TM NETWORK 撮影:Mirai Yamashita

TM NETWORK、ホールツアーが千穐楽。デビュー40周年ファイナルはアリーナ公演へと続く

音楽シーンに革命的進化を生み出した3人組ユニットTM NETWORKが、2024年4月21日にデビュー40周年を迎える。40周年プロジェクトを祝福すべく、第2シーズンの全国ホールツアー千秋楽となった3月8日、『TM NETWORK 40th FANKS intelligence Days ~STAND 3 FINAL~』公演を、メンバーゆかりの地であるTACHIKAWA STAGE GARDENで行った。

TM NETWORK 撮影:Mirai Yamashita

撮影:Mirai Yamashita

ファンネームである“FANKS(TMファンの意)”を冠した本ツアー。開演前、会場にはオペラ「トゥーランドット」が厳かに流れていた。3大テノールによる「誰も寝てはならぬ」を紐解くと、数字の“3”が浮かび上がる。本ツアーのタイトルは“STAND 3 FINAL”である。オープニングは、まるでSF映画の謎解きのような意味深な映像からスタート。古文書のようなエンサイクロペディアが開かれ、原典アップデートが示唆され、TM NETWORKの文字が紡がれていく。

ステージは暗転、円盤が浮遊し9つの光のタワーがあらわれた。メンバーである宇都宮隆、小室哲哉、木根尚登の3人だけでステージに登場し、客席のバングルライトが一斉にシンクロしていく。

TM NETWORK 撮影:Mirai Yamashita

撮影:Mirai Yamashita

宇都宮は、登場シーンから式典のごとく紳士的な挨拶を交わした。本公演へ向けた気持ちの入り方があらわれていたのかもしれない。ギタリストの木根が、グランドピアノを弾いている姿も新鮮だ。1曲目は、意外にもTMN期ラストシングル「Nights of The Knife」からはじまった。1994年、突然のTMN終了には膝から崩れ落ちるほどの悲しみを誘った本曲も、今なら40周年のドアを開けるはじまりを告げる曲として受け止められる。ギターサウンドを、小室がシンセサイザーで表現していたことも聴き逃せない。この選曲は、本ツアーが1994年終了時を分岐点とする、新たなパラレルワールド説も予感させた。

TM NETWORK 撮影:Hajime Kamiiisaka

撮影:Hajime Kamiiisaka

続けて、アッパーなシーケンスに導かれ、映画『劇場版シティーハンター 天使の涙(エンジェルダスト)』挿入歌「DEVOTION」をドロップ。“No No No, No No No”という熱いコーラス。“献身”というキーワード。冴羽獠など、登場キャラクターの心情を絶妙に表現したナンバーだ。さらに、TM NETWORK結成前の1983年にタイムトラベルしたかのごとく、木根作曲によるTM版グラムロック「DIVING」をロッキンにプレイ。歌詞で七色を歌った本作は、もしかしたら1984年のデビューアルバム『RAINBOW RAINBOW』へと繋がりがあったのかもしれない。ラスト、まるで洋楽アーティストのような佇まいを感じたセッションシーンからノンストップで、紛争や震災が終わらない2024年の今こそメッセージが伝わるナンバー「君がいてよかった」へと続く。EDMライクなアッパーチューンへとリプロダクションされたダンサブルなポップソング。宇都宮による歌声は、当時とキーが変わることなく、まったくブレずにピュアで美しいボーカリゼーションを堪能させてくれる。

TM NETWORK 撮影:Mirai Yamashita

撮影:Mirai Yamashita

ここで、ボーカリスト宇都宮がはけて、木根と小室によるデュオパートへ。ツアーのために小室が書き下ろしたナンバー「Good morning Mr.Roadie」を優しいメロディーによって奏でていく。本作の歌詞は、ツアースタッフ(ローディー)など仲間たちへ向けた手紙のようなナンバーだ。どこかしらジャクソン・ブラウンを彷彿とさせ、人と人とのつながりで紡がれたあたたかな熱量を感じた。途中、歌詞と連動して集合写真が映し出されるなど思わずヒューマニティーな感情を揺さぶられた。40周年という時が、この曲を生み出したのかもしれない。胸が熱くなる。

