三木綱木&杉真理

三原綱木 60周年、綱木&真里 10周年。両A面シングル「見上げる空は/雪砂漠」で変わらぬ想いを歌う

三原綱木(綱木&真里)が両A面シングル「見上げる空は/雪砂漠」をリリースした。ブルー・コメッツ時代を経て、さまざまな音楽シーンで活躍し、デビュー60周年を迎えてなお変わらぬ三原綱木の音楽に対する情熱。若い頃は方向性の違う音楽をやるくらいなら辞めたいと思ったこともあるが、今はどんな音楽でもすべて楽しんでいるという。一方、出会ってすぐに結成した杉 真里とのデュオも今年で10年目。三原綱木と杉 真里の2人に、これまでの活動の振り返りと、節目のリリースとなる新曲への想いを聞いた。どちらの曲も、いつの時代にも変わらない想いが歌われている。

文=夏見幸恵

 

「音楽はどんな音楽でも、全部楽しい。歌は自然体で、自分なりの個性を生かして歌いたいね」


――三原綱木さん、芸能生活60周年おめでとうございます。60年を振り返ってみていかがですか?

綱木 あっという間でしたね。本当にあっという間。僕は小学3年生でギターを始めたんだけど、当時は米軍キャンプがまだいっぱいあってね。アメリカ人が三鷹のレコード屋においてあったギターを手にとって弾き語りをするのを見て、僕もああいう風にギターを弾きながら歌えたらいいなと子ども心に思ったの。最初はクラシックギターから習い始めて、中学3年生からはジャズギターに転向しました。16歳で芸能界に入って、ブルー・コメッツに入ったのは19歳くらいじゃなかったかな。ブルー・コメッツのメンバーが、他のバンドで僕がギターを弾いてるのを見て「あの子いいじゃない」って引っ張ってくれたの。それからあっという間に76歳になっちゃったんですよ(笑)。

――あっという間の中にもいろいろなことがあったことと思います。辞めようと思ったことはありませんか?

綱木 ありましたね。グループ・サウンズのブームって、2年くらいしか続かなかったの。次はムード歌謡が来て、ブルー・コメッツもどんどんそっちの路線に行っちゃった。それがイヤで、何度も「辞める」という言葉を口に出したね。でも、その後ニュー・ブリードに入って、また楽しくなった。『NHK紅白歌合戦』やら『夜のヒットスタジオ』やら、32年間いろんな伴奏をしたなあ。それと僕は綱木バンドとして、郷ひろみのバックを10年くらいやってるんですよ。ひろみと一緒に「2億4千万の瞳-エキゾチック・ジャパン-」とか、ギターだけでなくコーラスもやってね。結局、音楽っていうのは、何をやっても楽しいね。歌っても演奏しても、演歌の伴奏しても楽しいし、指揮をやっても楽しいんだよね。

――杉真里さんとデュオを結成されて今年が10周年目、綱木さんの60周年とちょうど重なりましたね。

真里 初めて綱木さんとお会いしたのが、10年前の4月22日です。どうして憶えているかっていうと、コースターの裏にしていただいたサインに日付も書いてあったから。その頃の私は、ほいけんたさんと「狐と狸のラブゲーム」という曲を出したのですが、結局、(テレビやステージで)一度も一緒に歌えないまま終わっちゃったんですよ。それをどうしようかって思っているときにお会いして、綱木さんがちょうど50周年だったので、じゃあデュエットしようかということになりました。綱木&真里として最初に歌った曲は「夜明け前まで」。綱木さんの50周年記念盤で、「雨の赤坂」と両A面です。

――それまで真里さんは、どのような活動をされていたいのでしょうか。

真里 私は秋田で生まれてから高校卒業まではすごく虚弱で、ほとんど入院して療養生活だったんです。今となっては誰も信じてくれないんですけど(笑)。東京へ出てきたら、すっかり元気になって、外に出るたびスカウトされるようになりました。それで、テレビ朝日のエアロビクスの番組から始まって、再現ドラマをきっかけに、ドラマや映画に出させていただきましたね。歌は平尾昌晃先生に声をかけていただいたこともあったのに、若い頃はやろうと思わなかったの。歌ってみようかと思ったタイミングで、知り合いだったソニーの酒井政利先生(現・酒井プロデュースオフィス)と丸の内線でばったり会って、「あなただけいればいい」をプロデュースしていただいたんです。

――「見上げる空は」と「雪砂漠」、それぞれの曲についてお聞かせください。

綱木 両A面だけど、「雪砂漠」により思い入れがあるかな。最初は、僕一人の曲だったのを、詞を全部書き直してデュエットソングにしたんです。今回は、ギターも弾かせてもらったよ。最初のイメージは砂漠そのものだったから、ギターソロもウエスタン映画のようなイメージで、カントリーっぽく弾いたんだよね。歌詞もラブソングじゃなかったんだけど、サボテンが生えてる砂漠から真っ白な雪の砂漠に変わって、ラブソングになりました。

真里 この曲で初めて綱木さんのギターが入ったので、ギターを聴いてみたいと思ってくださるファンもいらっしゃるんじゃないかな。レコーディングは、頑張りましたよね。仮歌の時はハーモニーどころかメロディーもよくわからなくて。歌っているうちに、アレンジャーさんのアイディアでハモりが変わって、ますますわからなくなっちゃって。わからないのに変わるから、頭の中が真っ白になりました。

