「角川 博」スペシャル(1)歌、一途に。「雨の香林坊」

45年という長い間、歌一途にこの道を歩いてきても「まだ道半ば。これからも歌い続けていくだけ」とさらりと話す。角川 博の口からこぼれる言葉のどれもが、その気骨を物語っている。
ただただ、「カッコいい」。
45周年を記念した新曲「雨の香林坊」で聴かせる艶のある歌声にも、角川ならではの歌世界、そして男気がにじみ出ている。

 

アニバーサリーイヤーも「特別意識はしない」

2020年はデビュー45周年。記念曲として、8月5日に「雨の香林坊」をリリースする角川博。「女心の伝道師」と評され、女唄ひとすじに演歌・歌謡界で存在感を発揮してきた。67歳になる今も、高音を効かせた甘く若々しい歌声は健在だ。

おそらく野暮な質問……、と予測しながら節目の年であることを角川に問いかけると、答えは案の定シンプルなものだった。

「45年なんて、とくに意味はない。44年も同じ、来年の46年も、そして5年後の50年目だって変わらずやっていくだけです。ただ、何をおいても健康でいなくちゃなとは思います。仲の良かった志村(けん)が亡くなって、これはとてもショックだった。現状に逆らわず、受け入れるべきところは受け入れて、自分らしくやっていけたらと思います」

プライベートな話では、コロナ渦による自粛期間、ステイホームを余儀なくされて生活が一変したという人も多いと思うが、角川はこれについても自分のスタイルを崩していない。10年近く前に酒、たばこを絶ち、今回ばかりは「家飲み」を楽しんでもよさそうなものだが首を真横に振って、きっぱりノー。

「酒はかつてさんざん飲みました、腐るほど。とにかく中途半端ができないタチだから、ちょっとならいいんじゃないというのはダメなんです。やめるならピタッと。親しい人と食事をしても、『お前、おもしろくない男だな』って言われるほどだよ(笑)」

飲み物は、一般的にのどによしとされる温かいものでなく、好みは氷を入れてギンギンに冷えたもの。ステージでは空腹のまま歌うのがポリシーで、「腹いっぱいになったら歌う気がしなくなっちゃうよ」と笑う。そんな筋を通した生き方が、歌い手・角川の最大の魅力だ。

歌に対するこだわり。「大切なのは色づけ」

プロの歌い手としてほかにもこだわりは多いが、例えば新曲を出す時、こんな歌を歌いたいといった「曲づくり」に対しては、角川が口を挟むことは決してない。

「俺の好みでは一切歌わない。いただいた作品を、プロとしていかにして歌うか。それしか頭にないね。私情を挟まず、ナチュラルに取り込む。だから第一印象なんか関係ない。あるとしたら、商売できる歌かどうかというその感覚だけですね」

今回の新曲「雨の香林坊」は、初タッグとなる南乃星太氏が作曲を手がけているが、これまでとはひと味違う曲調で、少なからずの手応えを感じている。

「デモテープが“こう歌うしかない”というくらいうますぎるとアレンジしにくいけど、自由に表現してくださいと言わんばかりだったのでとてもやりやすかったね。コブシをどう入れて、どう歌ったら自分ならではの色が出るか。その色づけが勝負だと思っています」

しかしながら、自分で色づけた歌を、常にそのとおりに歌うつもりはない。CDでの歌唱はバージョンのひとつであり、歌う場所や聴いてくれる人など、実景を大事にした歌い方をしていくのが角川流。「歌はその時々で変化するもの」と、それが持論だ。

「あとは、あまり感情移入はしない。今回の曲もそうだけど、悲しみや切なさをそのまま伝えるのでなく、泣くところはむしろ笑顔で歌う。そのほうが悲しみが隠れて、より深い歌になる。演歌は本来、重いでしょ。だから感情の裏側にあるものをサラリと伝え、いかに軽く聴いてもらうか。“お茶漬けサラサラ”で聴いてほしいね」

(文=藤井利香)

 →「角川 博」スペシャル(2)変わらぬ甘い歌声に酔いしれて

 
202085日発売
女心の代弁者、甘い高音が映える
角川 博「雨の香林坊」

「雨の香林坊」 
作詞/麻こよみ 作曲/南乃星太 編曲/伊戸のりお 
c/w 「忘れてあげる」  
作詞/麻こよみ 作曲/南乃星太 編曲/杉山ユカリ  
キングレコード KICM-30992 ¥1,273+税

角川 博の圧倒的な歌唱力、甘く艶のある高音が映える歌手デビュー45周年記念シングル。複雑だけれど繊細な女心を歌わせたら右に出る者はいないと言われる角川の美声を生かした、ムーディーな歌謡曲テイストの一曲。作詞の麻 こよみ氏、作曲の南乃星太氏との初タッグ作品で、自ら愛する人との別れを選んで旅に出た女性の切ない胸のうちを、古都・金沢の風情ある情景とともに描く。

     


 Profile
角川 博(かどかわ・ひろし)
1953年12月25日、広島県生まれ。高校時代は広島の名門・広陵高校の野球部に所属し青春を捧げる。高校卒業後、福岡でクラブ歌手として歌っていたところをスカウトされ歌手への道に。1976年「涙ぐらし」でデビュー。同年、第18回日本レコード大賞新人賞、第9回日本有線大賞新人賞をはじめ、新人賞を総なめに。1978年、『NHK 紅白歌合戦』に「許してください」で初出場。明るいキャラクターと得意のものまねでテレビのバラエティー番組でも活躍し、お茶の間の人気者となる。今年歌手生活45周年を迎え、衰えるどころかますます高音の美しさに磨きがかかり多くのファンを魅了している。