鳥羽一郎 ロングインタビュー~故郷、歌、師匠の教え~

演歌一筋でいきたい


――今年2作目となる新曲「戻れないんだよ」がリリースされました。この曲のコンセプトや初めて聴かれた時の印象はいかがでしたか?

鳥羽 なんか懐かしい感じがする歌だなって思いましたね。コロナ禍に見舞われる前にできていた作品なので、それがたまたまというか……それこそ「戻れないんだよ」っていう。あんまりにもタイミングが良すぎて。例えば地方の人からは、「東京から来ないでください」とか、「神奈川から来ないでください」とか、少し前まで言われてたじゃないですか。

――感染拡大を防ぐため、ということでしたが……。

鳥羽 ということは、そこに住んでいると、故郷へ帰りたくても帰れないわけですよ。私も久しぶりにおふくろの墓参りにでも行こうかなと思っていたんだけども、妹たちが「いやあ、兄貴、まだ来ないほうがいいよ」って言ってくると、戻れないわけじゃない?

――お盆に帰省できなかった。

鳥羽 (コロナ禍は)なんかすごいタイミングっていうかなあ。新曲はどういう歌かって聞かれると、歌詞にあるとおり、これまでいろんな人に出会ってきて、また新しい出会いを求めて人は生きているわけじゃない?

――はい、反省とか後悔とかもありつつ……。

鳥羽 そうそうそう。歳なら70近い俺と同じぐらいの。年相応の歌っていうかな。そんな感じの歌だと思うよ。

――1番は男女、2番で故郷、3番は人生そのものがテーマで、戻りたくても戻れない、諸行無常が歌われています。

今さら草むす 墓に行き
両手合わせて 詫びてみたって
おふくろ元気な あの頃に
戻れないんだよ 戻れないんだよ
(「戻れないんだよ」2番より)

今年はお盆に里帰りができなかったお話がありましたが、改めて振り返ると、鳥羽さんにとって故郷とはどんな場所ですか?

鳥羽 父親はまだ元気でがんばっているんだけどね。おふくろはもうとっくに亡くなった。不思議なもんだね。母親がいなくなると、故郷が遠くなるっていうかな。なんだろうね。例えば仕事で近くに行けば、「あ、おふくろの顔をちょっと見に行こうかな」と、実家へ寄ったもんだけどね。それが「もうおふくろいなくなっちゃったんだ」と思うと、寄らずに戻っちゃったりしてね。故郷が遠くなるっていうかなあ。

――母ありきの故郷ですね。故郷=母というイメージがあります。

鳥羽 うん。おふくろがいたから実家にも戻ったんだろうけど、なんかもういなくなっちゃったらね。まあ、故郷は故郷であるんだけど、なんかおふくろがいた頃とは違うんだよなあ。

――4人兄弟でいらっしゃいますよね。小さな時から長男としての責任感は強かったですか?

鳥羽 実家は食べていくのに精いっぱいだったからね。余裕なんかまったくないから、もう俺が働くしかないっていうかな。俺が支えなければ、という思いは人一倍あったと思います。

――鳥羽さんの出身地である三重県鳥羽市石鏡町 (いじかちょう)は漁業の盛んな町で、鳥羽さんのお父さんは漁師、お母さんは海女をされていました。それで、鳥羽さんも17歳の時に漁師になられたのですか?

鳥羽 ただ、手っ取り早く稼げる遠洋漁業の船乗りになった。漁があればたくさん稼げるし、漁がなければ……。まあ、博打と同じだけど、乗ればある程度の保証もあったし。

――鳥羽さんはその後、板前の修業をされますよね。前作「花板の道」が鳥羽さんの人生と被りました。

鳥羽 「花板の道」はだいぶ前に作ってあった曲でね。作詞家の先生は同じですけど、作品としてリリースするにあたり、少し書き直してもらいました。板前の修業の在り方も、昔と今は変わったけどね。今は、みんな調理師学校を出て、それから修行に入る。我々の時は少しでも先に修行を始めたほうがいいと、中学を卒業して修行に入るみたいなことも普通だった。板前の世界も時代とともに変わってきているね。

――振り返れば、これまでいろんなことを経験されてきて、そして、そこには時代の変化もありました。

鳥羽 まさに昭和、平成、令和。やっぱりそれぞれね。我々はどっぷり昭和だからね。でもまあ、どっちがいいかっていうとね、それは昭和もよかったし、平成もよかった。でも、ちょっと住みにくい、大変な世の中になったね。歌を歌っている場合じゃない。でも、ビクビクしていても仕方ないし、ありのままにこれからも演歌一筋でいきたいもんだね。
 

 

2020年3月25日発売
鳥羽一郎「花板の道」
作詞/大久保與志雄 作曲/島根良太郎 編曲/蔦 将包
c/w「 盆の酒」作詞/大久保與志雄 作曲/木村竜蔵 編曲/蔦 将包
日本クラウン CRCN-8325 ¥1,227+税  

「花板の道」は、故郷を捨てて腕ひとつで料理の道を追い求める男の燃える思いやほこりを歌った作品。鳥羽自身が、「島根良太郎」名義で作曲している。

 


2020年8月26日発売
人の世の諸行無常を切々と語る!
鳥羽一郎「戻れないんだよ」

鳥羽一郎「戻れないんだよ」

「戻れないんだよ」
作詞/かず翼 作曲/徳久広司 編曲/南郷達也
c/w「北のれん」
作詞/本橋夏蘭 作曲/大谷明裕 編曲/竹内弘一
日本クラウン CRCN-8343 ¥1,227+税

2020年2作目となる最新シングル「戻れないんだよ」は、過去に愛した女性への未練や望郷の思い、置いてきた夢と希望への後悔など、生きていれば経験するさまざまな人生模様を切々と歌った一曲。カップリングの「北のれん」は、愛する女性を追いかけて北の港町を旅する男の姿を描いた作品。「あんまり俺らしくないというか……レコーディングでは、作曲の徳久先生から”鳥羽一郎ってイメージはすごいわかるんだけど、力強い歌じゃなくてやさしく、ちょこっと哀愁があるような感じで歌ってみてくれる?”とアドバイスをいただいて、今までの鳥羽節じゃなくて、ふわっとした歌い方に挑戦しています」(鳥羽)

 


Profile                                        
鳥羽一郎(とば・いちろう)
1952年4月25日、三重県生まれ。17歳から遠洋漁業の漁師として働いていたが、敬愛していた作曲家、故・船村 徹氏に憧れ、27歳の時に上京。願いがかない、船村氏の内弟子として歌手の修行に努める。1982年、30歳の時に「兄弟船」でデビューを果たし、同曲が大ヒット。以降、数々のヒット曲を世に輩出し続ける演歌・歌謡界の重鎮のひとりとして活躍している。全国16カ所に17基の歌碑がある。また、MCでは観客を自らのトークで盛り上げ進行する。親しみやすい意外な一面も長年ファンに愛されている人気の秘密。