綱木 頑張ったね。「雪砂漠」は本当にどうなることかと思ったよ。「見上げる空は」の方は、ムード歌謡ですね。曲を作ったしいの先生と僕のイメージがちょっと違ったのかなと思ったのは、レコーディングのあと先生から「やっぱりグループ・サウンズだね」って言われたの。僕が歌うとムード歌謡もなにも結局グループ・サウンズになっちゃうんですね。でも、三原綱木の個性を出して自分なりに歌わないと、曲がつまらなくなっちゃうんだよ。だからこれで合っていると思いますけどね。「雪砂漠」に重点を置いて、「見上げる空は」はソロライブで歌おうかな。

――たいへん活動がしにくい時期ですが、今後はどのような活動を考えていますか?

綱木 時代がよくないですね、コロナでね。小さな会場でも、半分しか人を入れられなくてもいいから、どんどんやりたいな。いつかはコロナも収束するんだから。小さなライブハウスでやって、だんだん規模を大きくしていきたい。そこまで二人で頑張りたいと思っています。

真里 どんな状況でも、頑張る道はありますよね。自分に休みグセをつけたくないです。こういう時代だからこそ聴きたいと、待っていてくれる人もいるから、やらなくちゃって思います。

 

インタビュー番外編

Q 紅白歌合戦の指揮を32年間務めた中で、一番心に残っているエピソードは何でしょうか?

三原綱木 北島三郎さんの「風雪ながれ旅」だね。闘病中だったサブちゃんのバンドリーダーが危篤だという連絡が、トリを歌う直前にあったの。あの頃の紅白歌合戦は進行が秒刻みで、巻き(遅れているので急いで欲しいという連絡)が常に入るんですよ。サブちゃんはそういう状況なのに「綱木、悪いけど今日の風雪、テンポを落しくれないか」って僕のところに来たんですよ。普通、巻きが入ってる状態でテンポなんて落せないです。トリの後には「蛍の光」をやらなきゃいけないんだから。それで僕は、イントロを少し早めにして、歌に入った瞬間にテンポを落としたの。聴いている人にはわからない、秒数にしたらほんのわずかなんですけど。そしたらサブちゃんが、涙を流しながら歌ってね。あの時は感動しましたね。本当に感動した。

 

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2021年6月6日発売
三原綱木/綱木&真里
「見上げる空は/雪砂漠」
綱木&真里

「見上げる空は」
作詞/しいの乙吉 作曲/しいの乙吉 編曲/難波隆弘
「雪砂漠」
作詞/中野 訓 作曲/中野 訓 編曲/黒岩典英
ギター演奏/三原綱木
日本エンカフォンレコード NEM-1183  ¥1,300(税込)

三原綱木のデビュー60周年記念曲「見上げる空は」は、デュオを結成して今年で10周年を迎えた杉 真里とのデュエット曲「雪砂漠」との両A面シングルだ。ムード歌謡の曲調でありながら、GS時代から色あせない三原綱木らしい歌唱の「見上げる空は」は、杉 真理との最初のデュエット曲を手がけた しいの乙吉が作詞・作曲を担当した。一方、雪がさらさらと舞う北国を舞台にしたラブソング「雪砂漠」は、綱木&真里の人気のデュエットソング「52階のスカイクラブ」の中野 訓の作詞・作曲。綱木&真里としては初めて、三原綱木自身がギターも演奏している。


profile
三原綱木(みはら・つなき)
1945年11月3日、新潟県生まれ。1964年より「ジャッキー吉川とブルー・コメッツ」のギター兼ボーカルとして活動。1967年「ブルー・シャトウ」で日本レコード大賞を受賞した。ブルー・コメッツ解散後、1972年、田代みどりと「つなき&みどり」を結成。1976年から8年間は、郷ひろみバンド(綱木バンド)のリーダーを務めながら、いしだあゆみ、鳥羽一郎はじめ多くの歌手に楽曲を提供。1985年よりフジテレビ系列『夜のヒットスタジオ』のオーケストラ指揮、1986年「三原綱木とザ・ニューブリード」のバンドマスターに就任し、『NHK紅白歌合戦』『NHK歌謡コンサート』では指揮アレンジを担当した。2012年に結成した杉 真里とのデュオ「綱木&真里」としての活動も今年10周年を迎えた。近年はブルー・コメッツを再結成、さらに活動の場を広げている。

杉 真里(すぎ・まり)
2月3日、秋田県生まれ。フィットネスインストラクター、モデル、MC・ナレーション、ドラマ、映画出演などの経歴多数。2011年8月、「狐と狸のラブラブゲーム」(杉真里&ほいけんた)でCDデビューを果たす。2013年9月には松尾和子の遺作詞に青山八郎が曲をつけた「かわいい女」をリリース。三原&綱木とのデュオは2021年で10周年。代表曲は「52階のスカイクラブ」(2014年)、「愛のメリーゴーランド~ふたりの山手線~」(2018年)。趣味はカメラ。座右の銘は「継続は力なり」。

日本エンカフォン 綱木&真里ページ
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