増位山太志郎

増位山太志郎が伝えたいこと〜「別れの彼方」に「かならず明日はやってくる」〜

増位山太志郎は、飄々と、言葉を一つひとつ丁寧に紡ぎ思いを語る人だ。その中にたくさんのユーモアを散りばめて飽きさせない。そんな増位山が今一番伝えたいことは、新曲に詰まっているという。「別れの彼方」と「かならず明日はやってくる」。そして、その甘い歌声もまた、聴く者を魅了する。ぜひ一度耳を傾けてみてほしい。

 

「サックスは吹くものではなく歌うもの。歌ってるんですよ、楽器を借りて」

Q 昨年の「涙の夜風」からおよそ1年ぶりの新曲になりますね。いつも新曲を出す際は、増位山さんはまったく構えずに素の状態で待たれているんですか?それとも「どんなのが来るかな?」みたいに考えていたりするんですか?

増位山 私の場合は作品ができる前にあまりどうこうという話はしないんだよね。曲ができてきて、「新曲です」ってスタッフから渡されて、それでデモテープが届いたらよく聴いて。それから、キーを合わせたり曲調やアレンジを先生と話して、練っていくわけです。

Q 新曲「別れの彼方」は、悲しい別れのその先に希望を持って歩いて行こうとする主人公の心情と、四季の情景描写がとても切ない哀愁ある作品ですね。でも、秋はないんですね……?

増位山 今回作詞をしてくれた森田いづみさんの作品は初めてなんだけど、うちの店(ちゃんこ増位山)には何回か来てくれていて面識はありました。そうそう、一番が春、二番が夏、三番が冬と季節が描かれているんだよね。秋がないのは、秋はね、別れの季節だから寂しいじゃない。男女の仲じゃ。秋を歌っちゃうと明日が来なくなっちゃうから(笑)。先生的には秋を入れないというのも意識はしているんじゃないかな。

Q 歌詞の「桜ひらひら」「胸がじりじり」「雪しんしん」のところ、ここいいですよね。しかも増位山さんの甘い声で……。

増位山 この繰り返しね。こういうの意外とね、人って歌いたくなるんですよ。ここがポイントなんです。そこまでは淡々と哀愁を込めて歌う。そして、最後に盛り上がる。

Q メロディーやアレンジについてはいかがですか?

増位山 今回はアレンジをちょっとムーディーに、イントロあたりにサックスを入れて「(石原)裕次郎さんぽくできるかな」って編曲の南郷さんにお願いしたの。あまりこういう注文はしないんだけど、実は私ね、コロナ禍の自粛期間の間にアルトサックスを始めたんですよ。

Q 楽器はこれまでも演奏されていたんですか?

増位山 うん、もともと楽器は好きでね。ギターとかいろいろやってたんだけど、何年か前にトランペットを買ってきて家で吹いたら、一発で「うるさい!」って女房に言われて(笑)。それで挫折したの。それで7、8年前にね、福岡場所の時かな。なんかやることないかなと思って楽器屋で見て、スチューデントクラスのヤマハのアルトサックスを買ってきて吹いたんだけど、それも……挫折して(笑)。それが手元にあったから、「サックスでももう一度やってみようか」と、携帯で動画を観て勉強したの。今はいくらでも教えてくれるんですよ、これが(笑)。そうしたらだんだん音が出るようになってきたので、ちゃんとしたいいやつを買って。それからアルトサックスだけでも5本買っちゃったよ。で、テナーも一本買ったから6本ある。

Q そんなに! 昨年なかなか活動ができなかった時、歌に対するモチベーションみたいなのとか歌いたいなと思う気持ちがサックスに向かったんですかね。

増位山 うん、それがサックスにいったんだろうね。サックスが声の代わりというか、あれは吹くというよりも歌うものなんですよね。歌ってるんですよ、楽器を借りて。そういう意味でもコロナ禍の間音楽にかかわっていられたのは良かったかなって思っています。

増位山太志郎「別れの 彼方かなた」

「明日を信じていきましょう。新曲でそういうメッセージを伝えられたらうれしいね」

Q  レコーディングの時など、歌にもいい影響はありましたか?

増位山 そうだね。これって結構肺活量を使うんですよ。だから今回のレコーディングの時も、サックスを吹いた後だったんで肺活量が上がってきて、声に余裕が出た感じはありました。普通に歌っても甘さがより楽に出せるようになってきた。だからこの新曲は、歌い方も昔の歌い方に戻ってきたかなと思います。

Q  増位山さんといえば、甘い声が代名詞になっていますが、これまでのような甘い声が少し出にくくなったなみたいなのはあったんですか?

増位山 だんだん年齢的に肺活量なんかも落ちてくるでしょ。甘さを出そうとすると力がいるようになってくるんだよね。それが肺活量とかが回復してくると、わりと楽な感じで甘さが出るっていうかね。だから今回はそういう意味じゃほどよい軽い甘さが出たかなと思うね。

Q  今度ぜひ聴きたいですね、増位山さんのアルトサックスを……!

増位山 なんでも興味があって、子年だからかじるの好きなの(笑)。かじるんだけど器用貧乏でね、中途半端でかじって終わり。でも、アルトサックスはもう一年近く続いてるから、今度機会があったらね。

Q  お願いします! ところでレコーディングについてはいかがでしたか?

増位山 今回もレコーディングの日にオケ録りと歌入れを同時にやりました。私はわりとテイク数は少ない方だと思うね。

Q 毎回、同時にされるんですか?