宇都宮が、木根と小室へ拍手をしながらステージにあらわれた。続いて、20周年時に生み出された「GREEN DAYS」を、素の表情が映し出されたポートレートのようなピュアな心情で歌っていく。再生の歌であり、生成AIによる映像とのシンクロ具合にも目を奪われた。そして、実在するバーを舞台とした「N43」では、TM NETWORKがブレイク以前、いち早く北海道で注目を集めた際の思い出と重なり合う、木根詞曲によるほっこりするポップソングが鳴り響いた。

TM NETWORK 撮影:Kayo Sekiguchi

撮影:Kayo Sekiguchi

シーンは変わって、ステージに降り注ぐのは金色の夢? 七色の夢? グランドピアノを弾く木根によるリズミカルなビートが高揚し、TM NETWORK初期のライブ人気曲「You Can Dance」のシーケンスが解き放たれた。1994年以来となる、驚きの選曲にFANKS、歓喜の渦。いや、TM NETWORKに捨て曲など一切なく。実はどの曲も、時代を揺さぶるナンバーとなる可能性を持つことを証明していく。イントロのフレーズがインスパイアされたこともあり、木根は敬愛するエルトン・ジョンのごとくハットをかぶり、カラフルなサングラスへと着替えた。気がつけば宇都宮もサングラス姿だ。小室はショルダーキーボード=Mind Controlへ持ち替え、まるでギターのように鍵盤を弾き倒す。ハイテンション、ロックンロールなダンスチューンに遊び心を織り交ぜていく。アウトロでは、まばゆい光に照らされながら、3人がピアノを囲むトライアングル・ポジションが尊い。

あやしげなSEに導かれ、「Past1984」が映像とともに流れはじめた。意味深な“1984001”そして“14930”という数秘。緊迫した空気感。浮かび上がる正方形に瞬く額縁のように謎めいたワームホール!?が印象的だ。

TM NETWORK 撮影:Hajime Kamiiisaka

撮影:Hajime Kamiiisaka

聞き覚えのあるピアノリフ。さらに、TM NETWORK最重要曲「ELECTRIC PROPHET」のシーケンスが聴こえてきた。22世紀から時空を超えて会いに来てくれたTM NETWORKというSFめいた物語は、本曲からはじまったのだ。光のタワーと思われた照明は、実はプログラミングで自在に稼働するUFOのようなLED付きミラーdot mirrorだった。地上からSharpyによるライトをビームの如く直に照らすことで反射する光を演出していく。アクロバティックな構造だ。その効果はまるで、映画『未知との遭遇』の宇宙船のシーンのようにも見えた。

打ち込みと生演奏と映像を融合する、TM NETWORKが発明したサウンドマジックはシアトリカルに繰り広げられていく。

TM NETWORK 撮影:Mirai Yamashita

撮影:Mirai Yamashita

名曲は続く。せつないメロディーが心を打つ知る人ぞ知る「Human System」。街を行き交う交差点や道路に重ね合わされながら、モンタージュ写真のようにフェイス映像をカットアップしていく。宇都宮の歌声と木根によるアコースティック・ギター、モーグによる小室のシンセサウンドが重なり合うあたたかく優しげな高揚感。さらにレア曲として、今の時代にも通じるメッセージ性や世界観を感じさせる壮大な「Come Back to Asia」をドラマティックに聴かせてくれたことも驚きだった。作品が生み出された昭和時代とは大きく変化したアジアの存在感。アジアが持つ意味。そして、歌詞から伝わってくるレクイエムなメッセージ性。せつなさを噛み締めながら浸りたいナンバーだ。

