徳永ゆうき 走り続ける車輪は夢の途中

新曲「車輪の夢」で、ふるさとの人々に感謝をしながら走り続ける主人公の心を映し出す。

歌うことが好きだった。それだけだった。だが、白羽の矢が立った。プロの歌手としてやれるのか? ふるさとを離れた列車の中で、少年はどうしようもない寂しさと不安で涙した。徳永ゆうき、25歳。今や彼の歌声はご近所から全国区へと広がったが、まだまだ夢の途中だという。

東京行きのホームには、家族全員と幼少のころから通い続けたカラオケ喫茶のマスターとママ。「がんばって来いよ」と見送られ、徳永ゆうきが涙をこらえて列車に乗り込んだのは、高校を卒業したばかりの3月だった。

「歌手を目指して上京した、あの日のことがそのまま歌になりました。走り出した列車の中で、不安から思わず涙。でも、次の停車駅に着いた時にはやったるぜと、未来への胸の高鳴りに変わっていました」

7月8日にリリースされた7作目のシングルは「車輪の夢」。徳永の大好きな鉄道がモチーフで、楽しさと郷愁の両方が漂うポップス調の楽曲だ。親しみやすく、「老若男女、より多くの人に聴いてもらいたい」とファン層の広がりに期待を寄せる。

この列車が動き出す以前から、徳永のそばには歌があった。奄美群島出身の祖父や両親の影響で、幼いころから演歌に親しみ、こぶしを覚えたのは小学生のころだ。

「いつの間にかくるくると回り、だからコブシは誰もができるものだと思っていたんです。ところが小学校の合唱コンクールで歌っていたら、友だちに『演歌みたいなやつがおる!』って指摘されて。最初は『誰や』と思ったんですが、『お前や!』って言われて。初めて特別なものなんやと気づきました。でも、今やどんなジャンルの歌を歌ってもコブシが入るというのが僕の武器。テレビの企画で『Lemon』(米津玄師)を歌った時、さり気なく入っているコブシが気持ちいいと高い評価をいただきました。日本人の心の中には演歌と親しみ、心地よさを感じるものがまだ残っているんだなと実感しましたね」

学生時代は風呂に入ると幸せそうに演歌を歌い、ご近所さんがその歌声を日々楽しんでいたとか。そんな徳永が友人から誘われ無欲で挑戦した『NHKのど自慢』でグランドチャンピオンとなり、これを機に単なる趣味だった歌が生業に。以来、天性の歌声を乗せた列車は、速度を落とすことなく走り続けている。

「僕はずっと演歌・歌謡曲しか歌わず、デビューも当然、演歌歌手です。にもかかわらずBEGINの比嘉栄昇(ひがえいしょう)さんやTHE BOOMの宮沢和史さんが曲を手がけてくださり、前作に至ってはつんく♂さんです。演歌に限定されず、しかもこうしていろいろな方に曲をつくっていただけるのは幸せです。僕ならではの強みとして、生かしていきたいと思っています」

デビュー後、徳永にとってのエポックメイキングとも言える出来事が前出の「Lemon」を歌ったことだ。ポップスが歌える自分に気付き、可能性の広がりを感じた。「歌のうまいお兄さん」と親しまれるようになり、カバー曲を歌ってほしいというリクエストも急増。不定期ながら「ポップスライブ」も行なっている。

「徳永がこの曲を歌ったらどんなだろうと、皆さんが楽しみにしてくださる。ご本人の歌を尊重しつつ、僕ならではの味を出せたらいいですね」

▼徳永ゆうき「車輪の夢」

 

新曲「車輪の夢」は、こうしたファンの期待に応える一曲だ。改めて紹介すると、聴きどころはまず「ひらひら舞う花 きらきら射す光」「ゆらゆら落ちる葉 はらはら降る雪」というサビの部分。裏声であるファルセットに挑戦し、またラストに向かう前には、王道の演歌にはない、J-POPならではの異なる曲調が入っている。こちらもオリジナル曲においては初めてのことだ。そのうえで、「極力減らした」というコブシが聴き手の耳に優しく届き、徳永の世界観を楽しめる。

ところで、こうした歌の魅力に加え徳永が人を惹きつけるのは、年齢にそぐわない落ち着きと貫禄。さらには素朴さとともに、ありのままを受け止める力みのなさではないかと思う。

