【特別ルポ】東京力車が喜劇に初挑戦。浅草21世紀と「四つ子のくろうばぁ~」を熱演し、笑いの渦を!
笑顔の花を咲かせましょう
東京力車が浅草に笑顔の花を咲かせた。東京・浅草で人力車を引く現役の俥夫4人組によるエンターテイメントパフォーマンスユニットである彼らが、同じ浅草を拠点に活躍する劇団・お笑い浅草21世紀とコラボレーション。こちらも老舗の寄席・木馬亭で喜劇に挑戦したのだ。
お笑い浅草21世紀は、(社)日本喜劇人協会の9代目会長を務めたコメディアンの故・橋達也を初代座長に、平成10年に結成された。座長の大上こうじを中心に木馬亭を本拠として、毎月、新作喜劇と、歌や漫談・舞踏・コント等の演芸バラエティーショーを二本立て上演している。
12月15日と17日の2日間行われた「浅草21世紀×東京力車『四つ子のくろうばぁ〜』特別公演」は、1部に喜劇「四つ子のくろうばぁ~」、2部に東京力車の歌謡ショーという豪華2本立て。浪曲の定席でもある木馬亭での公演だけに、歌唱ショーの間には浪曲も披露されるという盛りだくさんの内容だった。
浅草21世紀座長 大上こうじ
「浅草21世紀は、ここ木馬亭で毎月8日間公演をやっています。その中の歌のコーナーに東京力車さんがゲストで出ていただいたのがきっかけで、交流が始まりました。今一番ノリに乗っている4人だし、この勢いをコロナでなくしちゃいけない。僕らにも彼らの若さや勢いがほしいということで、コラボができないかという話になりました」東京力車リーダー 石橋拓也
「浅草というのは僕たちにとってはすごく大事な場所で、僕たち自身が育ててもらっている場所でもあります。この歴史ある木馬亭さんで浅草21世紀の皆さんが、たくさんのお客さんを笑顔にしているのを目の当たりにして、僕たちもこういった伝統文化を、もっともっと広げていきたいと思って、今回のコラボにつながりました。最初はゲスト感覚でいたのが、稽古を通して“一緒に素敵な作品を作り上げたい”という思いになっていきましたね」
第1部の喜劇「四つ子のくろうばぁ~」は、大上が演じる母と、四つ子役の東京力車が繰り広げる笑いと感動あふれる人情喜劇。田舎でひとり暮らしをしている母が、東京で頑張る四つ子を心配して突然上京するところから始まる。浅草・雷門前の交番で、警察官になった長男が巡査部長に叱られているのを目撃してしまった母は、次男、三男、四男を巻き込んで、長男に手柄を立てさせようと目論むというストーリーだ。
東京力車の4人は警察官の長男役に石橋拓也、政治家の秘書を勤める次男役に田井裕一、スナックの女の子(?)になった三男役は白上一成、サラリーマンの四男役が渡邉善央という役所。初めて挑戦した喜劇を、アドリブを交えながら全力で演じきった。
2日目の公演を前に、石橋は「初の喜劇ということで、1日目は反省点もありましたが、気持ちを切り替えてとにかく楽しんで演じ切りたい」とコメントしていたが、大上座長の無茶ぶりにより、台本の半分がアドリブだった。舞台は生き物。ライブ感を大切に知る大上座長の考えに必死で食らいつく東京力車だった。
物語の最後は、母が企てたニセの強盗犯を長男に逮捕させる計画が本人にバレてしまうシーンだ。怒りを見せる長男に母は言い聞かせる。
「立派な警察官になってほしい。そして兄弟の気持ちも大切にしてほしい。だってあなたたち4人は私の大切な息子、四つ葉のクローバーなんだから」
母と息子たちの強い絆と家族愛が深まるシーン。客席からは大きな拍手が沸きあがり、喜劇が感動的に幕を閉じるかに思えた。その時だった。母役の大上座長が大きな声で続けた。「私の息子たち4人は、東京で必死に頑張っています。皆さんどうか、どうか息子たちを、東京力車をどうぞよろしくお願いいたします」
予想外の展開に、思わず涙ぐんでしまった“激熱”リーダーの石橋。会場はさらなる感動に包まれた。
第2部は東京力車の歌謡ショーだ。明かりが落ちた舞台には東京力車がスタンバイし、イントロが流れる。会場から拍手が沸き起こる。
しかし! スポットライトが当たると、舞台に現れたのは東京力車の衣裳“俥夫着”を着て、必死にポーズを真似ていた浅草21世紀の大上こうじ座長、めだちけん一、真木淳、甘味けんじの4人だった。
大上「拓也です!」
めだち「善央です!」
真木「一成です!」
甘味「太郎です!!」
田井ちゃんはどこへ? ボケにボケをかぶせる浅草21世紀だった。
東京力車のショータイムは笑いから始まったが、ステージに現れた本家の東京力車は、最新曲「ニビイロトーキョー ~チャンチキおけさ~」とカップリング曲の「東京」や「ヤイロチョウタマシイ」のほか、「ARIGATOU」など全9曲を熱唱。舞台いっぱいにダンスやアクロバットを披露しながら歌を届けた。
つい数分前まで役者をしていたと思わせない東京力車のパフォーマンスに観客は釘付けだった。新たな挑戦を成功させた東京力車は2022年、今度はどんな感動と驚きを見せてくれるのだろうか? ますます目が離せなくなった。
浅草の二代看板になりたい・・・大上こうじ
