そうではないんです。所属するプロダクションの河西成夫宣伝部長(※)が11月にお亡くなりになったのですが、ちょうど今から1年前に食事をしたときに「僕はもう長くない。最後の仕事として、あや子のアルバムを作りたいんだ」と突然言われ、それで急きょ制作することになりました。河西さんはこの業界では名が知られ、私も長くお世話になってきた人。「僕の葬式のときにぜひそのアルバムを流してほしい」とも言われたんです。

※河西(かさい)成夫さん/芸能事務所「バーニングプロダクション」の元宣伝部長。大学卒業後、渡辺プロダクションに入社し、ザ・ドリフターズらのマネジャーを務めた。1985年にバーニングプロダクションに入り、細川たかしや長山洋子、郷ひろみ、小泉今日子らのプロモーションを手がけ、広く愛された名物宣伝マンだった。享年82。

――タイトルの『喝彩~KASSAI』は、河西さんへの思いも重なっているんですね。アルバムを聴くとき、それを知っているのと知らないのとでは全然受け止め方が違います。

 裏事情ではありますが、複雑な思いのなかでスタッフ全員が力を結集させ作り上げたのがこのアルバムです。河西さんは本当に数えきれないほどの曲と関わってこられたので、作品作りの第一歩として、どの作品を収録するかという選曲が本当に大変でした。候補として河西さんから最初に出されたのは100曲以上。私も知らない昭和の古い歌まであって、そこから13曲に絞るまでは思いのほか時間がかかりました。私が選んだものもありますが、多くは河西さん自身のセレクトです。

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ジャケット写真はライブのイメージで撮影された。「いつもと違って、めちゃめちゃ動いてライブ感のある写真を撮ってもらいました。若い人にも手に取ってもらえるといいな(笑)」(藤あや子)。

藤あや子がこの歌を? 意外すぎる選曲

今回のカバーアルバムは堺正章の「街の灯り」から始まり、郷ひろみの「ハリウッド・スキャンダル」、アン・ルイスの「グッド・バイ・マイ・ラブ」、T-BOLANの「離したくはない」といった昭和・平成の名曲に、菅田将暉の「さよならエレジー」、中島みゆきの「海鳴り」など藤あや子がこだわって選曲した作品が収録されている。アルバム10曲目の「さよならの向こう側」からラストの「喝采」へと続く選曲はとくに必聴だ。

――驚きという点では、収録曲のなかに郷ひろみさんの「ハリウッド・スキャンダル」がありますね。

 河西さんは私を演歌歌手というより、アーティストとして見てくれていたんでしょうね。「あや子がこれを歌ったら絶対におもしろいと思うよ」という言葉が忘れられません。バラード調ならわかるけど、80年代のバブル全盛期の歌。でも、もともとロック好きの私なので、歌ってみたら意外に合っていて、レコーディングではとても心地よく歌えました。

――小坂明子さんの「あなた」を選曲したのも河西さんですね。

 そうです。ボーカルレコーディングはトータルで5日間行い、「あなた」を収録した日に河西さんもいらしてくれました。悲しそうに歌ったら、「もっと自由に、枠からはみ出すくらい歌っていいんだよ」と。これが私に対する最後の言葉でした。これからもそうあれという、メッセージだったような気がしています。

ただ、「あなた」という曲を私はもっと夢のある歌だと思っていたんです。でもよくよく聴いたらそうじゃない。大好きなあなたはいないという、とても悲しい歌。「ハリウッド・スキャンダル」や「グッド・バイ・マイ・ラブ」もそうですが、今回選曲した多くが明るくておしゃれな曲にもかかわらず、じつはとても切ない詩の内容だったことにあらためて気づきました。J-POPって哀愁が漂うどこかウエット感があるのが魅力で、いい歌が本当に多いとつくづく思います。

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――ご自身で選んだ曲というと?

 「さよならエナジー」「366日」「海鳴り」「Far away」の4曲です。「さよならエナジー」は菅田将暉くんが歌っていますが、私は作詞・作曲の石崎ひゅーいくんが好きで、ライブにも行っているんです。車のなかでよく聴いていて、この曲はロック調でアレンジもカッコよく、ぜひ入れたいと思いました。弾けて歌ったつもりですが、聴き直すともっと弾けてもよかったかなと思うくらい(笑)。ライブでも歌いたい曲ですね。

「366日」は多くの人がカバーしている曲で、私としては大人の失恋を表現してみたつもりです。張り上げるというよりは、終わったんだな・・・という現実を、かみしめるように歌いました。

