今ふたたび!「しぐれ坂」で魅せる冠二郎の世界
2月17日、人妻を愛した末、自ら身を引く決意をした男の未練をしっとりと歌う新曲「しぐれ坂」を発売した冠二郎。1993年にマイクを2本持ち歌う”二刀流”で話題となった「ムサシ」のカップリング曲として収録されていた楽曲に、いま一度”冠二郎の世界”の再燃を託す。
”冠節”といえる私の世界、昭和の匂いがする曲
Q 新曲「しぐれ坂」は、1993年に発売された「ムサシ」のカップリングとして歌われた作品ですね。
冠 そうそう。しかし当時はレコーディングで一度歌ったきりで、ステージで披露したこともありません。その時と比べると、泣き笑いのあった様々な人生経験を積んだ分だけ、”冠節”といえる俺の世界、”冠ワールド”の匂いがする曲になったと思っています。味噌汁みたいに味わい深い曲とでも言うのかな。
Q 昨年出された「湯の町慕情」も、1983年に「みれん酒」のカップリングとして発表された楽曲でしたね。
冠 昨年は時代が令和に変わり、”今俺が歌うべき歌というのは何なのか?”、正直なところ自分でもわからなかったし悩みました。そうしたら、YouTubeっていうんですか? その中で「湯の町慕情」が64万回もの再生数を出して、なんでカラオケがないんだと話題になったの。そこでこの曲を新曲として出してみようということになって、出してみたらロングセラーで暮れになっても売れ続けて……。冠ワールドにみんなが再び戻ってきてくれた手ごたえがありました。
Q そこでじゃあ今年はどんな歌を、という話になられて、冠さんが「しぐれ坂」を選ばれた。
冠 そうですね。「湯の町慕情」で波を感じたので流れに乗ってさ。柳の下にどじょうが何匹いるかわからないけど(笑)、こういう歌が好きな方が多いだろうと予測して、もう一度冠二郎の世界へ挑戦しようと思ったんです。
Q 冠さんといえば男らしくて勇ましいイメージでしたが、この曲はとてもソフトな感じで哀愁を感じます。
冠 うん。これまでいろいろな人生経験を積んできて、「男、冠ここにあり!」と男を売り物にしてきたのが、嫁さんと結婚したでしょう。なんか俺弱くなっちゃったなぁって思うの。もし今彼女がいなくなったら俺生きていけないよっていうくらい弱っちゃったんですね。独身の頃に市川昭介先生から「冠くんもね、もう少し泣きが入ると歌が生きるんだけどね」って言われたことがあるんですよ。だから嫁さんができたことによって、今までなかった冠二郎の哀愁のある男の未練や優しさみたいなものがこの歌に出ているんじゃないかな。
Q お幸せなんですね!
冠 今朝も出がけに「ほらほら」って言われて「なんだ」って言ったら「鼻が出てる」って(笑)。それまで強がって一人で度胸だって生きてきたんだけど、俺、弱くてもいいじゃないかって。歳とってもいいじゃないかって思うようになった。「ムサシ」を歌っていた頃は、真逆のシチュエーションのこの曲をどう歌っていいかわからなかったし、記憶にもないくらい。ところが、今回噛み締めて自然体でソフトに歌えたっていうのは、今の冠二郎だからではないかと思っています。
Q この歌は男性の方が身を引く別れの歌ですね。
冠 ある男女が愛し合って、ふと男の方がこれ以上踏み込んではいけない、女性を苦しめてしまうと、未練は残るけども別れていく。「死ぬほど好きなふたりでも あの女(ひと)は人の妻」。道ならぬ恋なんですね。俺は結婚したばかりでしょう? 正直なところ、本当は「人の妻」なんていうのは歌いたくないと思ったんですよ。
Q なんとなくお気持ちわかります。
冠 妻と結婚できていなければ、きっと悲しくてこの歌は歌えなかっただろう。もし結婚をしていなければ、「しぐれ坂」を選ばなかったかもしれない。自分が今幸せだから、添えない二人を歌っても人ごとのように、そう悲しいと思わないでも歌えるんだと思うんですね。そして気づいたことは、“ああ俺は一人で生きてきたんじゃないんだ”ということ。いろんな人のアドバイスとか教えとか、それが今回の「しぐれ坂」にも生きています。
歌手は体が楽器。心が腐ると体も腐る。どうか命を大切に
Q 今回のCDには3曲収録されていますが、まずカップリング曲の「三陸海岸」についてお聞かせいただけますか?