TM NETWORK 撮影:Mirai Yamashita

撮影:Mirai Yamashita

ピアノによるTK-soloパートは、会場それぞれ小室によるインスピレーションによって演奏曲は入れ替わっていく。この日は、反戦歌をイメージした「All-Right All-Night (No Tears No Blood)」を、絶妙なピアノ構成によるアレンジでプレイ。さらに映画『ぼくらの七日間戦争』のサントラ『SEVEN DAYS WAR』から「WINNERS」の一節をつま弾き、記憶の扉を開けていく。木根曲の「GIRL FRIEND」へとシナプスを紡ぎ、ヒット曲「SEVEN DAYS WAR」を奏でながら小室は一拍間を置き、0.5秒ぐらいの瞬間にオーディエンスへコーラスを促した。まるでニュータイプのように意思は通じ合い、一気に歌声が轟く会場。鳥肌もののモーメントだ。感動はまだ止まらない。『劇場版シティーハンター 天使の涙(エンジェルダスト)』のハイライトシーンで流れた挿入歌「Angie」を、即興アレンジを交えながらピアノメドレーのシメとしてしっとりと響かせてくれた。まるで数百年前からこの世に存在していたかのような魔法めいたメロディーの力。音楽家とは数秘を操る科学者であり魔術師だ。心がほろほろと溶けていく瞬間だった。

TM NETWORK 撮影:Mirai Yamashita

ラストスパートはTMのシングルで最もセールス枚数が多い90年代のヒット曲「Love Train」。赤い照明とグラフィカルな映像美、EDMライクなパーカッシブなアレンジがクールだ。途中、当時のミュージックビデオとシンクロさせる驚き。あれから33年。正方形の額縁のような枠=ワームホールらしきどこでもドアから映し出された懐かしさを超えていくフレッシュな感情に名前をつけて欲しい・・・、と思った。そして、途中inter Missionでは、世界中が抱える闇の問題。紛争のシーンが映し出され、浮かび上がったのが“We pray For the peaceful days Ahead”のメッセージ。

ここで通常ならおそらく「Get Wild」へ繋がるはずのTKエレクトロ・タイム。だがしかし、サンプリングされた異なるリフレインがビートに呼応する。まさかの「Nervous」でフロアを盛り上げていく驚きの展開へ。本作は、初期TM NETWORKのライブで人気だったダンサブルなポップチューンである。オーディエンス大熱狂。本能を掻き立てるエネルギッシュなパワーを持つナンバーだ。宇都宮による、当時を思わせるダンスも健在。モニターには、赤く光る正方形の石碑が輝き出し、ピラミッドのような四角錐状なモノリスへとチェンジしていく姿も意味深だった。TM NETWORKによるパワーが充電されたことのメタファーなのだろうか?

TM NETWORK 撮影:Kayo Sekiguchi

撮影:Kayo Sekiguchi

さらに、1985年にリリースした3rdシングル「ACCIDENT」を最新アレンジメントでリプロダクション。アグレッシブにパーカッシブなイントロダクション。脳天突き刺す力強くリフレインするメロディー。小室曰く、当時“自分のノウハウをすべて詰め込んで、これなら売れるだろうというつもりで作った”という秘宝のナンバー。湧き起こる大歓声。あの頃のリベンジの如く、最新2024年バージョンとして不死鳥のように蘇らせた。ダンスビートと絡み合う甘いメロディーは感情のときめきを全方位で解放する。まさに、今こそあらためてシングル化して欲しいポップソングだ。

それにしても、TM NETWORKのライブは音がいい。歌声も音の粒も、ライティングと溶け合いすべてがダイレクトに身体へ染み込んでいく。サウンドの波を泳いでいるかのような感覚だ。

ラストチューン、とどめは、現在に通じるTM NETWORKの“オトナ”のスタイルを確立した大名曲「I am」の登場だ。イントロダクションを引っ張る映像には、コンサート会場から外へ出て談笑しながら闊歩する3人の姿。その先には、トレーラーに囲まれた正方形に瞬くワームホールらしき予言のゲートが再び鎮座していた。

浮かび上がった“TM NETWORK is still searching for FINAL Imperial command.”の文字。

ヒューマン宣言ともとれる、後期TM NETWORKを代表するポップミュージック「I am」の存在。本ツアーでは、楽曲タイトルをスクリーンに多様なフォントで表示していたが、それは「I am」へと結実したことで文脈を紡ぎ意味を成したように思えた。3人が声を揃えて歌うシーンに鳥肌が立ったのだ。まさに大団円のステージである。想いに応えるオーディエンスのパワー、その熱量も凄まじい。