「海鳴り」は、女子高生だったときの思い出の曲。中島みゆきさんが好きな親友がいて、この頃って親には言えないけれど、友だちには言えるっていう多感な時期ですよね。学校帰りに誰かの家に数人で寄って、「泣きたいときはみゆきさんだね!」なんて言いながら、部屋のカーテンを閉めて暗いなかでこの歌を歌っていた記憶があります。

「Far away」は水越恵子さんの代表曲(「Too far away」)。とても自然に、語るように歌う水越さんは本当に素敵。私としては自分を出すというよりも、この楽曲のよさだけで歌わせてもらいました。

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ラストの「喝采」はアカペラで始まり・・・

――そのほか、「見上げてごらん夜の星を」「さよならの向こう側」など、永遠の別れを思わせる曲が収録されています。

 「見上げてごらん夜の星を」は誰もが知る日本を代表する曲。でも、曲調のわりにすごく切ない。どちらも河西さんのセレクトで、空を見上げて僕を思い出してほしいというメッセージなのかなと感じています。

「さよならの向こう側」は、山口百恵さんがステージの最後に白いマイクを静かに置いた映像が印象的な曲。でも今回アレンジが原曲と全然違うので、新鮮に聴いていただけるのではないかと思っています。アレンジはギタリストの小倉良さんですが、あまり曲調で引っ張らず、歌そのものが残るようなアレンジにしてほしいと河西さんがお願いされたそうです。どの曲も、詩をじっくり聴いて味わっていただけるような仕上がりです。

――そして、ラストに収録した「喝采」は、アカペラで始まるアレンジです。

 レコーディングの最終日が「喝采」だったんですが、オケ撮りしていたにもかかわらず、歌ってみたらなんか違うねと。耳元で歌っているような生歌にしたかったので、このようにスタイルになりました。さらに言えば、民謡などで尺八が、歌い手に合わせてあとからなぞるように吹くという演奏の仕方があり、それをギターの方にやってもらい、2人が歩調を合わせるようにして仕上げたんです。感情が高ぶって出来上がったときは生歌過ぎないかと思ったくらいでしたが、いい作品になったと思います。

――河西さんの希望通り、葬儀で流れたそうですね。

 河西さんはこのアルバムが完成した日と同日の、11月14日にお亡くなりになりました。ドラマのような出来事でした。1年前に「桜は見られないだろう」と言っていたところを、半年以上がんばって見守ってくれました。葬儀では1000人以上の参列者に見送られ、望まれたとおりの「喝采」でお見送りができました。私なりによかったと心から思っています。

今回のアルバムに収録したのは、すばらしい日本の名曲ばかりです。世界的に紛争が起き人間の愚かさを痛感させられる昨今ですが、これを聴いて皆さんが少しでも優しい気持ちになってくれたらとてもうれしく思います。

藤あや子

 


2023年12月20日発売
藤あや子 カバーアルバム
『Ayako Fuji Cover Songs 喝彩~KASSAI~』
藤あや子

ソニー・ミュージックレーベルズ MHCL-3058 ¥3,200(税込)

収録曲
①街の灯り
作詞:阿久 悠 作曲:浜 圭介 編曲:小倉 良
②ハリウッド・スキャンダル
作詞:阿木燿子 作曲:都倉俊一 編曲:小倉 良 ストリングス・アレンジ:山岡恭子
③グッド・バイ・マイ・ラブ
作詞:なかにし礼 作曲:平尾昌晃 編曲:小倉 良 ストリングス・アレンジ:山岡恭子
④さよならエレジー
作詞:石崎ひゅーい 作曲:石崎ひゅーい 編曲:小倉 良
⑤366日
作詞:Izumi Nakasone 作曲:Izumi Nakasone 編曲:小倉 良 ストリングス・アレンジ:山岡恭子
⑥冬のリヴィエラ
作詞:松本 隆 作曲:大瀧詠一 編曲:小倉 良
⑦離したくはない
作詞:森友嵐士 作曲:森友嵐士 編曲:小倉 良
⑧見上げてごらん夜の星を
作詞:永 六輔 作曲:いずみたく 編曲:小倉 良
⑨海鳴り
作詞:中島みゆき 作曲:中島みゆき 編曲:小倉 良
⑩さよならの向う側
作詞:阿木燿子 作曲:宇崎竜童 編曲:小倉 良 ストリングス・アレンジ:山岡恭子
⑪Far away
作詞:伊藤薫 作曲:伊藤薫 編曲:小倉 良 ストリングス・アレンジ:山岡恭子
⑫あなた
作詞:小坂明子 作曲:小坂明子 編曲:小倉 良 ストリングス・アレンジ:山岡恭子
⑬喝采
作詞:吉田 旺 作曲:中村泰士 編曲:小倉 良

▼「Ayako Fuji Cover Songs 喝彩~KASSAI~」特設HP
https://www.110107.com/fuji_kassai

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