冠 「三陸海岸」は、宮古・八戸・石巻などの地名や港が出てくるんですけど、今年はちょうど東日本大震災から10年。過去の冠二郎の世界とも言える海の男の歌で、被災地である三陸の地を思って歌った応援歌です。
Q 「昭和おやじの詩(うた)」についてはいかがですか?
冠 これもとてもいい曲でね。妻もね、自分の父親(作詞・作曲・編曲を手がけた稲沢祐介氏)が作ったんだけど、聴くたびに「いい歌だ」って言って泣いているんです。俺は戦後の焼け跡は知らないんだけど、昭和・平成・令和と三つの時代をを”俺はまだ生きてるぞ”っていう、俺自身の歴史の歌という感じです。昔を思い出して、歌うと涙が出てくる。売れなかった時から、幸いに冠二郎としてやってきたその足跡を残せた昭和という時代。それを歌っているのがこの歌です。
Q そして冠さんはいよいよ来年には歌手生活55周年を迎えられますね。
冠 演歌歌手・冠二郎としてデビューして、良き昭和の時代も経験し、その時その時の生き様や自分の背負ってきた人生を感じながら歌ってきました。それがうまく時代にハマった時にはヒットして、ちょっとずれた時は思うように売れないこともありました。賞レースや『NHK 紅白歌合戦』にもデビューして24年かかってやっとたどりついて、3回も出させていただいた。本当にいろいろな経験をした55年でしたね。
Q まだまだコロナ禍も予断を許さない状況ではありますが、新曲を楽しみにされているファンの皆さんへ“冠節”でひと言いただけますでしょうか。
冠 本当だよね。今もまだまだステージで歌うこともなかなかできないですが、歌手というのは体が楽器。だから俺もまずは健康を維持するために筋トレをしたり散歩したりしています。あと心の健康ね。心が腐ると体も腐るから。辛いこともいっぱいあると思うの。ここを、歯を食いしばって乗り切ってもらって、どうか命を大切に。命さえあればまだ頑張れると思うから。俺はどこまでいっても演歌歌手・冠二郎でいるために、今回の新曲でもっと頑張っていきたいと思っています。
2021年2月17日発売
冠ワールドふたたび
冠二郎「しぐれ坂」
来年大きな節目となる歌手生活55周年を迎える冠二郎が贈る新曲「しぐれ坂」は、1993年に発売された「ムサシ」のカップリングとして歌われた作品をセルフカバー。人妻との道ならぬ恋に落ちた男が未練を抱きながらも自ら別れを選ぶという切ない一曲。c/w「三陸海岸」は、東日本大震災の被災地である三陸の地を思って歌った応援歌。「昭和おやじの詩(うた)」は、冠の奥様である味菜子さんの実父である稲沢祐介氏の作詞作曲作品。「今までの歌い方ではなく、現代風の歌唱を意識して歌いました。昭和のおやじのひとりである俺の歴史の歌でもあり、歌っていると涙が自然と出てくるいい歌だよ。味わいがそれぞれ違うのでぜひ3曲とも聴いてください」(冠)
Profile
冠二郎(かんむり・じろう)
1944年4月23日、埼玉県生まれ。作詞家・三浦康照氏の内弟子となり修業を積み、1967年「命ひとつ」で歌手デビュー。その後、「旅の終りに」(1977年)「みれん酒」(1983年)「酒場」(1991年)「炎」(1992年)など多くのヒット曲を世に送り出す。そのキャラクターを生かしドラマに出演するなど活躍。2016年に31歳年下の味菜子さんと結婚。おしどり夫婦としても話題を集め、昨年「ジロー&ミナ」名義で「あなたは男でしょう」をリリース。