角川博が45周年を記念するショーを開催。緩急をつけたエンターテイメント。笑いと歌でファンを惹きつけた
福岡・博多でクラブ歌手をしていた角川博は1976年4月、熱心な誘いに応じて「涙ぐらし」でプロ歌手としてデビューした。以来、45年間、女唄を歌い続けてきた。そして今年8月、コロナ禍により発売日を調整する歌手もいる中、「こんな時期だからこそ新曲を出す意味がある」と、45周年記念曲「雨の香林坊」をリリース。石川県金沢市の繁華街を舞台にし、恋をあきらめた女性の切ない気持ちを歌ってきた。
▲映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のメインテーマに乗って登場した角川。45周年記念ということで、デビュー曲「涙ぐらし」から披露した。
そんな角川が12月22日、東京・目黒のホテル雅叙園東京で、「角川博45周年記念ランチショー」を開催、自身のヒット曲や代表曲はもちろん、ピアノやギターの演奏で、普段あまりステージでは歌わないカバー曲も披露した。
“コロナ禍だからこそ、今日は皆さんに歌で元気を差し上げたい。盛りだくさんの内容となっております”
司会者によるアナウンスに続いて、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のメインテーマが流れると、45年前にタイムスリップ。黒のスーツ姿で登場した角川はデビュー曲「涙ぐらし」からセカンドシングル「嘘でもいいの」、サードシングル「許してください」の3曲をメドレーで聴かせる。
▲ファンには楽しんで帰ってもらいたい。そんな角川の意思を感じるステージ。笑わせるところは笑わせ、聴かせるところは聴かせた。
「おかげさまで45年が経っちゃいました。まあ、じじいになっちゃいました、ほんと。皆さんもじいい、ばばあになっちゃいましたけどね。お互い様でございます。(客席から若い!という声)。そんなことないです。でも、お世辞でもうれしいです。ありがとうございます。ここまで来られたのも自分の努力の賜物です……。いえ、皆さんが支えてくださった45年だと思います。事務所はいま、コジンでやっています。コジンと言っても故人じゃありませんよ。個人的にやっていると。芸映という事務所に所属させていただいて、ここまで来れました。何も知らないあんちゃんが歌手になって、何も知らないのによくここまで来れたなと。これからもまた皆さんのお世話になると思います。こんなやつですけれども、最後までよろしくお願いします」
5秒に一度、ファンを笑わながらオープニングから会場を盛り上げると、角川流の感謝の言葉を述べる。そして「恋炎歌」(1992年)、「女のなみだ」(2018年)、「めおと路」(2014年)、「冬の蝉」(2009年)、「夜泣き鳥」(2014年)の5曲を美声に乗せて届けた。
45周年記念のランチショーは当初、200人規模の大きなものになる予定だった。だが、年末に向けて新型コロナウイルスへの感染拡大が連日、新聞・テレビで報道され、中止も検討したという。だが、歌を待ってくださるファンがいると、感染対策を採りながら規模を小さくして開催にこぎつけた。
▲ピアノの演奏で初期の頃のオリジナル曲「おまもり」「雨の赤坂」などや、カバー曲を歌った。
駆けつけてくれたファンを楽しませたい。角川はピアノの演奏で、1987年の「おまもり」、1989年の「雨の赤坂」を歌うと、個人的に好きだという吉幾三の「海峡」、山口百恵の「いい日旅立ち」をカバーする。
「あまり歌ったことない歌を皆さんに聴いていただきたいと思って選曲させていただきました」
そう語る角川。ピアノ演奏の最後に、五木ひろしが作詞・作曲し、2015年の「蒼い糸」のカップリングに収録された「あたなへ」を熱唱する。「歌手というものは、自分の好きな歌ばかりをあまり歌うものではない」というのが持論だったが、ピアノ演奏での歌唱に「本当は気持ちよく歌っちゃいけないんですが、気持ちよく歌わせていただきました」と、角川。ファンのためでもあり、自分のためでもある記念のショーを楽しんでいた。
▲45周年&誕生日のお祝いに新沼謙治と山川豊が駆けつけた。新沼は実用品がいいだろうと、衣裳ケースを、山川からは花束がプレゼントされた。このあとは爆笑トークで会場は笑いのるつぼに。
ここでサプライズ。12月25日が誕生日である角川に、観客から「Happy Birthday to You」の歌と拍手がプレゼントされると、スペシャルゲストとして新沼謙治と山川豊がお祝いをもって駆けつけた。
角川と新沼とはデビュー年が同じ1976年。「この世界の同級生なんです」という新沼に、「謙ちゃんは2月デビューで、僕が4月。年齢は僕の方が上ですが、芸能界では先輩ですから。たとえ2カ月でも先輩です。まあ、先輩扱いしたことはありませんが」と角川。デビュー当時の話で盛り上がると、山川を交えて、新沼の趣味でもあるレース鳩の話題に。
角川 謙ちゃんがいるから僕も上を目指していきました。謙ちゃんに負けるかって。素晴らしい方なんです。人間的にも。趣味が盆栽……。
新沼 地味くさいのやめろよ。
角川 あとバドミントンでしょ? バドミントン(のシャトル)って鳩の羽根でできてるんでしょ?
新沼 ノーノーノー。水鳥!
山川 僕は以前、新沼さんと同じ地域に住んでいたんですよ。ちょうど自宅の……。
角川 鳩がフンを落としていくんでしょ?
山川 洗濯物が鳩のフンだらけ。
角川 謙ちゃんとこの周りを鳩がフンだらけにして、フン害だって言われたんでしょ?