「うちのメンバーと東京力車の4人は、仲がいいんですよ。何か知らないけど息が合うというか、気が合うというか。それが一番うれしいですね。キーワードは、“浅草”だと思うんですよ。僕たちは浅草でもう24年、そして東京力車も浅草から出てきた。浅草の文化をなくしてはいけないし、浅草を忘れてはいけない。この4人が浅草を出発点として羽ばたいていくのを、僕は浅草から見ていたいですね。浅草には東京力車があり、浅草21世紀もある。浅草の二大看板としてやっていけたら素晴らしいと思います」魂を込めてステージに立つ・・・石橋拓也
「僕ら東京力車は皆さんに支えられて、この2年越しの特別公演を行うことができました。浅草という町は、本当に最高です。昔から受け継がれてきた歴史と伝統文化が、ずっと受け継がれている。もっと浅草を盛り上げて、いつか僕たちは浅草公会堂の舞台に立ちたいです。僕たちの力だけでは難しいことです。最高に熱い素敵な仲間の皆さんと、どんどん笑顔の輪が広がっていくように、僕たちは魂込めてステージに立ち続けていきますので、これからも応援をどうぞよろしくお願いします。そしてまた、浅草21世紀の皆さんと喜劇をやりたいと、心から楽しみにしています。また最高の笑顔でお会いしましょう!」
(文=夏見幸恵)
「浅草21世紀×東京力車」
喜劇「四つ子のくろうばぁ~」観劇レポート
舞台は座長・大上が演じる母が電話を掛けるシーンで開幕。上京した四つ子を心配し電話を掛けるも留守電の応答が続き、挙句の果てには「この番号は使われておりません」との声が。落胆したかのように見えるが光の速さで切り替え、母が東京で四つ子を探しに上京を決意するところからストーリーが展開していく。
四つ子はもちろん東京力車のメンバーが演じる。警察官の長男をリーダー・石橋拓也、政治家秘書の次男を田井裕一、お水のお仕事をしている三男を白上一成、サラリーマンをしている四男を渡邉善央が務めた。想像しただけで既にどこかクスっと笑ってしまう配役であるが、どの役も愛すべきキャラクターがメンバー一人一人にマッチしていて、一瞬で物語に引き込まれる。
舞台は浅草、雷門の前にある雷門交番。警察官の衣装に身を包んだ長男・石橋が登場すると会場からは待ってましたと言わんばかりに拍手が沸き起こった。「浅草で人力車に乗るならば、“東京力車が1番!”」と笑いを誘い、喜劇ならではの温かい雰囲気に会場が一気に包まれる。仕事に熱く、しかし熱いが故に空回りしてしまい美人巡査長に叱られる長男はどことなくリーダー石橋と重なって見え、微笑ましい。叱られる長男を目の当たりにした母は心配し、長男に声をかけるが「仕事に戻るから」とそっけなく言われ、心配し後ろ髪をひかれながらも弟たちを探していく。
続いて登場したのはかっちりと髪を固め、黒縁メガネとスーツを着こなした次男・田井。愉快な政治家との掛け合いはさすが東京力車の切り込み隊長、テンポが良く見ていて心地いい。漢字の読めない政治家にすべてひらがなの原稿を渡し、さらにはアドリブで政治ネタも飛び出す、これぞまさに喜劇の醍醐味である。
そして物語は後半へ。幕が上がると化け物(?)と言っても過言ではないスナック「おかめ」の美人ママがただじっとこちらを見て座っている。その姿に観客からは悲鳴交じりの爆笑が止まらない。そのママが営むスナック「おかめ」で三男・白上は新米スタッフとして働く。四男・渡邊が演じるサラリーマンは、三男が働いているとも知らず会社の社長と課長と共にスナック「おかめ」に来店。正直すぎて、お調子もののキャラクターを演じる渡邊のいつもとやや違った雰囲気と、止まらない物真似に観客からは笑いが沸き起こる。
そこへお使い帰りの三男が登場。白いワンピースに身を包み、ロングの髪をなびかせ、ニックネームにもなっている“かりんとう”色の肌に、頬紅を塗りたくり登場した白上に会場の盛り上がりはピークに。爆笑が沸き起こる。母と次男も合流し、三男の姿にびっくりするも、三男の「自分を誤魔化したくないの。後悔したくない」とありのままの姿への一途な思いを語り、母らを説得。その姿がまた、白上の歌にかける一途な思いと重なり、観客からは自然と拍手が起こった。
スナック「おかめ」にて、母は長男の仕事を心配し、どうにか長男に手柄を立てさせたいと弟たちに相談する。そこで強盗の役者を用意し長男に逮捕させるという芝居を仕掛けることに。当日、芝居通り長男は犯人を逮捕するも、嘘がばれてしまい、長男は母と弟らに怒りをぶつける。
母は言う。「立派な警察官になってほしい。そして兄弟の気持ちも大切にしてほしい。だってあなたたち四人は大切な息子、四つ葉のクローバーなんだから」。母と弟たちの気持ちをしった長男と家族の絆が深まる感動物語となって、喜劇は終演となった・・・と思いきやなんと母を演じる犬上は続けざまに「私の息子たち4人は東京で必死に頑張っています! どうか、どうか息子たちを、東京力車をどうぞよろしくお願いいたします!!」と声を張り上げたのだ。
長男を演じた石橋が涙ぐむ。家族愛・兄弟愛をも超える予想外のラストに観客は感動していた。
喜劇「四つ子のくろうばぁ~」は、母を故郷に残して上京した息子たちの物語だ。東京力車が今年8月に発売した新曲「ニビイロトーキョー ~チャンチキおけさ~」は、故郷に彼女を残し、夢をかなえるために上京した若者を歌った作品であり、思い人は違えど大切な人を置いて上京しという世界観、そして劇のラストで繰り広げられた兄弟愛・家族愛は、家族をテーマに歌ったカップリング曲「東京」の世界観ともマッチしており、東京力車ファンとしてはこれ以上にない最高な構成だった。