「つんく♂さんに、『鼻につくポジティブ野郎』だって言われました(笑)。何かやらかすと、その日は落ち込むんですが、翌朝になるとパッと忘れていつもの調子。完璧にやったろうという強い思いはなく、つねに自分のペースで消化していきたいというのがありますね」

これまで役者にも挑戦しており、映画『家族はつらいよ』シリーズでは、自身のキャラクターを生かしたうなぎ屋役で存在感をアピールした。当初の感想が、「なんでみんなピリピリして撮影しとんのやろ」だった、というのがいかにも徳永らしい。関西弁での自然体のしゃべりといい、マルチな才能を引っ提げて、活躍の場はもっと増えそうな予感だ。

「演歌歌手の方から言われます。歌以外でも活動でき、交遊も広がってうらやましいと。ほんま、その通りです。舞台でいっしょだった歌舞伎役者の尾上松也さんとは、その後話す機会も多く、日本の伝統芸能を守る身として共通点があります。お互い刺激し合えればいいですね」

自宅のふろ場から、湯けむりに乗って近所の人だけに届けられた歌声が、今や日本中の人々へ。徳永の夢は、純粋に「一生歌い続ける」こと。目先のことにこだわらず、いつの時も軽やかに車輪を回し続けたいという。

「僕は新幹線に乗って上京しましたが、『車輪の夢』で描かれる列車はいうなれば単線、非電化のディーゼル車です。その場の風景を楽しみながら、自分らしく歌い続けたいと思っています」

(文=藤井利香 写真=佐藤けんじ)

将来の夢は鉄道会社に勤めることか、歌手になることだったという徳永。今では趣味として“撮り鉄”を楽しんでいる。そんな徳永に新曲「車輪の夢」に描かれる列車をイメージしてもらった。写真は千葉県を走る小湊鐵道のキハ200形気動車。撮影=徳永ゆうき

こちらは高知県・土佐くろしお鉄道の「ごめん・なはり線」を走る気動車(9640形10)。日本最後のローカル線として2002年に開通した。撮影=徳永ゆうき


オトカゼの小窓
◎徳永ゆうき 趣味の撮り鉄あるある

「趣味は撮り鉄(鉄道撮影)で、時間があればカメラ片手に気の向くまま。いいなと思う風景とともにシャッターを押します。電車のモーター、ガタンガタンというジョイント音、車掌さんの声、ホームの発車を知らせるメロディー音など、鉄道ファンとして語り始めたら熱くなってもう止まらない! 鉄ちゃん仲間でカラオケに行くこともあり、みんな歌じゃなくて、電車や駅が映し出される映像に夢中なんです。そこかいな! って感じで楽しいです~」(徳永)


2020年7月8日発売
心の旅に、寄り添う「歌」がある
徳永ゆうき「車輪の夢」

【初回限定盤】 ユニバーサルミュージック UPCY-9920 ¥1,818円+税

【通常盤】ユニバーサルミュージック UPCY-5088 ¥1,182円+税  
 
「車輪の夢」
作詞・作曲/youth case 編曲/佐々木博史
「車輪の夢 piano version」
作詞・作曲/youth case 編曲/佐々木博史

「ゆるやかに 動き出した 車輪の音 夢をのせて」というフレーズで始まる、徳永ゆうき7枚目のシングル「車輪の夢」。夢を持ってふるさとを離れた主人公が、走り続ける電車の車窓から見える時々の風景に思いを寄せる。ピアノ・バージョンでは、徳永の優しい歌声がより生きている。作詞・作曲は2人組の音楽ユニット、youth case。ジャケットには森 俊博氏のイラストが描かれる。初回限定盤には、そのジャケット絵柄の大判ハンカチが付く。


profile
徳永ゆうき(とくなが・ゆうき)
1995年2月20日、大阪府生まれ。幼少の頃から演歌歌謡曲に親しんで育ち、カラオケ喫茶で歌うことに喜びを感じる。友人に誘われて出場した「NHKのど自慢」で合格し、第12回チャンピオン大会(2012年)で「はぐれ舟」(大川栄策)を歌ってグランドチャンピオンに輝く。2013年11月、「~日本の孫~ 日本を勇気づける、演歌歌謡界期待の星」として、「さよならは涙に」でデビュー。2020年、7枚目のシングル「車輪の夢」をリリース。俳優としても活躍。職業にしたかったという鉄道が趣味(撮り鉄)。