増位山 俺はその方がいいの。あまり歌い慣れちゃうと……慣れってよくないんだよね。だからその時に初めてテンポを作って、そこで歌いながら決めてできていく。曲をもらった時点から、曲を作っていく過程はやっぱり歌手にとっては黄金の日々だね。曲が出来上がっていくのが最高に楽しいっていうか、一番いい時間。だからそう盛り上がっていった時にぱっと歌っちゃうのが俺は好きなんですよ。日にちを空けるとテンションも下がるし、逆に練習ばっかりしちゃうと今度は慣れてきてしまう。だから、最初のレコーディングをした時と同じようにいつまで歌えるかというのは永遠のテーマだね。それが私は歌手の使命だと思う。

Q レコーディングの時は毎回新鮮な気持ちで?

増位山 それはもう、楽しいですよね。その時の気持ちをいつまで持ち続けられるかということだよね。

Q カップリング曲の「かならず明日はやってくる」についても聞かせてください。力強い言葉で綴られているんですけど、曲は甘い感じですごくそれが心地良い作品ですよね。歌い方でとくに意識された部分とかはありますか?

増位山 これはメジャーだからどうしても弾むよね。明日は必ず来るんだよ。だから明るく行こうよ! みたいな感じ(笑)。雰囲気が明るくなると、やっぱり歌っている本人もちょっと軽くなるよね。気持ちが乗ってくるというか。マイナーの歌は逆に軽く歌っても哀愁が出たり、哀愁を出したくなるというか。でも、俺意外とカップリング曲はあまり練習もしないで忘れてるのが多いのよ……(笑)。

Q どうしても表題曲を歌われることの方が多いですしね(笑)。でも、ファンの皆さんや読者にはどちらも一緒に歌ってほしいですよね!

増位山 そうそう! 別れがあるけども、その彼方には必ず明日がくるんだから頑張りましょうみたいなセットで聴いてもらってね(笑)。今はこんな時代だけど、絶対明るい未来はくる。明日を信じていきましょう。この2曲で私はそういうメッセージを伝えられたらうれしいね。

 

魂が魂に訴えかける歌
「あゝモンテンルパの夜は更けて」との出合い~アルトサックスでむせび泣く~

昨年からのコロナ禍の間、私はアルトサックスを再び始めたとお話ししましたね。そんな中、サックスを通してすばらしい曲との出合いがありました。1952年に渡辺はま子さんと宇都美清さんがデュエットしてヒットした「あゝモンテンルパの夜は更けて」という曲です。

私はオーディオに凝っていて、ある時いつも通っている店の主人から「店をたたむことにしたから、ツートラックの38センチのテープがいっぱいありますよ」と連絡があり、いくつか譲り受けました。その中にNHKの『ビッグショー』という番組を録音したテープがあって、そこでこの曲と出合いました。この歌にとても興味が湧いて調べたりしていくうちに、「魂というのは歌の中に入っているんだな」と、最近ね、つくづく感じるようになりました。

フィリピンのモンテンルパ市の丘にあった「ニュービリビット刑務所」で、戦争犯罪者としてマニラ軍事裁判で死刑判決を受けていた死刑囚の元フィリピン憲兵隊少尉と元大日本帝国陸軍将校が作詞・作曲した、祖国である日本への望郷の念、そして母親への思いなどが込められている作品です。作った二人は死刑になるはずだったんですよ。

でも、それを聴いたフィリピンの大統領がこの曲に感銘を受けて、全受刑囚の日本送還と死刑囚の無期への減刑を発表された。まさに、”歌が命を救った”んだよね。すごいよね。それを先日も吹いていたら、泣けてきちゃってね。吹けなくなってしまった。魂が魂に訴えかけるというかね。魂がこもっているから、人に訴えかけるものがあるわけです。

だから、僕ら歌い手も魂を込めて歌わなきゃいけない。それが原点だと思う。最近年齢的なものもあるのかもしれないけど、そういうものを感じる年代になってきたの。そろそろお呼びが来るのかな(笑)。皆さんもぜひ一度聴いてみてください。

 

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2021年1月20日発売
増位山太志郎「別れの彼方」

「別れの彼方」
作詞/森田いづみ 作曲/宮下建治 編曲/南郷達也
c/w「かならず明日はやってくる」
作詞/森田いづみ 作曲/宮下建治 編曲/南郷達也
テイチクエンタテインメント TECA-21003 ¥1,227+税

増位山太志郎がおよそ一年ぶりにリリースする「別れの彼方」は、甘い歌声の中に込められた力強い前向きなメッセージが胸に響く一曲。「桜ひらひら」「胸がじりじり」「雪しんしん」などの四季と趣を感じさせるフレーズが、切ない別れのシーンに彩りを添える。増位山本人の希望で入れられた、イントロのテナーサックスの音色にも注目したい。一方、カップリング曲「かならず明日はやってくる」も、明るく生きていきましょうという希望あふれるメジャー調の一曲。

増位山太志郎「別れの 彼方かなた」Profile
増位山太志郎(ますいやま・たいしろう)
1948年9月16日、兵庫県生まれ。大関・増位山大志郎の長男として東京の三保ヶ関部屋で生まれ育つ。小学生の頃から相撲が好きで、1967年、瑞竜の四股名で初土俵。1968年、父の四股名である増位山を継ぐ。1984年、実父である9代三保ヶ関が退職すると、三保ヶ関に名跡を変更して部屋を継承し親方に。多くの入門者をスカウトして関取に育てた。現役力士時代の頃からムード歌謡・演歌歌手としても活動し、1972年、「いろは恋唄」で歌手デビュー。1974年、3枚目のシングル「そんな夕子にほれました」、1977年の「そんな女のひとりごと」が大ヒットを記録。2013年、11月場所で日本相撲協会を定年退職。ユーモアあふれるトークと、代名詞ともなっている甘い歌声で多くのファンを魅了している。

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