市川由紀乃

【レポート】市川由紀乃、約5年ぶりの国際フォーラム公演で「新章」へ。涙と覚悟を胸に全21曲を熱唱

市川由紀乃が10月6日、『市川由紀乃リサイタル 2025「新章」』を東京・国際フォーラムホールCで開催した。「“新たな歌手人生の始まりを感じていただきたい”」という想いを込め、市川自身が名付けた「新章」。歌唱はもちろん、ナレーションやコーラスまで全てを自身で担当し、披露したカバー曲11曲中10曲が初披露と、このリサイタルにかける並々ならぬ意気込みを感じさせるステージとなった。

撮影=スギゾー

市川由紀乃

冒頭、袴姿に襷をかけ、凛とした表情で大筆を振るう市川の映像が紗幕に映し出され、歌人生を歩む決意と感謝を伝える語りが重なる。映像が途切れると、そこには市川の筆による堂々たる「新章」の文字が描かれた巨大な掛け軸が。そして、淡い薄紅色の地に金箔が施された振袖姿で市川が登場すると、待ち望んでいたファンから大きな拍手と“由紀乃コール”が響き渡る中、「命咲かせて」でリサイタルの幕を開けた。

自ら描いた「新章」のタイトルを背に、「うたかたの女」「花わずらい」を歌い上げると、「皆様こんばんは! 市川由紀乃です。本日はリサイタルにお越しいただき誠にありがとうございます!」と元気いっぱいに挨拶。「心から感謝申し上げます。こうして舞台に立たせていただいていることが奇跡のように思います」と、昨年の闘病生活を振り返った。そして「新章」に込めた思いを「新たな歌手人生の決意を込めて付けさせていただきました」と伝え、阿久悠の未発表作品「年の瀬あじさい心中」を披露した。

昭和の歌謡史にその名を刻み、市川が大きなリスペクトを寄せる ちあきなおみ。彼女の紹介ナレーションが流れると、会場にはふわりと白檀の香りが漂った。これは、ファンにも好評だった台湾の老舗フレグランスブランド・明星花露水とのコラボによるもので、会場でも販売された。

市川由紀乃

着物姿から一転、ディープグリーンのロングドレスで登場した市川は、「かもめの街」からタイプの違う名曲3曲を見事な表現力で歌い上げ、ちあきなおみの歌世界を表現。特に「夜へ急ぐ人」のクライマックスでは、伸びの良い高音で客席を圧倒した。

市川由紀乃

続いては、沢田研二「サムライ」の世界観を軸にしたショート歌謡ミュージカルのコーナーへ。スパンコールが散りばめられたタキシード姿で登場し、中森明菜の「TATTOO」で物語がスタート。マフィアの抗争に巻き込まれた男女の俳優が時に切なく時にコミカルに演じ、観客を引き込む。真島昌利「アンダルシアに憧れて」、中森明菜「十戒」と続き、フィナーレの沢田研二「サムライ」で第一部の幕を閉じた。

市川由紀乃

第二部の冒頭は、リサイタル恒例となったトラック野郎「ゆき五郎」が手づくりのデコトラと共に「一番星ブルース」で登場。市川由紀乃の大ファンという設定の気っ風の良いトラック運転手に扮し、演技とともに「もう一度逢いたい」など演歌の名曲をカバー。入院中に元気づけられたという矢沢永吉の「止まらないHa~Ha」では、タオルを振り回し会場一体となって盛り上がった。

途中、バンドのメンバー紹介に続く「由紀乃音頭体操」では、座ったままでもできるストレッチで観客をほぐす、市川らしい心遣いも見せた。

そしてリサイタルは終盤へ。市川自身が最大の見どころと語る「恋慕譚 北の愛獄」では、この日のために全てアレンジを変えたオリジナル3曲で物語に挑んだ。

市川由紀乃

北国の古民家を舞台に、市川の語りで悲しくも熱い恋の物語に引き込まれる。虚飾を排した生成りの着物で歌う「心かさねて」「さいはて海峡」は、アコースティックな編成だけに歌唱力と表現力が際立つ。

そして、艶やかな漆黒の着物ドレスに様変わりすると、舞い落ちる雪の中で「雪恋華」を熱唱。母一人子一人で育った娘が恋を知り、心を燃やしながら堕ちてゆく悲恋の様を、鬼気迫るほどの迫力で見事に演じきった。

市川由紀乃

幕間のVTRでは、市川が様々なキャラクターに扮する茶目っ気たっぷりな映像でファンを和ませる。再び幕が上がると、錆赤色の紅型(びんがた)にレースの手袋というモダンな出で立ちで再登場。最新曲「朧」のカップリング「オリガミ」を披露した。

MCでは「昨年、いろいろな経験を重ね、また再び歌うことの道を神様が作ってくださいました。歌を歌わせていただく活動と共に、自分と同じ病と闘う方々の背中を押して差し上げることができたら」と、自身が募金活動を行う認定NPO法人マギーズ東京を紹介。「私の一番の憧れが、そばにいる母です。どんなに悔しい時も辛いときも母は涙を見せませんでした」と涙声になると、客席からは「泣いたらあかん!」と温かい声援が飛んだ。

市川由紀乃

「これからの市川由紀乃、さらに精進してまいりますのでどうぞ応援の程、宜しくお願いいたします!」と声を震わせながらも力強く思いを伝え、万感の想いを込めて最新曲「朧」で最後の歌唱を締めくくった。

市川由紀乃

カーテンコールではバンドメンバーや俳優と並び、精一杯の感謝を伝え深々と挨拶。会場との一体感が感じられる温かな雰囲気の中、万来の拍手と歓声が鳴り響く中、幕を下ろした。エンターテイメントとしての完成度を高め、バリエーション豊かにファンを楽しませることにとことん拘った姿勢に、アーティスト市川由紀乃としてのキャリアと奥行きの深さを感じることができるリサイタルとなった。

 


2025年5月20日発売
市川由紀乃「朧」<星月花盤>
市川由紀乃

「朧」
作詩/松井五郎 作曲/幸耕平 編曲/佐藤和豊
「ノクターン」
作詩/松井五郎 作曲/幸耕平 編曲/佐藤和豊
「花わずらい」
作詩/松井五郎 作曲/幸耕平 編曲/佐藤和豊
キングレコード KICM-31882 ¥1,500(税込)

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