TM NETWORKによる完成されたシアトリカルなロックショーにアンコールはない。一切のMCも存在しなかった。インスト含め全18曲を通じて時空を超えていく音楽の旅、TM NETWORKによる珠玉の名曲を通じて、感動とメッセージを詰め込んだ圧巻のライブエンタテインメント。ラストは、3人が手を振り別れを告げ、インストゥルメンタル「intelligence Days」が流れ、エンドクレジットが映し出された。最後は、突然の爆発音とともに、次回会場の方位を指し示す赤い光線が放たれた。

TM NETWORK 撮影:Kayo Sekiguchi

撮影:Kayo Sekiguchi

音楽シーン最先端の表現を、アイディアを大切に具現化していくTM NETWORKの凄み。40周年をセレブレイトするツアーは、会場規模を広げ、4月20日からはアリーナ公演『TM NETWORK 40th FANKS intelligence Days ~YONMARU~』へと続いていく。昭和~平成~令和という時空を飛び交う貴重なるステージ。そこに懐古主義は一切ない。

TM NETWORKとは純然たるライブバンドなのだ。

今回のツアーでは、実はTM NETWORKお約束のヒット曲であるアニメ『シティーハンター』エンディングテーマ「Get Wild」も、映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』主題歌「BEYOND THE TIME (メビウスの宇宙を越えて)」などをやらないコンサートとなった。

しかしながらチケットは全公演ソールドアウト。コアファンの間ですら、争奪戦となった。結果、TM NETWORKらしい最上級のショーとなったのが『TM NETWORK 40th FANKS intelligence Days ~STAND 3 FINAL~』だったのである。

ヒット曲に頼らずとも、TM的世界観を打ち出せることの喜び。そんな3人の表現者が解き放ったクリエイティビティの真髄を堪能したステージだった。そして、TM NETWORKは40周年イヤーの集大成となる、大規模なアリーナツアー『TM NETWORK 40th FANKS intelligence Days ~YONMARU~』へと突入していく。

4月20日から5月19日まで行われるTM NETWORK、40年間の歴史の集大成。セットリストはもちろんターンオーバー、いわゆる一新される。おそらくヒット曲中心となり“あの曲”も“この曲”も聴けることだろう。しかしながら、ただのベストヒッツではないはず。リーダーの小室曰く“君を驚かせたい!”というメッセージも気になるところだ。さらに、バンドメンバーも参加することだろう。日本が誇るポップミュージックの歴史をアップデートする、TM NETWORKスペシャルなアリーナ公演を目撃せよ!!!

文=ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)

 

【セットリスト】
WORDS
Nights of The Knife
DEVOTION
DIVING
君がいてよかった
Good morning Mr.Roadie
GREEN DAYS
N43
You can Dance
Past 1984
ELECTRIC PROPHET
Human System
Come Back to Asia
TK solo
Love Train
inter Mission → Nervous
ACCIDENT
I am
intelligence Days


【TM NETWORK 40th FANKS intelligence Days 〜YONMARU〜 スケジュール】
Day35 4/20(土)
東京・東京ガーデンシアター 開場17:00/開演18:00
Day36 4/21(日)
東京・東京ガーデンシアター 開場16:00/開演17:00
Day37 4/26(金)
大阪・大阪城ホール 開場18:00/開演19:00
Day38 4/27(土)
大阪・大阪城ホール 開場16:00/開演17:00
Day39 5/18(土)
神奈川・Kアリーナ 開場16:30/開演18:00
Day40 5/19(日)
神奈川・Kアリーナ 開場15:30/開演17:00

TM NETWORK/TMN
小室哲哉(Key)、宇都宮隆(vo)、木根尚登(g)によるユニット。前身のSPEEDWAYを経て、1984年「金曜日のライオン」でデビュー。圧倒的なパフォーマンス、シンセサイザーを多く導入した前例のない音楽性、歌詞表現、ミュージック・ビデオに人気が集まる。2021年10月約6年ぶりの「再起動」を発表。2024年、40周年イヤーの活動に注目が集まる。

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