三山ひろしの生い立ちの記【連載34回】

カラオケ誌『ミュージック★スター』で好評だった「三山ひろしの生い立ちの記」。気骨のある若者はいかにして人気演歌歌手になったのか? 土佐のいごっそ、三山ひろしが波乱万丈の半生を「オトカゼ」で引き続き振り返ります。連載移籍にともない『ミュージック★スター』に掲載された過去の連載も順次、「オトカゼ」で掲載していきます。

今回は、歌手・松前ひろ子の付き人として忙しい日々を送る”恒くん”の楽屋づくりのお話。人は怒られながら学んでいきます!?


懐かしの付き人時代。駆けずり回った「楽屋づくり」


楽屋に衣装類をすべて広げ、着物はアイロンでしわ伸ばし

今回は松前ひろ子さんの付き人として、僕がイベント先でどのような仕事をしていたのかをお話したいと思います。

車で現地まで行く場合は、まずご自宅までお迎えに行き、荷物を受け取りトランクに積み込みます。ご主人の中村典正先生がご一緒されることも多く、お二人をお乗せしたところでいざ出発。もちろん、僕は運転手です。

イベント先に着くと、最初に行うのが「楽屋づくり」です。荷物をすべて運び入れると、メイク道具は担当のメイクさんに。僕は衣装などが入っている鞄をすべて開け、松前さんの衣装の着物をすぐに衣紋掛けにかけます。シワがあれば、持参したアイロンできれいに伸ばすことも大切な仕事でした。

和装小物はそれぞれ複数用意されていて、帯揚げや帯締めなどはいつも各10本ほどありました。風呂敷を敷いた上にそれらを見やすいように並べると、会場の雰囲気を見ながら、松前さんがメイクさんと一緒に「今日はどれにしようか」と選びます。帯や草履なども数種類持って行くので、荷物はかなり多かったですね。

洋装と異なり和装は細かな小道具が多く、そのためいつも注意していたのが忘れ物です。忘れ物のランキング上位は帯板、襟芯。忘れてしまった場合は、僕が車を走らせ現地調達しますが、近くにお店がない場合もあるので忘れ物は極力避けねばなりません。忘れ物をすると松前さん本人も気持ちがへこんでしまうので、いつの時も安心してステージに立っていただくために、「え~、帯板など小物は大丈夫でしょうか!?」なんて、出発前にさり気なくお声をかけるようにしていましたね。

衣装決めの間にお弁当をいつでも食べていただけるようセットし、その後、僕はCD即売の会場へ。場所の確認をし、そのままCDも並べてしまいたいところですが、即売所にずっと待機してくれる人がいない場合は後回し。人がいる場合は、すばやくポップをつけて販売コーナーをつくります。釣銭の用意も僕の仕事でした。当時はよくパチンコ屋さんに入ってこっそり両替させてもらっていましたね。今はちょっと無理ですけど・・・。

一連の作業が済むと、今度は自分の準備です。幕間に歌わせていただくので、衣装を着てメイクを済ませておく必要があります。それを終えたら松前さんの着付けのお手伝いをしますが、ある時、「〇〇取って」と言われて間違ったものを渡してしまったことがありました。たぶん“帯締め”と言われたのに“帯揚げ”を渡してしまった、そんなところだと思いますが、この時の松前さんの反応の早かったこと、早かったこと。パチン!

「あんた、何カ月やってるの!!」と、頭をはたかれちゃったんです。

やらねばならないことが山積みで、僕は中村先生の口癖「十歩先を考えて行動しろ」のごとく、先のことに考えを巡らせていましたが、心ここにあらずの状態だったんです。

中村先生は椅子に座り静かに目をつぶっておられたのですが、パチン! と音がした瞬間に目を開けて、「いい音したな~」って。しかも、いかつい顔を緩めて、クスっと笑ったものだから、思わずみんなも大笑い。場が和み、大事故にならずに僕もホッとしました。

そんな一コマを懐かしく思い出しますが、いやいや、本当にいい音がしたんです。ちなみに、中村家は皆さんとても気が短い!! それは紛れもない事実であります。

 

売り子としてCD即売。現金もしっかり扱います

イベントの内容によってはバックバンドが入り、開演前に音の打ち合わせなどがあるため仕事がさらに増えます。そこに中村先生が加わる時は、よけいに気が抜けません。よってずっと走りっぱなし。ゆっくりお弁当を食べる時間はほとんどなく、いつも胃にかっこんでいた感じでした。

そうこうしているうちに、いよいよ本番です。ステージが始まると袖で様子を見守り、幕間には自分の出番をこなし、終えるとすぐに着替えて再びステージ袖へ。すべて終了したのちは、ひと呼吸おいて松前さんをCD即売場へお連れするという流れでした。
即売場では、僕は売り子と化します。いつも松前さんに言われていたのは、「思わず足を止めたくなるようにしっかりと声を出しなさい」ということでした。

声が小さいと決まって注意されていましたね。そして、お客様がお財布からお札を出した瞬間に、お札の種類を見抜き、すぐにお釣りをお渡しできるようにしていました。せっかく買ってくださるのですから、すばやく、気持ちよく。でも、お釣りを決して間違えないように。

販売を終えると、その日のイベントはすべて終了です。すぐに楽屋を引き払うべく、僕が松前さんの着物をササっとたたみ、小物もひとまとめにして鞄へ。準備が整ったところで再び松前さんと中村先生を車にお乗せして、ここからはまた運転手です。疲れていても、何があっても急がず慌てず、安全運転!

これら一連の仕事を手際よくこなせるようになるには、どうしても1年はかかります。最初のうちは怒られて当たり前。あちゃ~と思うことも相当数ありました。ですから、お二人を無事ご自宅に送り届けた時は、今日も無事終わったなという安堵感でいっぱいでしたね。そして、こうした裏方の経験が、デビュー後の自分におおいに生かされたことは言うまでもありません。

(文=藤井利香)


2020年7月8日発売
三山ひろし
「【感謝盤】北のおんな町」

「北のおんな町」
作詞/喜多條 忠 作曲/中村典正 編曲/石倉重信
c/w「SATOUMI~幸せは、あさこいよさこ」
作詞/もり ちよこ 作曲/小杉保夫 編曲/小杉保夫
c/w「ありんこ一匹」
作詞/原 文彦 作曲/中村典正 編曲/伊戸のりお
日本クラウン CRCN-8345 ¥1,227+税

三山が情感たっぷりに歌い上げる「北のおんな町」に、新たに2曲のオリジナル曲を加えた感謝盤が登場した。「SATOUMI~幸せは、あさこいよさこい」は高知県の水族館、「足摺岬海洋館」が「SATOUMI」という愛称で7月にリニューアルオープンするのに合わせて作られた応援ソング。「ありんこ一匹」は“小さな一匹のありんこ”をモチーフに「みんなで汗をかいて、みんなで幸せをつかみたい」という思いを歌った人生演歌となっている。


Profile
三山ひろし(みやま・ひろし)
1980年9月17日、高知県生まれ。本名は恒石正彰。作曲家・中村典正氏のもとで修業し、2009年、「人恋酒場」でデビュー。音楽情報番組「あさうたワイド」(BS日テレ。毎週木曜日 午前5時~5時29分)では師匠・松前ひろ子とともに司会を務める。2020年7月8日に新曲「北のおんな町」の【感謝盤】をリリース。YouTubeの「ミイガンチャンネル」、「三山ひろし公式チャンネル」でも日々、ビタミンボイスを放出中。市川由紀乃との「除菌音頭 YouTubeチャンネル」も話題に。

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