「角川 博」スペシャル(2)変わらぬ甘い歌声に酔いしれて

思い切った高音で始まる「雨の香林坊」

さて、本題の新曲「雨の香林坊」について、あらためて紹介しよう。多くの人がご存じのように、「香林坊」は石川・金沢の繁華街。お坊さんの名が由来という城下町ならではの名称で、街中を流れる川にかかる橋のたもとに小雨の中、男女が寄り添う。そんなイメージがぴったりの情緒ある風景を舞台に、自ら身を引き、恋をあきらめた女性の切ない心のうちを歌っている。作詞は、麻 こよみ氏だ。

「三連の曲で歌詞は長めですが、とてもリズミカルで出だしは思い切った高音。当初はもう1段階音を下げたパターンもあったんだけど、高いほうで歌っています。まだまだ声は出るからね!」

聴きどころはこの出だしと、三連それぞれのラストとなる「金沢 雨の香林坊」というフレーズだろうか。「金沢」のあとに続く「あ」の入り方は、思わず唸ってしまうほどの巧みさで味があり、カラオケでも歌う人のこだわりが出そうな部分だ。

「食い気味に『あ』を入れる。ここはスピード感が大事。トントントン、ヤ~という歌舞伎の見得を切るようなリズムで、最後はビシッと決めないと(笑)。あとは全体的に音域が広くなっています。難しさはあるけど、例えば低音を出す時はあごを引きすぎず、上げ気味にして歌うといいと思います」

余談だが、曲中には「尾山神社の 神門をくぐり」という歌詞がある。仲睦まじかった加賀藩の藩祖前田利家と妻の芳春院(まつ)が主祭神で、上階に色ガラスがはめ込まれた神門は、重要文化財に指定されている。男女の仲を取り持つ神様として多くの女性が足を運んでいるそうで、今回の曲を聴きながら、機会があればぜひ行ってみたいと思わずにはいられなかった。

対して、カップリング曲として収録されているのは「忘れてあげる」。作詞・作曲は同じ作家陣で、愛する人からの別れを受け入れ、健気に生きようとする女性を歌ったバラード調の曲。「雨の香林坊」とともに、角川ならではの歌の世界を楽しみたい。

(文=藤井利香)
 


♪取材こぼれ話♪

隠れたヒット曲「ひとり三次(みよし)へ」

密かに人気を集めて角川本人も驚いているという曲がある。前作「博多川ブルース」のカップリング曲「ひとり三次(みよし)へ」だ。
1984年にリリースしたシングル「伊豆の雨」のB面として発表され、CD化されていないにもかかわらずリクエストが多かった曲で、当時のアレンジの技法を生かして再録された。現在もこの歌のYouTubeへのアクセスは増え続け、ほかの曲と比べても群を抜く再生回数となっている。
「歌は腐らない。あらためてそれを実感する機会になっています。正直、なんで人気なのか俺にはわからない(笑)。本当にびっくりなんだけど、思うに『三次にいます』という地名の歌詞を変えて歌うこともできるので、いろいろな人が気持ちを乗せて歌えるのかもしれないね。これはこれで素直にうれしい。だからこそ、まだまだ角川 博は元気だよと伝える意味でも、新曲のほうもしっかり歌っていきたいと思います」

「ひとり三次へ」が収録された
角川博「博多川ブルース」
2019年8月7日発売

「博多川ブルース」
作詞/たきの えいじ 作曲/岡 千秋 編曲/南郷達也
c/w「ひとり三次へ」
作詞/千家和也 作曲/伊藤雪彦 編曲/南郷達也
c/w「化粧川」
作詞/松井由利夫 作曲/水森英夫 編曲/前田俊明
キングレコード KICM-30929 定価¥1,389+税


2020年8月5日発売
女心の代弁者、甘い高音が映える
角川 博「雨の香林坊」

「雨の香林坊」    
作詞/麻こよみ 作曲/南乃星太 編曲/伊戸のりお   
c/w 「忘れてあげる」 
作詞/麻こよみ 作曲/南乃星太 編曲/杉山ユカリ    
キングレコード KICM-30992 ¥1,273+税

 
 

角川 博の圧倒的な歌唱力、甘く艶のある高音が映える歌手デビュー45周年記念シングル。複雑だけれど繊細な女心を歌わせたら右に出る者はいないと言われる角川の美声を生かした、ムーディーな歌謡曲テイストの一曲。作詞の麻 こよみ氏、作曲の南乃星太氏との初タッグ作品で、自ら愛する人との別れを選んで旅に出た女性の切ない胸のうちを、古都・金沢の風情ある情景とともに描く。



Profile

角川 博(かどかわ・ひろし)
1953年12月25日、広島県生まれ。高校時代は広島の名門・広陵高校の野球部に所属し青春を捧げる。高校卒業後、福岡でクラブ歌手として歌っていたところをスカウトされ歌手への道に。1976年「涙ぐらし」でデビュー。同年、第18回日本レコード大賞新人賞、第9回日本有線大賞新人賞をはじめ、新人賞を総なめに。1978年、『NHK 紅白歌合戦』に「許してください」で初出場。明るいキャラクターと得意のものまねでテレビのバラエティー番組でも活躍し、お茶の間の人気者となる。今年歌手生活45周年を迎え、衰えるどころかますます高音の美しさに磨きがかかり多くのファンを魅了している。