新沼 言わないよ、誰もそんなこと。
角川 どうにかしないといけないってなって、鳩を岩手に運んでいって帰ってきたら、先に鳩が戻ってきていたっていうね。
山川 あの鳩、どうしたんですか? 食べたんですか?
角川 焼き鳥にしたらしいよ。田原俊彦もやって来て、「ハッとしてグー(ハッとして! Good)」って言ったらしい。
国際レースも盛んに行われているレース鳩の世界でも有名な新沼も、ここまで来ると、否定する気力もなくしていた。しかし、こんな話で盛り上がれるのも角川のショーならでは。最後は新沼のデビュー曲「おもいで岬」を3人で歌うことになる。しかし、山川は2020年末をもって現在の事務所から独立するものの、この時点では契約下にあり、自分の意思では判断できない。
新沼 あと3カ月で独立するんだって?
山川 3カ月?
角川 年内だよ!!
新沼 3カ月後は俺の誕生日だった。話があっちゃこっちゃ行ってわからなくなった。
角川 それがいいんだよ。謙ちゃん、あれ歌おう。「おもいで岬」。あまり歌ってないでしょ?
新沼 デビュー曲の? テレビでは「嫁に来ないか」にリクエストが来るからあまり歌う機会がないし、デビュー曲が「嫁に来ないか」と思っている人もいる。
角川 「おもいで岬」は春、夏、秋、冬と4コーラスあるんだよね。
新沼 (山川に)ホント、歌っちゃいけないの? (角川に)2人で歌うの?
角川 声を出したらダメ。
新沼 じゃあ、博ちゃんが歌うから、顔だけ作っていればいいから。
山川 では、私は腹話術で。
角川 口だけパクパクパクパク、錦鯉みたいにしていればいいから。
▲新沼謙治のデビュー曲「おもいで岬」を3人で歌うが、山川は見事な口パク芸(!?)で観客を笑わせていた。
▲山川に振られて、小林旭のモノマネで「おもいで岬」を歌う角川。「この日は、モノマネはしません」と言っていたのだが……。
そんな“自由奔放”なやり取りで会場中を沸かせながら、3人(?)による「おもいで岬」が始まる。山川は大げさな口パク芸(!?)を披露し、会場の笑いを誘うと、今度は角川にお返しとばかりにモノマネをリクエストする。ショーが始まってすぐの頃、角川は「今日は、モノマネはしません」と宣言していたが、山川に「小林旭!」「郷ひろみ!」とコールされると、モノマネで「おもいで岬」を歌っていった。
「来年は、3人でショーをやりたいね」
会場からも大きな拍手が来るほど、息の合った楽しい3人のコーナーが終わると、ショーのエンディングに向け、角川はギターの演奏でカバー曲を歌う。
井上陽水の「心もよう」、風の「22才の別れ」、バンバンの「いちご白書をもう一度」を歌う。クラブ歌手時代に歌った曲であり、「『いちご白書』をもう一度」は今でもカラオケに行くとよく歌うという。
▲ギターの演奏で懐かしいフォークソングを披露した角川は、新曲「雨の香林坊」とカップリング曲「忘れてあげる」を歌う。伴奏を務めたのは作曲家でもある南乃星太氏。
デビュー以来、女唄を一途に真摯に歌って来たが、角川が歌うフォークソングも、また別格だった。カバー曲の最後に中島みゆきの「糸」に挑戦すると、ギターアレンジで新曲「雨の香林坊」を届けてファンを酔わせる。
ギターを弾くのは同曲の作曲家・南乃星太氏。ギタリストとしても活躍する南乃氏によるアレンジも秀逸だった。
角川は新曲のカップリング曲「忘れてあげる」をギター演奏で歌うと、ショーの最後にオリジナル演奏で「雨の香林坊」を歌い上げた。
「ソーシャルディスタンスを保たないといけない今日この頃ですが、今日は来ていただきましてありがとうございました。来年はよい年になりますよう。また来年は、皆さんといい感じでお会いしたいと思います」。
オトカゼでのインタビューでも、「45年なんて、とくに意味はない。44年も同じ、来年の46年も、そして5年後の50年目だって変わらずやっていくだけです」と語っていたが、笑いと歌。緩急をつけた2時間のショータイムに角川は大きな拍手をいただいていた。45周年の記念イベントだったが、感傷的な話をあまりしないのが、じつに角川らしかった。
▲最後にもう一度、新曲「雨の香林坊」を歌った角川。上沼恵美子のロングヒット曲「時のしおり」を作曲した南乃星太氏が手がけ、常にカラオケや各種セールスランキングでも上位を記録している。
川合智己と栗田けんじも角川博45周年記念をサポート
角川事務所の俳優、川合智己が角川博のランチショーを盛り上げるために、間合いで「外郎売」を披露。機関銃のように繰り出される口上に、大きな拍手をもらっていた。
この日のランチショーで司会を務めた栗田けんじ。モノマネタレントとして活躍するほか、歌手としてCDリリースしている。この日は、山本譲二と美川憲一のモノマネを披露し、観客を楽しませた。
2020年8月5日発売
女心の代弁者、甘い高音が映える
角川 博「雨の香林坊」
角川 博の圧倒的な歌唱力、甘く艶のある高音が映える歌手デビュー45周年記念シングル。複雑だけれど繊細な女心を歌わせたら右に出る者はいないと言われる角川の美声を生かした、ムーディーな歌謡曲テイストの一曲。作詞の麻 こよみ氏、作曲の南乃星太氏との初タッグ作品で、自ら愛する人との別れを選んで旅に出た女性の切ない胸のうちを、古都・金沢の風情ある情景とともに描く。